二幕 【西・一回戦目「音楽の神」】


 木々きぎにおい。

 あきらかに今までいたコロシアムではない事はすぐにわかった。


 光がおさまって行き、目に見えたのは森と荒野こうや

 説明せつめいは聞いていたが、どうやらここが仮想結界かそうけっかいと言う戦いのための結界の中らしい。


 ただただ広く見える荒野は、限界げんかいがあるようには思えず、ここが本当に結界の中なのか疑問ぎもんに思ってしまう。

 今まで俺が見た結界はせいぜい暗闇くらやみが続いている異空間いくうかんだったり、拡張かくちょうされた洞窟どうくつだったりと、せまいか現実げんじつばなれしているかのどっちかだった。


 だが今回の結界は現実味にあふれていて、まるで違う星にいるかのような錯覚さっかく芽生めばえさせた。

 それは横にいるありすも同じらしく、俺と同じようにあたりを見渡みわたしている。


「すごいわね・・・本当に結界の中なのかな」


「まあそう説明されてる以上それを信じる他ないだろ」


「まあそうなんだけどさ。ただの転異てんい魔法まほうで実は実在じつざいの場所で戦ってましたなんてドッキリないでしょうね」


「・・・ない事をいのろう」


 そんな他愛たあいのない話をしていると、遠くから音楽のようなものが聞こえてくる。

 ここにいるのは俺達と対戦相手の神だけなので、ほぼ間違まちがいなく敵であるはずだ。


「あれは、私達をさそってるのかしら」


「できれば森の方で身をかくしながら戦いたかったもんだがな」


 音が聞こえてくるのは荒野のおく

 おそらく豆粒まめつぶのようにちゅういているのがおそらく敵だろう。


 初戦からいきなりガチ勝負をいどまれているわけだ。

 このまま無視し続けることもできるかもしれないが、相手の方が身を隠す技などを使ってきた場合はぎゃくにこちらが不利ふりになる。


 ならば誘っている以上こちらも素直すなおおうじた方が今は得策とくさくだろうか。

 俺が考えていた第一プラン、隠れながらグングニルを当てる作戦はしょぱなからくだかれた。


「行こう」


「・・・わかった」


 俺の思考を読んでくれたのだろう。

 修行しゅぎょうしてわかった事だが、絆力はんりょく意思疎通いしそつうをより強固きょうこなものとしてくれる。


 そのおかげか、絆力はんりょく解放かいほうをしなくても以前よりおたがいの思っていることがわかるようになってきたのだ。

 俺が空を飛び始めるとありすもついてくる。


 俺はスピードは抑え目に、様子をうかがいながら敵の元へと進んだ。




   二幕【西・一回戦目「音楽の神」】




「ようやく姿をあらわしましたか」


「HEY!YO!ノってるかい!」


 いわゆる天女てんにょ恰好かっこうをした神らしき女性が前に立ち、後ろではどうやって浮かせているのかDJブースをスクラッチしているいわゆるDJがいた。


 神らしき方は、ひらひらと天女の服をひらつかせて、手にはすでに剣のような物を持っている。

 やいばは見当たらず、剣先が釣り針の返しのようになっていて、返しが両側りょうがわにある変な剣だった。


 剣としては少し太めのあつみをしているが、もしかしたらグングニルと同じでやりとしての機能きのうを持っているのかもしれない。

 だが槍としてもみじかすぎる。


 俺が絆力解放した時の槍とも剣とも言えない長さの槍にている。

 とにかく要注意ようちゅういだろう。


「ふざけた人もいたものね。フェスでも開きたいなら人間の街でやりなさいよ」


 ありすがそう言うのも仕方ない。

 DJの方はひたすらかけている音楽に乗っているだけで、特に危険きけんそうにも見えない。


 一昔前のラッパーのような恰好に、帽子ぼうしもかぶっている所から、明らかに時代を間違えたDJであった。

 ちなみに服の配色も黄色がメインで目がちかちかすることこの上ない。


 一方神らしき女性の方は、ひらひらした服でどう考えても戦いようの服ではない。

 身長がありすと同じくらいな事から、実は同じような学生かもしれない。


 DJは明らかに外国人だろう。

 その事から女の神の方も外国人だと思われる。

 

