第21節 コンフィデンス/信頼


 翌日の月曜日になって、中間テスト期間が始まる運びとなった。


 朝のホームルームでは担任の佐久間さくま先生が「いやー、先週の焼肉パーティーのあとに、たちばなくんに部屋までお持ち帰りされちゃってー。これは教師と生徒の関係とはいえ、責任とってもらわなきゃねー?」とか戯言ざれごとかたっていたが、始業前にあらかじめクラス RINEライン によって花房はなぶささんが寝ている先生のそばにいるという証拠写真を共有していたので大事には至らなかった。


――やっぱり、証拠ってのは大事だな。


 俺はそんなことを思いつつ、クラスの皆と一緒に授業を受けていた。


 俺を含めたクラスの皆は教科書を広げて授業を受け、それぞれの学科の教師から二学期の中間テストのテスト範囲を聞いてノートに書きめる。


 今日からテスト期間が始まるので、これから十日近くは半日授業が続くはずである。


 そして、中間テストが終わってからほぼ一週間後には十一月上旬の連休を利用して、俺の通っている二高ふたこうの大々的な文化祭である『二超祭ふたごえさい』が二日間続けておこなわれる予定である。


 キーンコーンカーンコーン


 午前中の授業が終わった事を示すチャイムが鳴ったところで俺は筆記具を置き、スマートフォンを取り出して花房はなぶささんのラインに個別メッセージを送る。


『クイズの答えを伝えたい。時間いい?』


 俺がそう入力して花房はなぶささんの席の方を見ると、花房はなぶささんが自分のスマートフォンを操作して、何かを入力しているのがわかった。


 ブルルルルル


 俺のスマートフォンの振動と共に、花房はなぶささんからのメッセージが届いたことがわかる。


『り。音楽室_あ』


 つまり『わかったから音楽室でこっそり会おう』ということか。

 

――ギャル語って本当に難解なんかいだよな。


 俺はそんなことを思いながらノートと筆記具、そして教科書をかばんに入れ、後ろに並んでいるロッカーに近寄る。


 俺の他にも、ほとんどの生徒がロッカーに寄り、教科書や問題集などを手にとってかばんに入れ始める。


 普段は紙でできた教科書は学校に置いてあり、家で予習や復習をするさいにはスマートフォンを介して、その教科書を購入すると同時にアクセスが可能になる電子教科書や電子問題集を利用するようになっている。


 だから生徒のそれぞれのロッカーには学校の授業でしか使わない重たい紙の教科書が大量に置いてあるのだが、やはり歴史ある紙の本に対する信頼しんらいは厚く、テスト期間が開始すると同時に大抵の生徒が教科書や問題集を家に持ち帰り始めるのである。


 

 だが中にはすぐるのように「教科書なんかスマホで充分じゃ!」と言って紙の教科書をまったく家に持ち帰らないつわものと呼べるような生徒もちらほら存在する。


 全教科書と問題集の三分の一程度をかばんに詰めたところで、俺はロッカーから離れようとする。


 そこで、ロッカーに近づいてきた萌実めぐみと目が合った。


 萌実めぐみは何も言わず目を逸らし、俺も表情を変えずに萌実めぐみがただのクラスメイトであるかのようなそぶりをしてすれ違った。


――そうだよな。


――いくら金があったって、所詮俺は。


――仕方、ないんだよな。


――失った信用しんようはもう、取り返せないんだから。


 そんなことを思いつつ、俺は鉛でできているかのようにやけに冷たく重たいかばんの感触を肩に感じつつ、花房はなぶささんと約束した音楽室へと向かっていった。






 音楽室に近づくと、誰かがピアノで曲を演じているのがわかった。

 何の曲かはわからないが、どこかで聞いたようなクラシックの名曲であることはわかる。


――花房はなぶささんか?


