第21節 コンフィデンス/信頼
翌日の月曜日になって、中間テスト期間が始まる運びとなった。
朝のホームルームでは担任の
――やっぱり、証拠ってのは大事だな。
俺はそんなことを思いつつ、クラスの皆と一緒に授業を受けていた。
俺を含めたクラスの皆は教科書を広げて授業を受け、それぞれの学科の教師から二学期の中間テストのテスト範囲を聞いてノートに書き
今日からテスト期間が始まるので、これから十日近くは半日授業が続くはずである。
そして、中間テストが終わってからほぼ一週間後には十一月上旬の連休を利用して、俺の通っている
キーンコーンカーンコーン
午前中の授業が終わった事を示すチャイムが鳴ったところで俺は筆記具を置き、スマートフォンを取り出して
『クイズの答えを伝えたい。時間いい?』
俺がそう入力して
ブルルルルル
俺のスマートフォンの振動と共に、
『り。音楽室_あ』
つまり『わかったから音楽室でこっそり会おう』ということか。
――ギャル語って本当に
俺はそんなことを思いながらノートと筆記具、そして教科書を
俺の他にも、ほとんどの生徒がロッカーに寄り、教科書や問題集などを手にとって
普段は紙でできた教科書は学校に置いてあり、家で予習や復習をする
だから生徒のそれぞれのロッカーには学校の授業でしか使わない重たい紙の教科書が大量に置いてあるのだが、やはり歴史ある紙の本に対する
だが中には
全教科書と問題集の三分の一程度を
そこで、ロッカーに近づいてきた
――そうだよな。
――いくら金があったって、所詮俺は。
――仕方、ないんだよな。
――失った
そんなことを思いつつ、俺は鉛でできているかのようにやけに冷たく重たい
音楽室に近づくと、誰かがピアノで曲を演じているのがわかった。
何の曲かはわからないが、どこかで聞いたようなクラシックの名曲であることはわかる。
――
そう思って音楽室の開いたままであった戸を潜ったところ、そこにはまるで近世に描かれた西洋の油絵のような光景が展開されていた。
流れるような長い
おそらくは集中して演奏しているのであろう、
ピアノで奏でられた音符が鮮やかな色をもって、文化棟校舎の中に響き広がるのがわかる。
二分か三分ほど、俺は
そして、
「ふぅ……」
俺はそんな
パチパチパチパチパチ
すると、その拍手音に呼応して
「お
そんな
「いや、とても上手だったよ。なんて曲だったっけ?」
「この曲自体はオーストリアの作曲家、シューベルトの曲ですわ。『アヴェ・マリア』と言えばおわかりいただけますかしら?」
俺は返す。
「あー……あの有名な。『アヴェ・マリア』ってシューベルトが作曲者だったのか」
すると、
「いえ、『シューベルトのアヴェ・マリア』は
その言葉に、俺は感心の言葉を返す。
「へー、そうだったのか。たった一人のみの作曲じゃないんだな」
すると、
「
俺はその言葉に返す。
「きっと、それほどまでに
そんなやりとりを俺と
「ごめんタッチー! ちょっと遅くなっちゃって……ってあれ?