「とにかく油断ゆだんしている内に一気にたたく。ありす、行くぞ!」


「わかった」


「「兵装へいそう!」」


 俺とありすは兵装し、俺は学生服から青と白がベースで軽装けいそう騎士服きしふくへ。

 ありすも学生服から俺よりもプレートがついているが、こちらも割と軽装な女性の騎士の服になっていく。


 ありすは俺と違い、髪の毛がショートから元のロングへ、そして金髪へと変わっていくと、さらっと右手でかきわける。

 俺の手にはいつものグングニル、ありすの手にもいつものヴァルハラの槍が装備そうびされる。


先手必勝せんてひっしょう!」


 俺が飛び出すのと同時にありすのごえひびく。

 DJは相変あいかわらず動かずに、女の子だけが前線に出てきた。


 初戦から二体一はかなり好都合こうつごうだ。

 だがそう思ったのもつかの間だった。


MUSICミュージック STARTスタート!!」


 DJがさけぶと、今まで以上の爆音ばくおんが辺り一帯いったいに響き渡る。

 その音にひるむことなく突っ込んだはずだったが・・・。


「くっ、これは・・・」


悠真ゆうまけて!」


 間一髪かんいっぱつで敵の一振ひとふりを避ける。

 DJは何もしてこないと思ったが、あいつの担当たんとう弱体化じゃくたいかだったのだ。


 おそらく音に何らかの魔法まほう仕込しこんであり、俺達の動きを制限せいげんしているのだ。

 敵はなんなくこちらに攻撃を仕掛しかけてくるが、俺とありすは二人でそれをさばくのが精一杯せいいっぱいだった。


「ありす!」


「だいじょう、ぶ!でも、これ早く何とかしないと・・・!」


「僕のミューズよ!君の声をもっと聞かせておくれ!」


「あなたのミューズとは言っていないんですけどね」


 敵の言葉から女の方はミューズと呼ばれている可能性がでてきた。

 ということは音楽の神、ミューズだろう。


 さっきからミューズは口を動かしていたのはおそらく歌に魔法かかっていて、それを眷属けんぞくのDJブースで増幅ぞうふく、そんな所だろう。

 ・・・だがそんな事ができるのだろうか。


 確かに増幅だけならば補助的ほじょてき効果こうかで、ミューズの声が神器じんきなのだとしたらそれもまかり通るのか・・・いや、今は考えてるひまはない。

 一刻も早くミューズの歌を止めるか、あのDJブースを破壊はかいしなければ。


「くっそ!ブルーランス!」


 すきを見てブルーランスを30本ほど発射はっしゃさせる。

 もっと多く発射する予定だったが、こっちの力が制限されているのか、まだ力をコントロールできていないのか、思うようにはいかなかった。


 とりあえず狙うのは動き回っているミューズではなく、DJの方だ。

 DJ自身に当たらずとも、DJブースに当たれば少しは音も軽減けいげんするだろう。


「甘いね。実にSWEETスイートだ」


 爆音がまた鳴り響く。

 そしてブルーランスは音にかき消されたかのように消えてなくなってしまった。


「なに!そんなのありか!」


「悠真!集中!右前方!」


 驚愕きょうがくする俺にありすの指示しじによってなんとか攻撃こうげきをかわす。

 ブルーランスが使えないとなると、風力ふうりきもおそらく通じないだろう。


「くそっ初戦でこれかっ!」


「あなた達は初戦敗退はいたいよ。きなさい。ハーモニクスボイス!」


「ぐっあぁぁぁ!頭がぁ!」


「ゆう・・・ま・・・なんとか音を・・・」


 頭が痛い。

 直接のうに音が響き渡る。


 音を止めさせなければ勝機しょうきがまるでない。

 どうする、どうすればいい。


 くそ、頭が痛くてまともに考えられないっ!

 なにか手は!


(ま、すぐ使う事になると思うがな)


 なんでこんな時にロキの声が・・・。

 いや、一か八かかけてみるしかない。


 ロキの言う通りならオーディンの力を引き出して少しはまともに戦えるかもしれない。

 俺は朦朧もうろうとしかけた意識いしきの中で、ふところにしまっておいたチップを出す。


 それを右手の二の腕にあるSAのスロットに差し込んだ。

 いい方にころんでくれよ・・・!


