第7話

 今日も元気に事務業やってます! と言いたいところだけど、胃が痛い。

「今日も今日とて胃痛に苦しんでる感じー?」

「あー! 先輩! 昨日あの後大変だったんですからね!」

「知ってる知ってるー! オレんとこにめっちゃメッセ来てさ、めがっさ笑ったっての」

「どうしてあんなこと言ったんですか?」

「そりゃあ、安達ちゃんが可愛いから」

 興和先輩はニカッと笑うと、席に着いた。この人はいつもこうなんだ。私をからかって遊んでくる。

「オレも飴あげるよ。ハッカ飴」

「べつに私は飴が好きなんじゃないですからね!」

「へいへい。でも、胃痛が治まるなら良くね? 受け取っとけー!」

 興和先輩はぞんざいにハッカ飴を私に投げる。いつの間にか、私のデスクがある島には、飴置き場が設けられていた。ご自由にお取りくださいとは書いてあるけど、持って行ってる人は今のところ興和先輩ぐらいだ。誰が設置したかわからないけど、種類は豊富で、品ぞろえはなかなか良さそう。

「安達ちゃん。これ、いつもの飴だよ」

「あ、有り難うございます」

 太田さんが微笑みながら、私に飴を3つ握らせてくれた。私は痛みを堪えながらお礼を言う。飴を口に入れると、胃痛がすぅーっと引いていく感じがした。いつもくれるけど、この飴が何処のメーカーのものか私は知らない。胃に優しいなら、自分で買いたいとも思う。

「太田さん。この飴って、何処で買えるんですか?」

「ああ。それは秘密だよ」

「えー。教えてくださいよ」

「だーめ」

 子どもをあやすような甘い声でイケオジに言われちゃあ引き下がるしかない。顔も声も良いだなんて、ズルい。私は渋々自分のデスクに座りなおした。興和先輩が隣で頬を膨らませていた。

「なあなあ安達ちゃん。オレもその飴食べたい」

「これは私のですよ! 胃痛が治まるおまじないがかかっているからだめ!」

「良いじゃん。もーらい!」

「あー!」

 興和先輩は私のデスクから飴を1つ取ると、すぐに口に放り込んだ。ああ、私の胃痛を治める飴がー!

「ひええっ! なんだおまえ! なんだ!」

「興和先輩?」

「どっかいけ! どっかいけ!」

 興和先輩は壁に向かって怒鳴っている。いったいどうしたんだろう。と思っていると、太田さんが寄ってきて、興和先輩の襟ぐりを掴むと引きずるように、フロアから出て行った。



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