三幕 【合宿】


「じゃあー頑張がんばってねー!明日の夕方にむかえに来るよー」


 フレイヤの神器じんき、スキーズブラズニルを使って無人島へと送ってくれた縷々るるは、俺達を送った後早々そうそうもどって行った。

 そして無人島には俺とありす、ロキとフェンリル、ヘルメスと千里せんりが残されることになる。




 5章 3幕【合宿】




「俺様達は個人的に修行しゅぎょうする。こっちの方に来るんじゃねーぞ。まあ来てもいいがそん時は命の保証ほしょうはしねぇ」


 と言ってロキとフェンリルも森の奥に入って行ってしまった。

 ヘルメスたちに教わると言うのはちょっとした恐怖きょうふがまだあるのだが、天界一武闘会てんかいいちぶとうかいで勝つためには最低限さいていげん準備じゅんびをしとかないといけない。


「して?俺とありすは何をすればいいんだ?」


 ありすが明らかに暗い空気をまとっていたが、体を動かせば気分も変わるだろうと思っていた。

 いや、それくらいしか思いつかなかったのだ。


 あおの代わりになってやる事は出来ないし、かといって今すぐ目の前の事に集中しろと言っても無理な話だろう。

 本当は合宿に来るまでになんとかできればとは思っていたのだが・・・


 まだまだ色んな意味で力不足の甘ちゃんな俺にはどうすることもできなかったのが現状げんじょうだ。

 この合宿で少しでもありすの気持ちが変わるのを今はいのるほかない。


「そうですねぇ。まずは自分のできることを把握はあくするところから始めましょうかぁ」


「できる事・・・?んー・・・兵装へいそう!」


 ヘルメスの言葉に返すため、おもむろに兵装し、自分でも見慣みなれつつある青と白をベースとした騎士服きしふく換装かんそう、手にはオーディンの神器、グングニルを持つ。


「俺ができることはこの兵装くらいなもんだが」


桂木かつらぎ悠真ゆうま、あなたは何の神か忘れたの?」


 千里のややかな声に少し怒られた気分になるが、実際じっさい俺がわかる事なんてこんなものだった。


「何のって・・・オーディンだろ?」


「その手に持っているのはなに?」


「グングニル」


「グングニルでできることは何かしら」


「・・・力をうばう??あぁ、これもできることの一つって事か」


 かる溜息ためいきをつかれながらも、説明せつめいやくは千里からまたヘルメスへと戻って行った。


「神には大抵たいてい固有こゆうの能力がありますが、基本的には真似まねできる程度ていどのものなんですねぇ。ただ、オーディンともなるとその神としての地位ちいゆえに、なかなか真似できない固有能力を持っています。それが超強力なエナジードレインと言うわけですねぇ」


「ふむ」


 力を奪うってのはたしかにすごい能力だとは思っていたが、俺が思っている以上にすごい力らしい。

 ただ、俺はこの力の欠点けってんを知っていた。


「でもこれって体に当てないと意味ないだろ?」


「そのとおりですねぇ。直接すか投擲とうてきによってつらぬくか。どちらにせよ神との戦いの中でそれはなかなか困難こんなんとなります。ですが、これもグングニルならではの特性とくせいなのですが、神やヴァルキュリアの持つ魔法まほうたてをほとんど無効化むこうかできるのも強みなんですよぉ」


「無効化?そんな力があったのか」


 魔法の盾についてはすでに何度も見ている。

 記憶きおくとして一番に残っているのはありすの魔法の盾だ。


 はじめてあった時からその防御力ぼうぎょりょくの高さは何度も見ている。

 あれを無効化できると言うのは確かに相当そうとうな強みだろう。


「まあだからと言って、フレイヤさんのような遠距離えんきょり特化とっかタイプの神と戦うのはどうしても不利ふりになるわけですねぇ」


「確かに近づかないと意味がないもんな」


「そこでまずおぼえていただくのが魔法になります」


「魔法・・・でもオーディンって魔法がほとんど使えないって聞いたぞ?」


「その通りです。今の神としてのオーディンにはその力はありません。オーディンの魔法知識まほうちしきのほとんどは大昔にフレイヤさんにがれてしまいましたからねぇ」


「引き継がれた?」


 ヘルメスの言葉を聞いて納得なっとくできることが一つあった。

 学校の図書館で神について調べた時、オーディンは魔法の達人たつじんで、フレイヤは魔法については一切いっさいれる記述きじゅつがなかった。


「まぁ、そのへんの話しはおいおい。確かに現状げんじょうオーディンには魔法の知識はほとんどありません。ですが、オーディンの性質上せいしつじょうどんな魔法でも頑張れば習得しゅうとくできると思いますよぉ。ただ、今回はそこまでの時間はないのでオーディンに残された固有魔法だけを習得してもらいます」