SAえすえー起動きどう・・・オーディン、システム・・・インストール!」


 魔法のチップだからかはわからないが、チップのインストールは一瞬いっしゅんで終わった。

 ひびわたる歌声にありすは限界げんかいが来そうなのが見える。


無事ぶじに成功してくれ・・・オーディンシステム、起動!」


 SAが了承りょうしょうしたと言わんばかりにキュルルとるが、その音は周りの音にかき消されてしまう。

 だがこれでオーディンシステムは起動した。


 何か変化があるはず・・・。

 ・・・何か・・・。


「なん・・・で・・・なにも起きないじゃねぇかっ!くそ!ロキの馬鹿野郎ばかやろう!」


 チップはテストをねていると言っていた。

 という事は試作品しさくひんなのだろう。


 発動しなかったか、もしくは発動しているが、技を使わなければわからないのどっちかだ。

 だがもう技を出す力は残っていない。


 せめてミューズが近接戦闘を仕掛けてくればグングニルで力を吸い取る事もできたはずなのに。

 どうにかあの音を・・・。


『聞かないようにするには』


 ・・・なんだ今の感覚かんかくは。

 俺が今しゃべったのか?


「そう、か・・・確かに私達は止めることに・・・必死になってた。あの音を・・・聞かなければ・・・いいのよ」


 俺の声だと思ったありすが何かに気づく。

 だが、俺は今の声が自分の声かもわからない事に動揺どうようし、ありすの意図いとが伝わってこない。


「ありす、どう・・・するんだ!」


「こうするのよ!兵装へいそう!」


 すでに兵装しているはずのありすがさけぶと、耳にヘッドホンが装着そうちゃくされる。

 そんなものでこれがふせげるのか?


 いや、防げる。

 兵装は魔法の服。


 ヘッドホンを作ったならそれも魔法のヘッドホンだ。

 兵装で作った服は魔法攻撃を緩和かんわして防御ぼうぎょする力もあるはずだ。


 ならば兵装で作ったヘッドホンには魔法の音を緩和させる力がある!

 ここまで考えてふと思う。


 今の思考は本当に自分のものだろうか。

 まるで誰かが俺の代わりに考えているようなそんな違和感いわかんを感じる。


 いや、今はそれどころではない。

 一刻いっこくも早くこの状況じょうきょうから脱出だっしゅつしなくては。


「兵装!」


 ありすに続き、自分にも魔法のヘッドホンを兵装で出す。

 音の魔法は緩和され、なんとか動けるレベルにはなった。


小癪こしゃくな・・・でもそれだと音が聞こえないはず。アポロン!あなたはハーモニクスピーカーで少しでも力をけずって!私がヴァルキュリアの矢で動きを止めるから!」


「OK!僕のミューズ!」


「私の名前はミューズじゃない!ミュー!」


 敵が何かを言っているが聞こえない。

 歌うのをやめてこちらにかってくるようだ。


 こっちはそれをっていた。

 ミューズが全力で歌わなければさらに動けるようになる。


 でもこれではありすとの連携れんけいがしずらい。

 いや、あるじゃないか、とっておきが。


「「絆力はんりょく解放かいほう!」」


 俺とありすはどちらが言う事もなく、絆力解放を使う。

 二人に光がまとい、俺の槍は短く2本に、ありすは見た目には変化がないが、格段かくだん素早すばやさがす。


「絆力!まさか!この間神になったばかりのはずなのに!」


「行くよ!悠真ゆうま!」


「了解!」


 ありすの素早さにはミューズもついて来れず、一瞬で翻弄ほんろうされる。

 ミューズは必死に攻撃をしようとするが、かする様子はない。


 ありすはあえて攻撃をあてず、ミューズの意識いしきから俺を遠ざける。

 その間に俺が接近せっきんし、グングニルを片方投げた。


「待っ!やめっ!」


 DJが乱入らんにゅうするひまもなく、ミューズにグングニルを当てると、ミューズはぐったりした様子で地上に落ちて行った。

 そこでDJが音楽を止めた事に気づき、俺とありすはヘッドホンを首まで下げる。


「お前たちの負けだ。降参こうさんしろ」


「・・・」


 返事はない。

 ただただ沈黙ちんもく


 神がやられて眷属けんぞくとしてはどうしようもないという所だろうか?

