第47節 初恋のきた道




 さて、翌日になって12月の27日、つまり可憐かれんの誕生日に、俺と萌実めぐみ可憐かれんとで、三人一緒にパティスリー・ソレイユの二階にあるカフェスペースに訪れていた。


 コーヒーが三つ乗っかっている一つの四角いテーブルに備え付けられた椅子に、俺、その向かい側に金色に染められた髪をシュシュでポニーテールにしている可憐かれん、その隣に栗色の癖っ毛を肩上まで伸ばした萌実めぐみが並んで座っている。


 萌実めぐみが喜びの表情と共に、横にいる可憐かれんに少しばかりコンパクトな誕生日プレゼントの包装ほうそうを手渡す。


可憐カレン、十六歳おめでとう」


「ありがとう、メグ」


 可憐かれんは満面の笑顔で、萌実めぐみからのプレゼントを受け取る。


 そして、向かい側にいる俺も可憐かれんに、昨日東京とうきょう池袋いけぶくろで購入した熊のぬいぐるみを両手で手渡す。


「で、こっちが俺のプレゼントだ。ハッピーバースデー、可憐かれん


 俺からそんな言葉を聞きつつプレゼントを受け取った可憐かれんは、すみやかになんとなく目がうるむ。


 そして、目頭めがしらなみだまったと思ったら、一筋ひとすじすすっとおともなくほほつたった。


可憐カレン!? どうしたの?」


 萌実めぐみあせって伝えると、可憐かれん微笑ほほえみながら返す。


「あー、ゴメンゴメン。アタシ、すっごくうれしいといちゃうの」


 そんなことを言いながら、可憐かれんがそのまなこたたまれたしろ高級こうきゅうそうな光沢こうたくのあるハンカチでぬぐう。


 ただ無言で泣く、という予想外よそうがい親友しんゆうの反応を見て俺は困惑する。


「そんなにうれしかったのか?」


「うん。だってケータ、このお店でアルバイトしてまでアタシへのプレゼント代をかせいでくれてたんでしょ? その頑張ってくれたのがチョー嬉しくって、感極かんきわまっちゃった」


「バレてたのかよ?」


 俺がどことなく気の抜けた感じで返すと、可憐かれんが応える。


「ゴメンね。アタシがたのんだわけじゃなかったんだけど、ヒカルっちが調べてて教えてくれたんだ」


「ヒカルっちって……セキュリティーサービスの高坂こうさかさん? あの人、いったい何者なんだよ?」


 そんな返しをした俺の頭の中には、シャギーの入った赤っぽい髪を頭の後ろで縛っている、派手な髪型をしたモデル体型黒服女性の高坂こうさかさんの姿が浮かんでいた。


 すると、可憐かれんが表情を緩めたまま返す。


「なんかね、探偵タンテーをやってたみたいで調査チョーサはお手の物なんだって。このお店にも変装ヘンソーして何回か来てたみたいだし」


変装へんそうって……マジか? 全然気付かなかったんだけど」


 可憐かれんが告げる。


「んーとねー、あの赤っぽいシャギーの入った派手な髪も、普段の自分を目立たせることで、ギャク地味じみな見た目に変装ヘンソーしたときにバレにくくするためのものなんだって」


 可憐かれんの話の内容に俺が感心していると、少女チックなウェイトレス姿をした看板娘かんばんむすめである、明るい髪の毛を外ハネシャギーショートにした元気げんき一杯いっぱい新庄しんじょうさんがケーキ三つをトレイに乗せて俺たちの元へと近寄ってきた。


「お待たせしましたーっ!!」


 そんな元気な声と共に、新庄しんじょうさんは俺たち三人の前にケーキを乗せた小皿を置いていく。


 座っているどことなく上機嫌じょうきげん可憐かれんが、ウェイトレスの新庄しんじょうさんに伝える。


「ヒカルっちが買ってきてくれてたここのケーキ、確かどれもすっごく美味おいしいんだよね。カフェ経営ケイエーしてるおねえちゃんが自分のお店で出したいって言ってたから、今度おねえちゃんれてきてもイイ?」


