六幕 【西・準決勝二回戦目「猫の神?」】




 ◆◆◆




「さて、ここを勝ち抜けば悠真ゆうま君たちとの試合ですねぇ」


「・・・ヘルメス様、新生しんせいオーディン達は大丈夫なんでしょうか」


千里せんりにしてはめずらしいですねぇ。心配しんぱいですか?」


「心配などしていませんよ。ただ、ヘルメス様の努力が無駄むだになる事をけたいだけです」


 そう、これは決して心配などではない。

 私は他人に興味きょうみがないと言っても過言かごんではないだろう。


 ヘルメス様は別だが、それもヘルメス様との契約けいやくあっての事。

 他人の心配など私がする事などないのだ。


「まあ本来なら新生の神はゆっくりと時間をかけて神としてそだて上げるところですが、あの二人にかんしては時間がないですからねぇ。・・・まあ千里の本心はわかっているつもりですよぉ」


「別に本心なんて」


「さぁさぁ、とりあえず今は目の前のてきに集中しましょう。今回のお相手は少し手ごわいですよぉ?」


「はい、ヘルメス様」




   6章 6幕【西・準決勝二回戦目「猫の神?」】




「ニャーニャー、久しぶりだニャァ、ゼウスの右腕みぎうで


「おひさりですねぇ、バステト」


 私とヘルメス様が最初の森から上空に上がっていくと、相手もこっちを目指めざしていたようで空中で鉢合はちあわせとなった。

 相手の神の事はすでに大会のトーナメント表にもうつし出されているため知っている。


 バステト。

 転生てんせいは行っているはずだが、何度見ても見た目の変わらない猫の神。


 そもそも猫の神なんてものが存在そんざいするのかもあやしい。

 神にも色々種類はある。


 もちろん猫の神もいてもおかしくはない。

 だが、神としては低級ていきゅうの神としか考えられないのだ。


 この大会に出ている神はもちろんのこと、私達が普段ふだん相対あいたいする神と言うのはそれぞれの信仰しんこうをもつ。

 バステトにいたってはその信仰が多少たしょう不明慮ふめいりょなのだ。


 正確せいかくには神としての力が信仰と見合っていない。

 本来なら戦うのもままならないくらいでもおかしくないはずなのだが、バステトはかなり強力な力をゆうしている。


 それこそこの大会にでて二回戦目に進出できるくらいには一流の神としての力をそなえているのだ。

 そしてこの現世げんせにおいては眷属けんぞくの力も相当そうとうな物だろう。


「バステト、説明せつめいなさい。この者達ものたち何者なにものなのかしら」


「ミアちゃんそれさっき説明したニャ・・・。この二人はゼウスの右腕として神の荒事あらごと対処たいしょするこわーいヘルメス神と、そのヘルメスに使わされているこわーい眷属だニャ」


