第三話もう眠りたい

 景色がぼやける。全てのものがかすんで、よく思い出せない。


 なにがあったのか、自分はどうなったのか、そしてここはどこなのだ。


 片腕を動かそうとしたが動かせない。感覚がなく、自分のものではないかのようだ。


 息をついたが、全身に痛みが走った。急に恐怖が襲いかかってきた。あたりは暗闇だ。


 少ない可視範囲に明かりがあって、どうやら地べたではないらしい。


 穏やかな光の中に見れば、体の上に乗せられているのは、暖かいかけ布だ。


 だれかが介抱してくれたのだろうか? それにしても左腕がぴくりとも動かせないのはどういうわけだ。


 痛む首筋を巡らせてみると、柔らかなものが頬に触れた。明かりが届かずよく見えない。が、生き物のようだ。


 香草の匂い。リオンはなんだか草原にいるような気がした。


 うっとりと目を閉じると、金の草原の隅から目玉が現れる。それはじーっとリオンの表情をうかがっていた。


 リオンが気配に気がついて目を見開くと、それはゆっくりと細められる。


 忍び笑いがした。影の中で動くものがあり、小刻みに震えている。


「な……んだ?」


 笑い声が止まった。


「だれかいるのか……」


 声は驚くほどしゃがれている。


「……ここはどこなんだ……」


 ぬっと影がふくれて、金の草原が甘い唇でものを言った。


「……俺様の家の中だ」


 声だけでだれかわかった。

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