「えっ!? 本当ホントっ!? ぜひぜひっ!!」


 思わぬビジネスチャンスの到来とうらいに、新庄しんじょうさんが明るくこえかえすと、目の前にモンブランを置かれた萌実めぐみ可憐かれんに尋ねる。


真希菜マキナさん、カフェやってるの?」


 新庄しんじょうさんが戻っていったのを見送ってから、可憐かれんが返す。


「んーと、この近くでねー……あっそうか、ケータは知らないよね。アタシには三つ年上のおねえちゃんが一人ひとりいて、この前のクリスマスパーティーのときにメグに会ってるの」


 そして、萌実めぐみが嬉しそうに俺にげる。


「なんと、アタシたちの高校こうこうまえ生徒せいと会長かいちょうさんだったんだから!」


――それは知ってる。


 俺の頭の中には、生徒会室で毛利もうり先輩に見せてもらった写真しゃしんうつっていた、触覚のような金色の髪の毛が二本飛び出した、金髪ロングヘアーのツリ目だが温和おんわそうな巨乳きょにゅう女子じょし生徒せいとの姿が浮かんでいた。


真希菜まきなさんっていうのか、可憐かれんねえちゃんの名前」


 俺はそんなことを言って、置いてあったコーヒーカップを手に取ってブラックのコーヒーを口に含む。


 萌実めぐみ可憐かれんたずねる。


「カフェってどんなの? 可愛かわいい系? それともお洒落しゃれ系?」


「んー、ねこカフェでー。この近くにある『ねこねこJam』ってお店」


 ブフォッ


 俺はおぼえのあるそのねこカフェの名前に、飲みかけていたコーヒーを少しだけした。


――世間せけんって、せめえ!


 可憐かれんが心配そうな声をかけてくれる。


「ケータ、大丈夫?」

「あ、大丈夫大丈夫、ちょっとむせただけ」


 そんな風につくろっていると、萌実めぐみがうきうきと声を出す。


ねこカフェ!? えーっ!? ってみたーい!」

「じゃ、このあとメグとアタシで一緒イッショこっか?」


 そんな感じでの萌実めぐみ可憐かれんの、俺の幼馴染おさななじみ親友しんゆうす女の子同士のにゃんこのようなじゃれあいをはたからながめていた俺に微妙な心境が生まれる。


――嗚呼ああ仲良なかよきことは、うつくしきかな


 そんな、どこかで聞いたような素晴すばらしき人生じんせい訓話くんわかたった哲学者てつがくしゃっぽいフレーズを心に浮かべながら、俺は砂糖さとうの入っていないコーヒーのにがみをしずかにあじわっていた。






 俺たちは、洋菓子店ようがしてんの二階にあるカフェスペースにてケーキとコーヒーをたしなみながら、昔話に花を咲かせていた。


 内容ないようはというともちろん、小学生のときにあの公園こうえんで遊んでいた俺たち三人の、なつかしい思い出話であった。


 そんな中、萌実めぐみほほを赤くめつつ両手を胸に当て、おのれ初恋はつこいについて言及げんきゅうしていた。


アタシにとっては、ずっとずぅーっとレンが忘れられない初恋はつこいの王子様だったんだから。だから、こんな形で可憐カレンあらためて女の子同士で仲良なかよくなれて、とってもとってもうれしいんだから」


 そんな乙女心おとめごころいろどられた萌実めぐみの言葉を聞きながら、俺は人生じんせい苦味にがみのようなあじであるブラックコーヒーの入ったカップを持ちつつ、どことなく達観たっかんした心持こころもちで応える。


「そっか。じゃあ最初さいしょっから、俺の萌実めぐみへの初恋はつこいかなわぬ運命うんめいだったってことか」


 すると、可憐かれんが目をぱちくりさせる。


ナニ言ってんの? ケータの初恋はつこいはメグじゃなかったでしょ?」

 

 その可憐かれん言動げんどうに、萌実めぐみも同じような内容の言葉を重ねる。


「そーだよ。もっとずっと昔に、初恋はつこい相手あいてがいたけどかなわなかったって言ってなかった?」


――え?


 俺はポカンとする。


「……なんだそれ? 俺そんなの、全然ぜんぜんおぼえてねーんだけど」


 そう返すと、可憐かれん萌実めぐみがおたがいに顔を見合わせる。


「確かにケータ、言ってたし」


「うん、小一か、小二くらいのときかな? 確かに初恋はつこいはダメだったって言ってたのを覚えてるから」


 俺はそんなの、まったくもっておぼえてない。


 俺は二人に尋ねる。


「じゃ、俺の初恋はつこい相手あいては誰なんだよ?」


 萌実めぐみこたえる。


「それは教えてくれなかったから」


 可憐かれんも目をぱちくりさせて返す。


「そんなの、アタシの方が知りたいし」


 俺の初恋はつこい相手あいては、小学生のころから好きだった目の前にいる萌実めぐみではなかった?


