☮
男は無言で火をかきたてた。
「どおれ、私まで物語らねばならん。昔、盗賊をやっとってなあ。けちなものだった……。それがアテができて王都へ行くのよ」
気づいて問えば、男は小指を示してこう答えた。その指にはリングがオレンジの火に照らされて光っていた。
「これがそのための御印さ……」
「アテ、ってなんだ」
「唯一にして最大の、絆、みたいなものさ」
首をふって男はいったん、唇を湿した。
「私はかねがね盗賊の一団を率いる男になりたかった。わかるかね、この手で盗みたかった……世界を。けちな財宝などでなく」
「くだらないな。砂漠にもそういう輩はいた。俺はしばらくこき使われたが逃げてきた。盗賊なんてろくなものじゃない」
「私もそう思ったよ。だから、夢を見た。世界を手に入れるのが夢だった」
「なら、砂漠にはどんな価値があるという? あそこだけはよすといい。すでに何もなくなった……いたましい記憶と思い出の他に」
言葉尻を無視して、男はたき火にかざした手を大きくもみしだいた。
「砂漠か。あれは人の住むところじゃない」
「牢獄さ……年をとったら住むといい」
「そうして夢も希望もなくしたら、おまえは帰っていくのか?」
震えながら、少年はかきあわせたマントに首を埋めこんだ。
そうすると幼い体が、いっそう小柄に見える。肩も背も小さな幼子にも似て、か細く手折れそうなほど。
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