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「あっ……つっ、チャンプか」
しびれるような感覚がまた戻る。
脳髄をかきまわされるような気色の悪さ。
忍び笑いがまたした。
「おまえって強いのな。三日と目を醒まさないのが普通なんだぜ。ま、そのかわりしばらくは起き上がれまいがな」
うめいてリオンはつぶやいた。
「どうしてあんたが隣にいる……?」
出たのはやや不機嫌そうな声だった。
乾いた笑いがそれに応えた。
「それはな、ここが俺様のベッドだからさ」
青年は流し目でこちらを見た。
「それでどうして、左腕が動かないんだ」
位置関係からいって察しはつくのだが、腹の立つ予想だ。
からかうように、青年はまた笑う。
「万一、宿代をふみたおそうと、逃げ出されちゃかなわないからな」
やっぱりチャンプの身体の下だったのだ。
意識して見ると相手は軽傷。こんなときだが、やはり悔しい。
彼はどこか危うい瞳でのぞきこんでくる。そしてリオンの前髪をかきわけて、額を軽くたたいた。
「また喧嘩やろうぜ。一対一でな」
なぜそんな誘いをかけてくるのかわからない。自分の優位を示したいのだろうか。だが青年はこう言った。
「おまえとやるのはおもしろい。久々に楽しかったぜ」
その声は歌うようだ。鼻歌まじりらしい。ため息が出た。
「残念だったな。俺はもうこれっきり、たくさんだ」
情けなくて涙が出てきそうだ。実際は出てこなかった。それよりも悔しい。
「まあそう言うな。思いっきり、景気よく仲間入りしたことだしな」
チャンプは仰向いて笑っている。
やはり、決着はつけておくべきだろう。
リオンはあきれた。こういう人種だったのだ、賭場に集まっていたのは。
気がつくと頭上に煙がわだかまっている。シガレットをふかすらしい。
リオンは動きのとれない身で顔だけそむけ、遠慮がちに咳きこんだ。
どうにもやるせなかった。
この男の横で、苦しくて眠れない。もう眠りたい。なにもかも忘れたい――なのに。
けむたくて、吐き気までした。
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