――じゃあ。


――じゃあ、俺の初恋はつこい相手あいてはいったいだれなんだ?


 俺はそんな疑問を頭の中に思い浮かべ、軽くコーヒーをすする。


 そして口を開く。


「本当に、人間にんげんの記憶なんてあやふやだよな。そーいえば、焼肉食べ放題の日の帰りに可憐かれんがそれっぽいこと言ってた、チャンスの女神様めがみさま前髪まえがみしかないっていうことわざ? あれも教えてくれたの可憐かれんだったっけか?」


 すると、可憐かれんが再びきょとんとする。


「ソレ、ケータが子供のころにアタシに教えてくれた言葉なんだけど」


「え?」


 俺は再び間の抜けた声を出す。


 それと同時に、俺の記憶には空白となっている部分が何箇所なんかしょもあるという事実が突きつけられていた。

 

――本当に。


――人間ひとの頭ってポンコツなんだな。


 そんなことを思わざるを得なかった。






 三人で一緒にめないはなしわしていると、可憐かれんの出したクイズの話題わだいになった。


 俺が可憐かれんに出されていたクイズ第二問の内容を聞いた萌実めぐみが、それに対する意見をべる。


「お金持ちになれる人となれない人の一番の違い? なんだろ? お金をめられるかめられないかってことかな?」


 すると可憐かれんが、首をゆっくりと横に振っておだやかに否定ひていする。


「ソレだと、半分は合ってるけど半分はチガうかな。お金持ちになるにはお金をめるコトもモチロン大切なんだけどね。それ以上に大切なことがあるの」


 テーブルの上には、既にからになってしまったケーキ小皿こざらが3つと、一杯頼んだら無料でいでもらえるおかわりを入れてもらったコーヒーカップが三人分ある。


 萌実めぐみ可憐かれん対面たいめんにしつつ、座ったままの俺は口を開く。


「俺も色々と考えたんだけどさ、『勉強べんきょうをする習慣しゅうかんがあるか』でも『あたまがいいか』でもないんだろ? 漠然ばくぜんとしすぎてわかんねーよ」


 すると、可憐かれんが俺たちに伝える。


「じゃ、ヒントあげるし。例えばココのお店のケーキ、すっごく美味おいしいよね」


 いきなりのその発言に、俺も萌実めぐみもきょとんとする。


「ああ、なんか抜群ばつぐん美味おいしいらしいな」

「うん、モンブランすご美味おいしかったから」


 俺と萌実めぐみがそう返すと、可憐かれんは言葉を続ける。


「ココのケーキね、銀座ぎんざとか自由じゆうおかとかの東京とうきょうのお店で出されてる有名ユーメーなのとクラべても遜色そんしょくないくらいに美味おいしいの。そして、この商店街にこんな美味おいしいケーキのお店があることを、近くでカフェを経営ケイエーしているアタシのおねえちゃんが教えてもらった。ここで何が起きたかわかる?」


 そんな可憐かれんのいきなりの賢者めいた発言に、俺と萌実めぐみは目を丸くする。


美味おいしいケーキの店が可憐かれんの姉ちゃんに知られて起きたこと?」

「うーんと、なんだろ? ここのケーキがそのねこカフェで出されるってことでしょ?」


 俺も萌実めぐみも、そんな疑問ぎもんを返す。


――新庄しんじょうさんたち一家の作るケーキが、可憐かれんの姉ちゃんに知られて起きたこと、か。


――まず考えられるのは、「取引が発生する」ってことだろうな。


 そんなことを考えた俺は、可憐かれんに返す。


「まず、ここの『パティスリー・ソレイユ』のケーキが『ねこねこJam』に買われてそれから改めてカフェで客に提供されるってことだよな? それも多分、ここのケーキの定価ていかにいくらか値段が上乗せされて」


「んー、大口オーグチ買いとか、毎月必ずこれだけ買うってなったら買取かいとり価格かかく定価テーカより少し安くなるかもしんないケド、ソコはおねえちゃんの交渉コーショー次第かな?」


 可憐かれんがそんなことを言うので、俺はコーヒーを口に含んで考える。


 そのコーヒーの黒いにがみは、どことなく頭をえさせてくれるような気がした。


 少し考えた俺は、そのコーヒーカップから離した口を開く。


「……そうなると、ケーキ屋のご主人さんである礼於れおさんにしてみればお客さんが増えるわけだから、あからさまにとくになるよな。そして、真希菜まきなさんっていう可憐かれんねえちゃんもねこカフェでそれより少し高くケーキを売ることになるわけだから、とくになる」


 その言葉に、可憐かれんがにっこりとした表情で応える。


「じゃ、ココでソンしてる人は、どこかにいると思う?」


――え?