 そう思って音楽室の開いたままであった戸を潜ったところ、そこにはまるで近世に描かれた西洋の油絵のような光景が展開されていた。


 流れるような長いつやのある黒髪に、上品な模様のあるレースのヘアバンドを付けた清楚せいそ淑女しゅくじょ西園寺さいおんじ桜華はるかさんが一心不乱にピアノを演奏していたのである。


 おそらくは集中して演奏しているのであろう、西園寺さいおんじさんは近づいた俺をまったく気にもとめない様子であった。


 ピアノで奏でられた音符が鮮やかな色をもって、文化棟校舎の中に響き広がるのがわかる。


 二分か三分ほど、俺は西園寺さいおんじさんの演奏を聞き入っていた。


 そして、西園寺さいおんじさんが演奏を終え、大きく息を吐き出す。


「ふぅ……」


 俺はそんな西園寺さいおんじさんに、拍手を送る。


 パチパチパチパチパチ


 すると、その拍手音に呼応して西園寺さいおんじさんが横、つまり俺の立っている方向に胴体をくねらせて手を太腿ふとももに重ねて置いて軽く礼をして口を開く。


「お粗末そまつさまでした」


 そんな西園寺さいおんじさんの謙遜けんそんの言葉に、俺は返す。


「いや、とても上手だったよ。なんて曲だったっけ?」


「この曲自体はオーストリアの作曲家、シューベルトの曲ですわ。『アヴェ・マリア』と言えばおわかりいただけますかしら?」


 俺は返す。


「あー……あの有名な。『アヴェ・マリア』ってシューベルトが作曲者だったのか」


 すると、西園寺さいおんじさんが応える。


「いえ、『シューベルトのアヴェ・マリア』は数多あまたの作曲家がつくった『アヴェ・マリア』のひとつに過ぎませんわ。はるか昔に作られた聖母せいぼマリアをたたえる元々の歌詞に、大勢の作曲家がそれぞれの曲をつくっておりますの」


 その言葉に、俺は感心の言葉を返す。


「へー、そうだったのか。たった一人のみの作曲じゃないんだな」


 すると、西園寺さいおんじさんが俺の方を向いたまま微笑ほほえむ。


わたくし、めげそうなことがあるといつもこの曲をえんじたくなるんですの。この曲をいていると、戦乱せんらん飢饉ききん疫病えきびょうのある世界の中で何百年もの間、何千年もの間、聖母せいぼマリアがどれだけ大勢の人達ひとたちの心の支えになってきたかが、なんとなくわかる気がいたしますの」


 俺はその言葉に返す。


「きっと、それほどまでにながあいされて信仰しんこうされてきたってことなんだろうね。女神様めがみさまがいつのか、つらくてくるしい境遇きょうぐうにある自分たちを救ってくれるって」


