五幕 【西・準決勝一回戦目「戦の神」】



 ◆◆◆




悠真ゆうま、わかってると思うけど気を付けてね」


「あぁ、今回ばかしは連携れんけいも取れる自信がないしな」


 西一回戦を突破とっぱした俺達の第二試合目。

 てき戦神せんしんアレス。


 強靭きょうじんな肉体を持ち、みずからの肉体が神器級じんききゅうであり、武器ぶきとうの神器は持たないめずらしい神だ。

 相手の情報は試合を見ればわかるため、トーナメントも名前はもうせられてはいない。


 だが相手の情報がわかった程度ていどで勝てるほど戦いは甘くない。

 さらに言えば俺達には特にだろう。


 アレスは身長を2メートルは超えるだろうという高身長で、おそらくヘルメスよりも高いだろう。

 だがその体はヘルメスよりもはるかに強靭。


 それをしめすかのように上半身は裸で、見える肉体は目の前の者を何人たりとも組み伏せることができそうだ。

 言うなればじゅうすらあの肉体には通りそうもない。


 間近まぢかで見るとそんな印象いんしょうだ。

 一方いっぽう眷属けんぞくの方は小柄こがらで、おそらくアリスよりも少し小さいくらいだろう。


 アレスの横にいるとさらに身長は小さく見える。

 服装ふくそうはフードつきの短いケープをかぶっており、もこもこした布地ぬのじに加え、フードにはウサギの耳と思われるものがついている。


 色はもちろんピンクで、それに合わせて服も着ているかと思えば、下はジーンズに上も二枚くらいの薄着うすぎ

 季節感の統一とういつもされていなければファッションとしてもバラバラなのだ。


 ある意味個性的だろう。

 だがあのケープはあなどってはいけない。


 ヴァルハラのこぶし、とでも言うべきだろうか。

 あのフードについているウサギの耳は拳になるのだ。


 加えて、二試合目を見るかぎりでは自らの身体強化もされているようで、普通になぐるなどしていた。

 言うなれば腕が二つさらについているようなものだ。


 もちろん相手には遠距離の攻撃などなく、ならば距離をたもって攻撃するのが常套じょうとう手段しゅだんなのだが、二回戦目の相手はそれでもアレス達に敗北はいぼくしていた。

 一筋縄ひとすじなわではいかないのは明白めいはく


「会いたかったぞ!オーディン!あらたなるオーディン!俺はお前たちと戦ってみたくてうずうずしてたんだ!」


「ちょっとアレス、さっきも言ったけどオーディン達は当たればそくリタイアの神器、グングニルを持ってるんだからね。とりあえずは私が様子見で―」


「なに!そんなのは駄目だめだ!俺も行く!目の前にしたら戦いたくなった!是非ぜひとも俺と熱き拳をまじえようではないか!なあ!オーディンよ!」


「あぁー、もう、めんどくさい。ほんと脳筋のうきんバカ。もう一度言うわよ、私はこの耳があるから最悪リタイアはまぬがれるけど、あんたは別なの。一発当たればアウト!だからとりあえず見てなさいって!」


「いや、我慢がまんならん。俺も戦うぞ!うおおおおおおおおお!」


 どうやら連携れんけいはとれていない様だった。

 二回戦目も各個別々に戦っていたため、まさかとも思ったが、これならどうにか片方さえつぶせば行けるかもしれない。


悠真ゆうま、作戦はそのままでいいわね」


「大丈夫そうだ。まずはすきを見て眷属けんぞくを叩くぞ」


まかせといて」


 こうして俺達の第二試合が始まった。




   6章 5幕【西・準決勝一回戦目「戦の神」】




「ゆくぞ!オーディン!」


「あぁーもうどうにでもなれ!」


 アレスは一直線に俺を。

 アレスの眷属、ミミと呼ばれた少女はそれを見てありすにんでいった。


 まずは距離きょりをとりつつ攻撃だ。

 小手調こてしらべにブルーランスを50ほど打ち込んでおくか。


「ブルーランス!」


 ねらいをアレスにしぼったのは10本程。

 それ以外はアレスの退路たいろを無くすように周りに飛ばした。


「そんなものは・・・きかーん!」


「な、なに!」


 アレスにはなったブルーランスはほぼ直撃。

 だが、アレスはそれにひるむことはなく、さらに速度をあげて近づいてきた。


 まさかいてないのか?

