第25節 評決のとき
暗がりの公園でいきなり
「
すると、
「いえ……お友達同士でお金を貸し借りするのは、あってはならないことだということは……
俺は心の中で汗をかきながら言葉を伝える。
「とにかく、顔を上げて! 地面じゃなくてベンチに座ってくれよ!」
その俺の言葉に、
そして、涙をぽろぽろと流しつつ、捨てられた
「
俺は内心焦りつつも、しっかりと言うべきことを告げる。
「とにかくベンチに座ってよ。俺はちゃんと対等に
すると、
「いえ……わたしは……そんな優しい言葉をかけてもらう
その声に俺は、先ほど
「言ったろ?
俺がそこまで言うと、
そこで
それは、線のか細い少女にはとても背負いきれないような
しかし、そのアルバイト募集のビラ紙はどうやら、暴力団のようなグループが個人情報を集めるためのものだったらしい。
そして、
そして、温泉旅館のオーナーであったその
結果、もう経営を続けられないと判断した
お
そこまで
「でも……お
「
「はい……
――え?
予想外な言葉に戸惑った俺は、
「それってもしかして……夜逃げのお金を貸して欲しいってこと?」
すると、横に座っている
「はい……お父さんもお母さんも……お仕事が忙しいみたいですぐには連絡が取れなくて……できれば数万円ほど……必ずお返し
――俺は温泉旅館を買い戻してもいいって思ってるんだぞ。
――ちきしょう、俺はやっぱりどこまでいっても
――数万円のために、こんなに人間は必死になるのだということを忘れかけていた。
俺は、
「どうしても……逃げなきゃいけないの?」
すると、
「はい……
「貸して」
俺はそう
そしてガラケーを開けてボタン操作をして、その業者からのメールをざっと流し見る。
そのメールの文章は、怒りという感情なくしてはとても読むことができないような、
そして何より、最後に添付されていた
その毒々しい脅迫を含んだメール内容に俺は、刀を打つときに生まれる赤い
――この
今まで俺は、宝くじで数百億円が当たったことによって、クラスの皆の態度がコロッと変わったことに心の中のどこかで
それはおそらく多分、「俺の価値は
だが、もし俺の価値が「
「
つまり「誰かを助けることができる」「誰かの役に立てる」という「
俺の持っている「
俺の持つ「
たとえ、金で人の心を動かそうとしている男として
それとも、
この、
――それで
そこまで思った俺は、ベンチで隣に座っている
「……
すると、
「ああ……はい、覚えてますけど」
「あの宝くじ……アメリカの宝くじだったんだけど……実は当たってたんだよ。それで、俺は今銀行口座に使えるお金が数百億円ほどあるんだ」
――ついに言ってしまった。
そう思ってからのしばしの静寂。
無表情な感じで俺に顔を向けている
「えーっと……知って……ますけど?」
「えぇっ!?」
間抜けな叫び声を出してしまった俺は、
「なんで知ってるんだよ!? だって、家にテレビもないし、スマホも持ってないんじゃなかったのかよ!?」
俺がそう尋ねると、俺の大声にきょとんとした
「えーっと……コンビニエンスストアのお仕事で……スポーツ新聞を整理するってのもありましたから……その時に、一面に載っていたお名前と顔で……」
その
――そうだ、
――ああいうスポーツ新聞は、コンビニだったらどこだって売っている。
――だったら当然、
俺は尋ねる。
「えっと……だったらなんで、そのことに気づいてないふりをしたの?」
すると、
「えーっと……
――ってことは、俺が億万長者だって知ってたのに。
――しかもあの宝くじが当たってたってことを知ってたのに。
――俺に対して
――なんだよこの
そう思った俺は、ベンチから立ち上がる。
そして、一瞬の間だけ迷ったが、
「
俺がその言葉を伝えて手を伸ばしていたところ、
その小さな手の感触は、あのコンビニで初めて会った日に手を握られたときの感触と
そして俺は、
「俺が、
すると、
「えーっと……利子に利子が重なって……八百万円といってました」
「大丈夫、それくらいなら今の俺だったら軽く払える! 一緒についてきて!」
俺がそう叫ぶと、
夜空の下、暗がりの公園から住宅街の道路に向かう。
百万円以上のお金を動かすので、
走る。走る。
片側二車線道路に出たところ、ちょうど歩行者信号が赤から青に変わったところだったので、待ち時間なく二人で、俺とこの不幸だった少女とで一緒に横断歩道を駆け抜ける。
この少女は、
彼女は、俺が億万長者であることを知っていても普通に接してくれた。
そして、俺に「どうするか判断するための時間」をくれた。
その時間はもしかしたら、彼女の未来を潰すことにもなりえた時間だ。
つまり
彼女が俺に対して「
――彼女が「
――俺も、俺を
そんな
そのタクシーで向かうべき目的地はもちろん、
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