第27節 若者のすべて




 それから十日余り後のこと、十月の下旬にある木曜日の正午近くのことであった。


 俺は、いつもの教室で英語のテストを受けていた。


 そして、明るい栗色の長い髪の毛先にカールをかけた女性教師により、英語のテストが終わったことがげられ、俺たち生徒は筆記用具を机の上に置く。


 そして、教室のあちらこちらから、二学期の中間テスト期間がようやく完全に終わったことの安堵あんど息遣いきづかいやこえが伝わってくる。


 テスト用紙が生徒の手を介して後ろから前に次々と渡され、帰国子女だと称される元気一杯のグラマラスな新人英語教師がそれらの紙をまとめたところ、頭のそばでピースをして「それじゃー、Everybodyエブリバディ、よい文化祭を!」とだけ言って教室から出て行ってしまった。


 と、いうわけでこれから昼休み時間を挟んで、クラスとしての文化祭での出し物を決定するロングホームルームが先生抜きで行われる予定となっている。


 そして、これからも一週間近くは半日授業が続いて、午後の時間をまるまる文化祭の準備じゅんびにあてるというはこびになるわけである。


 テストが終わった悪友三人がそれぞれ昼飯を持って席を立ち、窓際にある俺の席に近寄ってくる。


 小さな弁当箱を持ってきたさとしが俺に尋ねてくる。

啓太郎けいたろう、テストどうだった?」


 自席に座ったままだった俺は、筆記具を片付けながら返す。

「英語だけはまあまあかな、他はそれなり」


 コンビニ袋を持って近寄ってきたすぐるが、俺に声をかける。

「しかし啓太郎けいたろう、貴様はもう英語なんざを学ぶ必要などないのではないか? たとえ海外に旅行に行ったとしても、通訳くらい今の貴様ならいくらでも雇えるだろう」


 俺は返す。

「いちおーだよ、いちおー。英語ができないことでだまされるってこともありえるからな」


 そして、大きな布包みを持った高広たかひろが俺たちにうきうきした声で伝える。

「それより、早くお昼食べようよ、お昼。テストのことは食べながらでもいいじゃない」


 その言葉にさとしすぐるも了承して、近くにあった三つの開いている机を貸してもらい、俺の机と近づけて並べる。


 そして、高広たかひろはいつものようにボリュームある手作り弁当を机の上に置く。


 そして、俺も布に包まれた手作り弁当をかばんから取り出して、机の上に置く。


 その様子に、サンドイッチ数個とコーヒー牛乳パックを持ってきていたすぐるが反応する。


「ん? 啓太郎けいたろう、貴様は今日は弁当か!? 親が旅行に行ったのではなかったのか?」


 その言葉に俺は、内心冷や汗をかきつつ応える。


「えーっと……実は家政婦かせいふさん、最近雇い始めてさ……」


 すると、コンパクトな弁当を持ってきていたさとしがからかい気味に返す。


家政婦かせいふさん!? おおー、さーすがお金持ちぃー。若い女の子のメイドさんとかじゃねーだろーな?」


 ぎくり。


 俺は目の前に座っている悪友三人に、なんとか言葉を返す。

「えーっとな……今、夕食とか作るのに家にかよってくれているのは、幸代さちよさんっていう七十近くのおばあさんだ。お年寄りのかただよ」


――嘘ではない。


 するとすぐるが座ったまま、オーバーリアクション気味に腕を広げて鼻息を鳴らす。


「はっ!! なんだ BBAババア か!! つまらん!! こういう時は若くてピチピチでムッチムチな女を雇って、ご主人しゅじんさまプレイを強要きょうようするのが相場と決まっておろーが!!」

 

