第2話

 会議は滞りなく終わった。胃痛もなんとかおさえられたまま。やっぱり太田さんの飴は効果が抜群だなぁ。魔法使いだったりして! こんな事を考えていたら、顔に出ていたのか、興和先輩がニヤニヤしながら私の額を突いた。

「まーた! あのオッサンのこと考えてんのかー?」

「太田さんは、先輩と違って優しいですもん!」

「あー? オレも優しいっての! 毎朝お前のデスクにコーヒー置いてるの誰だと思ってんだよ!」

 確かに、私のデスクには、毎朝温かいコーヒーが置かれている。程良い苦味で、寝惚けた頭をシャキッとさせてくれていた。他の子のデスクにも置いてあるから、特に何も考えずに頂いていたんだけど、まさか興和先輩が。

「あれ置いてたの先輩だったんですか?」

「うっそぴょーん!」

 興和先輩は再び私の額を突いた。痛い。赤くなったらどうしてくれるんだ。私が頬を膨らませて睨むと、人懐こいワンコのような笑みで私の頭をぽんぽん撫でた。これはセクハラとかパワハラとかで訴えても良いんじゃないかなとか思う。

「そうオコんなよ。可愛い顔が台無しだゾー。顔だけは良いんだからよ」

「セクハラで訴えますよ!」

「そこまで言わなくても良いじゃん。ごめんごめん。飴あげるからよ、おまじないつきな」

 先輩は眉を下げて少し申し訳なさそうな顔をすると、ポケットから飴を取り出して、私の手に握らせた。そのままにぱっと音がなりそうなほどの笑顔になると、手をひらひら振りながら歩いて行ってしまった。この後外回りがあるって部署のホワイトボードに書いていたような気がする。

 手を開くと、透明の包みに白い飴が入っていた。ミントキャンディかな。口に含むと、正体がわかった。薄荷だ。昔どこぞのアイドルが歌っていた曲を思い出した。『薄荷の匂いの運命の人さ。僕の瞳には君しか映らない』ってやつ。もしかして、告白されちゃったとか? ナイナイ。そもそもあの興和先輩がそんな洒落たことをしてこないでしょ。ないわー。私は薄荷キャンディーを舌で転がしながら、どこぞのアイドルの歌を口ずさみつつ廊下を歩く。

 あーあ、何処かに良い人いないかなぁー! 胃が痛くなってきちゃったや。




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