第4話
気が付いたら、目で追ってしまっている。ああ、今日も太田さんは格好良いなぁ。あの人の奥さんはどんなに幸せものなんだろう。きっとあたたかい家庭なんだろうなぁ。私はぼんやりとデスクでコーヒーを飲んでいた。鷲野主任に頼まれていた資料も終わっているし、興和先輩から預かった案件も無事に済んでいる。今はチェックと指示待ちだ。
「おーい! まーた、あのオッサン見てんの? オレのほうが良くね?」
「別に減るもんじゃないしいいでしょー。それよりも先輩。あの件終わりましたよ」
「知ってる知ってる。オレもチェック待ちだから」
興和先輩は私の隣のデスクだ。さっきまで外回りに行っていて、今帰ってきたところ。ホワイトボードには午後休と書かれているのに、何でいるんだろう。直帰だったはずなんだけど。
「先輩、帰らないんですか?」
「チェックが終わったら帰るよ。オレの心配してくれんの?」
「いえ。先輩がいたら太田さんが見えないんで」
「はぁー?」
太田さんを見るには良い角度のデスクなのに、興和先輩がいると、まったくといって良いほど見えない。私の癒しの時間なのに。仕事中の癒しなのに。すると、興和先輩は席から立ち上がって、太田さんの所へ行った。楽しそうに何か話している。良いなぁ。私も一緒に何か話したいなぁ。見ていると、鷲野主任が戻って来た。
「安達ちゃん。さっきのやつオッケーだったよー。いつもあんがとね」
「いえいえ」
「あれ? 興和のやつ帰って来てんじゃん」
「チェックが終わったら帰るって言ってましたよ」
「ははーん。なるほどねぇ。安達ちゃん。これ、太田さんに渡しておいて。アタシはまだちょっと外に用事があるんだ」
「は、はい」
鷲野主任から書類の山を受け取って、私はすぐに太田さんの元へ歩き始める。私が向かってきていることに気付いたのか、興和先輩が、書類の山を半分持ち上げた。
「1人でンなに持つか普通」
「も、持てますよぉ!」
興和先輩は子犬のような笑い方をすると、太田さんのデスクに書類を置いた。私も一緒に置く。太田さんはコピー機の前にいたので、一声かけようと思ったら、興和先輩が駆け寄っていた。
「太田さん。鷲野主任からの資料置いておきましたよー」
「ああ。有り難う」
ニコッと笑う。眼鏡越しの笑顔が可愛い。ああもうイケオジで可愛いだなんて反則だ。私が太田さんを見てぽけーっとしていると、興和先輩に頭をポンポン撫でられた。
「オレの彼女頑張り屋なんで、よろしくお願いしまーす!」
は? 今なんて言ったこの人。興和先輩の言葉で、静かだったフロアがざわついた。えっ、なに、これ。いじめ? 新手のイジメだとか? え? 胃が痛い!
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