第10話風のカーテン
それから剣也は、月夜に出かけることもなくなった。連続殺人事件は捜査中のまま、闇に葬られつつあった。
剣也と聖輝は学校でも共に過ごすようになり、周りも二人の仲の良さを認めるようになった。聖輝は学校でも髪を下ろしているようになった。相変わらず無愛想な剣也とは対照的に、聖輝は前にも増してにこやかになった。ただでさえ可愛らしい顔立ちであったのに、長い髪をして艶やかに笑う聖輝は男子校の中では際立った存在であり、見惚れる輩も増えていった。そんな者たちの間では、剣也は羨ましい限りの存在である。しかし、嫉ましく憎らしいと思うと、剣也のスキの無さ、逞しさがなんとなく判ってくるのだった。
二人は幸せそうだった。しかし、本当の幸せはとうとうやっては来なかった。聖輝が腕を絡めたり、肩に寄りかかったりしても、剣也は嫌がらず、もちろん心の中では喜んでいるに違いないのだが、決して剣也の方から抱きしめたり、愛を語ったりすることはなかった。
「近頃刑事を見かけなくなったね」
「ああ」
二人はいつものように、屋上へ続く扉の前に並んで腰掛けていた。
「もう、屋上に出ても大丈夫かな」
「出たいのか」
「うん。一度出て、景色を見てみたいな。でも、誰かに見つかったらまずいから、いいよ」
「見つかっても平気だ。べつに人殺しだという証拠にはならない」
剣也は扉を開けた。聖輝は初めて屋上へ出た。風が程好く吹いていて、髪を揺らした。その姿はこの上もなく美しく、剣也は聖輝の横顔を暫く眺めていた。
扉を閉め、剣也は聖輝の側へ歩み寄った。聖輝が振り返ると、きらめく笑顔にぶつかった。
―眩しい―
剣也は抱きしめる寸前にその腕を止めた。そしてぷいと後ろを向いて歩いて行き、聖輝に背を向けて座った。聖輝はそのまま静かに涙を流した。二人には、背負った罪が重すぎる。愛されても自分を許せない剣也。愛していても、傷を癒すことのできない聖輝。二人の間を風のカーテンが遮り、聖輝の涙は乾く暇無く流れ続けた。
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