第8話不審な高校生

 「警部、耳寄りの情報が入りました」

佐々木警部が資料に目を通していると、谷口が急ぎ足でやってきた。

「大宮市の桜木高校に怪しい人物がいるそうです」

「桜木高校か」

佐々木は高校生に的を絞って捜査させていた。

「この学校、屋上へは出られないそうなんですが、近頃その屋上に一人の生徒が出ていることがあるという目撃証言があったのです」

「何だって?どうして屋上へは出られないんだ」

「はい。屋上へ出る扉が一つしかないのですが、その扉はもう二十年も前から開かなかったそうなのです」

「開かなかった?」

「何か、地震のせいだとか。鍵はかかっていませんが、「普通の人間」には開けられません。自分も試してみましたが、びくともしませんでした。警官三人で体当たりしたら開いたのですが、閉めるのがまた大変で、ロープを使って先生方と一緒に綱引きのようにして閉めたのです」

「ほーう」

佐々木の目が光った。その扉を一人で開け閉めした人物がいる。そいつが犯人に違いない。高校生のくせに恐ろしい怪力を持つ男。

「で、そいつはどんな奴なんだ?それだけの力があれば学校内でも知られているだろう。もう判ってるんだろうな」

「いえ、それが、そういう怪力を持つ生徒はいないそうです。屋上にいた人物はごく普通の体格で、これといって特徴もないそうで」

「隠しているのか、力を。しかしなぜ殺人を…」

またしても二人は首を傾げた。不可解な事件だ。目立たない、普通の高校生がなぜそんな怪力を持ち、殺人を犯すのか。

「とにかく、その高校に張り込みだ。また屋上に現れるかもしれない。それに、怪力男だ。よく見れば外見でだって判る筈だ」

佐々木は背広を掴んで歩き出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る