リオンは急に頭のしんが熱くなり、何も考えられなくなってしまった。


 なにかが燃える。身の内で盛んに駆り立てられる、命の火。それが目の前の青年にむかって、ほとばしった。


 空中で身代わりとなった男はのびて動かない。あばらは折れたかもしれなかった。


 砂漠で鍛えたリオンの蹴りが炸裂したのだ。当然だった。


「どうせ命など木の葉と同じ……くらえっ」


 青年の言葉に策略など通じないと感じとり、リオンは本能のまま暴れた。


 気がつけば青年とリオンのみがあい残った。


「やるな、みかけによらず。おまえ、名前はなんという? 初めて見るヤツだが、知ってる気もするな……おもしれえぜ……っ」


 薄暗い照明の炎の中で青年はうれしそうに叫んだ。リオンの拳はあいかわらず防がれている。こうなればまぐれでも構わない。一矢むくいたい。


「俺の名前が知りたけりゃ、槍でも剣でも持ってきなよ!」


 ふと、青年が炎を斜めに浴びながら笑った。


「そんな目で、俺はころせねえよ」


 その言葉と共に、リオンは床に沈んだ。


 どこをどうされたのかもわからなかった。熱いしびれが脳内を麻痺させていき、何も考えられない。目の前が暗くなっていった。

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