男は無言で火をかきたてた。


「どおれ、私まで物語らねばならん。昔、盗賊をやっとってなあ。けちなものだった……。それがアテができて王都へ行くのよ」


 気づいて問えば、男は小指を示してこう答えた。その指にはリングがオレンジの火に照らされて光っていた。


「これがそのための御印さ……」


「アテ、ってなんだ」


「唯一にして最大の、絆、みたいなものさ」


 首をふって男はいったん、唇を湿した。


「私はかねがね盗賊の一団を率いる男になりたかった。わかるかね、この手で盗みたかった……世界を。けちな財宝などでなく」


「くだらないな。砂漠にもそういう輩はいた。俺はしばらくこき使われたが逃げてきた。盗賊なんてろくなものじゃない」


「私もそう思ったよ。だから、夢を見た。世界を手に入れるのが夢だった」


「なら、砂漠にはどんな価値があるという? あそこだけはよすといい。すでに何もなくなった……いたましい記憶と思い出の他に」


 言葉尻を無視して、男はたき火にかざした手を大きくもみしだいた。


「砂漠か。あれは人の住むところじゃない」


「牢獄さ……年をとったら住むといい」


「そうして夢も希望もなくしたら、おまえは帰っていくのか?」


 震えながら、少年はかきあわせたマントに首を埋めこんだ。


 そうすると幼い体が、いっそう小柄に見える。肩も背も小さな幼子にも似て、か細く手折れそうなほど。 

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