第6章 どういう風に気持ちを示せばいいのだろうか?
第36節 ユージュアル・サスペクツ
その
その、
それと同時に、その
そして、その後ろでは似たような恰好をした、
階段の上から落ちてきたその
ドサッ
鈍い音が、アニメショップの階段に響き渡る。
俺は踊り場に尻をついて、その
そして、俺の口から声が漏れる。
「いてて……」
両腕でその
尻もちをついてしたたかに腰を打ったので、鈍い痛みが下半身に広がっている。
そして、間を置かずに階段の上の方から、もう一人の
「ひ……ひーちゃん!?
その駆け下りてきた黒いゴスロリ服を着た女の子はやけに小柄で、背の高さは妹の
その黒い衣装を身にまとった
俺はそこで、目の前にある白い小さな帽子を付けたボブカットの
――ん? なんか、
――もしかして、
俺の近辺にはその
そして、俺の胸の中でその
「あ……あの……ありがとうございます」
その
「あーっと、無事でよかったよ」
そう答えると、相変わらず俺の胸元に収まっている白いゴスロリ服に身を包んだ
「でも……できればお
そこでようやく気付いた。
俺の左手は先ほどから、その
「って!! うわっ!!」
慌てて手を離すと、そのボブカットヘアーの
俺の第一印象はこうであった。
――なんだ、この
毎日、
とにかく、今まで会ったことのないベクトルの、
すると、もう一人の階段を駆け下りてきた黒いゴスロリ服を着た小柄な女の子が踊り場にて、俺に声をかけてくる。
「
その言葉に、俺は応える。
「ああいや、俺は平気だから。気にしないで」
俺がそう言うと、黒いゴスロリ服に身を包んだ女の子は、白いゴスロリ服の方の
「ほら、ひーちゃんも立ち上がって。一緒にごめんなさいしなきゃ」
「うん、お
――あー、やっぱり
――
そして、ひーちゃんと呼ばれた
「飛び込んじゃってごめんなさい、お
「ひーちゃんを
「俺は別に平気だけど、そっちは平気?」
俺の視線の先には、アニメとかに出てくるようなキャラクターの男性二人がお互いを
その言葉に、ゴスロリ服に身を包んだ
「お、お
「わかってるってば!!」
そんなやり取りをしながら、
そのタイトルは、妹の誕生日プレゼントとして頼まれたコミック CD と同じタイトルであった。
俺は、目の前で
「あの! このコミック CD 、どこで売ってたかわかる!?」
すると、ひーちゃんと呼ばれた白いゴスロリ服の
「ああ、さっき七階で買いました」
踊り場で同じく同人誌を拾い集めている、黒いゴスロリ服を着たロングヘアーの女の子が言葉を重ねる。
「確か、残り
その内容に、俺の
――残り
――あと残り、
焦った俺は、CD を手に持ったまま階段を急いで駆け上がる。
四階まで登りきったところで、今自分が手に持っているモノを思い出し、引き返して階段を駆け下りる。
「じゃ、これ返すよ!! 急ぐんで!!」
俺がそう言って、ひーちゃんと呼ばれた白いゴシックロリータファッションの
「あ、あの……お
「もしかしたらね!!」
俺は大声でその
そして、階段を駆け登りながら頭の中で考える。
――やっぱり、エレベータで上がればよかったかな。
――まさか、こんな
――いや、俺が階段で上がるのを選んでなかったら。
――あの
――それでよかったということにしておこう。そうしよう。
そんな、
あとひとつしか残ってないと
幸いなことに、七階にて俺は、残りひとつだったオーディオプレミアムグッズを無事購入することができた。
妹への誕生日プレゼントを購入することができて一息ついた俺は、アニメ専門店のプラスチック袋を持って街路へと出る。
――しかし。
――これは少し、恥ずかしい。
そのプラスチック袋というのは、ぱっと見だとモノクロ調な何の変哲のない袋なのだが、しっかりと大きくアニメショップの店名が刻印されている。
この袋を持っていたら、
それも、そこら辺を歩いている見知らぬ人だったら別に恥ずかしくはないが――
もしも、まかり間違って同じ学校の、
何せ俺は、現時点において学校でその顔を知らない生徒はいない有名人なのである。
いくら金があっても、人の噂を止めることはできない。
今日は日曜日、同じクラスの『オタク女子』に属する女子生徒がこの
いや、ゼロであると考える方がおかしい。
そう考えた俺は、この場から西の方角にある池袋東口には直接向かわず、まず北に行き、そして線路を横断し、そして
その途中で、小物ショップでもあれば大きめのナップサックかトートバッグでも買って、このアニメショップ名が刻印されたプラスチック袋を入れて隠してしまうつもりであった。
――リュックとかを持ってこなかったのは、完全に失敗だった。
そんなことを思いつつ北に向かって歩き、歩道橋の階段を上がり、東側から西口へと向かうために埼京線や山手線との立体交差となっている
俺は、線路沿いの
『
――そこなら、バッグくらいすぐ買えそうだ。
そう思った俺は、線路沿いから離れて街区へと向かう。
しばらくうろうろ歩き回ったが、その量販店はどこにもなかった。
――あれ? マップの情報が古かったのか?
そう思った直後であった。
何者かの強い力によって、俺は腕を掴まれて路地の中に引っ張り込まれた。
おそらくは、いいカモだったのであろう。
あからさまに池袋西口を
「ねーねー、どうして東のオタクくんがこんなところにいんのかなー?」
「オタクくん、ちょっとばかり俺たちにもお金かけてくれない?」
――またこのパターンか!!
