七幕 【東・準決勝二回戦目「知恵の神」】


 ◆◆◆




 二回目の舞台ぶたい

 とでも言っておくべきだろうか。


 二回戦目最後の試合しあいてきはイムホテプと言う神だ。

 あまり表に出てくるような神でもないのだが、今回は眷属けんぞくめぐまれたらしい。


 一回戦目の様子ようすを見るかぎり、過去に戦地せんちかどこかで訓練くんれんを受けた歴戦れきせん猛者もさという所だろう。

 そもそもイムホテプ自体には戦闘能力はなく、完全なバックアップ、回復やいわゆるバフ魔法まほう、身体強化や属性ぞくせい付与ふよ得意とくいな神だ。


 だが、いくら眷属を強くできるとはいえ、元々の戦闘センスがなければ普通の眷属と何も変わらない。

 その点、今回は人間として戦闘にすぐれた者を眷属にする事ができたためにこの大会に出張でばってきたのだろう。


「ロキ―そろそろ行こうよー。今回は存分ぞんぶんあばれていいんでしょー?」


「あぁ、そのつもりだ。SAえすえーチップ起動きどう飛翔ひしょう】」


 俺様は今回の試合はバックアップに回るつもりでいる。

 なぜなら、そうしないと前衛ぜんえいの眷属が強力すぎるからだ。




   6章 7幕【東・準決勝二回戦目「知恵の神」】




「やっときたか。盟友めいゆうロキよ」


「誰がいつ貴様きさまのような引きこもりと盟友になったんだよ」


「あはは、相変わらず口辛くちからい。君の事は個人的に尊敬そんけいしているつもりでいるんだよ?」


「ほぉ。なら存分に負け犬をえんじてくれ」


「あっはっは。それはちょっとできない相談だ。なんせ僕とじいやは最強のコンビだからね。いくら君が強くても僕とじいやには勝てないさ」


 イムホテプの眷属、じいや。

 見た目通りと言うかなんというかだが。


 イムホテプはどこかの貴族きぞく、そしてじいやと呼ばれた存在はその主人につかえる執事しつじと言う所だろう。

 年齢もそこそこ高齢なじいやと呼ばれてふさわしい白い髪とひげをたくわえている。


 俺とイムホテプの会話に何一つ身動きを見せず、ただただ合図を待っている。

 おそらくあの二人はもう兵装へいそう状態じょうたいだろう。


「ローキー、まーだー?」


「すまんなイムホテプ、うちの眷属は歓談かんだんきではないんだ。さっそくその最強の力を見せてくれないか」


「それはそれはしつけがなってない子犬ちゃんだ。じいや、わりにしつけてやりなさい」


了解りょうかいしました、坊ちゃま」


 イムホテプの態度たいどもうざったいが、何よりウザったいのは服装も見た目の小ささもた感じになっている所だ。

 そして今回は俺様はバックアップ。


 キャラかぶりは御免ごめんこうむりたい。

 天才で上からキャラは俺様一人で充分じゅうぶんだ。


「フェンリル、いけ」


「待ってました!変身へんしん!」


 俺様の眷属は正確には兵装をすることができない。

 兵装と言うのは天界の神の眷属に与えられた武装ぶそうの呼び名だ。


 俺様はフリーの神であるために、兵装の呪文じゅもん詠唱えいしょうを必要としない。

 能力は俺様に依存いぞんするため、防御ぼうぎょめんわり手薄てうすだが、瞬時しゅんじ戦闘せんとうモードになれると言うのは得だろう。


 フェンリルは狼男おおかみおとこの姿になり、遠吠とおぼえ一つするとイムホテプの方へ音速のダッシュを決める。

 それに呼応こおうし、イムホテプの眷属けんぞくのじいやも飛び出してきた。


「さあ人間対狼男の世紀せいきのショーの始まりだよ」


「何が人間だ。貴様の眷属は人間にんげんばなれしてるじゃねぇか」


 じいやと呼ばれた眷属はフェンリルの音速の速さに完全に対応たいおうしている。

 おそらくすでにイムホテプのバフ魔法がかかっているのだろう。


 じいやの手には強化されているだろう短剣たんけん

 その短剣でフェンリルの爪を完全にはじき、そこから超速ちょうそくのカウンターまでしている。


 だがフェンリルは自慢じまんの速さでそれをけ、いろんな角度、攻撃で仕掛しかけけてはいるが、どう見てもフェンリルの方がやや劣勢れっせいだろう。

 ここからは俺様の力の見せどころってわけだ。


「じいや、一気に決めるよ。強化魔法【神速しんそく】」


 イムホテプの魔法によりじいやの速度があがり、フェンリルは攻撃から回避かいひ専念せんねんするようになった。

 このままではいずれ押し切られるだろう。


「さて、俺様も可愛かわいい眷属に力をしてやるとするか。SAえすえーチップ発動【電脳でんのう遊戯ゆうぎ】」


「それがうわさの現界のSAチップと言うやつか」


「さすがイムホテプ、伊達だて知恵ちえの神と呼ばれてないだけあるじゃねぇか。チップの事を知ってんなら説明せつめいしなくてもわかるよな?」


「君はそのチップの異常性いじょうせい利用りようして魔石ませき代用だいようとしているわけだね」


「そのとおり。しかもこれは魔石とちがって半永久的はんえいきゅうてきに使える代物しろものだ。だれが何のために作ったのかは知らないが、偶然ぐうぜん産物さんぶつにしてはなかなか優秀ゆうしゅうだろ?」