「固有?オーディンの能力は力を奪うグングニルだけじゃないのか?」


「もちろんその通りです。なので、固有魔法もエナジードレインの能力を持った魔法という事になりますねぇ」


 グングニルと同じ能力を持った魔法なんてもはやグングニルがある意味がないんじゃなかろうか。


「ですがこの魔法はグングニルほどの能力はありませんよぉ。全ての魔法を当ててやっとグングニルに近いくらいのエナジードレインが行われると思ってください」


「まぁそうか。そんな強かったら本当にグングニルの意味ないもんな」


「この魔法は数こそありますが、少し当たった程度じゃ少し違和感いわかんを覚える程度になるのでほぼ牽制けんせいか、グングニルが使えない場合の接近戦せっきんせんでの使用がおもですかねぇ」


 戦略せんりゃくはばを広げるだけという事だろう。

 この魔法を覚えることによって防御面ぼうぎょめんが少しばかし上がればいいが。


「じゃあ早速教えてくれ」


「いいでしょう。魔法名は【ブルーランス】。魔法名まほうめい自体じたい詠唱えいしょうとなるので呪文じゅもんなどは必要ありません。即発動できるのも、この魔法の強みなんですねぇ。イメージとしてはグングニルのレーザーがたくさんでる感じをイメージしてみてください」


「わかった」


 魔法はSAえすえーを使ってしか出したことはないので、実質じっしつは初のこころみとなる。

 全神経ぜんしんけいを集中させ、名前の通り青いやりを思い浮かべた。


 それを頭の中で何本もやしていき、レーザーのごとく発射はっしゃさせる。


「ブルーランス!」


 俺が魔法をとなえた瞬間しゅんかん、体の後ろから扇状おうぎじょうに青いレーザーが一直線に空へい上がって行った。

 自分の後ろだったこともあり、一瞬いっしゅん何も起こっていない錯覚さっかくとらわれもしたが、その存在そんざい目視もくししてからは心のそこから感動かんどうき上がってくる。


「・・・すげぇ。こんな簡単かんたんにできるもんなんだな」


「まあ固有魔法ですしねぇ。グングニルを出すのと感覚は一緒ですよぉ。普通に魔法を覚えようとしたらこう簡単にはいきませんねぇ」


「でもこれ、あんまり使えなくないか?」


 背中から発射される上に扇状に一直線。

 これでは真上にいる相手にしか効果こうかはない。


「もう忘れたのかしら?そのための合宿なのよ」


 あいも変わらずあきれた口調くちょうで言う千里は見ていられないと言った感じだ。

 と言われても今出したブルーランスは何十本、下手へたしたら百個近くはあったように見えた。


 だとするとこれをあやつれるようになると言うのはなかなかにしんどい気がする。

 背中だけではなく手からも出せるようになったりするのだろうか。


「まぁまぁ千里、あまりきつい事を言うもんではありませんよ。今回ブルーランスにかんしては自在じざいに操り、さらには魔方陣まほうじんかいして自分の体以外からも出せるようになってもらいたいと思っていますよぉ」


「なんか大変そうだな・・・とりあえず時間が勿体もったいないな。さっさとものにしちまうか」


「と、その前に」


「まだ何かあるのか?」


「固有魔法と言うわけではありませんが、もう一つオーディンが使える魔法を会得えとくしてもらいますよぉ」


「まだあるのか」


 固有魔法ではないとすると魔法としてはそこまでレベルが高くなさそうだ。

 そんな感想をこの時点ではいだいていた。


「簡単に言えば風魔法ですねぇ。オーディンは風神ふうしん天空神てんくうしんばれる事もあり、風に関する魔法は特に使えたのですよぉ。その中でも魔法と言うよりは能力に近い風を操る力、前オーディンは風力ふうりきなどと呼んでいましたが、その風力もオーディンがいまだ使える能力の一つなのですねぇ」


