お姉ちゃんなんて、大きっらい

私の名前は有村梨奈(ありむら・りな)。

今をときめくピチピチの21歳よ。

容姿端麗、仕事も出来、成績も優秀。交友関係にも問題ナシ。

そんな私が今最高にムカついてるのは―2つ年上の実姉・有村梨沙子。



「梨沙子ちゃんはボーッとして可愛いわねぇ」


なんてお母さんは言うけど、冗談じゃない。ボーッとしてる、だけじゃなくて正真正銘の大馬鹿者よ、私のお姉ちゃんは。食べ方は汚いし、歩き方は変なガニ股だし、

正直見ててイライラするのよねー。ボーッとしてるったって、限度ってモンがあるでしょうよ。



「ちょっとお母さん。間違ってると思ったらちゃんとお姉ちゃんのこと

叱ってよ。そうしないと将来困るのはお姉ちゃんなんだからねッ」


って、私はそう何度も口酸っぱく言ってるけど、お母さんは一向に耳を貸さない。もう諦めたけどさー。姉ちゃんも姉ちゃんで、なんで自分で気付いて直さないかな?

他の人に何か言われたりしないのかな??




「梨沙子ちゃんは文章書くのが得意なんだねェ。毎朝新聞の投稿欄に載ったことがあるって本当かい?」



「素直で明るくて、一緒に居て優しい気持ちになるねェ」




頭だって、容姿だって私の方が数段優れているのに―

他人より秀ものが一つでも見つかると、親戚連中はこぞって姉を褒めた。

ぼんやりしてて、仕事も出来ない、友達一人さえまともに作れない鈍真な姉が、チヤホヤされているのを見ると無性に腹が立った。




「あームカつくムカつく。どうせお姉ちゃん友達居ない癖に。

可哀想に、いつも一人ぼっち。まー無理もない、か」



フフン、と意地悪な笑みを浮かべてそう言うと、キョトンとした表情で

姉はこう言った。



「ありがとう、梨奈ちゃん。心配してくれてるんだね、梨沙子のこと。

姉想いの妹を持って私は幸せだよ」



ど、どんだけ空気読めないんだコイツ―!?

そう心の中で強く叫んだのを覚えている。嫌味や皮肉が通じないとは、

さすが我が姉―いや、決して褒めているという意味ではなく。



「梨奈ちゃーん。梨奈ちゃんに前友達が居ないって言われて、

コミュニケーションの取り方を学ぶ講座に通い始めたよ。そこで友達も出来たの。一人が楽、って思ってたけど友達居るのも楽しいね。教えてくれてありがとうね」


その1ケ月後―姉からそうLINEが来た。

なんだろう、この何とも言えない気持ち。強いて言えばムカつく。社会的一般の物差しで見れば、『超幸福』の水準に位置する私なのに、どうしてか『最低ランク』を生きている姉に嫉妬してしまう。そんな自分にも腹が立つ。




(あ~クソクソクソクソ。ムカつくことばっかりだ)



なんで姉ばかり可愛がられるのよーうっ

なんで姉の方が何十倍も幸せそうなのよっ

ロクな人生送ってない癖に・・・



『どうした、梨奈?なんかあった?』

『俺で良かったら話聞くよー』

『元気ないって聞いたけど、大丈夫??梨奈が落ち込むって珍しいね」


ラインの画面に映し出された、友人からのメッセージ。

1時間ラインを見なかっただけで、100は優に超えている。



「ふっ、私ったら。何をあんなに落ち込んでたのかしら」



何十、何百という私の友人達。

姉には友達と呼べる存在が一人も居ないが―(いや、一人位はいたかな?)

私にはこんなに沢山の数の友人が居る。姉にはこんな真似、絶対に出来ない。

…勝ったっ!心の中でそう叫んだ。





『オーイ梨奈、大丈夫?』

『うん、全然大丈夫!心配かけちゃってゴメンね(>-<)』

『本当に?何かあったらスグ俺に言えよ?どんな事でも解決してやっから』

『きゃ~まあくん頼もしい★でも大丈夫、今の所梨奈に悩みなんてないから☆』

『そう?だったら良いんだけどよ…』




高校時代の友人に、同じ部活内での仲間―ありとあらゆる人が、私の友人なのだ。昔からよく母に世渡り上手な子、と言われたが正にその通りだった。気も利くし、頭の回転も早い。私の周りはいつも人だかりで溢れていた。




「さ、気を取り直してお茶でも淹れましょっ」




全く、こんな事でいつまでも不機嫌になっていられないワ、そう自分に言い聞かせすくっと椅子から立ち上がった。

姉のために貴重な時間を割くのは勿体無い。そんなことを頭に思い浮かべながら。





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