「して、そのSAチップには何の魔法が入っていると言うんだい?」


「そんなの見てればすぐわかる。ハッキング開始。強化魔法【神速】」


「まさかっ!僕の魔法を!」


 俺様の魔法に呼応こおうして、フェンリルの速度があがる。

 フェンリルは攻撃にてんずることができるようになったようだ。


「それだけじゃないぜ?弱化じゃくか魔法【減速げんそく】」


 じいやの反応はんのう速度そくどが一気に落ち、フェンリルの攻撃がじいやのほおをかすった。


「なっ!強化魔法【弱化じゃくか体制たいせい】!」


「甘いな。強化魔法【体制たいせい破壊はかい】」


 じいやの速度が戻るがフェンリルの攻撃によって徐々じょじょに速度が落ち始める。

 電脳でんのう遊戯ゆうぎ対象たいしょうの力を解析かいせき、乗っ取るハッキング魔法だ。


 おそらくイムホテプはそれに気づいているだろう。

 後衛こうえいの俺様とイムホテプは前衛ぜんえいをいかに強化できるかのバフ合戦がっせんと言うわけだ。


「ちっ!強化魔法【体制たいせい強化きょうか】!強化魔法【炎舞えんぶ】!」


 イムホテプは体制強化によって力を相殺そうさつしつつ、ほのお属性ぞくせいを短剣につけた。


「強化魔法【水連すいれん】。弱化魔法【属性ぞくせい弱化じゃくか】」


 俺様はそれに対して水属性を付与ふよし、じいやに属性攻撃による攻撃の体制を弱めてフェンリルの攻撃がとおりやすくする。


「ロォォォキィィィィ!きさまぁぁぁぁ!弱化魔法【減速】強化魔法【電影でんえい】!」


 じいやの速さのアドバンテージを取り戻すためにフェンリルにも減速の魔法をかけ、水属性に有効な電気をさらに付与された。

 だがまだ甘い。


「強化魔法【土塊つちくれ】。弱化魔法【避雷針ひらいしん】」


 電気には吸収きゅうしゅうする土属性、さらには自分の電気で自爆じばくするように、じいやに電気が集まるようにする。

 これで電気攻撃への心配しんぱいはなくなったわけだ。


「強化魔法【電磁でんじ誘導ゆうどう】!強化魔法【疾風しっぷう】!」


 それを受けてイムホテプは避雷針の電気を周りにらすために電磁誘導、そして土属性に有効な風属性を当ててきた。


「強化魔法【影人かげびと】。強化魔法【属性強化】」


 だが風で来るならこちらは影にまぎれて風の効果を無くすだけ。

 さらには属性強化で攻撃を強めた。


 一進いっしん一退いったいどころか攻防はやや優勢ゆうせいになりつつある。

 イムホテプにあせりの表情が出始めた。


「くそ!じいや、一旦いったんもどれ!」


承知しょうち


「フェンリル!いかせるな!」


「あいよ!」


「させない!範囲はんい魔法【遮断しゃだん】!」


「ぐふっ!」


 追うフェンリルに前には見えないかべられてしまったようだ。

 イムホテプの考えは予想よそうがついている。


顕現けんげんせよ!アスクレピオスのつえ!」


「ちっ」


 イムホテプの神器じんき、アスクレピオスの杖。

 へびかざものき付いている小さな杖だ。


 攻撃用ではないが、少し小突こづくだけでダメージも体力も今までかけたバフ魔法すらも完全にいやしてしまう強力な神器だ。

 あれがある以上イムホテプの元に戻られてはらちがあかない。


 さすがに俺様の電脳遊戯では神器の力を使う事はできないため、こちらは体力もダメージもつづけるわけだ。

 あれを出す前に決着けっちゃくをつけたかったが、なかなか早い段階だんかいで出してきたもんだ。


「強化魔法【全属性ぜんぞくせい体制たいせい】。続いて【体制たいせい超強化ちょうきょうか】、【全属性ぜんぞくせい付与ふよ】。【神速しんぞく強化きょうか】、【攻撃こうげき強化きょうか】、【防御ぼうぎょ強化きょうか】、【弱化じゃくか軽減けいげん】。これで万全ばんぜんだ。いやはや、たしかに甘かった。さすがは僕が尊敬そんけいするロキだ。ここからは全力で相手をさせてもらうよ」


