第4節 人生狂騒曲




 それから二日ふつかって九月くがつ最後さいご日曜日にちようびあさのことであった。


 れている日曜日にちようびあさには、両親りょうしん二人ふたりして健康けんこうのためにウォーキングをするので、いまいえにいない。


 もちろん学校がっこうやすみなのであるが、ねえちゃんはあさからかないかおをしている。


 俺はソファーにすわっているラフな格好かっこうねえちゃんにはなしかける。

ねえちゃん、いよいよ今日きょう夏休なつやすみもわりだな」


 すると、ねえちゃんは手足てあしをじたばたさせる。

「あーもー! なん夏休なつやすみにわりなんてあんのさー! 12がつくらいまでやすんでもいいじゃんかー!」


贅沢ぜいたくうんじゃありません。大学生だいがくせいなんだから」

「だってー、あたし勉強べんきょう苦手にがてだしー。スポーツ推薦すいせんはいったんだから単位たんいもぜーんぶスポーツでれるようにしてくれてもいいじゃんかー」


「そんなあまはなしはないよ」

 そんな言葉ことばかえすと、ねえちゃんはテレビのリモコンをにとって次々つぎつぎとチャンネルをザッピングしていく。

「なーんか、面白おもしろ番組ばんぐみでもやってないかなー、まぎれるようなのー」


日曜日にちようびあさだよ? 討論とうろん番組ばんぐみとかワイドショーとかたら?」

たび番組ばんぐみとか、グルメ番組ばんぐみとか、おわら番組ばんぐみとかやってないかなー」


 チャンネルを次々つぎつぎえていくねえちゃん。おすような番組ばんぐみつからないようだった。


 結局けっきょく、ワイドショーをやっているチャンネルにしたところでねえちゃんはリモコンをソファーのうえほうげた。


 俺はねえちゃんにこえをかける。

「あとちょっとでアニメがはじまるから、美登里みどり一緒いっしょたら?」

ちいさなおんなけでしょー? あたしはもう、そんなアニメないしねー」


 そんなやりりをしていたら、テレビモニターにうつされているワイドショー番組ばんぐみつぎ話題わだいうつった。


 テレビのなか男性だんせい日本人にほんじんリポーターが、どこかでたことのある町並まちなみのなかでマイクをってはなしている。


「……こちら、数年前すうねんまえたからくじが解禁かいきんされたハワイしゅうでとうとう、高額こうがく当選とうせんたということです。しかもおどろくべきことに、そのたからくじを当選とうせんさせた唯一ゆいいつ人物じんぶつ日本人にほんじん旅行者りょこうしゃだというのです」


 そして画面がめんわり、やさしそうなふとった白人はくじん中年ちゅうねん女性じょせいがリポーターとならんでいる姿すがたうつされた。


 リポーターがモニターのなかでマイクをってしゃべっている。

「こちら、高額こうがく当選とうせんたからくじを販売はんばいしたコンビニエンスストアの店主オーナー、アンナさんです。おはなしうかがいたいとおもいます」


 そしてリポーターがなに英語えいごしゃべり、その中年ちゅうねん女性じょせいにマイクをける。


 モニターのしたのほうにはこんなテロップがていた。


『宝くじを購入したのは本当に日本人だったんですか?』


 すると、その中年ちゅうねん女性じょせい英語えいごなにかをはなはじめたとおもったら、すぐにその英語えいごうすくなり、通訳つうやくされた日本語にほんごナレーションがひびく。


「はい、たしかに日本にほんかたでした。あの従業員じゅうぎょういんかた急病きゅうびょうやすみでしたので、私が店番みせばんをしていましたのでよくおぼえております。おとこおんな、そして女性じょせいかた三人さんにんで、日本にほんのご家族かぞくのようでした」


 その見覚みおぼえがあるふとった白人はくじん女性じょせい姿すがたに、俺は呆然ぼうぜんとしていた。


 ねえちゃんが、モニターを指差ゆびさしてあっけらかんとした調子ちょうしくちひらく。

「ねぇー啓太郎けいたろうー。このひとってあたしらがハワイったときにったひとだよねー?」


 俺はくちからこえしぼす。

「えっと……そうとしかえないけど……いやでも外国人がいこくじんって結構けっこうてるひとおおいし……」


 モニターのなか白人はくじん中年ちゅうねん女性じょせい言葉ことばつづける。

おこのおんなのために、キャラクターのステッカーをれようとしたんですよ。全部ぜんぶ五口ごくちをコンピューターにえらんでもらっていました」


 その言葉ことばに、俺の身体からだ電流でんりゅうのようなものがはしった。


――まさかあのたからくじ、たったのか!?