 いや、体が神器級なら効き目が弱すぎるんだろう。


 もはやブルーランスは死んだも同然どうぜん

 だがここまではほぼわかっていた。


 ぎゃくけもしないなら200近くのブルーランスを当てれば腕一本くらいはふうじることもできるかもしれないが、アレスの攻撃の最中にその余裕よゆうはないだろう。

 ならば風力ふうりきを交えて近接戦闘で一瞬いっしゅんでも上回るしかない。


「まずはー!一発!」


 どでかい声でさけびながら拳を放ってくる。

 アレスがいかに強大な相手でも、救われている事があった。


 動きが単調たんちょうで見えない程早いわけでもない。

 けやすいのだ。


 さらに言えばその拳をらったとしても一瞬でダウンしてしまうほどではない。

 もちろんアレスが自分の力の全てをくせば一撃なんてものでは済まないだろうが、おそらくそうするには隙がでかすぎるだろう。


「見える!行くぞ、風力!」


 俺は一発目を避け、風力で加速かそくしながらアレスにグングニルをあてにかかる。

 ブルーランスならともかく、グングニルなら当てさえすればそれで終わりだ。


「おおっと!やるな、オーディンよ!むね高鳴たかなるとはこのことだな!」


 俺とアレスの一進いっしん一退いったいは続く。

 アレスの攻撃を避けるが、なにせ体もでかければ一撃も重い。


 一発一発の拳には強力な風をまとっている程だ。

 ダウンしないにしても一発でもかすらない方がいいだろう。


 十分な安全圏あんぜんけんまで避けるからこそ俺の攻撃もその分初速が遅れ、避けられてしまう。

 避けてしまえばアレスはまた一発撃ち込むだけ。


 変わらない攻防こうぼうが続いた。

 ありすの方は大丈夫だろうか?


「はぁ!」


「ちょこまかちょこまかと!あんたうざい!」


 うまくやっているようだ。

 ありすのスピードに翻弄ほんろうされている。


 眷属けんぞくの方で厄介やっかいなのはあの耳だ。

 あの耳は攻撃がおそらくとおらない。


 ありすの攻撃が当たるときには必ず耳を使って防御ぼうぎょしている。

 おそらくそれ相応そうおうの武器としての硬度こうどもあるのだろう。


 さらに言えばあの耳にグングニルを当ててもフードつきのケープが使えなくなるだけ。

 眷属の方もアレスにはまさらずとも強力な身体強化がされているのだ。


「ありす!絆力はんりょくを使うぞ!」


「わかったわ!」


「「絆力はんりょく解放かいほう!」」


 俺のやりは二本となり、ありすのスピードはあがる。

 こちらの状況じょうきょうは変わらないが、おそらくありすの方は多少なりともダメージをあたえられるようになるだろう。


「アレス!絆力を使ってきた!全力で対処たいしょ!」


「なはははははは!燃えてきた!」


「なに!」


 アレスのスピードがあがる。

 先ほどとは比べものにならない程に。


 絆力を使えば俺も多少速さがし、さらには相手の動きを読める力も増す。

 なのにむしろおされている。


「ありす、まずい、一旦いったん体制たいせいを立て直すぞ!」


賛成さんせいよ!」


 引こうとする俺とありす。

 だが、アレス達がそれをゆるすはずもない。


「そんなきょうざめな事をするな!もっと楽しもう!」


「逃がさないんだから!」


 さらに攻撃の手は増える。

 速さが増し、二本のグングニルでいなすだけで精一杯せいいっぱい


 このままではいずれ当たってしまう。

 なんとしてでも―


「っ!まずい!」


「一発もらったぞ!」


 ガチンという金属と金属がぶつかる音。

 俺のグングニルをクロスさせてなんとかアレスの一撃を防いだ。


悠真ゆうま!」


「大丈夫だ!」


 大丈夫なわけがなかった。

 アレスの力はさらに増していき、とどまる事を知らない。


 このまま押し切られてしまえば地面にぶつかるまで飛ばされるのは見えている。

 なればなんとしてもこの一撃をはじかえす。


 言うなればこれはチャンスだ。

 弾いてしまえばどうしても隙が生まれるだろう。


 一瞬、一瞬でいいんだ。

 その一瞬にグングニルを当てれば・・・勝てる!


