第49節 アンダーワールド
いざ
俺が「
俺が「
そして
――
なんというか、フローラルな
――
俺が「うん、いい
オタクの
さて、ある程度覚悟はしていたものの、実際に
高い天井の下で
まっすぐに進むことなどとてもできない
右を向いても、左を向いても、前後左右どこを向いてもオタクの人しかいない空間というものが、これほどまでに過酷なものだとは思わなかった。
そして、なんというかどうにも表現しようのない
残念ながら、妹の
人ごみと、
――
なお妹は小声で「……
そして、高い天井の下、会場内の所々の場所には、
現実にはとてもありえないような
――本当に、中学生と高校生が来ていい場所なのか、ここ。
そんなこんなで
どうやら、アルファベットやひらがな、カタカナの掲示でだいたいの場所がわかるようになっているらしい。
非常に多くの机が整然と置かれており、その上では各々の参加者がブースをつくり、商品を売っている。
――これもやっぱり、立派なお祭りなんだろうな。
俺がそんなことを考えていると、キャリーバッグを転がしている妹が俺の手を離して、お目当てのジャンルに関する同人誌が売られているブースのひとつに向かう。
妹が、売り場が展開されているブースにて座っている、眼鏡をかけた小太りのオタクっぽい男性に話しかける。
「……これ、読んでみてもいいですか?」
すると、そのオタクっぽい男性が気まずそうに応える。
「えーっと……ごめんね、お
後ろから近づいた俺が、その平積みされている
すると小柄な妹が、悪びれもせずに返す。
「……し、
――
机の向こうに座っている眼鏡をかけたオタク男性が対応に困っているのを肌で感じながら、俺は
そして俺は、
「すいません、こいつバリバリ中学生です。ご迷惑をおかけしました」
「……お兄ちゃん!? ちょっまっ……ちょっまっ……! ちょっとくらい大人の世界を
「ダメなもんはダメだ。せめてあと四年待て、そんとき買ってやるから」
俺はそんなことを言いながら、カートを床に転がす妹を持ち上げたまま、アニメチックな女性キャラクターの
その小売ブースに視線をやった際に俺は、『コミペイ』という見慣れぬ単語が二次元コードの印刷された紙に書かれ、建て置かれているのが気になった。
ほかのブースをよく見てみると、『コミペイOK!』とか『ComiPay使用可』とかの文字がそれぞれの売り場にある二次元コードのすぐ
俺は妹を床に下ろして尋ねる。
「なあ
すると、妹が俺を見上げて返す。
「……なにそれ?
「ペイって名前を聞く限り、キャッシュレスの決済サービスっぽいけどな」
「……オタク
「
そんな
妹が口を開く。
「……まあエロは今のところはいいや。成人向けじゃなくても全年齢向けとか、キャラグッズとかも
「運ぶのは俺だけどな」
すると、妹が俺を見上げて嬉しそうな声を出す。
「……それに、四年後も一緒に来てくれるって
――あ。
――本当、
「そのときまで、
俺がそう言うと、妹が不敵な笑みと共に返してくる。
「……
そんな妹の冗談とも取れないような
で、妹と一緒に色々なジャンルの様々なブースを回って、十八歳未満でも買える健全な同人誌や、アニメっぽいキャラクターが描かれたクリアファイルのようなファングッズなどをかなり多く購入した。
とはいっても、それらをリュックに背負って持ち運ぶのは全て俺の仕事だ。
ちなみに一日目である今日は、PCゲームやソーシャルゲームなどのゲームジャンルが
妹から「……読んでみる?」と手渡された一冊の同人誌をめくってみたところ、その本の薄さに驚いた。
俺が買ったばかりの同人誌を手に持ちつつ「こんなに薄いのに500円もするんだな。
――そういうものなのだろうか。
たった20ページかそこらの薄い本がだいたい一冊500円もするという、この一見非常識な市場価格に俺は考えを巡らせる。
――ほんの20数ページ描いただけで、一冊500円くらいで売れるのか。
――少年漫画とかって、単行本が一冊どれくらいだったっけか?
