第2話 邂逅
重い足取りで、下駄箱へ向かった。他の人の下駄箱を見てみると、運動靴が置いてある物が多い。先ほど外で遊んでいた者以外はシューズのままと言う事だろう。
シューズから靴を履き替え、生徒玄関を開ける。錆びきった高い音を鳴らしながら閉まる扉。いつも気にする事のない扉の音が、今日はよく頭に響く。
それ程までに静かな世界だった。
運動場の足跡は、ついさっきまで誰かがいたかの様に残っている。
いや、さっきまで確実に、ここに人はいたのだ。しかし今はいない。
謎が謎を呼ぶとはまさにこの事か。この静かさから察するに、ここら一帯は誰もいないのだろうな。
街まで降りるか。
この学校は少し高い山の上にある。十分ほど下れば、駅や大型のショッピングモールなどが存在する。そこなら誰かがいるかもしれない。
だが、薄々気づいていた。この静寂は、ここら一帯の地域のみ人がいなくなったとは考えられなかった。
何故なら、車の音や鉄道の音すらしないのだから。風の音がよく聞こえる。
人が二人入るかどうかぐらいの、急な狭い階段を下りる。
運動神経が悪いのでかなりオドオドしながらではあったが。
たまに肩に木の葉があたるのが気になる。途中から物音がしたらすぐ気づける様に、ゆっくりと降りることにした。急ぐ必要もないと思った。
街に着くまでに誰かいてくれ、と言う想いも虚しく、長く続いた階段の最後の段を過ぎる。
静かだーーーー。
目の前には四車線ほどの大きな道路があるにもかかわらず、車の往来は一台もない。
それどころか、人すらいない。
まじか。かなり深刻な状態になってきた。歩道橋を渡って、反対車線の駅に向かおうとする。と、途中で反転。
車道に車はいない。わざわざ歩道橋を渡る必要は無い。折角だから、道路のど真ん中を渡ってやろう。
道路の真ん中。ここに立ち止まることが、日常であるだろうか。
暗いアスファルトの道は先まで続いている。
規則的に引かれている白線がよく見える。
そして、周りのビルが、冷たい視線で僕を見下ろしている様に感じる。
ここにきて、やはり感じる異常な程の孤独に寂しさを覚える。
冷たい風を全身に感じた。木の葉が擦れ合う音が辺り一帯にこだまする。
太陽が雲に隠れ、辺りは一瞬少し暗くなった。
僕は車道から駅に、動き始めた。
この駅のすぐ隣には、大きなショッピングモールがある。この駅とショッピングモールの間にはちょっとした広場があり人で溢れているのだが、勿論今は誰もいない。
さて、どうするか......
ショッピングモールの入り口に向かうと、自動ドアが開いた。
お、まだ電気が通っているのか。
しかし、もし誰もいなくなっているのなら、この電気はいつ止まっても不思議ではない。その事を肝に命じつつ、その場で一回転をし、辺りを見渡す。
うん。誰もいない。そしてエスカレーターの音がよく聞こえる。本当に人がいないのか?ここなら誰か一人はいると思ったのだが。
しかし状況が明日も明後日も続くとしたら......。
嫌な思想が頭をよぎる。厄介だな。果たして一人で生きていけるのか?食べ物は?寝床は?
自宅は戻ったとしても入れない。親が共働きのため、鍵がかかっている。親はいつも僕より先に帰ってきていたので、僕自身は、自宅の鍵を持っていない。
先の心配より今の心配だ。先ずは食料。
こんな状況でもやっぱり腹は減るものだ。たしかショッピングモールの正面を真っ直ぐ進むと、スーパーがあるはずだ。そうと決まれば真っ先にそこへ向かおう。
冷凍庫の低い音が鳴り響く店内。この音も、普段ならあまり気にはならないだろうが、今はかなり耳障りだ。
スーパーの隣にあるパン屋に並べられているパンを適当にひとつ手に取る。
その場で焼いて出来立てを提供するのが売りのパン屋のパンも、流石に冷たくなっていた。では一口。パンをかじりながらスーパーを探索する。店内は冷凍庫のせいか、少し肌寒い。
今は何時くらいだろうか..........
僕の持ち物はほぼ無い。ハンカチとポケットテッシュぐらいだ。服装も制服のまま。時計は店内から探すしか無いな。
結局、店先のパンをつまみ食いしている内に、空腹は満たせてしまったわけだが
これからどうするべきかーーーー
授業中の退屈な時ぐらい長く感じる時間。
どうしても先の事で頭がいっぱいになってしまう。この様な非現実的な事態になった時「これは夢? 」と、言う様なメジャーなセリフを頭に浮かべるが、実際、そんな冗談を言えるほどの余裕はない。
僕も思考のどこかで、もう今までの生活には戻れないと察している。
僕もまだ未練とか一応あるので、早々に立ち直る事は出来ない。
今日の今までは他人との関わりは最小限にとどめ、出来るだけ一人でいる様にしていた。
人の悩みやストレスの種の大半は他人と関わっているからこそ起こるもの。僕自身、他人が苦手という事もあり、一人を望んでいた。
いつも誰かに見張られている様で....
でも、いざ一人になると、それがどれだけ辛い事かを思い知らされる。
そんな事を考えて深くため息をついた時.......
「そこに誰かいるの? 」
そう、声がした。
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