第40節 ビューティフル・マインド
水曜日の朝、少し早く家を出た俺は
昨日の火曜日に
昨日は
タクシーで降りた場所とは、学校の校名プレートがかかっている正門近辺であり、少し広い車道の脇にある歩道である。
俺が降りてから、そのタクシーが走り去ったところ、俺がさきほどまで乗っていたタクシーの停車位置に重なるように明るいグリーン色の小型トールワゴン乗用車が停車した。
そして、その普通乗用車の助手席のドアがガチャリと開いて、高校生の制服を着た小学生みたいなちっちゃな女子生徒が、学用品を入れているのであろうリュックを背負って出てくる。
女子生徒は、運転席に座っているのであろう運転手に声をかける。
「じゃ、いってきま~す」
その、頭の両サイドに丸い髪留めでお下げをつくっている女子生徒はもちろんのこと、
「あっ!
俺はもちろん、上級生相手に
「おはようございます、
以前から、名字でなく名前で呼んで欲しいと言われていたので、下の名前で呼ぶ。
そんな朝の
俺が運転席をちらりと見たところ、そこに座っていた運転手の姿には見覚えがあった。
――
「いまの、
俺がそう尋ねると、
「え~っとね~、
そんな言葉を交わしながら、俺は
そんな中で、
「昨日、妹さんのお誕生日会だったんだって~? 楽しかった~?」
その情報は、おそらくは
俺は応える。
「ええ、楽しかったですよ。みんな喜んでくれました」
すると、
「
――十二月の誕生日?
疑問に感じた俺は、昇降口近辺でぴたりと足を止める。
すると、
――俺の誕生日は、五月に過ぎたし。
――
「十二月の誕生日って誰のですか?」
俺がそう尋ねると、
「え~っ! やだな~、前生徒会長の
――え?
「あっ!
「
――
――そもそも、小学生のときに兄弟姉妹がいるとか言ってたっけか?
――あーだめだ、思い出せねー。
そこまで考えた俺は、
「
すると、
「え~っとね~、そーだ! 生徒会室にアルバムがあるから、お昼休みに見においでよ~!」
「え……いいんですか? 部外者である俺がそんなところに
「へーき、へーき~。今の時期は
そんな
――それよりも。
――
――確か、
――年末年始はいつも、父さんの実家に帰ってたから
――それに、
――あいつ、自分の家のことはあんまり話さなかったからな。
――きっと、まだまだ俺が知らないこともいっぱいあるんだろーな。
そんな後ろめたさを感じつつ、俺は
さて、午前中の授業が終わって、今は昼休み。
教室で悪友三人と一緒に弁当を食べ終わった俺は、生徒会室があるという話の文化棟校舎一階に来ていた。
俺はどこの部活にも所属していない帰宅部生なので、この校舎に入る用事が生まれるのは、音楽や美術などの芸術科目時限くらいである。
生徒会室に近づくと、向こうの方から手に鍵を持った
「あっ、
「ええ、丁度よかったです」
カチャリ
そんな古めかしい懐かしい音と共に
俺も後をついて入っていくと、
生徒会室として用いられている部屋はそこそこ広く、授業が行われるクラスルームの半分くらいはある。
ただ、天井に設置されている室内灯は、いつも俺たちが授業を受けている教室に設置されているような一瞬で点灯する LED 蛍光灯ではなく、昔ながらのチカチカしながら
そして、色々な資料を入れているのであろうロッカーや、四角いプラスチックケースに入れられた
電灯をつけてくれた
「お茶とかもあるけど、どうする~? 飲んでいく~?」
――
「いや、遠慮しときます」
「そっか~、で、聞きたかったのは
俺がその言葉に返事をすると、
俺は尋ねる。
「これ、アナログ写真のアルバムですよね?」
「そうだよ~、学校ってなんだかんだで古いものを大切にするからね~。こんな形での記録と保存を続けてるんだよ~」
――デジタル
――今はもうあまり見なくなったけど、なんとなく懐かしい感じがするな。
俺がそんなことを思っていると、
そこにある
その
「この人が、今年卒業した
「ええ、それに
――多分、
そして、なによりも
デカい。
――そりゃあ、男子の票を集めるよな。
「いま生徒会長をしている
――あの生徒会長にそんな過去が。
すると、
「
「ええ、まあ」
「当ててみよっか~、
――この人、すごいな。
「ええ、どんなものを贈ればいいのやら。それにしても、よくわかりましたね。もしかして心でも読めるんですか?」
俺がそんなことを冗談半分で伝えると、
「それはね~。ま、しょうがないよ~。なんとなくわかっちゃうんだから~」
――え? まさか本当に読めるとか?
俺がそんなことを考えて
「いま
その言葉に、俺は
「俺の姉ちゃんも、勘は
すると、
「
パイプ椅子に座った俺は、隣にいる
「
すると、
「そうだよね~、
――にわかには、信じがたい。
俺は返す。
「本当に人の心が読めるんだとしたら、
すると
「今はみんなの気持ちを知るのに便利だけどね~。慣れてなかった小学生のときはちょっとばかり
――先生?
「あの、
――
俺がそう思うと、
「あっ! なんでもない、なんでもな~い! 忘れて~!」
「とにかく、
「……すいません、
「も~、だから
俺と、このちっちゃな二年生の先輩の間に
だが、俺には気になることがあった。
「……もし先輩が人の心をなんとなく読めるんだとしたら、何でそんな事を俺に伝えたんですか?」
――そんな話、
――もし本当に、人の心が読める超能力なんかあったら、確実に噂になっているはずだ。
すると、
「ん~とね~、
――なんだそりゃ。
「あとはま~、
「先生って……さっき言ってた、先輩を救ってくれた先生ですか?」
すると、
「あはは、ま~やっぱり忘れることなんかできないか~」
そんな先輩の様子を見た俺は、心の中で思う。
――多分、
「別に誰にも言ったりしませんよ、俺の心の中に閉まっておきます」
俺の言葉に、
――俺も、
――そして何より、かつてレンと呼んでいた親友との思い出を大切にしている。
――誰にも知られたくない大切な思い出なんて、人間だったら持ってて当然だ。
――それにまあ、超能力者のように心が読めるなんて
――多分先輩は、
――そもそも人間が、そんな超能力なんて持ってるわけねーもんな。
そんなことを、この小さな先輩の隣で思っていた。
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