第2章 相手は何を考えているのだろうか?

第8節 マネーモンスター



 東京とうきょうえきから電車でんしゃって三十分さんじゅっぷんほどきたかったところに、埼玉さいたまけんでは最大級さいだいきゅうほこおおきなターミナルえき大宮駅おおみやえき』がある。


 俺の高校こうこうはそのターミナルえきから東南東とうなんとうすうキロった場所ばしょ位置いちしている。


埼玉さいたま県立けんりつ大宮おおみや第二だいに高等こうとう学校がっこう』、通称つうしょう二高ふたこう』とばれる俺のかよ高校こうこうは、入試にゅうし偏差値へんさちのボリュームゾーンが大体だいたい61から63くらいで推移すいいしている。


 もっとあたまやつはもっと偏差値へんさちたか進学校しんがくこうくし、中学ちゅうがく時代じだい勉強べんきょうができなかったやつはまずはいれない。


 つまり、入学にゅうがく当初とうしょ偏差値へんさちそううすく、学業がくぎょう成績せいせき学生がくせい生活せいかつおよぼす影響えいきょうすくない。クラスカーストが形成けいせいされやすい環境かんきょうになっているのである。


 入学にゅうがく当初とうしょ学力がくりょくみなどんぐりのせいくらべであまりわらないのだが、生徒せいと進路しんろ勉強べんきょう学生がくせい生活せいかつのスタイルは自助じじょ努力どりょくまかせられているので、卒業そつぎょうするころにはかなり成績せいせきがばらけてしまう。


 東京とうきょう旧帝きゅうてい大学だいがく地方ちほう旧帝国きゅうていこく大学だいがく国立こくりつ大学だいがく医学部いがくぶなどに進学しんがくするのがわずかながらも毎年まいとし何人なんにんかいて、おおくは東京とうきょう都心としん私立しりつ大学だいがくやそこそこの国公立こっこうりつ大学だいがく進学しんがくする。


 卒業後そつぎょうごすぐに就職しゅうしょくするものや、短大たんだいとか専門せんもん学校がっこう生徒せいとなどもわりと大勢おおぜいいる。


 校風こうふうきわめて自由じゆうで、学業がくぎょうにさえ支障ししょうがなければバイトでも髪染かみぞめでもピアスでもバンド活動かつどうでもネイルでもなんだってゆるされる。


 ただし、もしもカツアゲや暴力ぼうりょくのような犯罪はんざい行為こういとう発覚はっかくした場合ばあいには、容赦ようしゃなく停学ていがく措置そち退学たいがく措置そちられる。


 つまり、なんちゃって不良ふりょうはちらほらいてもガチの不良ふりょうはいないし、深刻しんこくないじめもない。


 そういうわけで、このにてこの高校こうこう人気にんきはわりとたかいのである。勉強べんきょう校則こうそくしばりはゆるいが、めるべきところはめているがゆえに、偏差値へんさちがそこそこたかくなっているのである。



 だからアメリカのたからくじがたって三百さんびゃく億円おくえんれた俺が、このカツアゲされる心配しんぱいのない高校こうこうかよっていたのは至極しごくラッキーなことであった。




 大金持おおがねもちになってから最初さいしょ学校がっこうたこのやすみごとに、また昼休ひるやすみになってからも、ほかのクラスやほか学年がくねん生徒せいとたちが次々つぎつぎと俺のかおにクラスにやってきた。



 ある時点じてんで、いろいているかのようなあかるいいろをしたそとハネシャギーショートのかみにヘアピンをいくつもけた、べつのクラスの日焼ひやけした女子じょし生徒せいとが「握手あくしゅしてくれない!?」と元気げんきこえたずねてきた。


 その女子じょし生徒せいと可愛かわいだったので、俺はよろこんで握手あくしゅした。


 すると、ほか生徒せいと次々つぎつぎと俺に握手あくしゅもとめてきた。


 たからくじで三百さんびゃく億円おくえんたって億万おくまん長者ちょうじゃになったというミラクルをつかんだ俺の、その強運きょううんにあやかりたいのだとってきたのだった。


 さわぎになってきたところですぐるがそれを大声おおごえはばんだ。


 さとしは「一回いっかい握手あくしゅごとに百円ひゃくえんとかれるよなー」とかっていたが、俺はしっかりとことわった。


――美少女びしょうじょにぎってかねまでったら今度こんどはバチがたるっつーの。


 昼飯ひるめしは、弁当べんとうかあさんにつくってもらうことができなかったので購買こうばい利用りようしようとしたのだが、なんかクラスのみんながおにぎりとかサンドイッチとかをめぐんでくれたのでとくこまらなかった。


 俺がれなかったあまったぶんは、いしんぼう高広たかひろが、いつもってきているボリュームある手作てづく弁当べんとうくわえてペロリとたいらげた。

 



 まあ、そんなこんなで色々いろいろあって放課後ほうかごになって、俺は悪友あくゆう三人さんにん一緒いっしょ昇降口しょうこうぐちくつえていた。


 すぐる靴箱くつばこからくつして俺にたずねる。

「しかし啓太郎けいたろう貴様きさま三百さんびゃく億円おくえん本当ほんとうちょうがつくほどの大金たいきんだぞ。貴様きさまだけで使つかいきれるとはとてもおもえんがどうするつもりだ?」


