四幕 【東・四回戦目「執念」】


 ◆◆◆




「ヒハハハハハ!はこの時を待っていた!のぞんでいたぞ!」


 甲高かんだかくてうるさい。

 それに俺様のはるか頭上から話しかけてくる事もかんさわる。


「俺様も待っていたぜ。貴様きさまが俺様の可愛かわい実験じっけん動物どうぶつ勝手かってあそんでくれたけんのおれいをしたいと思ってたからな」


「ヒハハ!貴殿きでんがそのように思いやるのは貴殿の眷属けんぞくまでかと思っていたが、案外あんがいあのオーディン達と居て丸くなってしまったのではないか?」


「ハッ!丸くなった?この俺様が?まあいい、今はどう思おうと勝手だが、この試合しあいが終わった後も同じことが言えるとは思うなよ」


「ニャシシ、インドラ様、空も飛べない虫さんが何かをさえずってますよ?」


「ニーシャ、そうロキの事をさげすむではない。あいつはあわれな身なのじゃ。神として空をう事もゆるされず、今世こんぜにおいてはいつわりの羽を作る事も許されず、その力を封印ふういんされておる。そんな哀れな神をどうしてこれ以上さげすむことができよう」


 言いたい放題ほうだいいいやがって。

 このロキ様にかっての愚行ぐこう万死ばんしあたいする。


 だがしかし、これは大会だ。

 らず口のインドラジットを殺してしまえば俺様まで退場たいじょうらう。


 試合に勝って勝負に負けたなどという結果は俺様の名にきずをつける。

 ゆえに半殺しだ。


 いや、半殺しなど生ぬるい。

 99%殺しだな。


「さえずっているのはどっちなのか身のほどをわきまえさせてやる。フェンリル、残念ざんねんだが今回はお前の出番はなさそうだ」


「えええええええ!やだやだ!僕も戦いたい!何のために僕がここにいると思っているのさ!戦うためだよ!」


 大会は全神ぜんかみ表示ひょうじされることとなる最後の試合、東四回戦目。

 俺様の一回目の晴れ舞台ぶたいというわけだ。


 相手は言わずもがな、げんオーディンをくるしめたインドラジットども

 別に現オーディンに肩入かたいれするつもりはなかったが、目の前で何もできない屈辱くつじょくを俺様にあたえた事でインドラジット共をぶちのめす理由は充分じゅうぶんだった。


