第16節 コンタクト
念のために変装ということで、度の入っていない
宝くじが当選した際の俺へのインタビュー映像がニュースで流れてから十日以上の日数が
ただ、自宅の塀にはなにやらペンキで白く塗りつぶした跡がある。
おそらくは
――もしかしたら、
そんなことを思いつつ、自宅前にてまるで他人事のように
――近所の人には迷惑をかけたみたいだから、あとで何か
――五十万円分くらいの、商品券とかでいいか。
俺の足は自宅から離れつつしばらく歩き、土曜日の昼過ぎの閑静な住宅街を通り抜け、車の行きかう二車線道路の方向へと向かう。
昨日の夜、
俺は大金持ちになってから、何月何日に
お
だが俺は、宝くじが当たってからインターネットで調べたところ、いきなり身の丈に合わぬ大金を手に入れた事によって、逆に人生が破滅してしまった人もかなり大勢いたのだということを知ったのであった。
だから俺は、お金を使ったときは必ず金銭を何に使ったかという
歩く最中で、
――チャンスは、どんなにお金があっても買えない、か。
俺が今日の土曜日に、改めて自宅近くまでやってきたのは
十二日前の月曜日に電話番号を交換した、あの
結局、一週間が過ぎても
何度も何度も電話をかけようとしたが、心の奥底から湧き上がってくる恐怖心がブレーキを踏んだみたいに俺の指を止めたのであった。
――だから直接会いにいくって。
――これじゃまるで俺、本当にストーカーじゃないか。
そんな
顔を上げると、すぐ近くに『Petal Mart』と書かれた看板が掲げられているのが目に入る。
土曜日の正午過ぎには、確か
俺がまだあの家に住んでいたころにコンビニに通っていた、三週間の経験が教えてくれていた。
コンビニの中から見えないくらいだけ少し離れたところで立ち止まった俺は、深く呼吸をする。
――そうだ、人生なんてなるようにしかならないんだ。
――行ってやれ。
俺は意を決して前に進み、コンビニエンスストアの自動ドアを
小学生のころから聞き慣れた入店音が店内に
そして俺は、あの少女がいることを期待してレジの方を見る。
そこにいたのは、十代半ばの線が細い
四十代終わりから五十代前半くらいの、いかにも
――あれ、
俺は内心で
そして、レジに近づいて財布から
「いらっしゃいませ」
レジの中年女性が俺に
俺は「
「あの、
俺がそう口走ると、おばさんは
「何? あんた
「あー、俺
すると、おばさんは
「
「本当ですよ! ほら、電話番号も交換してますし!」
俺は、手に持っていたスマートフォンの画面を見せる。
そこには『国枝かなで』という名前表示とともに、
おばさんが目を
「あー、確かに
その意外な言葉に、俺は衝撃を受ける。
「え……!?」
おばさんはかまわずに言葉を続ける。
「まあ、あたしの口から
「そうですね……わかりました。俺から連絡取ってみます……」
半ば呆然として、それ以上は何も言えずに
コンビニの裏手の方向に少し行ったところにある公園のベンチで、俺はコーラを飲んでいた。
土曜日の昼過ぎだというのに子供の姿は見えない。
この公園には水のみ場があり、遊具としてブランコと滑り台、それから砂場があるのでそんなに悪くはない遊び場ではあるのだが、近所の大抵の子供は少し離れた広い運動公園に行ってしまうのである。
ベンチに座ってコーラを飲んでいた俺は、何もない高い高い青さの中に、ひとつだけ光る太陽がある十月の空を見上げていた。
――子供の頃に遊んでた公園は、こんなに狭くなったけど。
――空の高さは、いつまでたっても変わらないな。
俺はベンチの上で、昨日の晩にクラスメイトの女子である
◇
俺と
確かあそこにある『ペタルマート』というコンビニは、
その月の初めに小学生となったばかりだった俺は、幼稚園のころからのご近所さんであった
ベンチには、頭に
そして俺たちはこの公園で、子供用のサッカーボールで下手なリフティングの練習をしていた、黒髪がツンツンと
何せ、遊びたい盛りの小学一年生だ。幼かった俺は、
それから、日が暮れるまで
男らしくシュッと
いざ別れる時になって、六歳の俺はそいつに名前を尋ねた。
「そーいやさー、おまえ、
すると、そいつは目を嬉しそうに細めて、笑いながら元気に叫んだ。
「オレか!? レンだ!!」
「そっか、レンか! 俺は
そして、
「
そして「また遊ぼうな!」とお互いに約束し合った。
その思い出は、決して忘れたくない大切な思い出だった。
誰にも汚されたくない、ピュアだった幼き自分のための大切な思い出。
多分、誰にでもそういうものはひとつふたつはあるものだと、俺は思っている。
◇
そんなことを思い返してコーラを飲み終わったところ、俺は決意した。
――どうせ、
そして、耳にスマートフォンを当てる。
プルルルルルル
プルルルルルル
その電話の呼び出し音を聞いている最中は、ほんの一分にも満たないはずなのに、永い永い時が緊張と共に流れていた。
プルル プッ
『はい、もしもし』
電話口に出たのは、
おそらくは、
俺は、
「あ、あの……俺、た……
そこまで言ったところで、俺は言葉が止まる。
しばしの沈黙の後、電話口の向こうから
『……少々、お待ちを』
心臓の鼓動が鳴り響く音が聞こえる。
それからの沈黙は、生きた心地がしなかった。
そして、あの少女の
『……もしもし、
俺は、ドギマギしながら返す。
「あ……お久しぶりです。元気でした? 連絡来ないから、元気だったかなーって……思いまして」
一拍の間を置いて、
『
俺はぎこちなく返す。
「あーっと……
『そうですか……お話をしたいので……そっちに行っていいですか……?』
「え!? ああ、はい。ぜひ」
『じゃあ……今から行きますね。待っててください……』
そこで電話は切れた。
顔に少しだけ熱を帯びた俺は、
鼓動は相変わらず、ドキドキと高鳴っている。
今この場に鏡があったとしたら、気持ち悪い感じでにやける男子高校生の顔を見ることができたであろう。
◇
この公園で、いつものように
備え付けてあるベンチには、年金で暮らしていそうな
小学三年生になっていた俺たちは、ある夏の暑い日に、涼を取るためにそこのコンビニで好き好きに買ってきた飲み物を飲んでいた。
ゼロカロリーコーラを飲んでいた俺は、レンに伝える。
「レンもなー、俺たちと同じ
すると、バナナ入りミックス
「しゃーねーだろ、オレの
その言葉に、抹茶グリーンティーを飲んでいた
「そーだねー。レンがいたら、クラスのいじわるな男子とかやっつけてくれたかも」
すると、レンが
「
そのレンの言葉に、俺がからかい気味に返す。
「いじめってゆーか、
すると、
「もうっ!
すると、出し抜けにレンが
「そっか? オレは
その言葉に、
後から考えれば、
なぜならその日以来、
体を動かすスポーツ系の遊びも、レンの前ではあまりしないようになってしまった。
でも、幼かった俺にはその
俺が好きだった
◇
俺が
その、
「
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