 すると、既に弁当を食べ始めていた高広たかひろはしを持ったまま笑顔で返す。


すぐるくん、それは無茶だよ。実際には若い女の子はメイドになんてなってくれないって」


 そして、さとしも笑いながら返す。


「中世っぽい異世界とか、発展途上国とかの外国ならともかく、啓太郎けいたろうが今いるのは二十一世紀の日本だからなー。もしいても、学校とかどーすんだって話だよなー」


「あー……そうだよな……本当にどーすんだって話だよな……」

 俺はそこまで言ったところで、目の前の三人から視線をらす。


――言えない。


 そんなことを心の中で思っていると、らした視線の先に『真面目系』のグループの女子と一緒に机を並べている西園寺さいおんじさんの横顔があったことに気づいた。


 西園寺さいおんじさんは、こちらの視線に気づき、手を振って返してくれた。


 その振る舞いに、俺もお礼として少し笑いながら手を振り返す。


 実は、萌実めぐみ可憐かれんとで一緒になって、俺がクラスの皆から受けていた誤解ごかいくにあたっては、西園寺さいおんじさんの協力きょうりょく抜きでの実現はとても考えられなかった。


 可憐かれんの発案で、俺たちはまず、学級委員長である西園寺さいおんじさんに包み隠さずなにもかもをも話した。


 俺と萌実めぐみが、子供の頃から一緒に遊んでいた幼馴染おさななじみ同士だったことも。


 そして、俺たちが男だと勘違いしていた可憐かれんと、いつも一緒に遊んでいたことも。


 金髪ギャルである可憐かれんが、実はお金持ちのお嬢様であることも。 


 そして何より、萌実めぐみもずっと俺にストーカーの疑いがかけられていたことに苦しんでいたことも。


 西園寺さいおんじさんは全てを俺たちから聞いたうえで、まるで囲碁いごのようにクラスの力関係に配慮し、外枠そとわくを埋めていった。


 そして、色々な説得せっとく宣言せんげんなどをて、萌実めぐみは無事に、クラスの誰からも嫌われることなく誤解を解くにいたった。


 ちなみに西園寺さいおんじさんは「これでわたくしたちばなさんにおおきなしひとつですわね」と考えようによっては怖いことを言って来た。


 まあ、どんな形で返さなきゃいけないかはわからないが、おそらくそんなに無茶な要求はしてこないだろう。西園寺さいおんじさんだし。


 俺がそんなことを考えていると、開けたままだった教室の後ろの扉口とびらぐちから可憐かれんが入ってくるのが目に入った。


 おそらくは、テストが終わった後に女子トイレにてお花を詰みにいってたのであろう。


 すると、その可憐かれんの右腕に、栗色のくせを揺らしつつ、うきうきした様子で萌実めぐみが抱きついた。


「ねぇねぇ、可憐カレン。一緒にお昼食べようよ」


 そんな萌実めぐみの甘えたような声に、可憐かれんが汗をかいたようになって返す。


「そりゃーモチロンだけど……ちょーっとメグ、必要以上にベタベタしすぎじゃないかなー?」


「ええぇー? いーじゃない、女の子同士なんだから」


「いやー、アタシはメグの事は友達として確かに大好きなんだけどさー……アタシ自身は別にレズっとかはないんダケドなー」


 萌実めぐみ可憐かれんが体を密着させたまま、そんなやりとりを発している。


 悪友三人はその様子を、首を回しつつ体を椅子の上でひるがえしつつ、俺と一緒に眺めていた。


 さとししゃべる。

「なんつーか……」


 高広たかひろが続く。

百合ゆりの花が咲いてるね」


 そして、すぐるが叫ぶ。

百合乙神ゆりおつしんあっら~は偉大いだいなり!」


「お前、いつイスラム教徒になったんだよ」

 俺が突っ込むと、すぐるが眼鏡をクイッと上げて返す。

唯一神ゆいいつしんではなく、百合乙神ゆりおつしんだ。問題ない」


中東ちゅうとうの人にいつか怒られるぞ」

 俺がそんな返しをしていたところ、頭の中では少しばかり思考を巡らせていた。


――レンっていうか可憐かれんやつ、別にレズビアンとかじゃないのか。


――ってことは、男のふりしてたけど実は女だったってことは。


――あいつが子供のころ好きだったやつってのは女じゃなくて男だったんだな。


――つまり好きだった異性ってのは、あいつの通ってた私立小学校の男子とかで――


