第7話満月の夜
満月が光々と照っていた。剣也は家を走り出た後、公園の中を彷徨い歩いていた。時々月を眺めては、沸き上がる一種の興奮状態をもて余し、拳を振り上げ、近くのブロック塀を思い切り叩いた。脆くなっているところは砕けて粉がポロポロと落ちた。月の輝きは聖輝の面影を思い出させる。
―だめだ、こんな俺なんか。…信じるな。誰も信じない。信じたら終わりだ。俺は殺される。
聖輝は一人礼拝堂に残され、しばし呆然としていた。聖輝も充分掻き回されていた。感情が欲望についていけない。今、どうしたいのか、どうして欲しいのか、それは理性よりも先にやってきて、聖輝を戸惑わせていた。聖輝は祭壇に向かってひざまずいた。とりあえず今夜、何事も起こりませんように。
「おい、お前、そこ退け。俺の場所だ」
剣也が公園のベンチに腰掛けていると、高校生くらいの不良が四人、いつの間にか前に立ち塞がっていた。
「何ガンたれてやがんだ、あ?」
一人が剣也の胸倉を掴んだ。その勢いで剣也は彼らの前に立った。そして未だ胸倉を掴んで放さない奴を一瞥すると、軽く一発顔を殴って、ツカツカと背を向けて歩き出した。「てめえ、やりやがったな」
不良どもはみんなして小型ナイフを手にして剣也に襲いかかってきた。近頃は物騒ということで、ナイフを持つことが不良たちの間で流行にでもなっているのだろうか。しかし剣也に対しては何の役にも立たない。
一人目が襲いかかって来ると、剣也はそいつの右手を左手でパシッと掴み、軽く捻じってナイフを放させ、右手で頭を掴んでぐいとひねった。ボキッという鈍い音がしてそいつはその場に倒れた。一人目がやられぬうちにナイフを突き出してきた奴には、手を足で蹴り上げてナイフを落とし、左手でそいつの頭をひねって骨を折った。後の二人は一瞬たじろぎ、それからくるりと体を反転させ、走り出した。
「うわー、助けてくれ、バケモンだー」
しかし逃がすわけにもいかない。剣也は狼男のように、普段とは容貌まで変わるほど、月光の下でどう猛になっていた。しかし、いつもの無表情を崩し、ひどく悲しそうな顔をしていた。決して傷つけること、いや、殺すことを楽しんでいるわけではない。悲しい。けれど殺さずに済ませる方法を知らない。なす術を知らない。だから殺すしかない。この二人も殺せばいい、殺せば済む。殺さないでいい方法など考えられない。剣也は逃げる二人をいとも簡単に捕まえた。一人ずつ追い掛けて行き、頭に手をかけ、ほんの少しひねればいい。そうして四人を殺してしまえば、悲しさに苛まれる。
「うぉー」
剣也は一声大きな雄叫びを上げた。涙があふれ出してくる。
「…春名…」
そして剣也はトボトボと三十分歩いて家に帰った。
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