第16話ーcarryonー真相へ
「記憶を取り戻す方法ねぇ……」
困り顔でそう呟いたのはカレラだった。
食事が終わった後も、先程の話し合いは続けられていたのだが、議題は
なぜ国王がナターリアの捜索をしないのか、ということからナターリアの記憶を戻す方法へと移り変わったのだ。
しかし、そう簡単に見つかるはずもなく
……
「いいや。多分ナタリーの記憶喪失は転んでそこらに頭をぶつけた、とかそういう
"事故"じゃなく"人為的"なものだと俺は思うんだ。だから、もし犯人がいるとしたら……捕まえてどうにかするしかないんじゃないかな」
「拉致されたっていってたし……やっぱりそうかしらね……」
当事者であるナタリーを置いてきぼりにして、議論は続いていた。
ーーうぅ……私……迷惑……なのかな……
ふと、ナタリーの頭にそんな考えがよぎる。
問題を抱えている自分を拾ったばかりに、オリヴァーやカレラに迷惑をかけているのではないかーー
「あの!……やっぱりこの問題は……私が自分で解決する……オリヴァーやお母さんに…迷惑はかけられな」
「「そんなことない!」」
ナタリーの言葉を遮るように、オリヴァーとカレラは叫んだ。
「前にも言ったろう…?ナタリー……君はまだ子供なんだから、頼ってくれていいんだ 。それに…君のおかげで……母さんも元気になったんだよ?それをどうして迷惑だなんて思うのさ!」
「そうそう。それにあなたはもう家族みたいなものなんだし……記憶が戻って、家に帰れるようになるまではうちでキチーンと面倒見てあげるんだから……」
カレラは優しく包み込むように、ナタリーを抱き締める。
本当の母親からのようなその抱擁は、
ナタリーの頭の中から不安という言葉を消し去り、暖かな……温もりだけを感じさせた。
「お母さん……オリヴァー……」
すると、ナタリーはカレラの腕の中で
啜り泣き始めてしまった。
「ぇぐっ……ひっぐ……ありがどう……
ありがどう…!」
ただ、ただひたすら、カレラはナタリーを力強く抱き締める。
そしてその様子を見守っていたオリヴァーは
ーー早く、一刻も早く……記憶を取り戻さなくちゃならない。ナタリー……俺は君を……絶対に助ける…!
と、密かに決意を固めた。
ナタリーが泣き止むのを、二人は静かに、
静かに、暖かく待ち続ける………
△▽◎▽△
"デスボノア"通称・『死の大通り』にて………
「ドネロの親方ァ!今日は良い"商品"を持ってきたんだがよぉ。ちょいと見てみる気はねぇかァー?」
隻眼の青年が、"ドネロ"と呼ばれた男の家にそう叫びながらズカズカと入り込む。
すると、その声を聞き付けた顔中が深い傷が刻まれた小太りの男が奥から現れた。
「おお、おおガルートゥ!やっとか!
やっと新たなコレクションが手に入ったのか!して、今度のはどんな"記憶"だ!?」
奥から現れた男ーードネロ・ドヴァルクは、まるで感情の抑えられぬ子供の様に嬉々とした表情で、隻眼の青年ーーガルートゥに尋ねる。
「ままま、落ち着いてェ……今回のはね……ヤバいんだよ。これでもかっつーぐらいヤベェ……ガチでよぉ…」
「おお!焦らすな焦らすな早く言わんか!
どんなんだ!?どんなんなんだ!?」
落ち着く様子のないドネロに溜め息をつき、ガルートゥは
「じゃあ発表ゥーー!タラリラタラリラタラリラタ~~~~~ン♪」
と口でbgmをつけた後ーー
「ジャジャ~ン♪ナント!王様の娘さんの記憶でェーーす!」
腕をバッと開き、ついにそれを発表した。
それを聞いたドネロは、頭を垂れて肩をブルブルと震わせる。
「あれェ?どうしたのォ?」
「ガルートゥ……」
震えた声を出しながら、ドネロはガルートゥの肩をガシリと掴む。
「よぉくやった!確かにヤバイぞ!とてつもなくナァ! そうかそうかそうかそうかッ!王女様の記憶かァああああああ!!!