 だが、無様ぶざまに負けるインドラジットを見てやろうと試合を一通り見ていたが、一向いっこうあらわれない。

 まさかあの戦いで怖気おじけずいたのかとも思ったが、最後の俺様の試合になってもしやインドラジットが俺様の相手なのかと思った時は胸が高鳴たかなったもんだ。


 そして今まさにぶちころしたいナンバーワンのインドラジットが目の前にいる。

 さらにやつはあろうことか俺様を侮辱ぶじょくして挑発ちょうはつしてくるありさまだ。


 それがどんな愚行なのか思い知るがいい。

 どうでもいい神であったならフェンリルに存分ぞんぶんあばれてもらおうかとも思ったが、今回だけは俺様にやらせてもらおう。


「フェンリル、ではこうしよう。俺様が五分でかたをつけられなかった時は存分に暴れろ」


「えええええええ!やだ!」


 ・・・。


「とにかく待て。俺様があいつをぶっころす」


「やだやだ!僕も戦いたい!」


「ええい!うるさいやつだ!とにかく待ってろ!おすわり!」


「ロキの馬鹿!けちんぼ!おたんこなす!インドラジットに負けろ!」


 かなりうるさいが手出しはしない事に話はついたようだ。

 フェンリルはむくれて座ってしまった。


「ほんと、うるさくさわぐ虫たちですねぇ。インドラ様、殺虫剤さっちゅうざい準備じゅんびはできましたか?」


「残念ながら殺虫剤は用意しておらんが、余の高貴こうきな雷で焼き殺してしまえば問題はなかろう!」


「さすがインドラ様!」


 本当によくしゃべる。

 その饒舌じょうぜつがどこまで続くか見ものだ。


 さあ始めようか。

 ショータイムだ。




   6章 4幕 【東・四回戦目「執念」】




「インドラジット、貴様はさっき俺様の事を偽りの羽すら作れない身だと言ったな?」


「ほう、その口ぶりだと今世で羽を作る方法でも見つけたか」


「俺様の天才さをあなどるな。では貴様らに披露ひろうしてやろう、俺様の渾身こんしんの作品を」


 そう言って俺様が取り出したのは一つのメモリーカード。

 ある場所では見慣みなれたメモリーカードだったが、現世げんせにあまり興味きょうみのないインドラジットには初めて見る代物しろものだろう。


「・・・ヒハハハハハハハハハハ!なんだそれは!そんな小さい現世の物で何ができると言うのか!」


「ニャシシシシシシ!インドラ様、やはりあの虫けらは頭も虫けらなんじゃないですかね!」


「ま、笑ってるといい」


 俺様の持っているメモリーカード。

 俺様が最近これでいたい目に合った事は言うまい。


 最初は使えぬものと馬鹿にしていた事も、もう過去の事。

 これはすばらしい神の代物。


 とても人間がこんな発明をしたとは考えられない。

 いやだがしかしだ。


 これを使えるのも俺様の天才さがあってゆえ

 俗物ぞくぶつ神共かみども、さらに下等かとうな人間どもにはこれの有能さはわかるまい。


SAえすえーチップ発動。飛翔ひしょう


 SAチップは光をび、俺の体をゆっくりと上昇じょうしょうさせていく。

 それにおどろいたのか、インドラジットは笑いを止めて俺様を見ていた。


「・・・面白い。実に面白い。だがしかしロキよ、偽りの羽を得たからと言って余と対等たいとうに戦えるとでも思っているのか。神器じんきもままならない神など、余の敵ではないぞ」


「ハハッ!そういうと思ってたぜ!まさにフラグってやつだな!いいだろう見せてやるよ、俺の神器レーヴァテインをな!」


 俺は手に持つ光るSAチップをしまい、新たなSAチップを取り出す。

 まだ発動前の光ってはいないチップだ。


「SA発動!顕現けんげんせよ!【仮想かそうレーヴァテイン】!」


 SAが光ると、そのチップと変わるように手にはつばから刀身とうしんまでがさかる炎の剣、レーヴァテインが生まれる。

 もちろんチップがそのままレーヴァテインになったわけではない。


 チップは一番安全なつか、つまりはにぎる所に内包ないほうされている。

 柄をこわされないかぎりはこのレーヴァテインが破壊はかいされることもない。


「まさか・・・神器をうばいもせずにレーヴァテインを作り上げたのか」


「そう見えないんだったら貴様の目は節穴ふしあなだな。まあ残念ざんねんながら威力いりょくはおおよそ半分と言った所だが、一人の神を蹴散けちらすくらいいとも簡単だろう。ああそうだ、忘れていた。万が一にも貴様の攻撃が当たっては大事な服が台無しだ。どこかの馬鹿な眷属けんぞくのように服をびりびりにしたくはないしな。兵装へいそう


 俺様の体は一瞬いっしゅん光につつまれ、中世ちゅうせ貴族きぞくの服をベースとした服とマントを羽織はおり、頭には小さな王冠おうかんが乗っかる。

 服には意味はないが、マントと頭の王冠は個人的に気に入っている。


 支配しはいする相手を見下みくだした時の優越感ゆうえつかんはやはりこのマントと王冠あって際立きわだつものがあるだろう。

 貴族の服はそれに合わせたオマケだ。


「さあ始めようか。どっからでもかかってくるがいい。すぐに終わらせてやる」


戯言ざれごとを・・・ニーシャ!全力でロキを排除はいじょする!」


「了解です!インドラ様!」


 先程さきほど余裕よゆうはなくなったようだ。

 このレーヴァテインが本物かどうかなど、本物を知るインドラジットならわかるだろう。


 そもそもインドラジットと俺様の相性は悪い。

 言うならトールもだ。


 トールはまだ力任ちからまかせな所があるが、インドラジットのように速さに任せるタイプと言うのは俺様には合わない。

 俺様は小細工こざいく一撃いちげき威力いりょくが売りなのだ。


 それを封殺ふうさつできる速さは実に厄介やっかいきわまりない。

 実際ざっさい、トールとオーディンとその眷属けんぞくかってきた時は、トールがオーディン達を守るために一撃の重さに割合をおき、速さで決着をつけなかったからこそ拮抗きっこうした戦いができた。


