ティユーは騎士となる以前に、地方の領主の一人息子であった。

 

 各地から縁談の申し出があり、引く手あまただった。

 

 ティユーは同時によい領主となった。

 

 領民に親切で、土地の恵みをわかちあい、犯罪をとりしまる模範的な存在だった。

 

 彼はリカオンの娘イスターテと婚姻し、領地を広げた。

 

 騎士としてのティユーは、最大の戦果を築き上げ、急激に力を伸ばしていった。

 

 とあれば、他の領主からも、良きにつけ悪しきにつけ注目され始め、若い彼はたちまち意気盛んな主として知られるようになったのである。

 

 そこで、とあるごとにやっかみが起こり、彼の居ぬ間に館を襲うものもいた。

 

 あるとき、西に位置した陣から、南の陣が館を取り囲んだ。

 

 そのとき、ティユーは僻地にて戦いの真っ最中。帰れるはずもない。

 

 そこで一息し、リカオン城主はつけ加えた。



「もっとも、僻地に彼を押しつけたのは上級領主だった。もとから、彼の城を落す企みだったのかもしれぬ」



 ティユーの館は背後に味方を持っていたはずだったが、領民の畑を焼かれ、頼りは若い騎士たちだけ――


 イスターテの乳姉妹でもあった、侍女――フィデリテは、イスターテの生後何か月かの愛娘をあずかった。


 イスターテは自ら戦陣を率いて敗北。


 それは、彼女がどうやっても勝てない戦だった。


 騎士たちは次々と倒れ、刻、一刻と打つ手を阻まれた。


 しかも味方の補給が断たれて往生し、痛手はあまりにも大きかった。


 イスターテはその戦中に命を落としたという。自害したのだ。


 誇り高い彼女は、捕虜となって身代金と引きかえにされるのを拒んだ。


 それよりも死を選ぶことで、ティユーの損害を最小限に食い止めたのだ。一途な女だった。


 残された娘、アリーシャはフィデリテによってリカオンまで連れてこられた。


 ティユーは妻の仇をうって土地を奪い返したが、その後も彼の財産を狙って数々の手がかかった。


 そんなさなか、とある上級領主が、アドラシオンの王の名乗りをあげたのである。


 その王には一人娘があった。


 そしてその娘を、勢力範囲を広げるためにある領主に嫁がせたがった。


 その領主がティユー。


 騎士ティユーは、それまでにすでに小規模な国を持つまでになっていた。


 そのままではいずれ敵になる。そうなる前に王は彼を味方に引きこみたかったのだ。


 だがティユーは、縁談を断り、ひとりの召使を娶った。


 それはたった一人、残された娘に付き従っていた女だった――やがてリオンの母となる、フィデリテのことである。


 そして忌まわしい事件が起こった。

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