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食卓はテーブルをそろえたばかりだ。運ばれてきた料理は質も量もいままでの数倍ある。
改めて、領主の力を示されたような心地がした。
香ばしい焼けた肉の歯ざわりと、臭みを消す香辛料と塩加減がいい。口の中で肉汁がはじけるようだ。果実酒ものどごしがよい。
「……フィデリテ……といったか、リオン。君の母君は」
「はい」
領主は満足いったようだ。
「ならば、あの当時のことを教えねばならんな……」
リオンはすでに聞いた話をくりかえした。領主はリオンの知り得なかった情報のみを提供してくれればいい。
「よろしい。君の母君と私はなんの関わりもないとは言い切れないのだからな。彼女はアリーシャを面倒見てくれていた召使だった」
アリーシャの名前をきくと同時に、からだのどこかがきしむような心地がした。
青年を遠ざけることで、彼を自分の支配下であると主張していた姉。チャンプは彼女には逆らわない。できないのだ。
平衡感覚がなくなる。リオンはナイフをとりおとした。
「どうしたかね」
「いえ、めまいが……」
アリーシャは十年来の青年の恋人だ。
「やすむかね」
リオンは首をふった。
「すぐおさまります」
さりげなく間をとってから、リカオンの領主はいきなり話題をふってきた。
「さて……厳粛な気持ちで聞いてほしい。実際の縁続きではない君をこの城に受け入れるのには条件が必要なのだがね」
「おじさま! なにをおっしゃるのです。リオンは私の弟。では義理とはいえ、あなたの親族ではありませんか」
アリーシャが無理やりな主張をした。
領主は果実酒をのどに流しこみ、旺盛な食欲をみせた。
「確かティユーは騎士だったな。ならば、君には騎士となる素養がある。ちがうかな? リオン君」
リオンは用心深く頷いた。
「剣術大会に出られれば、そして優勝すれば騎士団に入れるのですよね。アドラシオンではそうらしい」
領主はテーブルクロスで口元をぬぐった。
「つまり騎士になりたいわけだな」
「はい。そのつもりでいます」
今度はしばらく間があった。
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