 そんなやりとりを俺と西園寺さいおんじさんとでわしていたら、金髪ギャルの元気な声が音楽室の中にってきた。


「ごめんタッチー! ちょっと遅くなっちゃって……ってあれ? 委員長イインチョーがなんでここいんの?」


 花房はなぶささんが驚いた顔になり、西園寺さいおんじさんと顔を見合わせる。


 すると、西園寺さいおんじさんは何やら当惑した顔になりピアノ椅子から立ち上がり、そのしなやかな指を揃えて口元に当てる。


「あら、申し訳ございません。わたくしはお邪魔でしたようで」


 西園寺さいおんじさんがそんなことを言いながら、そそくさと俺達から離れようとする。


 俺は弁明する。

「いやちょっと、西園寺さいおんじさん勘違いしてない?」


 俺が、黒い髪を流している西園寺さいおんじさんの後姿にそう呼びかけると、そのおしとやかな女性は振り返って俺達に告げる。


たちばなさん? 女性じょせいかたと高校生らしく健全に仲良くなさるのは一向に構いませんが、お金で女の子の心を動かそうとなさっては駄目だめでしてよ?」


 それだけ言って、西園寺さいおんじさんは音楽室から出て行ってしまった。


 そして、残された俺の隣にいる花房はなぶささんが一言だけ言い放つ。


「なーんか勘違いされたっぽいね。あーゆータイプ、思い込んだらけっこう厄介やっかいなんだよねー」


 その言葉に、俺は乾いた笑いを出すことしかできなかった。






 音楽室の中にて俺は、金髪を後ろでポニーテールにして垂らした白肌巨乳ギャルである花房はなぶささんと二人きりであった。


 花房はなぶささんが片方の手を自分の腰に当てて俺に尋ねる。


「で、タッチーわかったの? クイズの答え」


 俺は応える。

「ああ、わかったよ。お金っていうのはその人が持っている何の価値かちを数値化したものかについて、だったよな」


「そーそ。何だと思う?」

 花房はなぶささんの問いかけに、俺は答える。

「『しんじられるか』ってことだろ?」


 俺がそう言うと、花房はなぶささんはそのツリ目を細めて口を開く。

「へぇー、もっと詳しく言うと?」


 俺は返す。

「もっと言うと『しいものをたしかにくれるってしんじられるか』だろうな。俺たちはお金を扱うときに、それぞれの持っている信用しんようとか信頼しんらいとか、場合によっては信仰しんこうとかの価値かちを数字にしてやり取りしているんだ」


 すると、花房はなぶささんは腰に当てていた手を離して、拍手はくしゅを何度も打つ。


 パチパチパチパチ


正解セーイカーイ。こんな短い間によくわかったね」


 花房はなぶささんが、笑顔を見せる。


 そして、俺は告げる。

「ああ、ちょっとね。お金がはいってくるひとはいってこないひと、つまりお金を渡したいひとと渡したくないひとって何が違うのかっていうことに、ふとしたきっかけで気づいたんだよ」


 そう、俺は国枝くにえださんの境遇きょうぐうからヒントを貰ったのである。


 国枝くにえださんは、一般的な単なるまずしい少女ではない。


 おそらくは、三百年ほどの歴史れきしを背負った由緒ゆいしょある温泉旅館の、元お嬢様だったのである。


 そして、歴史ある温泉旅館のお嬢様であったという推測が、姉ちゃんや妹の、その少女を家政婦として雇って欲しいという動機どうきつながった訳である。


 元々の俺達家族のような賃金ちんぎんで暮らしているような一般庶民が、企業やバイト先などで働いて給料を支払しはらってもらえるのは、それぞれの『時間じかん』や『労働力ろうどうりょく』を換金かんきんしているわけではない。


 それまでのあゆんできた『人生じんせい』そのものから生まれる『信頼しんらい』を換金かんきんしているのである。


 人によっては、それが『学歴がくれき』なり『資格しかく』なり『成果せいか』なり『家柄いえがら』なりで示されているだけなのである。


 それは俺が大金持ちになって、人をやとわなくてはならない立場に立たされて、初めて気付いたことであった。


 そして花房はなぶささんが俺に伝える。


「じゃあ、第二問いこっか?」

「いや、いきなりはやめてくれ」


 俺が即座に突っ込みを入れると、花房はなぶささんは子供のようなはにかみを見せる。


「ゴメンゴメン、それは冗談ジョーダン。でもさー、せっかくアタマ使ってタッチーが考えてくれたんだから、なんか御褒美ゴホービあげないとね?」


 その言葉に、俺は返す。


御褒美ごほうびって何だよ?」


 すると花房はなぶささんが色っぽい感じで目を細め、その大きく開けたブラウスの胸元を指でつまみ下げ、大きな胸の谷間を見せびらかすような仕草しぐさをしてくる。


「そーだねー。例えばさっき委員長イインチョーが勘違いしてたよーな、思春期シシュンキの男の子が女の子にして欲しくて欲しくてたまらない、気持きもーコトをアタシがタッチーにしてあげる、とか?」


 その声は、普段とはあからさまに違ってつやのある口調であった。


 俺は、すこしだけ押し黙る。 

 