 俺はコーヒーカップを持ったまま、少しばかり視線を下げて考える。


――礼於れおさんは、ケーキが売れてとくをする。


――そして、真希菜まきなさんも自分のカフェで美味おいしいケーキを出すことができてとくをする。


――じゃあ、そんをするのは『ねこねこJam』に通う、佐久間さくま先生みたいなお客さんか?


――いや違う。


――少なくとも俺は、佐久間さくま先生が『パティスリー・ソレイユ』に来ているところは見たことがない。


――むしろ佐久間さくま先生のようなお客さんも、ねこたちにいやされながら美味おいしいケーキを食べられる訳だからとくになる。


 そこまで考えた俺は、可憐かれんに伝える。


そんしてるやつ、誰もいねーな」


「ソーだよね? つまりどういうコトかな?」


 可憐かれんのそんな言葉に、俺は更に深く考える。


 萌実めぐみはもう、ついていけないのかポカンとした顔で俺たちを眺めている。


 そして、可憐かれんのいわんとしている意味に気付いた俺は言葉をべる。


「……そうか、この取引が発生することで取引に関する全員がとくをするってことになるんだな。この世のどこかにいる『欲しい人』と『与える人』がつながることで、この世の中にあらたに『価値かち』が生まれるってことがきて、その価値かちがおかねかいしてそれぞれに分配されるって事か。つまり価値かちってのは、それぞれの立場が異なる人と人とがつながるときに生まれるんだな」


――つまり。


――人と人とがつながるときにおたがいがとくをするような「価値かち」が発生し。


――おかね媒介ばいかい手段しゅだんとしてそれぞれに分配されるってことが起きる。


――すなわち、お金ってのは「うばい」なんかじゃなく。


――誰かが価値かちある何かを提供ていきょうしたときに、おたがいがとくをするための「あたい」なのだ。


 すると、可憐かれんがテーブルより上でかるく拍手はくしゅを打つ。


 パチパチパチ


「やっぱケータ、するどいね。ダーイ正解セーイカーイ


 萌実めぐみは相変わらず、きょとんとしている。

「どういうこと? 新しく価値かちが生まれたって? おかねが生まれたってこと?」


 すると、可憐かれんがゆっくりと返す。

「うーん、ソレはちょーっと違うんだよねー。そもそもおかねそのものってユーのはそのまんまだと価値かちなんか持ってないし」


 萌実めぐみはそのつぶらなをぱちくりさせる。

「おかね価値かちを持ってないの? いくら可憐カレンの言葉でも、それはちょっと信じられないから」


 不思議そうな様子の萌実めぐみに、俺は出来合いの知識でさとす。

「あー、かねってのはな、そのまんまじゃ意味がないんだ。おかねってのはみんながみんな、そのおかねで何かを買えるってしんじているからこそ、その社会で価値かちがあるってことになっているわけでな……」


――ん?


 そこまで話したときに、俺の頭の中で何かがはじけた。


 みんながみんな「ある」と信じることで存在そんざいする概念がいねん


 本当ほんとうたんなる幻想げんそうぎないが、そのフィクションを社会しゃかいきるみんながみんな共有きょうゆうしていることにより、その価値かち実在じつざいする概念がいねん