 ヘルメスの眷属、ミア。

 情報としてうわさ程度ていどでは聞いている。


 どこかの国のお姫様ひめさまだがお嬢様じょうさまだか。

 そこまでは神としてはわり普通ふつうな事だ。


 今となっては日本では見られないが、神の眷属となるのは姫や高貴こうきな者が多い。

 それと言うのも昔からの血筋ちすじなどで眷属としての力が強くあらわれることが多いからだ。


 さらにその中でも眷属としての力をえて神にも匹敵ひってきする力を持つものがまれあらわれる。

 本来なら半神化を起こしてしまうのだが、それすらも起こさせないで力を制御せいぎょする者がいるのだ。


 そして噂にそぐわないお嬢様としての身なり、見ただけでどこかのお嬢様とうたがわない服装ふくそう

 オーラとでもいうのだろうか。


 身長は私よりも低い二人だが、この二人からはただ物でない気配けはいを感じる。

 特にミアと言う眷属のたてロールのかみは気に入らない。


 というかなにあれ、どうやってセットしたらあんな髪にできるというの。

 バステトも猫耳に可愛らしい服装を着ているが、毛つやがいい所を見ると相当いい暮らしをしているのだろう。


「・・・千里、何を考えているのですか」


「いえ、少しばかり昔を思い出しまして。そこの猫、私とヘルメス様のどこがこわいと言うの」


「もうその発言が恐いニャー」


「千里、わかっているとは思いますがバステトのシストラムとラーの目には気を付けてくださいねぇ」


「わかっています。ヘルメス様はいつも通り後衛こうえいをお願いします。それと奥義おうぎ開放かいほう許可きょかを」


「許可します」


「ありがとうございます。殲滅せんめつ奥義おうぎ夜叉やしゃ分裂ぶんれつ】」


 私の体からもう一人の私を生み出し、戦う準備はととのう。

 その間、いつものように敵の二人は微塵みじんも動けなかったようだ。


「バステト、今の」


「それもさっき説明したニャ。ヘルメスの眷属はバステトとミアの目と同種どうしゅの力を持っているニャ」


「ふーん、わずらわしいわね」


 聞くだけ聞いてどこまでも興味がなさそう。

 まぁなんにせよ、私の力が分かった所であなた達は私がめっするのだけれども。


「「行きます」」


 二人の私はバステトとその眷属に向かっていく。

 バステトはおおむね予想よそうどおり自前の爪を使っての攻撃。


 私のりを素早すばやさでかわし、バステトの爪を私が蹴りではじき、あらかじめ部分ぶぶん兵装へいそうしていたすね当てでふせぐ。

 眷属の方は私と同じく蹴りで攻め入るタイプのようで、蹴り技の攻防こうぼうとなっていた。


「あなた、なかなかやるようですけど、その程度ていどではわたくしに勝てませんことよ」


「・・・油断ゆだん禁物きんもつ。とだけいっておくわ」


 確かにバステトの眷属、ミアと言ったか。

 この少女の蹴り技は私を上回うわまわる。速さは互角ごかく程度だが、普通に戦っていては私が負けるところだろう。


 だがこれは私とこの二人の勝負ではない。

 後ろにヘルメス様がいるのだ。


準備じゅんび整いました。千里せんりは避けてくださいよぉ。奥義【あま御霊みたま雷神らいじん招来しょうらい】」


 ヘルメス様のよく使われるかみなりけいの奥義、雷神招来。

 数多あまたの雷をせて敵を速攻そっこうくす。


 威力いりょく速度そくども避けようと思って避けれるものではない。

 普段はゼウス様の力を借りているため、これのさらに数倍は威力があるが、普通に使ってもかなりの威力のはずだ。


 難点なんてんである詠唱えいしょうの長さは私が足止めでかせいだ。

 これでこの試合は早々そうそうに終わりね。


「シストラムニャ!」


が高い!」


「なっ、まさか!」


 バステトはシストラムという神器じんきを使って全方位ぜんほういのバリアで攻撃を防ぎ切った。

 それは予想よそう範疇はんちゅう


 だがしかし、眷属の方は大声を出しただけで雷をいともたやすく打ち消してしまったのである。

 いくら力の強い眷属とも言えど、強力な神の魔法を一瞬で消してしまうような力は眷属の力ではなくもはや神の力だ。


「これは・・・うわさは聞いてはいましたがその眷属けんぞくの力、個人的なスキルとして昇格しょうかくしていましたか」


おどろいたかニャ?ゼウスの右腕。そうにゃ、バステトの眷属のミアちゃんは眷属のランクで言う最上位さいじょうい眷属ニャ。あたえられたラーの目から生み出されたヴァルキュリアの目を、自身の技として【おう号令ごうれい】に変えてしまったニャ」