「・・・めんどくせえ。フェンリル、作戦変更だ、SAえすえーチップ発動【仮想かそうレーヴァテイン】【二重にじゅう防壁ぼうへき】」


「えー!またロキが戦うのー!」


心配しんぱいするな。貴様きさまにもあばれてもらう。ここからは二体一だ」


「んー、まあそれならいっか」


「じいや、気をつけろ。インドラジット戦で見せた防壁魔法だ。近づいたら切られる」


「ほぉ?まるで会話を聞いていたような口ぶりだな。試合中の音声は観客席かんきゃくせきには聞こえないはずだが」


「あっはっは!それを僕に言うのかい?君だって同じことをしているじゃないか。おたがいのうちなんて最初からわかっていたはずだろう?」


「ふん。どこまでもいけすかないやつめ。フェンリル、殺す気で行け」


「らじゃー!」


「じいや、あぶなくなったらそく後退こうたい


了解りょうかいしました、ぼっちゃん」


 誰の合図もなく前に飛び出る三人。

 フェンリルが攻撃を仕掛しかけ、そのすきに後ろからフェンリルごとたたる。


 じいやもフェンリルもそれをけると、じいやはフェンリルにねらいをさだめた。

 そこに俺様が連続れんぞくしてレーヴァテインの大技をはなち、フェンリルに近づけさせないようにする。


 フェンリルはその隙を見てじいやに攻撃をこころみるが、余裕よゆう回避かいひ防御ぼうぎょされてしまう。

 だが、じいやの攻撃はフェンリルに当たる事はなく、むしろ俺様の攻撃に少しずつ当たりそうになってきていた。


 それもそのはず、じいやの方には遠距離えんきょりで戦うすべはなく、フェンリルの攻撃に翻弄ほんろうされていれば俺様の攻撃が、俺様の攻撃を避ければ次のフェンリルの攻撃、体力の消耗しょうもうはかなりはげしいだろう。


「フェンリル!」


「いくよ!ハウリング!」 


「こ、れは!」


 フェンリルのハウリングは相手や攻撃を一瞬いっしゅん止める強力な防御技だ。

 この一瞬は今のじいやには相当な痛手いたでだろう。


「じいや!」


らえ!」


 俺様のレーヴァテインの一撃。

 じいやは寸前すんぜんでそれを避けるが、その先にはフェンリルが立ちはだかっている。


疾風しっぷうのカルマージ!」


「くっ!」


「じいやぁ!」


 フェンリルの唯一ゆいいつの遠距離技、疾風のカルマージ。

 下から上に振り上げた爪の強力なかまいたちのような一撃。


 イムホテプの強化魔法で強化されているとはいえ、さすがに避けきれずにかすってしまったようだ。

 だがこれで終わりではない。


射程内しゃていないだ」


「っ・・・!」


 じいやの目の前にはにやりと笑う俺様。

 振り上げたレーヴァテインは、容赦ようしゃなくじいやを爆音ばくおんと共に地面にたたきつけた。


「チェックメイトだ。自己強化でまだ戦うって言うなら相手するぜ」


「・・・降参こうさん、降参だ。まいったよ」


WINNERウィナー!ロキ!』


 にせの歓声と勝利のコールがされる。

 最初の予定とちがったが、なんなく勝てたな。


「いえーい!ありがとー!ありがとー!」


 フェンリルは偽の歓声に一人盛り上がっていたが、俺様はそう悠長ゆうちょうな気分にはなれなかった。

 次の試合の相手はかなり強敵だ。


 俺様の力でもどこまで通用するか。

 だがしかし、俺様の心に不安などは一切ない。


 あるのは強敵を打ちのめすと言う興奮こくふんのみだ。

 さて、どうやってあいつをぶちのめすか考えなくてはならないな。


 俺様は次の作戦を考えながら光につつまれて戻っていった。

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