「うおおおおおお!はなて!ブルーランス!」


 俺はアレスの腕めがけて200のブルーランスを放出ほうしゅつする。

 この近距離だ、あやつらなくても腕に当てるだけなんて造作ぞうさもない。


 俺の体の周りには多数の魔法陣まほうじん

 そして俺の体からも直接放たれる青い軌道きどうは、一発もそれることなくアレスの腕に命中していく。


「いけえええええええ!」


「お?おお?なんだか腕がしびれてきたな」


「アレス!今すぐ引いて!その攻撃を避けなさい!」


 アレスの眷属の声が飛ぶ。

 だが遅い。


 俺はブルーランスに合わせて風力ふうりきを全開で展開てんかいした。

 こちらから加速をつければ腕一本くらいならなんとか弾き返せる!


「風力、全開!」


「おおお!まさに!これは!楽しいぞ!オーディン!お前の力を俺にもっと見せてくれ!」


「アレス!引きなさい!」


 ついに弾かれる。

 アレスの腕は後方に弾かれ、アレスは体制たいせいくずした。


「今だ!」


 俺はグングニルを高速でかまえなおし、アレスの体に二本のグングニルを風力の力も使っていきおいよくしかかる。

 そして俺の二本のグングニルは見事にアレスの体に命中し―


 キン。

 簡素かんそ金属音きんぞくおん


「な・・・」


 確かにアレスの体に命中した。

 二本の槍は見事に腹部ふくぶとらえている。


 だが進まない。

 グングニルはそれ以上進まない。


 わずか一センチも食い込んだかどうかの所から。

 アレスの体が金属でできているわけではない。


 強靭きょうじんすぎるのだ。

 神器級じんききゅうの体は、級ではなく、まさしく神器そのもの。


 その体は小さなやり程度ていどでは到底とうてい歯が立たない。

 その体を突き抜けるのためには強力きょうりょく無比むひな一撃が必要なのだ。


 そう一瞬いっしゅんで理解する。

 そして同時に俺の体は止まってしまった。


 これは恐怖きょうふだ。

 あらがいようもない相手を目の当たりにした時に感じる恐怖。


 俺達では勝てない。

 絶望ぜつぼう


 そんな途方とほうもない恐怖が俺の体を支配しはいした。

 今までの敵とはまるで違いすぎる。


「「化け物・・・」」


 言葉が重なって聞こえる。

 発したのは俺ではない。


 視界のすみには驚愕きょうがくで言葉を発したありすと、あきれ顔で言葉を発したアレスの眷属けんぞくが見えた。

 膠着こうちゃくした状況はすぐに動き出す。


「おっとっと、いやはや、なかなかやるもんだなぁ。む?なんだか腹の方がかゆいが、なにかしたか?」


 あおっているわけでない。

 ほんとうに気づいていないのだ。


 アレスは俺の全力で刺したのがグングニルだとは。

 きっと蚊が刺した程度なのだろう。


 グングニルには防御ぼうぎょ魔法まほうは効かない。

 だがその防御が神器ではじかれただけならどうだろう。


 この通り、刺さりもしないのだ。

 おそらく中までは刺さっていればアレスを封じることはできた。


 だが、それもかなわない。

 依然いぜんとして俺の体は動かなかった。


「さて、何かされる前にまずは一発だ!」


 何か?何かとはなんだ。

 これ以上の事を今の俺達に何かできるのだろうか。


 全力だった。

 これ以上ない全力だ。


悠真ゆうまけて!」


「っ!」


 ありすの言葉でぎりぎり現実に戻る。

 俺をねらった拳を間一髪かんいっぱつで避けるも、俺はその風圧で軽く吹き飛ばされてしまう。


「くっ、もどれ、グングニル。ありす!」


「っ!わかった!」


 絆力はんりょく解放かいほうしている俺達の意志いしは言葉に出さなくても伝わる。

 おそらく俺のあせりも直接伝わっただろう。


 だが、とりあえずは前進しなくてはならない。

 そのためにはまず眷属だ。


「あ、こら、待ちなさい!」


 全速力でこちらに向かってくるありす。

