しかたなしに縄つたいに男が穴の底へ下りていくと、驚いたことに少年は傷だらけだった。男と一緒に落下してくる土くれに埋まった足を、引きぬくのに一苦労する様子。


「うん? 足がうごかねえのか」


 男が手伝うつもりで足を引きぬいてやると、少年はあえいだ。


 髪をふって、痛みをこらえるよう。はっとして男がよく見ると、少年は頬に影を落として懸命に声を殺している。


「う、うごかないわけじゃない。……よじのぼろうとして落ちたときひねったんだ」


 額には汗がつたっている。よった眉根が瞳の光をゆがめていた。


 正直男はうなった。


 これだけいたましい姿をさらして、あのような強気な台詞を投げてきたのだ。並の神経ではない。


「腫れてるなあ。これじゃしょうがない、しっかりつかまっていろ」


 少年は男の背にしがみついて、その穴を脱出した。男は親切にも彼を背負ったまま、山道をゆく。怪我が治るまでという条件つきでだったが。


「だれかの罠を駄目にしてしまって悪いとは……思った。しかし不覚にも、足を滑らせて……」


 男の背で少年の腹が盛大に鳴った。


「なるほど。腹がへって、か?」


「うっ、うるさいな。腹くらいだれだってへるだろうがっ」


 そのとき、首をふりふり、男が天を仰いだ。


 木立の暗がりに澄んだ光がきれつを走らせている。そのせいかもしれない。男は、からかう他にもはやなにも言わなかった。








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