 そこまで考えた所で、俺は可憐かれんが夜の公園で言っていたことを思い出してしまった。


――アタシの通ってた小学校、お嬢様ジョーサマ学校で――


――あれ? そういえば、あいつの通ってた小学校には女子しかいなかったんだよな。


――ってことは、あいつがせっしていた唯一ゆいいつの男子って――


「……」


 俺は、思考が止まる。


 すると、さとしが俺の顔の前で手をひらひらさせる。

「どーした? 啓太郎けいたろう? 固まってるぞ?」


「あー! なんでもない! 大丈夫大丈夫!」

 俺が外面をつくろって返すも、心の中では心理ゲージが未曾有みぞうのレッドゾーンに突入していた。


――まさか、な。


――そもそも、推測に過ぎないし。


――仮にそうだとしても、何年も昔の話だし、もう関係ないよな。


 自分勝手な推測で、子供の頃から一緒に遊んでいた親友とも呼べる男友達とのピュアな思い出を、あえてけがすべきではないだろう。


――その親友であった男友達が、俺の事をどういう目で見ていたかなんて。


――多分、考えてはいけないことだ。


 そう考えつつ、俺ははしを動かして弁当を食べ始める。


 俺の雑念ざつねんをものともすることなく、国枝くにえださんに作ってもらったその手作り弁当は、これ以上ないほどの至高しこうの味がした。





 文化祭のクラスでの出し物を決めるロングホームルームを無事に終え、俺はタクシーに乗って自宅への帰路についていた。


 結局、厳正な投票の結果、クラスの出し物は『超高級紅茶メイドカフェ』に決定した。


 100グラム一万円ほどするセレブしか飲めない紅茶の茶葉を2000グラムほど購入し、総額数十万円する高級ティーカップセットにて数百円で提供する、というものである。


 そして、文化祭が終わった後はクラスの皆でくじ引きを行い、ティーカップセットのそれぞれはクラスメイトの誰かの手にへと渡る予定だ。


 なんか、当然というか、話の流れで高級茶葉とティーカップセットの代金は全て俺が出すことになった。


 数十万円の出費になるが、それは致し方ない。


 大地主で昔からのお金持ちの家のお嬢様である可憐かれんが、俺に伝えてくれたことによると「コミュニティーに定期的に貢献コーケンするってのは、コミュニティー自体を城や石垣にして、自分の身を守ってくれるってことにツナがるから、いーんじゃない?」とのことだ。


 まあ、たとえ文化祭で数十万円使ったとしても、俺の手元にはまだ三百億円がまるまる残っているので、別に痛くはない。

 

 ただ、文化祭に声優とかアイドルとかの有名人を呼ぶって話は保留になった。


 一週間じゃ、どんなに大金を積んでも有名人のスケジュールなんか空けられないだろうってのがその理由だ。


 と、いうわけで有名人を文化祭に呼ぶのは来年の文化祭、俺が二年生になってからの『二超祭ふたごえさい』まで持ち越しということになっている。


 そんなことを考えているうちに、タクシーが新居のある高層タワーマンションの住民用エントランスに到着した。


 ブレザー制服を着た俺は、デビットカードでタクシー料金を払って車から降り、警備員さんが待機している住民用エントランスからマンション内部に入っていく。


 外部の人が待つためのソファーが置いてある待合室を横目に、財布に閉まってあるICカードを遠隔で検知するゲートと、ICカードを持ってないと開かない自動ドアを潜り抜ける。


 すると、フロントにいるコンシェルジュの方たちが「お帰りなさいませ」と言ってくれるので、俺は会釈えしゃくを返す。


 そして、高速エレベーターに乗って四十階以上にある俺の住んでいる階まで移る。


 エレベーターが開くと、北からの空の光が射しこむホールに、ひとつだけドアがあるのがわかる。


 俺が人差ひとさゆびをドア近くに設置されている指紋検知器につけると、ピッという音と共に施錠せじょうが解かれたのがわかる。


 そして俺がその扉を開けて我が家に帰ると、パタパタとスリッパの音を鳴らして、長いスカートのメイド服をて頭にカチューシャをけたみお下げ美少女が、ご主人様しゅじんさまの到着を待ちわびていた品のいい室内犬しつないけんみたいに、長く伸びた亜麻色あまいろの後ろ髪を揺らして嬉しそうに早足で出迎えてくれる。


