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「アドラシオンで行われる剣術試合とは、いわば戦闘訓練のようなものだ。騎士どうしが命のかけあいをするためになされる」
「それじゃあ、一般人の参加は――?」
「剣術大会に出るのならば、騎士とならねばならん」
リオンは思案に暮れた。
「じゃあ、騎士となるのには、どうすれば?」
「私が称号を与えよう。ただし、剣術試合がどんなものかも知らない若手を、いきなり参戦させるのは私は感心せん」
それは、リオンの技量も知らずに、騎士にすると言っているのと同じだ。
「じゃ……俺は戦えぬものとおっしゃるのですか」
リオンは拳をズドンと打ち下ろした。リンゴがまるまる砕けた。あたりに芳醇な香りが漂う。
「ナイスガッツだ」
領主は手を打ち鳴らした。
リオンは、自分を売り込むなら今しかないと直感した。
「俺は仕官したいんです。できうるかぎり、良い条件で」
腰の剣をかざして見せるのも忘れない。
「俺はティユーの息子。その剣を受け継ぐ者です。お望みとあればお見せしましょう」
「そうか。仕官するというのなら、この私のもとではどうだ。どこの王にも対抗しうる力を持っている」
リオンはふと首をかしげた。どこの王でも、ここと同じだけの力を持つというのでは、この地方一帯では壮絶な戦いが予想される。仕官の道を選ぶのならば、戦いをするのが前提条件だ――違いない。
だが領主は補足した。
「もっとも、ここまでの城を構えられるのは、王都からずっと西だからだ。他は小競り合いで疲弊している。内政干渉も弱体化の原因だ」
迷うことはない。頷こうとしたときだった。
「さあ、ここにならぶ料理や、ゆっくり眠ることのできる寝室も、報奨金もはずもう。それもこれも騎士ティユーの息子だからだ」
リオンは盃を音立ててテーブルに置いた。たたきつけるように。
「父はなぜ王都の貴族に嫌われて――?」
「それは政治的理由によるのだよ。いろいろと都合の悪いことが重なって……ティユーは斬首刑にされたのだ」
斬首、と口中で唱えて、その意味を理解する。もうこの世に父がいないことを、改めて。
それにしてもその刑執行のいきさつがわからない。
「都合の悪いこととは? なんなんです?」
「つらい思いをせねばよいが……いいだろう。すぐにわかることだ。聴くがいい」
領主の話は長くかかった。土地の者ではないリオンには難しい部分もあった。
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