 魔法という言葉を聞いて少しおじけずいてしまう自分がいた。

 オーディンが特に使えたという事は魔法のレベルとしては高い可能性がある。


「・・・で、それはどうやって使うんだ?」


 と、聞いてみたはいいものの、ヘルメスに普通に魔法を覚えるのは困難こんなんだと先ほど言われたばかりだ。

 どうしても先入観せんにゅうかんとしてはこの二日間で会得できる気はしない。


「そうですねぇ。普通の魔法なら私が実演じつえんしてもいいのですが、風力に関しては先ほども言った通り、魔法と言うより能力なのですよぉ。なのでできるなら実演と言う形をとりたいのですが・・・」


 そこでヘルメスは目線めせんをありすの方に向ける。

 ヘルメスが言っているのはありすにやってもらった方が早いという事だろう。


 ありすは目線に気づいてはいなかった。

 無人島に来てから俺が説明を受けている間、ぼんやりと海をながめているだけなのだ。


 実際じっさいさくもなく連れてきたのだからここで一緒に修行しゅぎょうけれないと何の意味もなくなってしまう。

 だがこんな状態じょうたいのありすになんて声をかえたものか・・・


「あの・・・ありす」


「・・・ん。聞いてた。風力でしょ」


 話は聞いてたらしく、すぐに海から目を話しこっちを向く。

 だが、そのひとみは俺を見ているようでどこか別の次元じげんを見ているかのように虚ろだ。


「風力はね・・・風を感じるの」


「・・・」


 何と反応はんのうしていいものか。

 完全に不思議ふしぎちゃんになってしまったありすから目をそらし、ヘルメスの方をくとその先で目があったのはヘルメスではなく千里せんりの方だった。


 千里は深いため息をつきながらも、こちらに数歩すうほあゆって説明せつめいを始める。


「別に頭がおかしくなっているわけではないわ。単純たんじゅんに言葉がりないだけ。風を感じて一体となる感覚が必要って事よ」


「・・・そうなのか?」


 ふたたびありすの方を向いて確認すると、ありすは小さくうなづいて見せた。

 だがその瞳はまたもや海の方を見ている。


「千里、お前風力使えるのか?なんかくわしそうだけど」


「あなたたちほどのレベルではないわね。似たようなことができると言った方が正確せいかくだと思うわ。・・・姫野川ひめのがわありす、あなたもいつまでぼんやりしているつもりなの。蒼希あおき優斗ゆうとは死んだ。それで?今あなたにやれることは何かしら」


「おい、千里!」


 千里の言葉にふと声をあげてしまったが、本来なら俺がやらなければいけない事だ。

 強く千里におこる事も出来ず、自分の不甲斐ふがいなさに落ち込みそうになるが、ありすはそれに対して怒る事も悲しむこともなく、うつむき、首を少しってからこちらに向き直った。


