第12話 プロローグ1 "オリヴァー"
その男の名は、オリヴァー・レイ・ヴェルヴェット。
彼の生まれは小さな農村。
剣士であり、正義感の強い父と気高く優しい賢者の母の間に生まれた彼は、
父には剣術、母には魔法の英才教育を受けながら、正義感が強く優しい子供に育っていった。
しかし、彼の父の"正義感"は極端なもので、
"正義はどんな物事よりも優先すべきものであり、それの邪魔になるものは親密なもの、例えそれが家族であろうと排除すべきである"
という持論を持ち、それを息子である
オリヴァーに叩き込んだ。
それ故に、彼は心の奥底には歪んでいるともいえるほどの"絶対的な正義"が植え付けられ、いつしかそれを"歪んでいる"と感じることすらなくなっていた。
そしてそのまま時は流れ、彼の16歳の誕生日ーー
彼は父を、失った……
そう、それは突然の出来事だった。
敵国との争いが激化し、遂に彼の村にも魔物たちが攻め込んできたのだ。
配置されていた衛兵達は、魔物の物量に圧倒され次々に殺されていった。
だが、本当の地獄はここからだった。
魔物達は衛兵を皆殺しにすると、次は村人達を蹂躙しはじめたのだ。
非力な村人達は、自分達の数倍もある大きさのオークに敵うはずもなく、その棍棒で
グチャリグチャリと潰されていき、
平和だった村は一変して地獄へと変貌した。
その中で、唯一の抵抗をみせたのがオリヴァーの父だった。
自分の愛する家族の為、自分が信じる正義の為、彼は立ち上がったのだ。
しかし、全盛期の頃ならばいざしれず
年老いた彼の体では嫁と息子を逃がすだけで精一杯。
必死の抵抗を見せたものの、
オークの振り下ろす棍棒になすすべもなく他の村人同様に、グチャッという音と共に……叩き潰された。
ーーその時、オリヴァーも、その母も、心で理解した。自分の父が、夫が死んだことを……
そしてーーその瞬間に、オリヴァーの心を
えもいわれぬ悲しみと、怒りが支配した。
あの最後まで正義を貫き通した誇り高き父を殺し、優しい母を泣かせた魔物どもに、
"正義の鉄槌"を"裁き"を下さなくてはならないと。
オリヴァーは、あなたまで失いたくないと静止する母を押し退け、怒りに震える手で近くに落ちていた剣を握りしめ、
魔物達のところーー底の見えぬほどの
地獄と化した村へ駆けていくーーーー
「俺が……殺すッ……!あいつら全部ッッ…!この俺がッ!」
血走ったその目は、血に飢えた獣。
その形相はーーまさに"鬼"。
「グォァァア!!!!」
逃げてきた道を引き返し村に戻ったオリヴァーの視界に入り込んできたのは、
棍棒を振り回し、見慣れた村を好き勝手に
破壊する一匹のオークの姿だった。
その周りには、原型もとどめぬ様な無惨な姿になった村人達……
ーー父さん……母さん…!力を貸してくれッ!!こいつらを皆殺しにできる力をッッッ!!!!
「うぉぉおおぉおおおおおッッ!!!!」
突撃ーーそれは無謀とも思える突撃だった。殺された他の村人達と同じ様に潰されるかもしれぬ、防御を捨てた特攻ーー
だが、オリヴァーの心には死への恐怖も
不安も存在しなかった。
ただ、強い憎しみとどこからか溢れでる
"自分には絶対に攻撃が当たらない"という
自信だけがあった。
「グォアアアッッ!!」
咆哮をあげ、オークはオリヴァーを叩き潰そうと棍棒を振りかざす。
だがーーー
「そんなものッッ!!!」
父によって鍛えあげられたオリヴァーの反射神経にかかれば、オークのスローな攻撃など赤子のパンチの様なもので、容易くかわすことができる。
ーー今ッ!
瞬間的に、オリヴァーは攻撃へうつる。
オークの巨体の腹部へーーー斬撃。
「グォオオッッ!!!!???????」
吹き出る大量の血とともに、オークの口から悲鳴が漏れた。そしてーーバタリ、と地面に倒れふし、事切れる。
しかしーー何故たった一度の斬撃で、強靭な筋肉の鎧を持つオークを絶命させることができたのか?
その答えはーーーー
「はぁっ……!はぁっ……!なんだ……これ……"見えた"……!どう避ければいいのか ……どう攻撃すればいいのか……"見えた"。
進むべき道が……」
彼の"目"にあった。
それは決して反射神経が良いとか反応速度が速いとかいう問題ではなく、
彼の"目"には、"赤い線"となって、
回避、攻撃の"ルート"が見えていたのだ。
本人は気づいていないが、変化は彼の瞳に
も起きていた。
元々、薄い緑色だった瞳の色が、
血塗られたような赤へと変貌を遂げていたのだ。
ーーこれは何なんだ…?"能力"なのか?
オリヴァーはまだ自分に起きている現象を
理解できていないが、彼にとってはそんなことはどうでもよかった。
彼が求めるのはーーー次の敵。
乱暴に怒りをぶつけられる相手。
だがーーー
「どこだ…!?敵はどこだァッ!!!」
帰っていったのか…はたまた別の村を襲いにいったのか……先程のオーク以外、最早魔物達はどこにもいなかった。
後に残ったのは……破壊し尽くされた家々と、血だまりのみ。
オリヴァーは、他の村人達を助けられなかった己の非力さを呪い、
行き場のない怒りを叫ぶ。
「く……くそッ……くそぉ……ッッ……
ふざけるなッ……ふざけるなよ…クソども…!まだ……!まだ殺したりねぇぞォォォ!
逃げてんじゃあねェえぇええええ!!!!!」
その叫びは虚空に消えるーーーー
「俺に…ッ!!!俺に怨みを晴らさせろォォーーーーーーーー!!!!!!」
オリヴァーの心に残ったのは、
憎しみか、怒りか、悲しみか、
それとも圧倒的な虚無か。
その叫びは、ただひたすらに……
悲痛なものだった。
だが、そんなことは意にも介さず、無慈悲に時は流れていくーーーー
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