 ・・・何かがおかしい気がする。


 所々ところどころで感じた違和感いわかん

 そしてさっきオーディンシステムを起動したときにも何かを感じた気がした。


 正確には俺の中の声が何かを教えようと・・・

 考えようとした途端とたん、DJは唐突とうとつに笑い始める。


「ワッハッハッハッハッハ!ここまで見事に引っかかるとはな!」


「・・・どういうこと?」


「まさか・・・オーディンシステム、起動!」


 俺は絆力解放をき、オーディンシステムの声を引き出そうとする。

 するとオーディンシステムは答えてくれたのだ。


 いや、正確に言えばオーディンとして記憶にあるはずの神の情報を引き出した。

 あの女の子はミューズなんて神ではない。


「まあミューがやられてしまったのは確かに一杯いっぱいわされたがな!俺の名前はアポロン!芸術げいじゅつ光明こうみょうの神である!」


「まさか!じゃあさっきのは眷属けんぞく?歌声が神器じんきじゃないの!」


「あいつの言うとおりだ。アポロンの神器は黄金おうごんの矢と神のおとの二つ。さっきの眷属が持っていたのは剣でも槍でもない、でかい矢だったんだ」


「じゃああのDJブースが神の音ってわけ?」


「現代用に見た目を変えているんだろ。さっきの眷属は神の音をヴァルキュリアの声に変えてどっちも最大威力で増幅ぞうふくし合わせていたんだ」


「でも近接戦闘で勝ったんだし、遠距離しか攻撃こうげき手段しゅだんがないならまだ勝機はあるはず」


「いや、駄目だめだ。俺は今オーディンシステムの中からアポロンの情報を引き出してるが、その情報ではアポロンは格闘かくとうも得意だ。万能ばんのうタイプの神なんだよ、あいつは」