啓太郎けいたろうさん……お帰りなさいませ……」


「ああ、ただいま」


 俺がそう返すと国枝くにえださん、いやかなでさんは玄関の段差の上から手を伸ばしてくれる。


「おかばん、お持ちいたします……」


「じゃあ、お願いします」


 そう言って、俺はかなでさんにかばんを渡す。


 結局、闇金やみきんグループの報復ほうふくからまもるためにかなでさんには俺の家にてかよいではなく、空いている和室を利用して家政婦かせいふさんとして働いてもらうことになった。


 祖母そぼ幸代さちよさんは、元々俺たち家族が住んでいた家に固定給十五万円で管理人として住んでもらい、夕食を作るときだけかよいで手伝いをしにきてくれている。


 年頃の少女に年頃の男がいる家にて住み込みで働いてもらうという常識外れなその提案に、かなでさんのご両親がなんて言うのかが心配だったが、祖母そぼ幸代さちよさんがかなでさんのおかあさんであるむすめさんとその旦那だんなさんに連絡を取ったところ、二つ返事でOKだったらしい。


 ちなみに、東京駅近くの丸の内にある公園に行ったあの夜に初めて知ったのだが、かなでさんは今年の三月に中学校を卒業したばかりで、来年の二月終わりに十六歳になる年齢であるらしい。


 つまり、まだ十五歳なのだということだ。


 島津しまづさんの話によると、こういう場合には『年少者雇用ねんしょうしゃこよう』に該当し、働いてもらうには労働基準監督署の許可をもらって、被雇用者ひこようしゃの年齢を明記した証明書を勤務場所に備え付けなければならないらしい。


 俺はテスト期間の半日授業を利用して、あと島津しまづさんにも書類作成を多分に助けてもらい、なんとか労働基準監督署の許可を得ることができた。


 会ったこともない名前も知らないかなでさんのご両親の同意がなかったら、おそらくは許可をもらう事は不可能だったであろう。


 この秋葉原っぽいカチューシャとロングスカートメイド服は、もちろんのことながらオタクな妹の趣味である。妹は当初は太腿ふとももが見えるミニスカメイド服をニーソックスと共に着せたがっていたのだが、俺はそこだけは全力で食い止めた。


 そんな事を考えつつ、通学用のスニーカーを脱いで玄関を上がる。


 そしてスリッパを履こうとしたら、いつもに比べてピカピカになっているフローリングの玄関にて靴下を滑らせて、危うくバランスを崩しそうになる。


啓太郎けいたろうさん……!」


 すぐさま、かなでさんが俺の手を取って体を支えようとしてくれた。


 俺はかなでさんの手を握ったまま少しの間だけ放心して、その少女の無表情な何を考えているかわからない顔を見つめていた。


――やばい、やっぱり可愛い。


 俺のそんな意図を察したのであろう、老女の咳払せきばらいが玄関に響いた。


「こほん」


 その咳払せきばらいの声に、俺はあわてて体勢たいせいを立て直して、メイド服を着たかなでさんの手を離す。


 そして玄関近くの和室から出て俺たちに近づいてきたのは、和風の女中じょちゅうさんっぽい割烹着かっぽうぎを着た、顔に何本もの深いしわが刻まれた意思の強そうなおばあさんの姿であった。


 国枝くにえだ幸代さちよさん。


 かなでさんの母方の祖母そぼであり、元々は温泉旅館の女将おかみだった女性である。


 本当は白髪しらがらしいのだが、後ろで結った髪を茶色に濃く染めているので、七十近くという年齢にしては随分と若々しく見える。


 顔には深く長い人生を歩んできたことを示すような何本ものしわが刻まれているので、いかにも老女の風貌であるのだが、その顔立ち自体はとても整っており、若い頃は相当な美人であったことがうかがえる品の良いおばあさんである。


