第42節 雨に唄えば
俺は
冷たい雨の中を十分か十五分近く走っていたため、もう
そして
――ここ、
――随分とボロいアパートだな。
――いや、
そんなことを考えながら、手すりに
カン カン カン
もちろん、すぐ上にはその
また、先ほど見たところによると、このアパートの二階に登るための階段の下には、プロパンガスのボンベがいくつか設置されていた。
――どんだけ昔のアパートなんだっつーの。
二階に上がって、むき出しの通路沿いにあるいくつかの部屋扉と台所の裏手っぽい格子窓を眺めた所で、ジャンパーを手に持っていた
――
そして、なんのためらいもなくその内のひとつの扉の鍵穴に鍵を入れ、カチャリという音と共に鳴らした。
「さ、
そんなことを言われたので、俺は軽く了承の言葉を返して、そのいかにも安アパートの部屋に入る。
玄関の入り口から入ってすぐ左隣にはステンレス製の台所があり、みすぼらしい感じの流しがある。
台所には二つのガスコンロがあり、その片方にヤカンが乗っかっている。
そして、開いたままの引き戸の向こうにテレビモニタとかが置いてある
「ほらほら、早く
俺は慌てて靴を脱いで、段差を上がる。
みしっ
床板が
二の足をためらった俺に、
「あー、気にすんな。そこらへんは前々からなんか音鳴るんだ」
俺が
俺はおそるおそる
「えっと……
「ん?
その受け答えに、俺は
――ホテルとかはねーだろーと思ってたけど――
――まさかの
俺がそんなことを考えていると、
そして、俺の方に振り返る。
「……なにしてんだ
――え、ええーっ!
――こっちにも、こっちの
俺が
その向こうは六畳間の畳が敷かれた、外の光が入ってくる窓がある部屋のようであった。
そして、天井からぶら下がっている蛍光灯の下には、なにやら紐で仕切りがしてある。
俺が
この天井近くに張られた紐は、狭い部屋を仕切るための
カーテンの向こうに隠れた
「じゃ、今から
そこで俺は理解した。
――
――
「あーはいはい、
その言葉を聞いて、
――あー、そりゃそーだろうな。
――いきなりそんなエロ
とりあえず
羽織っていた
そして、それと同時にある疑惑が浮かび上がってた。
――いくらカーテンで
――そう
――この前も、不良から逃げた先の場所がホテル
――ヤンキーだし、わりとこーゆーのは慣れてんのかもな。
そんな
ブオオオオオ
ドライヤーのニクロム
俺は背中の方にある、閉められたカーテンの向こう側にいるはずの
「なー
「なんだ?
「休める場所ってさ、えーっと……この前に不良から逃がしてくれた、あの
――地雷を踏まないように、慎重に、慎重に。
カーテンの向こうにいる
「あー、あのあたりな。ホテル沢山あっからな」
俺は少しばかり
「もし目的地があーいうところだったら、どうしよーかと思ったよ」
「あぁーっ!? なわけねーだろ!!」
そんな返し声に、俺は大きく息を吐き出す。
「そうだよなー、ついこの前知り合ったばかりなのにな」
俺がそう言うと、
「つーかさ、
――え?
きょとんとした俺に構わず、カーテンの向こうにいる
「それとも、ボンボンだから数千円くらい
俺は
「えーっと、
「ああぁっ!? バカにしてんじゃねーぞ!! そりゃホテルなんだから、
「いや……
「あー、そりゃーあの
「えーっと……じゃあ、この前に逃げたとき、俺をあの
「あー、
そのカーテンの薄布の向こうにいるヤンキー少女、
――なんてこった、この少女はただのヤンキーじゃない。
――ピュアヤンキーだ。
――ラブホテルの意味、わかってねえ!
俺がそんなことを思っていると、
「
「はいはい」
俺はそんな簡単な受け答えをしてコンセントを抜き、
そこで俺は、ドライヤーをかけてたときには気付かなかったその死角に、シールが貼ってあるのに気付いた。
――
――
――
――ってことは、あの
――いや待て、
俺がそんなことを考えてると、ドライヤーの温風が吹き出す音に加えて、
「
「あー、わかったよ」
そんなことを言いながら、上半身裸のまま入り口近くの台所に向かう。
そして、ガスコンロの上に置いてあったヤカンを取って水道から水を入れ、もう一度ガスコンロにセットする。
――茶とか飲むとき、いっつもコンロで沸かしてんのかな?
――電気ケトルにしたほうが、光熱費かかんねーと思うけど。
そんなことを思い、ガスコンロの火をつけた次の瞬間であった。
ガチャリ。
ステンレスの台所のすぐ近くにあった玄関ドアが開き、小さな男の子が一人入ってきた。
その子は小学生になったかなってないかくらいで、
「ただいまー、ねーちゃん帰ってるの?」
そんなことを奥に向かって問いかけた
場が固まる。
男の子が、
「だ、
「違う違う! 俺は
すると、その男の子が玄関下に置かれている
「確かにねーちゃんいる……ってことは……ねーちゃんの
――え?
「あ……いや……」
上半身裸のまま、説得力のない弁明をしようとしたところで、おそらくは学校指定の黄色いジャージに着替えた
「ちげーよ!
「
「
――え?
俺が
「
「ちゃんと
その
――ただの
――『
俺が乾いた笑いを浮かべると、
「じゃあ、
俺は少しばかり
「えーっと、下の名前……
――あえて間違いを訂正することもないだろう。
「うん! よろしくね
「
「ガキだよー! だってまだ小学一年生だもん!!」
奥のほうに逃げる
俺は、そんな
――ま、億万長者だなんて知られたくねーし。
――本当のことは言わないでおくか。
十二月の
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