 モニターのなかのリポーターが言葉ことばはなつ。

「その大金たいきんてた人物じんぶつはまだ名乗なのていませんが、もしあらわれたとしたら個人こじん配分はいぶんされるがくとしてはブルー・マーブルたからくじ史上しじょう歴代れきだい二位にい高額こうがく当選とうせんとなります。その金額きんがくはなんと……」


 リポーターの言葉ことばに俺はごくりとつばんだ。画面がめんつめていると、いきなりチャンネルがわり、女児じょじけアニメのオープニングがモニターにながれた。


「ルンルンガールズ! プリピュアだよー!」


 モニターのなか美少女びしょうじょキャラクターが、元気げんきこえさけんでいた。


「……よかった、った」


 いつのまにか二階にかいからりてきてねえちゃんのとなりにちょこんとすわっていた美登里みどりが、ノートパソコンをテーブルのうえいてったリモコンでチャンネルをえてしまっていた。


 俺は、ソファーにすわっているパジャマ姿すがたいもうとさけぶ。


「なにしてんだよ! 美登里みどりぃ!?」


 リモコンをったままのいもうとは、きょとんとしたを俺にける。


「……え、なにって……てわかんない? プリピュアのアニメ実況じっきょうだけど?」


もどしてもどして! さっきのチャンネルに! 大事だいじなところだから!」

 俺がそううと、いもうとがしぶしぶくちひらく。

「……本編ほんぺんはじまるまでだったらいいけど……どこのチャンネルだったかなんてわかんないよ」


 すると、ねえちゃんがいもうとからリモコンを手渡てわたしてもらう。

「みどりー、してみー」


 そして、ねえちゃんは手当てあたり次第しだいにボタンをして、次々つぎつぎとチャンネルをえていく。


「あはははー、あたしもわかんないやー。どれだったっけかなー」


 俺はソファーにすわっているねえちゃんからリモコンをなか強引ごういんげ、さきほどワイドショー番組ばんぐみをしていたチャンネルにえる。


 モニターには、男性だんせい女性じょせいのアナウンサーがならんですわっている姿すがたうつされていた。


「……えー、その旅行者りょこうしゃあらわれるかどうかがになります。ではつぎのニュース」


 どうやら、その話題わだいわってしまったようであった。


 俺はもどかしくなって、リモコンをソファーにほうげて、二階にかいにある自分じぶん部屋へや階段かいだんがってもうダッシュする。


 五畳ごじょうあまりのひろさの自分じぶん部屋へやいそいではいった俺は、生徒せいと手帳てちょうはいっている制服せいふくシャツのむねポケットをまさぐる。


 国枝くにえださんの名前なまえることができたきっかけをつくってくれたので、縁起えんぎかついでおまもりとして生徒せいと手帳てちょうのカバーにりたたんでじこんでおいたのであった。


『BlueMarble』と英語えいごかれたそのたからくじには、二桁にけたまでの数字すうじむっつで一組ひとくみ合計ごうけい五組ごくみ数列すうれつかれている。あのリポーターのっていた、高額こうがく当選とうせんたからくじがもしこのたからくじだとしたら、ネットで当選とうせん番号ばんごう確認かくにんすることができるはずだ。


 たからくじをって一階いっかいりた俺は、アニメがながれているテレビのまえで、いもうと無線むせんマウスをとなりいたノートパソコンをひらいてなにやらカタカタ文字もじっている様子ようすることができた。


 いもうととなりには相変あいかわらずねえちゃんがすわっている。


美登里みどり、ちょっとのあいだだけおにいちゃんにパソコン使つかわせてくれ。たからくじの番号ばんごう確認かくにんしたいから」

 俺がそううと、いもうと不満ふまんそうにかえす。

「……いまのわたし時間じかん、アニメの実況中じっきょうちゅうなんだけど」


「もしたってたら、プリピュアの円盤ディスク全部ぜんぶってやるから! おねがいします!」

「……ホント? なら使つかってもいいよ」

 いもうとはそうい、無線むせんマウスでブラウザを最小化さいしょうかさせてノートパソコンをすすっとテーブルのうえで俺のちかくにせる。


 ソファーのうえいもうとはさんでねえちゃんの反対側はんたいがわすわった俺は、たからくじを見比みくらべながら、世界せかい最大手さいおおて検索けんさくサイトである Googolグーゴル検索窓けんさくまどひらく。


『BlueMarble』と入力にゅうりょくして検索けんさくボタンをクリックしたところ、一番いちばんうえ公式こうしきサイトらしきページへのリンクがあらわれた。


 俺は『BlueMarble:Home』とかれたそのリンクにカーソルをわせてクリックする。


 そのページには、あの眼鏡めがねをかけたイルカのキャラクターが掲載けいさいされていて、むっつの二桁にけた数字すうじが『Winning Numbers』つまり当選とうせん番号ばんごうとして表示ひょうじされていた。