 すると、くつえながらさとしこたえる。

一年いちねん一億円いちおくえんずつ使つかっていっても、三百年さんびゃくねんもつんだろ? 正直ショージキ普通ふつう生活せいかつしてたらぜってー使つかいきれねーよなー」


 そして、くついた高広たかひろこえす。

一生いっしょう豪華ごうか食事しょくじべられるよね。どんな高級こうきゅう料理りょうりでも数万すうまんから数十万すうじゅうまんってところだから。啓太郎けいたろうくんはどんなことに使つかいたいの?」


 そして、みな昇降口しょうこうぐちけつつ俺がくちひらく。

「そーだなー、俺自身じしんじつは、あんまりしいものってないんだよな。高校生こうこうせいだからくるまとかもれねーし。ゲーセンやカラオケで豪遊ごうゆうするってくらいしかおもいつかねーな」


 すると、さとし笑顔えがおこえげる。

「じゃあさ、みんなでベガスこうぜベガス!」


 すると、すぐるが「おお、わるくないな」とか高広たかひろが「ラスベガスってどんな食事しょくじがあるのかな」とかした。


 だが、島津しまづさんからアメリカの法律ほうりついていた俺は、そのプランを即座そくざ却下きゃっかする。


「俺たち、まだ高校こうこう一年生いちねんせいだろ? 二十一にじゅういっさい未満みまんはラスベガスのカジノじゃギャンブルであそべねーんだよ。ほかしゅうでも、ホテルとかは大人おとなきじゃまれねーんだ」


「おお、そうなのか? そりゃ残念ざんねんだな」

 すぐるがそんなことをうので、俺はかえす。

高校生こうこうせいのうちはだめだけどさ、卒業そつぎょうしてからショーとか一緒いっしょくってのでいいか?」


 さとし高広たかひろも「いいねー」とか「たのしみにしとくね」とかかえしてくれたのだが、すぐる眼鏡めがねをクイッとげてかえした言葉ことばつぎのようなものだった。


啓太郎けいたろう、もしアメリカに旅行りょこうれてってもらえるのならば、是非ぜひってみたいところがあるのだが」


「どこだ? 大体だいたい想像そうぞうはつくけど」

 そうかえすと、すぐる両手りょうてわせて懇願こんがんのポーズをる。


おれは、ぬまでに一度いちどでいいから、ヌゥーディィストビィーチというこの楽園らくえんってみたいのだ! 後生ごしょうだ! なんでもするかられてってくれ!」


――だとおもってたよ。


「ああ、まあいいけど? 暴走ぼうそうはするなよ?」


 すると、さとしわらいながらこたえる。

「カメラで幼女ようじょとかるなよ? ポリスメンにつかまっちまうぞ?」


失敬しっけいな! おれはペタンコの子供ガキはだかなんぞ興味きょうみないわ! 録画ろくがするなら巨乳きょにゅう美女びじょのおねえさんのはだかまっておろーが!」


「いや、ぼく録画ろくが自体じたいがダメだとおもうよ」


 そんなかんじで、悪友あくゆうどもとたのしいいをしながら校門こうもんけたところ、美白肌びはくはだ巨乳きょにゅうギャルが一人ひとり正門せいもんまえたたずんでいたのが俺の視界しかいはしはいる。


 そこには、金色きんいろめられたかみうしろにてシュシュでまとめてポニーテールにしている、クラスメイトの花房はなぶささんがうでんでかべにもたれかかっていた。


 そのしろギャルは高校こうこう正門せいもん高校名こうこうめいかれた校名こうめいプレートのまえにて、みじかいスカートで脚線美きゃくせんびせて、ブラウスのうえのボタンをひらけてそのおおきなむね主張しゅちょうしている。


 俺が花房はなぶささんに視線しせんうつすと、彼女かのじょはそのぱっちりしたツリを俺にけつつ、けにげる。

「アンタさぁ、いい友達トモダチもってんじゃん」


 その言葉ことばに、俺はそのまった。


 悪友あくゆう三人さんにん必然的ひつぜんてきまることになった。


「あ……さよなら、花房はなぶささん」

 俺がかかげてそううと、花房はなぶささんはうでんだまま、その金色きんいろめられているうしがみらしてこうった。

「へー、名前なまえおぼえててくれてたんだ。ちょっと意外いがいかも」


 俺はかえす。

「そりゃクラスメイトだし名字みょうじくらいはおぼえてるけど? なにようとか?」


 すると、うでんだままの花房はなぶささんはつやのあるくちびるひらく。

「んー、ちょっとね。アンタにただしいおかね使つかかたおしえてあげようかとおもってたんだけどね」


 すると、すぐる大声おおごえす。

てぇぇ!! そうかわかったぞ! 貴様きさま啓太郎けいたろう誘惑ゆうわくするはらづもりだな!?」


 すると、花房はなぶささんがきょとんとした様子ようすになる。

誘惑ユーワク? アタシが?」


「そうだ! 大方おおかた啓太郎けいたろうをそのおおきなむね誘惑ゆうわくして、あたまわるそうな高級こうきゅうアクセサリーでもってもらおうという魂胆こんたんなのだろうが!」