「・・・そうだね。・・・悠真、風力やってみせるからちゃんと見てて」


「お・・・おう」


 ありすがやる気を見せてくれるのはいいのだが、これでは何の解決かいけつにもなっていない。

 俺がありすをっていかないといけないんじゃなかったのか。


 あおにもそうやってたのまれたはずだったのに。

 何やってるんだ俺は。


 そんな葛藤かっとうを頭の中でり広げている間にありすは手近にあった木の近くに歩み寄った。

 だが、近くと言っても木との距離きょりは10メートルはかるえていた。


 ありすは何の合図もなくおもむろに右手を左の方へ持っていく。

 そこで俺が感じたのは風が何か変わったという誰でもわかるような感想だけだ。


 次の瞬間、右手を思いっきり横に振り払うと、目の前の木が強烈きょうれつな風によってなぎたおされていく。

 何の木かはわからないが、そう簡単にれるとも思えない。


 だとしたらこの風力という力は台風、いや、もしかしたらそれ以上の力があるのだろう。


「・・・すげぇ」


 ありすは得意げな顔をするわけでもなく、相変わらずうつろな目でこっちに振り向くと―


「わかった?」


 と、一言口にした。

 それに対する俺の答えはこうだ。


「さっぱり」


前途多難ぜんとたなんね」


 そうして、千里にばっさりとめくくられて俺達の合宿は始まった。

 ブルーランスを自在じざいあつかい、風力ふうりき会得えとくする。


 どこか虚ろなありすと共に。

 合宿の始まりとしてはいいスタートを切れたとは到底とうてい言えないだろう。


 その後ももちろん特訓とっくんは続いたわけだが、あまりいい結果は得られてない。

 ブルーランスは少量なら操れるようになったが、自分の背中以外から出す方が困難で、まだ1、2本しか他の場所から出す事が出来なかった。


 風力に関してはなんとなく風を起こす程度ていどで、自然な風なのか自分で出しているのかわからないほどだ。

 ありすの件もあり、魔法はとりあえず後回しにして武器での戦闘訓練せんとうくんれんに切り替えたが、次はありすが単純たんじゅんなミスを連発れんぱつ


 結局けっきょくたいして結果を残せず今日の特訓は終わりとなった。

 大会は9月初めと言っていたし、合宿をやったとしてももう一回が限度げんどだろう。


 だとすると普段の生活の中で特訓する事も必要なわけだが、ありすが元に戻らない事にはそれもかなわないだろう。

 ならばひとまず自分の事はほおっておいて明日はありすの事を考え、どうにか元気にさせる方が先決か・・・


 そんな事を考えていたらいつの間にか俺の意識いしきは夢の彼方かなたへと消えていた。




「・・・ン。おい、・・ディン。オーディン、いるんだろ」


 なんだかさわがしい。

 だれかがとびらたたいている音が聞こえる。


「オーディン、俺様が来てやっているんだ。早く扉を開けろ」


 声の主はロキらしい。

 もう朝だろうか。


 寝ぼけまなこで扉を開けるとそこにはご立腹りっぷくなロキが仁王におうちで立っていた。

 俺が開けると鼻をフンッとらしずかずかと入ってくる。


 外を見ると辺りはまだ暗い。

 おそらく俺が寝てしまってからそれほど時間は立っていないだろう。


「なんだよロキ」


 特訓でバキバキになっている体を少し動かしてほぐしながら俺も部屋の中に入って行く。

 ロキは当然とうぜんと言うように椅子いすに座っていた。


 小屋こやに入ってすぐ寝てしまったのか、小屋の内部ないぶをちゃんと見ていなかったようで、椅子と机があったこと自体じたい今気づいたわけだが。

 ロキは俺にも座れと目で合図してきたので、俺もベッドの方に座る事にした。


「まあこれと言って用事があったわけではない。だがていたらくな修行だったと聞いたもんでな」


「・・・つまり心配しんぱいしてきてくれたのか?」


「心配?はっ!誰が貴様きさまの事など心配するか。しかしな、貴様がオーディンとして成長してくれねば俺様としてもつまらないのでな。前オーディンまでとはいかずとも、貴様には俺様を楽しませる義務ぎむがある」