「そんな事よりも、わたくしはその眷属なんて呼び方は気に食わないですわ。わたくしにはミアという名前がありましてよ」


「これは失礼しつれいしました。ミアさんですねぇ。よくおぼえておきますよぉ」


 ヘルメス様には多種多様たしゅたような魔法がある。

 雷神招来を打ち消されたくらいはどうという事もない。


 だが、さらに強力な魔法を連発するとなると私の方でどこまで時間が稼げるかによる。

 数で攻めても意味はないかもしれないが・・・。


「「これ以上ヘルメス様に失態しったいをおかさせない。殲滅奥義【夜叉分裂】」」


 二人の私はさらに二人の私を生み出そうと―


「おやめなさい!」


「「っ!」」


 眷属、ミアの一言によって私の夜叉分裂は中断ちゅうだんされてしまう。

 本来なら夜叉分裂は私の剛眼力ごうがんりきという眼力によって生み出される特殊とくしゅ結界けっかいのような物で、相手の動きを一時的に止めるはずだ。


 バステトが私の夜叉分裂をミアに説明する際に同種の力と言っていた。

 という事はバステトのラーの目とミアの王の号令の前には剛眼力はかき消されてしまうというだろう。


「「くっ・・・ならば!」」


 私は再度二人に攻撃を仕掛しかけていく。

 だが、先ほどとはちがい、こっちの攻撃が読めてきたのか、私の方が防戦ぼうせん一方いっぽうとなっていった。


「シストラムニャ!」


厄介やっかいな神器ね」


「よく言うニャ。君、千里とか言ったっけニャ?そもそも眷属としてのいきを超えてる千里ニャンと戦わなきゃいけないこっちの身にもなってほしいニャ」


「今の私はあなたの眷属と同等どうとうかそれ以下。あまり過信かしんしないでくれるかしら」


「ニャッハッハ!確かに昔の千里ニャンが今の千里ニャンを見たら滑稽こっけいののしるかもしれないニャァ」


「口はわざわいの元よ」


「シストラムニャ!ほいっ!」


 バステトに仕掛けた攻撃をいとも簡単に神器で防がれ、そしてバステトの反撃はんげきをくらう。

 だがその攻撃を私は部分兵装のすね当てで防ぐ。


 バステトと私の攻防はこの状況じょうきょうから一向いっこうに変わらない。

 ヘルメス様の次の魔法まで時間を稼がないといけないが、次の魔法を準備できた所でバステトのシストラムがあればいともたやすく防がれてしまうだろう。


「千里、秘奥義ひおうぎの開放を許可します」


 ヘルメス様からのさらなる奥義の開放、その言葉と一緒にヘルメス様の意志いしが伝わってくる。

 ならば私も全力でそれに答えるのみ。


了解りょうかいしました」


 ミアの元にいた私と合流し、私は一瞬いっしゅんの光と共に一人の私に戻っていく。

 それを見て全力でバステトとミアは私の元に寄って来る。


「ミアちゃん!王の号令を全開ぜんかいで発動させるニャ!」


「いわれなくてもわかっていますわ!」


「私は止めさせない。【剛眼力】全開!」


 一旦私は目を閉じた。

 そして再び開いた時には目は真っ赤に染めあがる。


 剛眼力は夜叉分裂のときのような足止めの結界のように使う事もできるが、それはあくまで応用した使い方。

 本来の使い方は敵と目を合わせ、完全に動きを止め、屈服くっぷくさせる技だ。


「ラーの目!」


「おやめなさい!」


 私の動きを止めようとして来るが、私の目を見た時点でその効果は単に打ち消し合うだけだ。

 だがしかし、私の本気の剛眼力はそれにとどまらない。


 秘奥義の開放を許可されたという事は、剛眼力の力の拘束力こうそくりょくは普段の私の力をはるかに凌駕りょうがする。

 この二人の神器じんきとスキルで打ち消したとしても二人の動きは数秒間は止まるだろう。


「ニャ・・や、られたニャ」


「か、体が・・・動き・・・ません・・・わ」


「まだしゃべれるくらいの力が残っているなんて、さすがとしか言いようがないわね。だけどそこまで止まってしまえば充分よ。秘奥義【灼眼しゃくがん烈破れっぱ】」


 私は再び目を閉じる。

 そして目を開けると私の目は赤く赤く染めあがったまま、炎につつまれた灼眼となる。


 さらには私の足も燃え上がり、まとうオーラまでもが炎のようにらめいていく。

 これが秘奥義【灼眼烈破】。


 この状態の私は速さも攻撃の威力もけた違い。