 かなでさんの容貌ようぼうが西洋から輸入した西洋人形のようだという比喩ひゆと同じものを用いるとすれば、幸代さちよさんの容貌ようぼうは日本の職人が作った純和風の古めかしい日本人形であるというたとえが相当するであろう。


 女中じょちゅうさんのように割烹着かっぽうぎを着た幸代さちよさんが、しんのあるりんとした声で俺に告げる。


「おぼっちゃん? ご主人様しゅじんさまがお女中じょちゅうさんに手を出したら、責任せきにんはしっかりとっていただきますからね?」


 その言葉に、俺はあせってつくろう。


「いや! そんなことしませんよ! 俺は国枝くにえださんのやとぬしですよ!? そんなことしたら、セクハラじゃないですか!?」


 そう、美登里みどりとの約束やくそくどおり俺はかなでさんを家政婦メイドさんとしてやとうことになった。


 結果的に必然的に、俺とかなでさんは雇用主こようぬし被雇用者ひこようしゃの関係になってしまったのである。


 つまり。


 俺からかなでさんにアプローチは、一切出来できなくなってしまったわけである。


 もし俺が、男から女へとして、少しでも異性としてアプローチをかけたら。


 すぐさま、立場を利用したセクシャルハラスメントになってしまうということだ。


――あーあ、俺って本当に、底なしの大馬鹿だ。


 すると、かなでさんが少しだけ微笑んで幸代さちよさんに告げる。


「お祖母ばあちゃん……神様かみさまのように親切しんせつ親切しんせつ啓太郎けいたろうさんが……そんなこと、するわけないじゃないですか……」


 すると、幸代さちよさんが再び軽く咳払せきばらいをする。


「こほん。まあおばあとしては、責任せきにんって孫娘まごむすめ大切たいせつにしていただけるのであればそれでようございますが」


 その言葉に、かばんを返してもらった俺は「あははは」と乾いた笑い声を出す。


 そして、幸代さちよさんとかなでさんと一緒に、廊下を抜ける。


 その最中で、かなでさんが俺に告げる。


啓太郎けいたろうさん……そろそろわたしのこと、下の名前で呼んでくれませんか……? 国枝くにえださんのままでしたら……お祖母ばあちゃんとまぎらわしいですし……」


 その言葉に、俺は少しだけ照れながら返す。


「えっと、そうだね。じゃあ、えっと……」


 そんな感じでかなでさんを下の名前で呼ぶタイミングをはかっていたら、リビングに出たところで、部屋着を着た妹の美登里みどりがリボンでわれた長い黒髪ツインテールを揺らしつつ、ブラシを持って駆け寄ってきた。


「……かなでちゃん、かなでちゃん。ブラッシングして」


「はい、わかりました……美登里みどり嬢様じょうさま……」


 美登里みどりは、ロングスカートのメイド服を着たかなでさんの手を引っ張り、置いてあるレザーブラックのふかふかなソファーに座ってもらうよう誘導する。


 そして妹は、メイド服姿のかなでさんの長いスカートの下にあるそろえられた両太腿ふとももを枕にして、勝手気ままなねこのようにソファーの上に寝転ぶ。


 後ろにいぬ尻尾しっぽのような長い亜麻色あまいろ綺麗きれいな髪の毛を垂らしているかなでさんは、少し嬉しそうに美登里みどりから手渡されたブラシにて、猫耳ねこみみみたいにふたつのリボンでツインテールにわれた妹の黒髪くろかみ甲斐甲斐かいがいしくいていく。


 その様子はまるで、性格が正反対である従順じゅうじゅん室内犬しつないけん我侭わがまま部屋猫へやねこが、お互いに兄弟姉妹だと思っているみたいに仲良くじゃれあっている光景こうけいであるかのようであった。


 俺の頭の中というか、心の中に、おだやかな気持ちが芽生える。


――まあ、幸せそうだから、とりあえずはこれでいっか。


 リビングには、様々さまざま可能性かのうせいを含んだ明るい未来を示すかのような柔らかに温かくはなたれる太陽の光が、青空の中をあゆんでいく魔法まほうのように優しくしこんでいた。



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