すると、
「あら、申し訳ございません。
俺は弁明する。
「いやちょっと、
俺が、黒い髪を流している
「
それだけ言って、
そして、残された俺の隣にいる
「なーんか勘違いされたっぽいね。あーゆータイプ、思い込んだらけっこう
その言葉に、俺は乾いた笑いを出すことしかできなかった。
音楽室の中にて俺は、金髪を後ろでポニーテールにして垂らした白肌巨乳ギャルである
「で、タッチーわかったの? クイズの答え」
俺は応える。
「ああ、わかったよ。お金っていうのはその人が持っている何の
「そーそ。何だと思う?」
「『
俺がそう言うと、
「へぇー、もっと詳しく言うと?」
俺は返す。
「もっと言うと『
すると、
パチパチパチパチ
「
そして、俺は告げる。
「ああ、ちょっとね。お金が
そう、俺は
おそらくは、三百年ほどの
そして、歴史ある温泉旅館のお嬢様であったという推測が、姉ちゃんや妹の、その少女を家政婦として雇って欲しいという
元々の俺達家族のような
それまでの
人によっては、それが『
それは俺が大金持ちになって、人を
そして
「じゃあ、第二問いこっか?」
「いや、いきなりはやめてくれ」
俺が即座に突っ込みを入れると、
「ゴメンゴメン、それは
その言葉に、俺は返す。
「
すると
「そーだねー。例えばさっき
その声は、普段とはあからさまに違って
俺は、すこしだけ押し黙る。
そして、
「いや……からかわないでくれよ、あはは」
ものすごくテンパった感じで返した俺は、
すると、
「まー、
その言葉に視線を戻した俺は返す。
「俺がとっても欲しいもの?」
「そ、とっても欲しいもの。もし第二問
その
「条件による」
「条件って何?」
俺は伝える。
「何でハナさんは、こんなクイズを俺に出したのか教えてくれ。それを教えてくれることが条件だ」
すると、
「それはねタッチー、いままでずーっと
その問いかけに、俺は返答する。
「あーっと……宝くじで三百億円当てたらいきなりちやほやされ始めたな。それまでの俺はクラスカースト下位のぱっとしない存在だったのに。俺はただ、たまたま海外旅行で買ってた宝くじが当たってたってだけなのに」
俺がそう言うと、
「そ、そこ」
「そこって何だよ?」
俺が返すと、
「今のタッチーはね、お金持ちになる過程で得られたはずの色々なものがすっぽりと抜け落ちたままお金持ちになっちゃったの」
その言葉に、少し考えた俺は返す。
「……ああそうか、そういうことか。ハナさんは俺に、お金持ちの
すると
「そーゆーコト。お
――まったく、このギャルは一筋縄ではいかない。
そう考えた俺は、
「つまりハナさんは、俺がお金持ちになったからといって、いやお金持ちになってしまったからこそ、
すると、
パチパチパチパチ
「だーい
しかし、俺にはまだ気になっていたことがあったのであった。
俺は尋ねる。
「……ハナさんは、何でそこまで俺に親切にしてくれるんだ?」
――考えてみれば、おかしな話だ。
――
――つまり、俺に取り入ってお金を引き出すことがそんなに大事とは思えない。
すると、
「……それは、今日の夕方に
「え? ああ、わかった」
俺がそう言うと、
「じゃ、また夕方にね」
一人取り残された俺は思う。
――夕方か。
――まだ時間あるな。
――
そんなことを考えつつ、俺は音楽室の壁にある
そういう訳で自宅に一度戻って私服に着替えていた俺は、指定された場所にタクシーにて向かっていた。
そのピンが打たれた場所とは、以前に俺が住んでいた家の近く。
なんと、俺が子供のころからよく遊んでいた、コンビニの裏手の方角にある例の公園であった。
――
――ま、無理もないよな。
――あんだけテレビでもネットでも騒ぎになってたんだからな。
そんなことを考えていると、タクシーが片側二車線道路の歩道沿いに停まる。
そして運転手の遠隔操作でドアが開く。
車の外を見上げると『Petal Mart』と蛍光灯で彩られた看板が目に入った。
開かれたドアから出ようとした俺は、少し太った中年男性の運転手さんに伝える。
「あの、しばらくこの場所にいてくれませんか? いつ戻れるかわかりませんけど」
この男性運転手さんは俺が高級マンション住まいであることはわかっているはずであるが、どれだけ時間がかかるか分からない以上、一応の信用の形として財布から一万円札を一枚取り出して後部座席に置かせてもらった。
運転手さんの了承を貰い車を出て、俺は私服姿のまま『ペタルマート』と呼ばれるコンビニの横を通り過ぎ、例の公園に向かう。
そろそろ日が沈みそうな夕暮れの公園に近づくと、こちらからは後ろ向きでたった一人の少女が、
――そんな。
――どういうつもりなんだよ、
その同い年くらいの少女の後姿とは、ふわふわの栗色の
俺が、
近づいた俺は、その背中を少しだけ丸めて座った、どことなく沈んだ感じの
「……
俺が声をかけると、
そして、一拍置いてから
「なんで……なんで
その声に、俺がどうしようもなく
運動に向きそうな、上半身に随分と動きやすそうなセミスポーティウェアを着て、下半身には短いスカートの下に黒いスパッツを
その服を大きな胸で膨らませた
「やっと
その
「じゃ、
赤く染まる十月の夕暮れの公園にて、その夕日によって光り輝かせられているかのような美しい金髪を、彼女は
それはまるで、
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