第9話

 それからはいつも通りに仕事をこなした。でも、太田さんの言っていたお薬って何なのかわからない。

 定時になったので、私は帰り仕度をする。「お疲れ様でした」と声をかけながらフロアを後にした。いつもとなんら変わりない。変わりないのに、太田さんの言葉が気になる。胃痛が治る魔法の飴。魔法は薬でできている。じゃあ、薬は何なの? まさか、非合法的なあやしいお薬じゃないよね? 血の気が引いていく。いやいや、そんなことないない! 太田さんに限ってそんなことないよ! 首を横に振って、頭に浮かんだ悪い妄想を吹き飛ばす。ないない! あんなにイケオジがそんな犯罪行為に手を染めてたりしない。だって、今までの飴代を請求されてないもん。だから違う違う。

「安達ちゃん! あぶない!」

「え」

 遠くで鷲野主任の声が聞こえた気がしたーー




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