 それを追っかけてくるアレスの眷属。


 俺とアレスは最初と変わらない攻防を続けている。

 わずか数秒でありすはこちらに辿たどりつくだろう。


 だがあくまでねらいは眷属だ。

 ありすとのタイミングをはかり、俺はアレスの攻撃を待つ。


「今だ!」


「「風力ふうりき全開ぜんかい!」」


 ありすはちゅうでくるりと回転し、そのいきおいのままアレスをした。

 そして俺とありすは全力の風力をアレスにける。


「お?」


「え?」


 ありすを追っていたアレスの眷属は、アレスの手前で止まる。

 だが、攻撃最中のアレスのこぶしは止まらない。


 本来なら後ろにいる自分の眷属を攻撃するわけもないのだが、それを俺とありすの風力でげた。

 アレスは後ろを向き、そのまま拳をろす。


 当然眷属の方もそんなのは予想よそうにしていなかっただろう。

 最初の作戦通り、眷属をアレスの攻撃で同士どうしちさせる作戦だ。


「っ!」


 壮大そうだいな音が二回。

 一つ目はアレスが自分の眷属に拳を当てた瞬間しゅんかん


 何かがはじけるような音と風切かざきおんに続いて、地面に一直線に飛んで行った眷属は、巨大な土煙つちけむり、そして爆音ばくおんと共に地面にたたきつけられた。

 一発くらいなら当たっても平気だと思っていたが、あれは当たるだけでも相当な物だろう。


「ん?なんだ?何が起こった。今目の前にミミがいた気がするが」


「そうだ。お前は自分の眷属に拳を当てたんだよ」


「なに?そんな事があるわけがない。なぁ、ミミ?・・・ミミ?」


 返事はない。

 当然とうぜんだ。


 アレスの眷属は地面でおそらく瀕死ひんしの状態だろうからな。

 だが問題はこれからだ。


 アレスの眷属を封じたからと言っても俺とありすでどうにかできる相手ではない。

 俺達にはあの体をやぶる強力な一撃はないんだから。


「ミミ!返事をしろ!ミミ!」


無駄むだだよ。お前の眷属はお前自身がたおしちまったんだから―」


「うっさい!聞こえとるわボケナス!」


 さけびが聞こえた。

 はる後方こうほう、眷属が落ちたであろう方角から。


「おー!生きていたか!どこにいたんだ、こんな戦いの最中に」


「あぁ?生きていたかだと?てめえが吹き飛ばしたんだろうが。まんまと敵の策略さくりゃくにはまったんだよ、あたしたちは」


 ゆっくりと上空に登ってくる眷属は、多少のよごれはついていたが、まともに怪我けがをしているようにも思えなかった。

 だが、フードの耳が少し損傷そんしょうしている所から、おそらくあの耳をどうにか使って衝撃しょうげきやわらげたんだろう。


「・・・ありす」


「えぇ、打つ手なしね」


 これ以上の作戦はない。

 いや、むしろグングニルが効かないとわかった時点で他の作戦は全て意味をさなくなったのだ。


 俺達の最終目標はアレスにグングニルを当てる。

 そのための作戦だ。


 もうなにも手がない。

 戦いようがない。


「ミミよ、なんだかボロボロになっていないか?」


「だーかーらー!てめえがやったんだよ!てめえが私を吹き飛ばしたの!少しくらい頭使えよこの筋肉ダルマ!」


「なに?俺がそんなことするわけがないだろう」


「したんだよ!したからこうなってんだよ!てめえ死にてえのか!」


「ぬ!なんだその言葉遣いは!俺は戦神せんしんアレスだぞ!神に向かってその態度たいど、多少はゆるしてやるつもりだったがもう見逃みのがせん。仕置しおきだ!」


「あぁ、いいよ、のぞむところだ。ぶっ殺してやる!」


 雲行くもゆきがあやしくなってきた。

 なぜかアレス達は仲違なかたがいをはじめ、戦闘になってしまったのだ。


「・・・ゆ、悠真ゆうま、あれって」


「・・・わからん」


 なにがなんだかわからんが、とりあえず見守る事にした。

 いや、手出しをすることができないのだ。


 それほどまでに二人の気迫きはくすさまじく、そして拳のやり取りははげしい。