 そして、花房はなぶささんに大して俺は、上ずった声で伝える。

「いや……からかわないでくれよ、あはは」


 ものすごくテンパった感じで返した俺は、花房はなぶささんから視線だけをそらす。


 すると、花房はなぶささんがほがらかな口調で応える。


「まー、御褒美ゴホービはもう決めてあるんだけどね? これからアタシがあげるものは多分、タッチーが今とーっても欲しいものだと思うし」


 その言葉に視線を戻した俺は返す。

「俺がとっても欲しいもの?」


「そ、とっても欲しいもの。もし第二問以降イコーもクイズに付き合ってくれるんだったら、もっと予想ヨソーも付かないものあげちゃうんだけど、どーしよっかな?」


 その花房はなぶささんの言葉に、俺は返す。

「条件による」

「条件って何?」


 俺は伝える。

「何でハナさんは、こんなクイズを俺に出したのか教えてくれ。それを教えてくれることが条件だ」


 すると、花房はなぶささんは俺に伝える。

「それはねタッチー、いままでずーっと普通フツーの一般人だったっしょ? それが三百億円なんて大金を宝くじでいきなり当てて、学校ガッコー生活セーカツがどう変わったのか自覚できた?」


 その問いかけに、俺は返答する。

「あーっと……宝くじで三百億円当てたらいきなりちやほやされ始めたな。それまでの俺はクラスカースト下位のぱっとしない存在だったのに。俺はただ、たまたま海外旅行で買ってた宝くじが当たってたってだけなのに」


 俺がそう言うと、花房はなぶささんはぴしっと人差し指を上に立てる。


「そ、そこ」

「そこって何だよ?」


 俺が返すと、花房はなぶささんは指を立てたまま言葉を続ける。


「今のタッチーはね、で得られたはずの色々なものがお金持ちになっちゃったの」


 その言葉に、少し考えた俺は返す。


「……ああそうか、そういうことか。ハナさんは俺に、お金持ちの心得こころえみたいなものを教えてくれようとしてたんだな」



 すると花房はなぶささんは、人差し指を立てたままにっこりと笑顔を見せる。

「そーゆーコト。おかねがどーゆーものかわかんないままお金持ちになっちゃったら、大抵タイテーの人はお金に人生じんせいくるわされて破滅ハメツしちゃうから。アタシが前にお金を魔物まものたとえたのは、おかねってゆーものがどーゆーチカラを持っているか、人生じんせい未来みらいをどれだけ変えちゃうかっていうコトを、タッチーにきっちりと自分のアタマで考えて気付いて欲しかったってワケなんだよね」


――まったく、このギャルは一筋縄ではいかない。


 そう考えた俺は、花房はなぶささんに言葉を渡す。


「つまりハナさんは、俺がお金持ちになったからといって、いやお金持ちになってしまったからこそ、周囲しゅうい信頼しんらいそこなうような真似まねはしてはいけない、ってことを教えてくれようとしたってわけか」