 本来の私とはかけ離れたもう一人の私という所だ。


「ミアちゃん、全力で排除はいじょするニャ!」


「ひざまづきなさい!」


 動けるようになったバステトとミアが向かってくる。

 バステトは素早すばやさに拍車はくしゃをかけて私をねらい、ミアの方はバステトのフォローとして私の動きを止めようとして来た。


おそい」


 バステトの攻撃を避けるまでもなく、私はミアの元にかう。

 当然とうぜんのようにバステトの攻撃は空ぶった。


「ミア!」


「とまりなさ―」


「止まらないわ」


 私のななめからの俊足しゅんそくの回し蹴りを受けてミアは上空から地上へと一直線に炎の軌道きどうを残しながら落ちて行った。

 地上では壮大そうだいな爆発音と衝撃しょうげきで吹っ飛ばなかった森までもが攻撃の余波よはを受けてさかっている。


「きっさまーーーーー!」


「さて、残るはあなただけよ、バステト」


 あれほどまでに脅威きょういとなっていたミアはおそらく今の一撃でもう戻っては来れないだろう。

 バステトは怒りにくるい、そのを全開で開けてこっちを見ている。


「・・・しまった」


ゆるさねぇ!僕のミアに!貴様きさまは許さねぇ!」


 バステトの目は私の真っ赤な目とは違い、赤黒あかぐろく染まっていた。

 ラーの目の本領ほんりょう発揮はっきという所だろう。


 そしてその眼力で動きを止められた私の目にうつるのはメキメキと音を立てて変身へんしんしていくバステトの姿だ。

 一瞬で可愛かわいらしい猫耳少女から5メートルはあろうかという巨躯きょくけものへと変身していく。


 全身を毛でおおわれ、逆立さかだつ毛のせいでさらに巨躯に見える。

 猫というよりは毛で覆われたライオンのように凶暴きょうぼうな獣と化してした。


「殺す!殺す!殺す!」


「まずいっ!」


 私の体は動けるようにはなっているが、元々の速度で勝てていない私の動きはバステトの本気に勝てるはずもなく、その間合まあいを一瞬でめられてしまう。

 巨大な前足に生えている巨大な爪で私を切りこうとした瞬間しゅんかんだった。


「がっ・・・なぜ進まないっ!」


捕縛ほばく魔法まほう【ローゼンメイデン】。設置型せっちがたの魔法ですねぇ。バステト、あなたは千里せんり誘導ゆうどうされたのですよぉ」


「なんだとっ!貴様ら、はかったな!」


 バステトの足元にはバステトよりも巨大な魔方陣まほうじん

 そしてその周りからは無数の魔法のくさりがバステトに向かってびている。


 間一髪かんいっぱつで発動したヘルメスの魔法で私の命は助かったと言うわけだ。

 全く、ひやひやさせてくれる。


「あまり動かない方がいいですよぉ、それ動くとどんどん強力な電撃でんげきになっていきますからねぇ」


 バステトにつながれた鎖から今も電撃が流れ続け、動こうとするバステトに攻撃を仕掛けているはずだが、バステトは気にせず動こうとしている様子だった。

 この巨体は防御もねているという事なのだろうか。


「こんな魔法ごときぃぃぃぃぃ!」


 ピキピキと魔法の鎖から音が鳴り始める。

 バステトは電撃を気にしないどころか強力な捕縛魔法であるローゼンメイデンをこわそうとしているのだ。


「ヘルメス・・・様。早くしなさい・・・してはどうですか」


「ふむ・・・少し封印ふういんけてしまいましたか。では仕上しあげと行きましょう。保存ほぞん詠唱えいしょう解放かいほう断罪だんざいせよ、十火とおか始祖しそ断罪だんざいえん】」


 ヘルメスの周りには十の火が現れた。

 その炎は次々とバステトの周りをかこみ、徐々じょじょに高速で回り始める。


「くそっ!この借りは絶対いつか返してやる!」


「なんだか悪役みたいなセリフですねぇ。これは大会ですよぉ?」


 その言葉を最後に十の炎はバステトに集約しゅうやくし、大爆発を起こした。

 バステトが元の可愛らしい猫耳少女に戻り、地上に落ちて行く姿を見ると私はヘルメスになおる。


大義たいぎであった」


「やれやれですねぇ」


WINNERウィナー!ヘルメス!』


 わら、しとヘルメス、様はにせ歓声かんせいと共に光につつまれる、たのであった。



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