彼らを導けるとしたら、彼しかいない。


 リオンはまさにカリスマ足りえるのだ。


 ブルーブラックの髪、茶水晶の珠の瞳。

 気高さの感ぜられる眉間の光と、理知的な高い鼻梁。

 まぎれもない決意のにじむ口元。

 立っているだけで人を惹きつけずにおかない、魅力はどうだ。

 まだ未知数の領域にあるその肉体のみずみずしさ。


 彼なら領民の希望であるとともに、救世主足りえないか?


 ティユーの領地にいた民は、今もって彼の無実を疑わないために、迫害を受けていたのだ。


 彼らを救う、その資格は面に現れ出ている。


 父に似たアリーシャも、よほど男であったならばと言われ、惜しまれていたからこそ、今も絶えず男勝りなのである。


 ここでもしも、アリーシャとリオンが共に領地を守るならば、世界をひっくり返すかもしれない。


 かつてのイスターテとティユーが、意気盛んだったころに、戻ることができるかもしれないのだ。


 かつてイスターテが夫に残した土地は、今はアリーシャのものである。


 ティユーは土地を追われる以前に、妻が残したものは妻の実家に返した。


 よって、その身元に寄っていたアリーシャが実際の持ち主なのだ。


 だが――ティユーの所有していた財はもうない。もちろん、その当時の領民たちは彼のことを忘れてはいないのだが。


 語り終わったリカオン領主が、このことを念頭におかずにいたわけはない。


 リオンは、瞬きもせずにその話を聞いていた。


 自分の前途には、どんな苦しい過去もみな払拭しうる、輝かしい未来の可能性があったのだ。ただ、知らなかっただけで!


 踏み出せば、自分の立っている場所は明るみだった。


 父母の霊も後押しをしてくれている。そんな気がしてならない。


 ここでリカオンの城主のもと、騎士としての修行を積めば、より確かな足場とすることができる。


 リオンは微塵も迷わなかった。


 決意をもって、儀式に臨んだのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る