 俺はその数字すうじ羅列られつと、手元てもとにあるたからくじにプリントされている数字すうじ羅列られつ見比みくらべる。


 たからくじの番号群ばんごうぐんうえからみっが、たしかにその当選とうせん番号ばんごうならびとぴったりと一致いっちしていた。


 二回にかい確認かくにんしてみても、三回さんかい確認かくにんしてみても、やはり一致いっちしていた。


 俺は、あまりの出来事できごと愕然がくぜんとする。


「あ……たってる……完全かんぜんたってる……マジかよ……」


 すると、いもうとこうにいるねえちゃんが画面がめんのぞむ。むっつの数字すうじのすぐうえには当選とうせん金額きんがく表示ひょうじされている。


啓太郎けいたろうたからくじたったのー? いくらー? えーっと……710……ミーオン? ミーオンてなにー?」


 すると、いもうと美登里みどり画面がめんのぞんでねえちゃんにみをれる。


「……おねえちゃん、これミーオンじゃなくてミリオン、100まんのこと」


 すると、ねえちゃんがこたえる。

「ってことはー、710かける100まんでー……710まん!? すごいじゃん!」


 すると、いもうと冷静れいせいかえす。

「……おねえちゃんホントに大学生だいがくせいなの? 計算けいさん間違まちがってる。710に100まんけたら、7おく1000まん


「あーそっかー、ってことは啓太郎けいたろうてたのは7おく1000万円まんえんかー」

「……そうだね。おにいちゃんのったたからくじがたって7おく1000万円まんえんに……」


「……」

「……」


 五秒ごびょうほどの沈黙ちんもく


「……「七億一千万円ななおくいっせんまんえんー!?」」


 ねえちゃんといもうとが、ほぼ同時どうじ絶叫ぜっきょうした。


啓太郎けいたろうー!? あんた七億ななおくてたのー!?」

「……おにいちゃん? もしかしてわたし、もうはたらかなくてもいいの!?」


 俺は、ぷるぷるふるえる指先ゆびさき画面がめんしつつ、たどたどしくくちひらく。

「ちがう……七億ななおく一千万いっせんまんえんじゃない……ここて……ここ」


 俺がしたその場所ばしょには『$ 710 Million』と表示ひょうじされている。


 ねえちゃんが呆然ぼうぜんとした表情ひょうじょうで俺にたずねる。

「このマーク、たしか……たしか……なんだったっけー?」


 俺はねえちゃんの質問しつもんに、どこかにびそうな意識いしきをだましだましとどめつつこたえる。


「な……七億ななおく一千万いっせんまん……ドル……えんじゃなくてドル……しんじられねぇ……」


「へー? 七億ななおく一千万いっせんまんドルっていくらくらいー?」


 ねえちゃんがまるくしているが無理むりもない、俺もうしな寸前すんぜんなのだから。


為替かわせのレートにもよるけど……多分たぶん七百億ななひゃくおくえん以上いじょう……」

 俺がそこまでうと、ねえちゃんはまるくしたうえくちをポカンとけた。


「えー……七百億ななひゃくおくー? いやいや流石さすがうそでしょそれー……いや、うそでしょー……いや、もしかしてゆめだったりしてー」


 ねえちゃんはそこまでうと、自分じぶんのほっぺをつねった。


いたたたた! いたぁーい!」


 俺はそんなねえちゃんに言葉ことばかえす。


「さっきのワイドショー、本当ほんとうことだったんだよ……俺、七百ななひゃく億円おくえんてちゃったんだ……」


 しばしの沈黙ちんもく


 そして二人ふたりして絶叫ぜっきょう


「「うわ―――!!」」


 俺はがって、おなじくがったねえちゃんとのひら同士どうしをリズムたたわす。


「やったー! やったー! たったー!」

「まさかたるなんてねー! まさかねー!」


 パシッ パシッ パシッ


 俺がねえちゃんとハイタッチの応酬おうしゅうをしていると、そのすぐしたにいる美登里みどりがぴくりともうごかないことに気付きづいた。


「どうした美登里みどり?」

 俺がそうこえをかけて美登里みどりかおのぞむ。


 美登里みどりはソファーにすわったまま、くちからあわをふいて白目しろめをむいて気絶きぜつしていた。


美登里みどりぃ――――!!」

「みどりぃ――――! んじゃだめだよー! きてー!」


 さいわいにも美登里みどりはすぐに意識いしきもどしたが、それからが大変たいへんだった。


 日曜日にちようびあさ散歩さんぽからかえってきた両親りょうしんたからくじがたったことをつたえると、両親りょうしん狂喜きょうき乱舞らんぶして長男ちょうなんである俺がくくらいのはしゃぎっぷりをせてくれた。


 そして両親りょうしんは、俺がアメリカにわたって金銭きんせんさい付添つきそにんとして、ハワイでった弁護士べんごし名刺めいししてきたのであった。


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