第8話

 いったい何だったんだろう。私はデスクに置かれた仕事をこなしながら考える。太田さんがくれた飴を食べた興和先輩はちょっとおかしかった。私が食べても胃痛が治まるだけなのに、興和先輩はテンションがハイになったようだったし、やっぱりアレは私用に太田さんが魔法をかけてくれている飴なのかなぁ。うーん。わかんない。考えても無駄な気がしてきた。産業医さんのところに先輩は連れていかれたって鷲野主任が言っていたし、もう考えずに仕事しないと。

「ちょっと今良いかな?」

「あ、はい」

 太田さんに声をかけられたので、私は席から立ち上がる。少しくらい離れても特に問題はないだろう。だって、他にもチームの人いるし。

 給湯室に入って、太田さんはポケットからいつもの飴を取り出した。そして、いつものように私の手に握らせる。あたたかくて優しい手だ。私の大好きな手。

「この飴にはね、魔法がかかっているんだ」

「どんな魔法なんですか?」

「元気になりますようにってね」

 いつものように太田さんは笑う。やっぱりおじさんなのに格好良いし、大人の色気があるなぁ。あー、惚れちゃうよね。こんなの。でも、私と太田さんじゃ釣り合わないってわかってる。ワンチャンある気もするけど、わかってるもん。

「魔法はお薬でできているんだよ」

「へ?」

 お薬ってなんだろう。太田さんはにこにこ微笑んだままだ。いつものように笑ったまま。でも、なんだか少し笑顔が怖いような気もしてきた。胃が痛い。私は癖のように、貰ったばかりの飴を口に入れた。胃痛はすぐに治まった。でも、お薬って……?


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