 すると、花房はなぶささんが再び拍手を打つ。


 パチパチパチパチ


「だーい正解セーイカーイ。タッチーなかなか、飲み込み早いじゃん」


 花房はなぶささんが、人生の目的を果たしたかのような喜び顔を見せる。


 しかし、俺にはまだ気になっていたことがあったのであった。


 俺は尋ねる。


「……ハナさんは、何でそこまで俺に親切にしてくれるんだ?」


――考えてみれば、おかしな話だ。


――花房はなぶささんはお金持ちのお嬢様なので、お金には困っていない。


――つまり、俺に取り入ってお金を引き出すことがそんなに大事とは思えない。


 すると、花房はなぶささんが急に真顔になって俺に伝える。


「……それは、今日の夕方にオシえてあげる。タッチー、今日の夕方から予定ヨテイけといてよね、絶対ゼッタイに」

「え? ああ、わかった」


 俺がそう言うと、花房はなぶささんはゆっくりと振り返りながら手を掲げて告げる。


「じゃ、また夕方にね」


 花房はなぶささんはそれだけ言うと、俺の返答を聞きもせずに音楽室から出て行ってしまった。


 一人取り残された俺は思う。


――夕方か。


――まだ時間あるな。


――国枝くにえださんへのメールの文面でも考えておくか。


 そんなことを考えつつ、俺は音楽室の壁にある額縁がくぶちに飾られた、その人生と魂をまるごと音楽にささげたのであろう、偉大いだいな作曲家たちの肖像画を見上げていた。






 花房はなぶささんと音楽室で別れてから数時間後、俺のスマートフォンにマップへの指定ピン付きでラインメッセージが届いた。


 そういう訳で自宅に一度戻って私服に着替えていた俺は、指定された場所にタクシーにて向かっていた。


 そのピンが打たれた場所とは、以前に俺が住んでいた家の近く。


 なんと、俺が子供のころからよく遊んでいた、コンビニの裏手の方角にある例の公園であった。


――花房はなぶささん、俺の元の家の場所を知ってたのか。


――ま、無理もないよな。


――あんだけテレビでもネットでも騒ぎになってたんだからな。


 そんなことを考えていると、タクシーが片側二車線道路の歩道沿いに停まる。


 そして運転手の遠隔操作でドアが開く。


 車の外を見上げると『Petal Mart』と蛍光灯で彩られた看板が目に入った。


 開かれたドアから出ようとした俺は、少し太った中年男性の運転手さんに伝える。

「あの、しばらくこの場所にいてくれませんか? いつ戻れるかわかりませんけど」

 

 この男性運転手さんは俺が高級マンション住まいであることはわかっているはずであるが、どれだけ時間がかかるか分からない以上、一応の信用の形として財布から一万円札を一枚取り出して後部座席に置かせてもらった。


 運転手さんの了承を貰い車を出て、俺は私服姿のまま『ペタルマート』と呼ばれるコンビニの横を通り過ぎ、例の公園に向かう。


 そろそろ日が沈みそうな夕暮れの公園に近づくと、こちらからは後ろ向きでたった一人の少女が、哀愁あいしゅうただよわせた様子でベンチに座っているのが目に入った


――そんな。


――どういうつもりなんだよ、花房はなぶささん。


 その同い年くらいの少女の後姿とは、ふわふわの栗色のくせを肩の上まで伸ばした私服姿の少女の人影。


 俺が、子供こどもころからずっと一緒いっしょだった俺が、ずっとてきた俺が、間違まちがうはずがないそのシルエット。


 近づいた俺は、その背中を少しだけ丸めて座った、どことなく沈んだ感じのさびしそうな後姿に声をかける。


「……萌実めぐみ


 俺が声をかけると、萌実めぐみ人間にんげんつけられた臆病おくびょう野兎のうさぎのように急に振り向く。


 そして、一拍置いてからおどろきと戸惑とまどいの混ざった声を出す。


「なんで……なんで啓太ケータがここにいんのよ!?」


 その声に、俺がどうしようもなくこたえることができないでいると、夕日射す赤い公園にもう一人のセクシーな女性の姿が現れた。


 運動に向きそうな、上半身に随分と動きやすそうなセミスポーティウェアを着て、下半身には短いスカートの下に黒いスパッツを穿いた金髪巨乳ギャルの花房はなぶささんが、そのシュシュでまとめられたポニーテールを揺らしてどこからともなく現れる。


 その服を大きな胸で膨らませた花房はなぶささんは、俺達に近寄りつつ声をかける。


「やっとソロったか」


 その花房はなぶささんの言葉と、予想もしなかった萌実めぐみがこの公園にいるという事実に、俺は唖然あぜんとしていた。


 花房はなぶささんが言葉を続ける。


「じゃ、あらためてハナシツヅきしよっか」


 赤く染まる十月の夕暮れの公園にて、その夕日によって光り輝かせられているかのような美しい金髪を、彼女は不敵ふてきみと共に軽くらした。


 それはまるで、試合しあいはじまりとわりのかねらすためのロープをよろこんでらしている審判者しんぱんしゃであるかのようであった。

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