――確か、10話か11話くらいが一冊の単行本に入っていて、1話が18ページくらいだから。
――だいたい、200ページくらいだな。それが400円から500円くらい。
――ってことは、同人誌は単純にページ単価で考えると10倍くらいの値段なんだな。
人ごみの中を歩きつつそこまで考えた俺は、手を繋いで隣を歩く
「なあ
すると妹が、即座に答える。
「……三日間で、だいたい50万人から60万人くらいだね」
その妹の言葉に俺は、頭の中で再び考えを巡らせる。
――ってことは。
――仮に一人が一日に20冊の同人誌を買うとしたら。
――だいたい一人頭、1万円を使うってことだな。
そして俺は、頭の中で参加者の人数と、同人誌の購入費用とを
その計算結果を頭の中で導き出した俺は、その口から
「50億円から……60億円……!? そんなに
俺が
「……やっとコミマの凄さに気付いたみたいだね、お兄ちゃん。この
俺は歩きながら返す。
「あーっと……すげーんだな、オタク
「……ま、そうだね。お金がないアニメーターさんや
そんな妹の流れ出るような口ぶりに、俺は半ば呆けて感心する。
――そうか。
――これも立派な、オタクの人たちのための
その色が変わった俺の視線の先は、黒山の人だかりの向こうへと溶けていった。
さて、一般参加者が入場のために必要だという緑色の細いリストバンドをそれぞれ手首につけて会場を巡っていた俺たち
正午を一時間くらい過ぎた時間帯ということもあってか、そこらじゅうで昼飯を食べている人たちの姿を見かけることができる。
どうやらこの細長い
だが、移動販売車にはあまりにも多くの人が大勢並んでいるので、そのあたりで何か食べ物を買うとなれば時間をくってしまうだろうなというのは容易に想像できた。
昼飯をどうしようか俺が考えていると、妹がその引き転がしていたキャリーバッグを地面に置いてファスナーを開け、何かを取り出そうとしている。
俺は尋ねる。
「何してんだ?」
すると、妹が地面にしゃがんだまま応える。
「……買いたいモノは
――コスプレイヤー?
――アニメキャラの
まあ、オタクのお祭りだしそんなのもあるんだろうなと思っていると、妹の
中学生にはとても似つかわしくない
「……さて、行くか」
「こら待てい」
俺は、
「……な、何? お兄ちゃん? 早くレイヤーさんの写真撮りに行こうよ。きっとお兄ちゃんが好きそうなセクシーなコスプレしてる人や、身体をはってギャグっぽいコスプレしてる面白い人も一杯いるよ?」
「そーじゃない、そーじゃ。そのカメラ、いくらしたんだ!?」
俺が
「……そんなに高くないよ、そんなに……カメラとレンズ合わせて……ほんの、ほんの……四十万ちょっと」
「
俺が
そして、それに呼応するかのように俺の胃袋もぐるると音を出した。
「……それより、お腹すいたよね。ケバブでも食べようよ、お兄ちゃん」
俺は何も言えず、頭を抱えたいような気分で、深く
で、移動販売車にてトルコ出身っぽい
妹はケバブを食べながら「……やっぱオタクイベントならケバブは外せないね」とか言っていたが、
さて、
妹が「……
――なんだかんだで、俺は妹に甘いんだよな。
そんなことを考えつつ、コスプレイヤーさんめぐりをしていたところ、建物周辺の一角にいた、
その女性は
頭には青色ショートカットのウィッグを
妹に
妹が一眼レフカメラを手に構えながら、そのコスプレイヤーさんに声をかける。
「……すいません、写真いいですか?」
「いいぞ、
――なんか、ぶっきらぼうな返しだな。
そして、妹がデジタル一眼レフカメラのシャッターをパシャパシャと何回か切ってから再び注文を
「……すいません、決めポーズでお願いします」
「どの決めポーズか? いろいろ
その言葉に、妹はコスプレイヤーさんに近寄り、中学生の女の子の特権であるかのように女性コスプレイヤーさんに触れ、その手や体を取ってポーズを理解してもらおうとする。
そして妹が背中を向けて、コスプレイヤーの女性に一番密着したときだった。
妹のうなじに顔を近づけていたコスプレイヤーさんが、こんなことを言う。
「その
妹は驚いた様子になって振り返り、コスプレイヤーさんに向き直って伝える。
「……どうしてわかった?」
「どうしてって……
すると、
「……
「ああ、そうよ。
そんなコスプレイヤーさんの言葉に俺は、目の前にいるそのオリエンタルな
ぱっちりとした
――なんとなく
そんなことを考えている俺の目の前で、妹が
「……本物の
「
「……おお! 凄い! コスプレ
「三年くらい前から
――
俺は
「ほらほら、
すると、コスプレイヤーの人が表情を変えずに
「
そんなことを言うコスプレイヤーさんが手を
形としては俺たちが左手につけている、コミマ入場許可証代わりの
「……その入場バンド、
「ああ、そうよ。コミマブースに出るサークル参加者はリストバンドが
「……うん、わかった、行く。二日目も三日目も
「
その、
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