 すぐる大声おおごえべんじると、花房はなぶささんがす。


「ぷぷっ。ナァニそれー? ゼーンゼンちがうし。アタシはそこにいるたちばなくんと、たちばなくんのこれからに興味キョーミがあるだけだし」


 その言葉ことばいて、疑問ぎもんかんじた俺はかえす。

「俺のこれから?」


「そ。アンタが魔物まものしたがえる御主人様ゴシュジンサマになるのか、それとも魔物まものもてあそばれる下僕ゲボクになるのか、ちょっとになったってゆーかそれだけ」


魔物まもの……って」


 その花房はなぶささんの意味深いみしんはなし内容ないように、俺はきょかれる。そんな賢者けんじゃめいたことうようなキャラだとはおもってなかったからだ。


 そして、花房はなぶささんは言葉ことばつづける。

「それにさー、こんなうでんだかんじで誘惑ユーワクなんかしないって。誘惑ユーワクするってのはこーゆーフーにするってことうんだけどな?」


 花房はなぶささんはそこまでうとうえにたわわなむねせていたうでほどいて、両腕りょううででそのおおきくてやわらかそうなむねはさげて谷間たにま強調きょうちょうするかのようにまえのめりの姿勢しせいになり、その指先ゆびさきすこしだけブラウスをつまげた。


 必然的ひつぜんてきに俺のおとことしての本能ほんのうは、花房はなぶささんのひらけたブラウスのしたにあるその扇情的せんじょうてきなまでのおおきなむね谷間たにまを、その魅惑的みわくてきしろうつくしい肌色はだいろを、くっきりはっきりと視界しかい中心ちゅうしんおさめてしまう。


――情欲じょうよく原動力げんどうりょくとしてきている男子だんし高校生こうこうせいになんてものをせるんだ。


 すぐるはちゃっかりと俺のちかくにからだ移動いどうさせ、花房はなぶささんのむね谷間たにま凝視ぎょうしできる位置いちについていた。


 すぐるだけでなく、さとし高広たかひろ花房はなぶささんのむね谷間たにま正視せいししているのだろう。さっきからなにわない。


 五秒ごびょうくらいったところで、花房はなぶささんが体勢たいせいなおして言葉ことばはなつ。

「ハイ、おしまい。ほか三人さんにんはこれ以上イジョーるツモリならかねるし」


 花房はなぶささんはそこまでうと、得意とくいげなかおになって視線しせんながす。そして身体からだひるがえし、片手かたてげてゆっくりとあるして俺たち四人よにんからっていく。


「じゃー、また明日あしたね。バイバーイ」


 そんなギャルの後姿うしろすがた見送みおくりながら、すぐるこえす。

おなじクラスの花房はなぶさ可憐かれん……おれは……あのおんな認識にんしきをどうやら見誤みあやまってたようだな……」


「どういうことだ?」

 俺がたずねると、すぐる左手ひだりて眼鏡めがねをクイッとげてこたえる。


「あの金髪きんぱつビッチギャル、ふくうえからかんじでは Gジー であると推測すいそくしていたが、あれは…… Hエイチ確実かくじつ、いやもしかしたら Iアイ はあるかもしれん。早急そうきゅうにスマホで、いえPCピーシー にあるデータベースをえなくては」


――なんのデータベースをつくってんだおまえは。


 すこかおあかくした高広たかひろくちひらく。

「でも、いいものれたね。啓太郎けいたろうくんのおかげで」


 若干じゃっかんでれっとした口調くちょうさとしこたえる。

「そーだな。ありがたやー、ありがたやー、だな」


 そして、すぐるつたえる。

「しかし啓太郎けいたろう貴様きさまはああいうかね目当めあてのビッチにはっかかるなよ。これからおそらく、たようなのがわらわら近寄ちかよってくるぞ。すくなくともおれは、ああいうのは苦手にがてなタイプだ」


 そんな言葉ことばに俺はかえす。

「でもすぐる、おまえはああいうむねおおきなおんなきなんじゃないのか?」


 するとすぐるはオーバーリアクション気味ぎみうでひろげて鼻息はないきらす。

「はっ! おれはああいうおんなちちたいしみたいしきたいとはおもうが、いたいとはおもわん! ああいうおとこ小馬鹿こばかにしたようなおんなおとこかられるものを全部ぜんぶるようなおんなだ! きになれん!」 


 そのすぐる絶叫ぜっきょうに、たましいかねらしたかような咆哮ほうこうに、ほか下校中げこうちゅう生徒せいとたちの視線しせん一斉いっせいあつまる。


 俺はすぐる注意ちゅういうながす。

「おまえはそういうことを大声おおごえさけぶのを、すこしは自重じちょうしろ」


 すぐるのぞく俺たち三人さんにんは、その友人ゆうじんずかしい雄叫おたけびに、ひどく赤面せきめんしていた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る