「それって、もしかして……神様かみさま一緒いっしょってことか……?」


 俺のつぶやきに、可憐かれんが目をぱちくりさせる。

「ソコまでは、アタシも考えてなかったし」


「あー……そうだよな。おかね神様かみさまと一緒なんて、バチ当たりっていうか、拝金はいきん主義しゅぎっていうか……不適切ふてきせつだよな」

 俺は苦笑いを浮かべる。


 しかし、萌実めぐみはこめかみに指を当てて何かを考えているようであった。

「でも、それならアタシわかる気がするかな。おかね神様かみさまが一緒だってお話なら」


 そんな萌実めぐみの予想外の反応に、俺は困惑する。


 萌実めぐみは言葉を続ける。


アタシいま中世ちゅうせいが舞台の恋愛小説読んでるんだけど、中世ちゅうせいの人って神様かみさまに対する信仰しんこうしん別次元べつじげんなんだよね。自分じぶんつかえている女騎士おんなきしのことを大好きなお姫様ひめさまが、みずからの同性どうせいへの恋愛れんあい感情かんじょう神様かみさまへの信仰しんこうしんとの狭間はざま葛藤かっとうするっていう物語なんだけど」


――いつから萌実めぐみは、こういうことをさらっと言えるような女の子になっちまったんだろな。


 俺がそんなことを考えているのもお構いなしに、萌実めぐみは言葉を続ける。


中世ちゅうせいって、生活のありとあらゆる所に神様かみさまが入り込んでるから。朝から晩まで働く農民は夜明けとともにおいのりして、正午の教会のかねでまたおいのりして、日が沈んだらまたおいのりするから。どんな強欲ごうよく商人しょうにんでも、どんな気位きぐらいが高い貴族きぞくでも、競ったように神様かみさま信仰しんこうして豪華ごうか絢爛けんらん礼拝堂れいはいどうを建ててもらったり、神話しんわをモチーフにした絵画かいが彫像ちょうぞうのような芸術げいじゅつ作品さくひんを作らせたりするから」


 俺と可憐かれんは、ただいたずら萌実めぐみの話を聞いている。


 萌実めぐみは言葉を続ける。


神様かみさまのために頑張がんばってつとめをたしておけば、いのはたらけば、本当に神様かみさま頑張がんばっている人に御褒美ごほうびとしてねがごとかなえてくれたり、大切な人にめぐり合わせてくれたりするって心から信じているから。そして何より、みんながみんな神様かみさまのことを本当はあんまり真剣しんけんに考えたことがなくて、ただ決して神様かみさまのことをうたがってはならないっていう妄信もうしんとも呼べるくらいの敬虔けいけん信仰しんこうを持っていることで社会しゃかい全体ぜんたいっているから」


 萌実めぐみはそこまで言うと、呼吸こきゅう区切くぎる。


 そして、再び言葉をつむぐ。


「でもそれって、?」


 そんな萌実めぐみの予想外の洞察どうさつに、俺は目を丸くする。


 可憐かれんがコーヒーをすすり、少しばかり静寂が流れる。そして俺たちに伝える。


「……確かに、一理イチリ二理ニリもあるかもね。アタシもそこまでは考えたコトなかったけど。アタシたちって結局、大昔オームカシからナァンにも変わってないのかもしんないね」


 その可憐かれんの言葉に、萌実めぐみが反応する。


「それって、めてくれてるの?」

「ウン、ソーだね。エラいよ、よく自分でそんなことまで気付いたね」


 そう言って、可憐かれん萌実めぐみあたまやさしくポンポンとたたく。


「わーい」

 萌実めぐみうれしそうにほほめる。


 女の子同士のそんなむつみ合いを見ていた俺は、軽くコーヒーを口にふくむ。


――人と人とがつながるときに、価値かちが生まれる、か。


――つまり、俺たちがこうやってプレゼントを渡しているってのも、立派な経済けいざい活動かつどうってわけだ。


――でも、それだとまだ。


――「お金持ちになれる人と、なれない人の一番の違い」の答えにはならない。


――そもそも、可憐かれんは俺のことを気遣ってこんなクイズを出してくれているわけだから。


――多分、もっと何か意味があるはずだ。


 そんなことを考えつつ、俺は目の前でひろげられる親友しんゆう幼馴染おさななじみ金髪きんぱつ巨乳きょにゅうギャルと小動物しょうどうぶつっぽい女子とのじゃれあいを見ていた。


――ま、とりあえずはいっか。


――可憐かれんにとって、いい誕生日になったようだし。


 俺の心の中では、目の前にいるむねを大きくふくらませたセクシーでせい奔放ほんぽうそうな金髪きんぱつ巨乳きょにゅうギャルがさながら、背伸せのびをしたいがためにかみ金色きんいろに染めたばかりの、純真じゅんしん無垢むく男勝おとこまさりな少女しょうじょのように見えていた。

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