 もちろんそれも俺様の計画のうちだったわけだが。

 だが今回は力技ではなく、速さ重視の神。


 インドラジットの場合、攻撃こうげきではなく移動いどうのみが早いだけだが、それでも厄介なのは近づいた時の雷だろう。

 トールのように遠距離で多方向から連続で雷での攻撃を仕掛しかけられたのならこいつにも勝機しょうきはあっただろうがな。


雷鳴らいめい疾駆しっく!」


 インドラジットは予想よそうどおり雷鳴疾駆によって超スピードで俺様にせまってきた。

 だが―


「甘いな」


 俺様は力を入れずただ身を任せて神器じんきレーヴァテインをる。

 レーヴァテインはその瞬間しゅんかん、炎の刀身に雷を交えてインドラジットをせた。


 インドラジットの雷鳴疾駆の雷も合わさり、すさまじい音を立て、爆発が起こり、インドラジットは彼方かなたへと飛ばされていく。

 あたりは爆炎ばくえんけむりが立ち込める。


「インドラ様!」


余所見よそみしてていいのか?インドラジットの眷属!」


「ニャ!」


 インドラジットが吹っ飛ばされたことにより、動きを一瞬止めたインドラジットの眷属は、動きを止めた事により爆炎の煙からい出た俺様の一撃いちげきらう事となった。

 同じく凄まじい音と爆音によってインドラジットの眷属は地上に叩きつけられることとなる。


 地上では新たな轟音ごうおん土煙つちけむりっている。

 おそらく眷属はもう再起さいき不能ふのうだろう。


「ふん。大口叩いてたわり他愛たあいもないやつらだ。ためりにもならん」


「・・・ロキ、貴殿きでんの怒りをかったぞ」


「知るか。貴様らが弱いのがいけないんだろ。俺様にその責任せきにんを求めるな」


「答える義理ぎりはないだろうが貴殿なら答えるだろうから聞いてやろう。貴殿、何をした」


「ハッ!くそざまあない質問だな!いいだろう、乗ってやるよ!俺様はお前らに見せる前からもう一つSAチップを使っている。言うなら防壁ぼうへき魔法まほうだ。正確に言えば俺様を中心とした球状きゅうじょう結界けっかいで、敵の接近せっきん感知かんちできる魔法だがな」


「そんな物で余のスピードが上回れるとでも言うのか」


「気になるならもう一度突っ込んでこいよ。ネタがわかれば貴様にも対処たいしょの方法があるだろ?」


 一直線に突っ込んで来ればまた撃墜げきついされる。

 だが、俺の言った通りの察知するだけの魔法ならタイミングをずらせばいいだけの事。


 インドラジットの雷鳴疾駆は移動中、自在じざいに方向を変えることができる。

 つまりはまっすぐではなく、方向を変えて俺様の後ろにでも回り込めばインドラジットにも攻撃の機会きかいはあるというわけだ。


 ま、言った通りなら、だがな。


「いいだろう。試してみようではないか。雷鳴疾駆!!」


 とことん馬鹿な奴め。

 インドラジットは俺様の思惑通りに俺様の後ろに回り込んできた。


 だが、真後ろならば俺様に気取られる可能性がある。

 ななめ後ろと言った所だな。


 もちろん俺様のレーヴァテインと言えど、一度近づいた敵に大技ではなすような手段は使えない。

 つまりはオーディン達と戦った時のような大技での牽制けんせいができないという事だ。


 できるのはさっきのような爆炎を起こす程度ていど

 しかもこの技は対象たいしょうに当てなければ発動しない。


「ま、当たるんだけどな」


「ヒハ・・・」


 三度目の爆音ばくおん

 インドラジットはそれを予見よけんしていたようで、防御ぼうぎょ魔法でも強固にしていたのだろう。


 ばされはしたが、次は彼方かなたまで飛ばされず、そこそこ離れた空中にとどまった。

 だがダメージははかれないだろう。


 もう一度喰らえばゲームオーバーという所だな。

 あさはかな神め。


「ヒハハハハハハハハ!いた効いたぞ!それにカラクリもわかった!貴殿は防壁と言ったな!確かに防壁だ!その魔法は相手の動きを察知する外側のでかい球状の壁と、それに合わせて自動で敵を追撃ついげきする内側の小さい球状の壁でできた二重にじゅう構造こうぞうと言うわけか!ヒハハ!これはおそれ入った!」


「まあ今更いまさらわかった所で貴様にもう勝機しょうきはないだろうがな」


「ヒハハ!たしかに近づけなければ何の意味もない!なら最後の悪あがきを喰らうがいい!したがうがいい。数多あまたの雷達よ!雷鳴らいめいひびく天高き者達よ!【雷々らいらい矢々しし】!」