 俺達の中で言うならトールが近い。

 遠距離のフレイヤ、司令塔しれいとうけん近距離型のオーディン、そしてさらに近距離、遠距離もいけるトール。


 オーディンの力をフルで発揮はっきできない今、万能型の敵はが悪い。

 近距離戦でこちらが上回るとは思えないし、遠距離はそもそも攻撃とまで呼べるような物はない。


「ありす、とにかく矢に注意しろ。アポロンの矢はらえば瀕死ひんし重傷じゅうしょう一撃いちげき必殺ひっさつの矢だ」


「それって一応条件ではこっちと一緒って事よね?」


「数を考えなければな。オーディンの力が100%引き出せたならこっちの方が上手うわてだと思うが、今現状じゃ無理だ。なんとかすきを作るしかない」


「ま、今までと一緒ね」


「話し合いは終わったかな?さあかかってくるといい。君たちのおどりを見せてくれ」


「「絆力はんりょく解放かいほう!」」


 俺とありすは再び絆力解放し、一気にアポロンにせまる。

 おれより早いありすが先制せんせい攻撃を繰り出すが、さすがの身のこなしで全てをいなし、挙句あげくてには槍をつかんで飛ばしてしまう。


 ならばと俺が2本の槍で手数てかずを増やして攻撃を仕掛しかけてみるが―


はじけよ!!!!!」


「ぐあぁぁぁ!」


 アポロンの神の音を使った声ではじばされてしまう。

 ありすが戦線せんせん復帰ふっきし、たたけるのをねらって、俺も攻撃を仕掛ける。


「はぁぁぁぁぁ!」


「ブルーランス!」


 オーディンシステムでどこまで力を引き出せるのかはわからないが、絆力解放時のブルーランスのコントロールできる安定数は現在100にも到達とうたつする。

 俺の背中から100本のブルーランスが、ありすと交戦こうせんするアポロンへ様々さまざま軌道きどうはなたれる。


「甘いわ!蹴散けちらせ!」


 ありすをまたもや軽々かるがると投げ飛ばし、ブルーランスも100の数を一気に消し飛ばしてしまう。


「ちっ・・・これじゃ意味がねぇ」


 俺とありすはアポロンをはさみ合う形にはなるが、決め手にける状況じょうきょうだ。

 なんとか一回でもブルーランスを当てれれば・・・。


「もう終わりかな?それではこちらから行こう。出でよ、黄金おうごん!」


 アポロンが手を左右に開くと、そこには元からあったように矢がずらりと並ぶ。

 そして矢は俺とありすの方をそれぞれにいた。


「さあおどれ」


「ありす!全力で回避かいひ!ブルーランス!」


「わかってる!くっ、風力ふうりき!」


 俺はブルーランスで矢を撃ち落としていき、ありすは風力で矢の軌道きどうを変える。

 二人とも飛び回り、真ん中でアポロンが踊りながら矢を出しては撃ち続ける。


 さいわいなことに、俺のブルーランスとは違って軌道は変えられないらしい。

 だが、速さはブルーランスより速く、多少なら軌道修正しゅうせいはできるようで、飛び回る俺達をしつこくねらってくる。


「このままじゃ消耗戦しょうもうせんだ!ブルーランス!」


「・・・なら、私にまかせて!風力、全開!」


「何する気だ!ありす!」


 絆力解放の力で素早くなっているありすは、風力の力を重ねてさらにスピードをあげる。

 ありすは突っ込んですきを作るつもりだろう。


 だがそんな事をすれば確実かくじつに黄金の矢は当たる。

 一回きりのの作戦だ。


「くそ!ブルーランス!全開!」


 出せるかぎりのブルーランスをアポロンに向かって発射はっしゃ

 コントロールさえ考えなければ200近くは出すことができるだろう。


 アポロンは黄金の矢をブルーランスに集中させ、一本の矢で数本のブルーランスをたおしていく。

 そしてありすがほぼ見えない位置からの超スピードで強襲きょうしゅう


無駄むだだ」


 アポロンはついでといわんばかりにありすの方に黄金の矢を飛ばす。

 ありすは方向展開ほうこうてんかんできないので直撃ちょくげきしてしまう。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 だがそこで終わらなかった。

 ありすは黄金の矢をけ、失速しっそくしながらも、アポロンの足をかすめる。


「なんとっ!」


 アポロンは体制をくずし、その隙を狙って俺はグングニルを一本飛ばした。


「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


 グングニルはそのままアポロンの体へと―


「ふんぬ!」


 さらず、裏拳うらけんで見事に弾き飛ばされてしまう。

 だがこちらも終わりではない。


「もう一本だ!」


 見事な裏拳ではあったが、一本目のグングニルを弾くのがギリギリで手は2本目に届かない。

 ならばとアポロンは神の音を声にのせ、弾き返そうとする。


後一手あといってだ。風力ふうりき


 俺は横からアポロンに向かって風力を使う。

 すると先ほど別ルートでアポロンに向かっていた数本のブルーランスがアポロンに急接近きゅうせっきんした。


「!?」


 アポロンが気づいてももうすでに時はおそい。

 アポロンはなんとか音を当てようと広範囲こうはんいで音をひろげるが、それもむなしく失敗しっぱいに終わる。


れ!っがあ!」


 ブルーランスはアポロンの左足に直撃。

 いくらちゅういていると言っても、片側かたがわの足が動かなくなればバランスはくずれる。


「ワハハハハ!降参こうさんだ!」


「グ・・・そうか」


 手元をはなれたグングニルを2つ同時にけしかけようと思ったが、アポロンはそれを見越みこしてか降参した。


WINNERウィナー!オーディン!』


 アナウンスが流れ、ワー!と言うにせ歓声かんせいらしきものが聞こえる。

 俺とアポロンはそれぞれの眷属けんぞくの元に向かうためにゆっくりと下降かこうしていく。


「やったわね、悠真ゆうま


まったく、無茶むちゃしやがって。ありがとよ」


「どういたしまして」


 満身創痍まんしんそういのありすを立ち上がらせ、肩を貸すと、あちらはお姫様ひめさまっこでミューズを抱きかかえていた。


「ちょっ!ずかしいってば!やめっ!やめなさい!」


「まあまあいいじゃないか。新生しんせいオーディン。いい試合だった。楽しかったよ。またいつか会おう」


 アポロンが言うのと同時に来た時と同じように光につつまれていく。

 初戦からなかなかはげしい戦いだった。


 今後が心配しんぱいになってくる。

 俺達はこのまま勝ち進めるだろうか。


なさけない顔しないの。とりあえず勝ったんだから、堂々どうどうとしてればいいのよ」


「・・・そうだな」




 西・一回戦 オーディン対アポロン

 オーディン勝利

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