 見えないほどの拳の乱打らんだ


 拳と拳がぶつかり合い、片方がいなせば片方もいなす。

 力は互角ごかくだった。


「言葉を撤回てっかいしろ!今ならまだ許してやる!」


「あぁん?それはこっちのセリフだ脳筋!私がいつもいつも作戦考えてもふいにしやがって!眷属けんぞくやってるこっちの身にもなれこのクソ野郎やろう!」


「なんだと!もう一度言ってみろ!」


「何度でも言ってやらあ!クソ脳筋!クソ神!クソアレス!」


「いくらミミと言えど許さん!もう絶対に許さん!」


「それで結構けっこうだクソ野郎が!絆力はんりょく解放かいほう!」


 眷属だけがなぜか絆力を解放し、その身にオーラをまとった。

 すると見た目でもわかるレベルで力が増し、アレスは押されていく。


「おおおお!またその力か!なぜミミ、お前だけがその力を!」


「知るか!お前に使える頭がないだけだろうが!」


「・・・ねぇ、なにこれ」


「・・・わからん」


 唖然あぜんとして見守る俺とありす。

 眷属が段々だんだんとアレスを圧倒あっとうしていくその様を、異様いよう光景こうけいを、俺達はただひたすらに見続けていた。


 俺達は最初に眷属を倒す予定ではいたが、この光景を見るとその考えはいささか間違まちがっていたのかもしれない。

 それに加えてさっきまでの戦いで二人とも本気など欠片も出していなかったことがわかる。


 それほどまでにすさまじく、もはや拳をとらえる事は俺達にはできなかった。

 見続ける事数分、ついにその決着はついた。


「うおおおお!」


「クソクソクソクソクソクソクソクソクソ!クソアレスがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 先ほどの倍以上の破裂音はれつおん

 アレスが木端微塵こっぱみじんに吹き飛んでしまったかのような音と共に、アレスは地面に叩きつけられた。


 そしてただ土煙が起こるだけでは済まされず、核爆弾かくばくだんでも撃ち込まれたかのような地面の破壊はかい

 さらにそれは数百、数千メートルにおよぶほど遠くまで続いた。


 これが本物の地球であったなら大きな国が一つか二つはほろんでいただろう。

 それくらいの強力な一撃。


「ふう。やっと死んだか。あー、すっきりした。・・・ってあれ、なんでこんなことになったんだっけ?」


 プスッ。

 という情けない音に聞こえるくらいの音。


「・・・あ、あれ?」


 眷属のお腹には見事に一本のやりさっていた。

 もちろん刺したのは俺だ。


「・・・なんかすまん」


「・・・あ、そっか、これ・・・試合中・・・だ、・・・た」


 そのままくてりと槍の上で力をうしなう眷属を見て、俺とありすはただひたすらやりきれない気持ちになる。

 勝つにはこの一瞬しかなかった。


 もしかしたらアレスのようにグングニルが通らないかもしれないとも思ったが、眷属の体は強化はされてもそれまでらしい。

 決着がついてから数秒間で俺とありすは戦意せんい喪失そうしつした頭でとりあえず攻撃してみることにしたのだ。


 どうしても勝ちたかったわけではない。

 俺達も混乱こんらんしていたのだ。


 よくわからない状況じょうきょう

 よくわからないけど一応やっとかないといけないだろうか。


 そんななぁなぁな感じで刺してみた。

 きっと恐怖きょうふもあっただろう。


 おそろしい相手とこれ以上戦いたくないと言う恐怖。

 俺達に残ったのは罪悪感ざいあくかんと、敗北感はいぼくかんだったが。


WINNERウィナー!オーディン!』


 すぐにファンファーレがひびき、喝采かっさいが聞こえる。

 アレスもあの一撃でさすがに気絶きぜつしていたようだ。


 俺とありすはみじめで不毛ふもうな勝利を得たのだった。


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