興奮するなあああ!!!それでッ!?それはどこだ!?どこにある!?」
「唾飛ばしすぎだぜドネロの親方!
ほら、"いつも通り"ここにあるよ」
そう言いながら、ガルートゥはその掌をパッとドネロに見せつける。するとそこにはーー
「えぇと、
"ナターリア・シュツルム・アリア"。
"性別・女""年齢・14"
"父 ダルト・シュツルム・アリア"
"母 ルーナ・シュツルム・アリア"……!
素晴らしいッッッ!!!本物じゃないかッッ!!
買う!買うぞ!今すぐでどうだ!?金はいくらでもーーッ!!!」
興奮のし過ぎで暴走し始めたドネロをたしなめるように、ガルートゥは人指し指をドネロの額に突きつける。
「ま、ちこっと待てよ!他にもあんたみたいな"コレクター"は多いんだからさ。まだ売れないねっ!」
その一言で、ドネロの表情は一変し気が抜けたように頭を垂れた。
ガルートゥは掴まれた肩を振りほどき、
外に向かって歩きだす。
「それではさようなら!また会う日まで!
なんちゃって」
王都の闇で、密かに暗い取引が進んでいく……
オリヴァーは、ナターリアの記憶を取り戻すことができるのかーーーー?
△▽◎△▽
「それじゃあ行ってくるよ、母さん。
というか、本当に君も着いてくるのかい?
ナタリー………」
現在、オリヴァーはナターリアと共にデスボノアへと向かおうとしていた。
デスボノアといえば、この王都ーーいや、
周辺国中の闇が集まる場所。
もし本当にナターリアの記憶を奪ったものがいるとするならば、その犯人の手掛かり
はきっとそこにしかない、という希望的観測の元、オリヴァーはデスボノアに赴くことを覚悟したのだ。
だが、1つだけ予想外のことがありーー
「当たり前でしょ!私の記憶を探すのに、私がいないなんて……そんなの変じゃない」
ナターリアもデスボノアに着いていく、と言い出したのだ。
さすがに一国の王女をあんな危険な場所に連れていくのは……
と最初は躊躇していたオリヴァーだったが、ナターリアのあまりの押しの強さに
敗北し、半ば強制的に連れていくことになってしまった。
「はぁ……なんとなくそう言うと思ってたよ……まぁ、実際その通りなんだけども……それじゃあ今度こそ、行ってきます」
出発の挨拶を告げるオリヴァーに、カレラは不安げな表情を見せた。
「オリヴァー……気を付けてね。きちんと……ナタちゃんを守ってあげてね…?」
母のその言葉に、オリヴァーは自信満々の表情でーー
「もちろん!任せてくれよ母さん。この剣と父さんに誓って、必ずここに帰ってくるよ」
と、腰に差した父の形見である剣を抜きながら答えた。
それは、端からみればただの古ぼけた剣ーーだが、オリヴァーにとってその剣は
、唯一の父の形見であり、正義の象徴なのだ。
その後は、カレラはもう何も言わなかった。ただ、心の中で自身の息子の成長を嬉しく思うだけだった。
そして、動き出す馬車をカレラは静かに見送るのだった……
△▽◎▽△
馬車の中にてーーー
「怖くはないかい?ナタリー」
「怖いわけないわ。優秀な護衛がついてるからね~♪」
オリヴァーの問いに、ナターリアは鼻歌を歌うかのような調子で答える。
そうするとオリヴァーは
「そう言われると照れるな」
そう一言呟き、ポリポリと頭を掻いた。
ゴトンゴトンと揺れる馬車の中で、二人は
そんな他愛もない繰り返し、デスボノアに近づいていく。
死の大通りと呼ばれる、その場所へ……
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