 インドラジットの頭上、晴天だったはずの空は一瞬にしてよどみ、数多の魔法陣まほうじんおおくされる。

 魔法陣から発射はっしゃされるのは数えきれないほどの無数の雷の矢だ。


 だがこの俺様にそんなものは通じない。

 俺様には敵を近づけさせないほどのレーヴァテインの大振りの技がある。


「悪あがきとはよく言ったもんだ」


 俺様はレーヴァテインを大きく振りかぶる。

 それに呼応こおうして、レーヴァテインの刀身の炎は大きくなり、雷をまといはじめる。


 技と言うよりもレーヴァテインの持つ特性とくせいの一つ、名づけるなら少しださいがちょう炎雷えんらいりとでも言った所か。

 まあ規模きぼが半分くらいだから大炎雷切りだな。


 それでもオーディン達と戦った時と同じくらいの威力いりょくはある。

 降り注ぐ雷の矢を一瞬にして焼き尽くし、それでも降ってくる矢をさらに焼き尽くした。


「こんな程度ていどか。悪あがきにもなってないんじゃないか?」


「ヒハ・・・ヒハハ。中々に手ごわいではないか。だが、辺りは暗くなった。ここはもう余のフィールドぞ」


「だからつべこべ言わずに向かって来たらどうなんだ。貴様の特異性とくいせいはその饒舌じょうぜつなのか?」


「いいだろう。かげかくれてしまえば突進することもない。貴殿を雷の一撃にてほふって見せようではないか」


 インドラジットは言った通りに暗闇にまぎれた。

 予想よそうしている事だろうが、姿を消した所で二重にじゅう防壁ぼうへきにはひっかかる。


 インドラジットの目的はたとえ居場所がわかろうとも近づき雷で攻撃する事だ。

 やみに紛れるのは一縷いちるのぞみと言った感じだな。


まったく、神器じんきを2つも持ってる神とは思えない浅はかさだ。俺様相手だったのが運のつきだぜ、ほんと」


 俺様はあやしげににやっと笑って見せる。

 インドラジットはなおも向かってきているだろう。


 だがそれでいい。

 全ては俺様のてのひらの中だ。


SAえすえーチップ発動。【捕縛陣ほばくじん】」


「な!なんだこれは!」


 二重防壁の代わりに展開てんかいさせたのは捕縛陣。

 二重防壁と違う所は察知さっちしたら問答無用で敵を捕縛するところだ。


「甘いんだよ貴様は。とことんな。貴様にはあまり意味をなさないが、封印ふういん結界けっかいを自動で発動させる魔法だ。そこから出るのは簡単だろうが、姿を現した以上近づいても無意味なのはわかるだろう」


「くっ・・・貴殿、いくつ魔法を同時展開できると言うのだ!」


「いい質問だねぇ」


 俺様はゆっくりとインドラジットへと近づいていく。

 捕縛陣の中から攻撃はできないが、そこからたやすく出てこれるインドラジットに近づくのは自殺行為こういと言える。


 なんせある程度ていどまで近づいてから捕縛陣を脱出し、俺様に雷をびせればいいのだから。

 だがしかしこいつはそんなことをしないだろう。


 今こいつが言った通りだ。

 インドラジットは俺様が複数の魔法を同時展開できると思っている。


 無限むげんに展開できるならば先程さきほどの二重防壁、さらには未知みちの魔法によって撃墜げきついされてしまうかもしれない。

 つまりインドラジットはすでに戦意せんいを無くしてしまっている。


 俺様はインドラジットの目の前まで来ると、にやりと笑ってこうげる。

 俺様が同時にSAチップを展開できる数は―


残念ざんねんながら3つまでだ。惜しかったな、羽虫の神よ。ねむれ」


「なに!ま、待て!」


 俺様は無慈悲むじひにインドラジットへとレーヴァテインを切りつける。

 4度目となる爆音で、インドラジットは勢いよく地上に叩きつけられ、2つ目の土煙を作った。


「ロキ―終わったー?」


 すでに空を飛ぶ稽古けいこはつけてあるフェンリルは、何の苦労くろうもなく空中にいる俺様の元へと飛んできた。

 兵装へいそうおおかみの姿になる事もせず、余裕よゆうでリンゴあめ的な何かをどこからか取り出して食べているフェンリルには俺様が負ける事など1ミリも考えていなかったのだろうと予想できた。


とどこおりなくぶちのめした」


「ふーん。次は僕にも戦わせてよね」


「わかっている。次は貴様を存分にこき使ってやるから安心しろ」


「わーい、楽しみー」


 あんまり楽しみそうではない声をあげたフェンリルだが、次の試合には俺様はあまり興味きょうみがない。

 次にどんな神が相手だろうとフェンリルに存分ぞんぶんあばれてもらうつもりなのは間違まちがいないのだ。


WINNERウィナー!ロキ!』


 勝利しょうり宣言せんげんの放送を聞きながら、俺様達は意味もなく地上に戻って行ったのだった。


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