第18節 マイ・フレンド・メモリー
◇
俺たちは、その
いつもの
その
俺が声をかける。
「レンもなー、リフティング
すると、リフティングを続けたままのレンが、声変わりしていない少年っぽい高い声で応える。
「まーな、この公園に来ておめーらと出会ってからずーっと練習やってっしな」
俺はレンに言葉を渡す。
「あとちょっとで、俺たちも六年生かー。レンも中学は俺たちと同じところ行こーぜ、そんで三人で学校でも遊ぼーぜ」
そんなことを言うと、レンがリフティングをやめてサッカーボールを両手に収める。そして、子供なりの
「あーっと、実はさー……前々から
そのいきなりの言葉に、俺は驚く。
「えっ!? マジかよそれ!?」
すると、レンは一拍置いてから不満げに言葉を出す。
「親の仕事の
俺は返す。
「そっか……なら
すると、サッカーボールを両手で持ったレンが顔をしかめて応える。
「いや……
「なんでだよ?」
俺の投げた再度の質問に、レンが意外な答えを返す。
「だって
その言葉の内容に、俺は一瞬だけ絶句する。
そして、言葉を搾り出す。
「……それマジか?
本当に、幼い幼い、どうしようもない
レンがぶっきらぼうに返す。
「どー見てもそーだろ。オレの前と
その言葉に、俺は内心に怒りを抱えてレンに問いかける。
「……お前はどうなんだよ?
すると、レンが返す。
「オレは
レンの言葉に、内心
「……どんな奴なんだ? マジにお前の好きな奴、
「ああ、オレが好きなのは
レンはその言葉と共に、
顔を
「何て
すると、レンが顔を赤くして俺に叫ぶ。
「ばっかやろー!! んなこと、
「別にいいだろ! もうお
そう叫んでしまった俺に向かって、レンが叫び返す。
「てめー!
その本心を見抜かれていたという
レンが持っていたサッカーボールは、ぽとりと地面に
俺は至近距離にいるレンに向かって、
「んだとレンてめー! もう一回言ってみろよ!」
「何度でも言ってやるよ! バレバレなんだよ!
その言葉に、俺がレンの顔を殴ろうと拳を固めて振りかぶったところ、レンが俺にタックルをかましたので、地面に組み伏せられる格好となった。
それからしばらくのあいだ、地面を転げまわって俺とレンの二人で、
何せ体力のありあまる小学生同士だ。無我夢中で行った取っ組み合いの喧嘩は二十分は続いたと思う。
だが、所詮は
俺とレンは、体のどこにも顔のどこにも大きな怪我をすることなく、疲れきってお互いに地面に大の字を
俺は、息を切らして何度も何度も深く呼吸をしつつ、地面に寝転んで
すぐ横では、レンが俺とまったく同じ状況で空を見上げていた。
仰向けに寝転んだまま息を切らすレンが、その少年っぽい高い声で
「……明日、クリスマスイブだってのに。何やってんだろーなー、オレたち」
その言葉に、俺は寝転んだまま返す。
「なーレン、知ってっか?
レンがひと呼吸置いてから返す。
「
「なんか、
俺がそう伝えると、レンが応える。
「……そっか、だから
その言葉は、これから終わりに向かっている俺たちの関係を意味しているということは、小学生の頭でも容易に理解できた。
地面に背をつけた俺は、空を仰いだままレンに言葉を渡す。
「なーレン。俺、お前と男同士の友達でよかったよ」
すると、ひと呼吸置いてからレンが返す。
「……なんでだ?」
「一回喧嘩すりゃ仲直りできるからな。嫌な気持ちのまま、お前と別れたくはなかったんだ」
俺の言葉に、レンは口調が少し柔らかなものになる。
「……そうだな。オレも
そして俺とレンは共に立ち上がり、厚着に付いた砂や土を手で払い落とす。
そこらへんに転がっていたサッカーボールを手に取ったレンが、俺に向き直る。
「じゃーな
その言葉に俺は返す。
「……これで俺たち、終わりか?」
「……さーな」
俺と、片手にサッカーボールを持ったレンの間に、沈黙が流れる。
そして俺はレンに向かって歩く。
そして手が触れ合えるくらいの距離に近づいた俺は、呼吸を
「じゃーなレン、またどっかで会えたら」
俺がその言葉を途中まで言って手を掲げたところで、レンは全てをわかっているといった表情で微笑み、空いている方の手のひらを同じく掲げ口を開く。
「ああ、会えたら」
そして、二人して叫ぶ。
「「また友達になろーぜ!」」
パシン!!
そして、互いに手を握り締めたまま
その時のレンの顔は、友達との別れという寂しさのかけらを見せることもなく、とても嬉しそうに笑っていた。
◇
俺は、朝の太陽光が斜めに差し込む十畳以上の広い自室で目を覚ました。
寝間着をまとった俺はベッドの上で上体を起こして
自室と言っても、そんなに多くのものは置いていない。家具と呼べるものは一人用の大きな高級ベッド。それから北欧のブランドものの勉強用机とその近くに置いてあるリクライニングパーソナルチェアー。そして本とかが何も詰まっていない大きな木でできた棚くらいであった。
この部屋に引っ越してきてからまだ二週間ほどしか経っていないので、生活感はまだそれほど感じられるわけではない。
俺は、寝間着のままベッドの上で、先ほど見た夢の内容をぼんやりと考えていた。
――多分、昨日
――忘れちゃいけなかった時のことを夢に見たんだろうな。
昨日俺は、
そして俺が直面したのは、たった一週間でぐちゃぐちゃに居間と部屋を散らかした姉ちゃんと妹のだらしなさ、特に妹の部屋を掃除しなければいけないといった現実であった。
とりあえず居間にあったゴミを袋に入れる程度のことはしておいたものの、あいかわらず家の中は散らかり放題である。
特にダイニングテーブルが置いてある居間には、妹がこのマンションの中にあるコンビニから買ってきたのであろうスナック菓子の袋や、弁当の容器などのゴミが、
――今日は、俺が本格的に掃除しなきゃな。
――本当に、いつかはメイドっていうか、
そんなことを思いつつベッドから立ちスリッパを
幅の広い廊下を伝って引き戸を開けて、一面に大きな
大理石でできた洗面台の上にはふたつの蛇口が、それぞれの大きな四角いシンクの上に配置されており、まるで高級ホテルのような
洗面所から繋がっている何人もが同時に入れる広い浴室には、下から覗かれないように
ふたつある蛇口の片方のセンサーに手をかざした俺は、流れ落ちる流水を手に受け止めて顔を洗う。
そして、正面に取り付けてある大きな
そこには、どこにでもいるような黒髪ミディアムヘアーの男子高校生である、よく見知った俺の顔が映し出されていた。
――それにしても、レンが好きだった
――
先ほど見た
――多分、あいつの
――どんな
――そうだ、考えても意味なんかない。
――レンが好きだった
そんなことを考えつつ、
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