第5話

 ああ、胃が痛い。今まさに胃が痛い。興和先輩は何を思ってそんな変なことを言い出したんだろう。しかもそのまま帰っちゃうなんて、ひどい。フロアがざわついている。私もう胃痛で死ぬかもしれない。積み上げられた仕事もなかなか終わらないし、ああもう、胃が痛い!

「安達ちゃん。コーワと付き合ってるってホント?」

「イエ。ツキアッテナイデス」

 この問答は何回目だろう。胃が痛い。ヒソヒソ話をしながら、他の部署の先輩が通り過ぎていく。本当に何で興和先輩はあんなこと言ったんだろう。おかげで、私は興和先輩の隠れファンらしい人達に狙われるようになってしまった。ああ、もうやだ。胃が痛い。

「安達ちゃん。ちょっと良いかな?」

「は、はい!何でしょう!」

 突然話しかけられて、私は起立する。太田さんは笑っていた。うわぁ。やっちゃったぁ。恥ずかしい。もうやだ。きっと太田さんにも変な誤解をされてるんだぁ。ああ胃が痛いよぉ。

「さっきの資料なんだけど、ここの訂正頼めるかな?」

「は、はい!」

「それと、興和の彼女は俺だから」

「は、はい! って、はい?」

 はい? ちょっと意味が理解できないんだけど。太田さんはいつものようにニコニコ微笑んでいる。

「ジョークだよ。最近そういうのが流行っているって、うちの班の子達に聞いてね。はい、いつも頑張っている安達ちゃんには、いつものおまじないをしてあるこれをあげよう」

 太田さんは、いつものおまじないがされている飴を開封すると、私がぽかーんと口を開けていたので放り込んで去っていった。美味しい。胃痛がスーッとひいていくような感じがする。うーん。それにしても、流行っているって、私は知らないんだけどなぁ。そういうの流行ってたのかなぁ。




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