路地の中で、俺はうろたえる。
そう、俺は
今、俺の財布の中には四万円以上の現金が入っている。
――もし、その四万円を渡せば見逃してくれるのならば、俺は別に渡してもかまわない。
――それよりも、学生証とかスマホとかを
――幸い、この二人は今のところ俺が数百億円を持っている億万長者だなんて、気付いていないみたいだし――
そう俺が判断して、財布を尻ポケットから取り出そうとした次の瞬間だった。
ボグッ
鈍い音と共に、すぐ近くにいたドレッドヘアーの男が、後ろから何者かに金玉ごと
「うぐぉっ!!!」
ドレッドヘアーの男が、
その次の瞬間、俺に詰め寄っていた金髪の男がその何者かの方向を見ようとする。
プシュー!!
「うぐぉっ!!」
その何者かによってスプレーが
おそらくは、
金髪の男は、
「こっちだ!!
そうハスキーな声で叫び、俺の手首を取ったのはなんと――
金色のロングヘアーを後ろに伸ばした、手足がスラリと長くか
その少女の後ろ姿は下半身に濃い色のダメージジーンズを
俺は片手にアニメショップのプラスチック袋を持ち、もう片方の手首を握られつつ、その金髪少女と一緒に路地を抜け出る。
道を駆け抜けると、後ろから不良二人組の乱暴な怒号が聞こえる。
「てめぇぇぇぇら!! ぶっ殺す!!!!」
「待ちやがれぇぇぇぇぇ!!!!」
俺は、少女に手首を取られ、無我夢中で走ってついていく。
「ちょっと!! あんなこと言ってるけど!!」
俺がそう走りながら尋ねると、その長い金髪を揺らしながら後ろ姿のまま少女が振り返らずに叫ぶ。
「まかせな!! ここらは
そう言って、少女はビルとビルとの間に伸びているスキマ、
当然に、手首を握られている俺もついていく。
そして、何度も何度も
「ふー、ここまで
そう言って、少女は逃げている最中ずっと掴んだままであった俺の手首から、なんのこだわりもないようにぱっと手を離す。
息を切らしながら、俺は改めて少女の後ろ姿を見る。
腰の辺りまでロングの
その少女は、
「でさ、おめー
その言葉に、俺は首を横に振る。
「いやいや! 持ってない持ってない! 俺、高校生だから!!」
すると、金髪少女が
「わりーわりー、ジョーダンジョーダン。
そこまで言うと、金髪少女は細道の自販機の近くにあるコンクリートの段差に、そのダメージジーンズを
さっきまで全速力で不良から逃げていたので、その少女は荒くはぁはぁと呼吸をして、体力を回復させようとしているかのように天を見上げる。
――助けてもらっておいてなんだが。
――どっからどー見ても、あからさまにヤンキーだな。
そんなことを心の中で思っていると、そのヤンキーっぽい少女は息を切らしながら再び俺の方を向いて口を開く。
「でもよー、これでおめーとの貸し借りはチャラだぜ」
――ん?
その口調に疑問を感じた俺は、その
――そういえば、どっかで見たことがあるような。
金色に荒く染められた髪を後ろに長く伸ばしているその少女は、スラリと手足が
「なんだよ、
ハスキーボイスでコンクリートの段差に座っている少女がそう伝えたところ、その問いかけが
――先月のクラス会としての
「あっ! もしかして、ゲーセンで会った!?」
俺がそう伝えると、少女が指で作った銃を向け、片目をつぶってきた。
「はい、当たり!
少女が、その
その金髪のヤンキー少女は、不敵な
「しっかしおめー、オタクだったんだな」
その言葉に、俺は自分の手に握られているアニメショップの店名がプリントされたプラスチック袋を意識する。
「いやいやいや! これは妹への誕生日プレゼント! 俺はドンクホーテに行こうとしてただけだから!」
俺がそう
「マジで!? おめー
そして、金髪少女はジャンパーのポケットから黄色と黒の
少女が片手のみでスマートフォンを何やら操作しながら、俺に尋ねる。
「パラサイト、
「……え? 何?」
聞きなれない名詞にそう返すと、少女が答える。
「
金髪の少女は、スマートフォンの画面に二次元コードを表示させて俺に対して差し出してきた。コードを読み取れということなのだろう。
ま、助けてもらった
そう思った俺は、自身のスマートフォンをポケットから取り出してカメラを起動させて、その二次元コードを読み取る。
すると、何やら新しいアプリケーションを俺のスマートフォンにインストールしてもいいかという通知が来たので、俺は OK ボタンをタップする。
自分のスマートフォンにそのアプリがインストールされている途中で、俺は目の前にいる金髪プリン頭のヤンキーっぽい少女に尋ねる。
「このパラサイトって、どんなアプリなんだ?」
「ああ、スマホ持ってる
――そんなアプリがあるのか。
俺の手の中にあるスマートフォンに、新しいアプリのインストールを完了したという表示が出る。
その金髪のヤンキー少女は、俺に
「
そう
「ああ俺は、た……」
――
そう本名が出かかったところで、飲み込んだ。
「ただの
――フルネームは、まずい。
「そっか! よろしくな
そうヤンキー少女が
「じゃ、
その
――
――ま、悪い人じゃなさそうだったけど。
――まさか、ヤンキーの知り合いができるなんてな。
そう考えていたところ、その車が一台ようやく通れるかといった細い道で、俺はまわりのビルを見渡す。
そして俺は気付いてしまった。
ご休憩がいくらとか、一泊が何円とか、豪華な部屋の内装がパネルに展示されたホテルが、そこらかしらに無人の入り口を見せて構えられている。
――って! ここ、ホテル街じゃねーか!!
自分の置かれた立場に焦った俺は、先ほどのヤンキー少女に
普段の自分が、アメリカの数百億円の宝くじが当たったことで億万長者になってしまった男子高校生だということを全国放送されてしまった、要注意人物であるということを自覚しながら――
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