 そんな義務は今初めて聞いたが。

 まあだが口ではこう言っているが心配してくれているんだろう。


 最近ロキの事がわかってきた。

 割とかまってちゃんでいい奴だと思う。


 口は悪いしいたずら気味ぎみに世界を支配しはいすると口ではやりたい放題ほうだいだが、案外あんがいそんなに迷惑めいわくにならないように考えている。

 最初に戦ったときだってわざわざ専用空間でたたかったり、なんだかんだいろんなことを手伝ってくれたり。


 ロキほどの力があればいくらでも死傷者ししょうしゃも出せるだろう。

 俺もとっくにやられている。


 でもそうしないのはロキのやさしさだったりプライドだったり、いろいろあるのだろう。


「ありがとうな」


「・・・何にれいを言っているのか知らんが、何か俺様の気に食わない事を考えてるのだけはわかるぞ。まあとりあえずその話は置いといてやろう」


「ん?結局けっきょくなんか話あるのか?」


 単純に様子見をしに来たわけではないらしい。

 まあさすがにロキと言っても用事がなければ俺のところまで自ら来ないか。


「さっきも言った通りだ。修行に身が入っていないのではここまで来た意味がないからな。まあ理由は主に貴様の片割かたわれだろうが」


「まあ・・・そうだな」


 ロキが言うようにありすが機能きのうしていないのはかなりこの合宿の意味を失っている。

 俺も明日はありすの回復につとめた方がいいかと思っていたくらいだ。


「貴様が大会で活躍かつやくできず、その辺で死ぬのは別にどうでもいいが、今回にかぎっては俺様にも計画がある。ここで死なれると俺様的にも都合つごうが悪い」


「計画??」


「いずれ貴様に協力してもらおうと思っている計画だ。今はまだ教えないが、貴様にしかできん。おたがいにとって利益りえきしかないとだけ言っておこう」


「ふーん。まあなんでもいいけど。確かに今のありすは俺にはどうしていいかわかんねぇよ」


 俺はそのままベッドにたおれこみ、天井を見上げる。

 そこには何も変哲へんてつもない木の天井があった。


 今の俺はこの天井と一緒だ。

 何か特徴とくちょうがあるわけでもなく、雨風あめかぜをしのぐためにそこにある。


 ここに神様が落としたかのような雷でも降ってみろ。

 一瞬でこの小屋ごと消し炭になってしまう。


 それくらい今の俺は無力むりょくだ。


「はぁ・・・貴様は下らんことを考えるな」


「・・・心読んでんじゃねぇよ」


「心の声がだだれなんだよ。少しはかくせるようにならんと戦闘せんとうの時も次の行動が読まれるぞ」


「うっせ」


「とにかくそんな事考えてるひまあるなら修行でもしてることだな。天井には天井にできる事でいいんだ。不満ふまんなら増築ぞうちくでもしてろ」


「・・・結局強くなってもありすの心が変わるわけじゃねぇだろ」


「ったく、俺様が全て説明しねぇと貴様は何もわかんねぇのかよ。貴様の謎理論なぞりろんで説明してやるけどな、心がやられてる時に雨風もしのげねぇ所で寝っころがってみろ。それはそれは死にたくもなるし実際死ぬ。じゃあ屋根やねがあるだけ考えを雨に邪魔じゃまされずまとめられるってもんだ。貴様らはお人好ひとよしだからどうせその近くでうるせぇくらいにいつでも手をばして待ってるんだろうが。じゃあそれ以外に何をするんだよ。立ちたくない人間を無理やり立たせても立ちゃしねぇんだよ。自分で周りの手をつかめるようになるまで屋根でも小屋ででも守って声かけてやりゃいいだろ」


 突然とつぜんロキが少し怒ったような口調でまくしたてるもんだから俺はおどろいてしまった。

 めんらったと言うべきだろうか。


「・・・そうだな」


 ロキの言葉はみょうに俺の中にしっくりきた。

 最初はこいつとあいいれる事なんてないとも思ってたが、今ではたよれる仲間なのかもしれない。


「俺様を仲間ごっこに引き入れるな。とにかく、貴様は今何をしなきゃいけなくて、何をしたいのかだけ考えてろ。じゃあな」


 ぶつぶつと文句をいいながら出ていくロキ。

 その背中を見送ってから俺はもう一度ベットに倒れこむ。


 むずかしく考えすぎた。

 俺の悪いくせだ。


 こんな事じゃ到底とうていあお辿たどりつくことはできないな。

 でも蒼の期待きたいにはこたえたい。


 声が聞こえたんだ。

 きっとオーディンとなった事で蒼の残ってる気持ちとかが流れてきてるんだと俺は思った。


 (ありすをたのむ)

 心の中の蒼が言っている。


 もちろん俺の妄想もうそうかもしれない。

 それでも、今俺はありすと一緒に戦っていきたい。


 そのためには一刻いっこくも早く強くなるんだ。

 ありすがまた立ち上がれるその時まで、俺が倒れないように・・・


 ◆◆◆


 風が気持ちいい。

 不安になった時はかならずと言っていいほど高い所にいた。


 それは風を一番感じられるからだ。

 今日悠真ゆうまに教えた風力ふうりきを使っているわけではない。


 でも、風力があるおかげでここまで風が気持ちよく感じるとは思う。

 無人島の真ん中にある山とも言えなくもないがけの上で、私は一人体育座りでたたずんでいた。


 悠真に悪い事してる自覚じかくはある。

 でもどうしても心の整理せいりがつかないのだ。


 私が今悠真に協力して一緒に強くならなければせっかく優斗ゆうとが作ってくれた今後がふいになる。

 わかってはいる。


「わかってる・・・けど」


 顔を足と体の間にうずめて一人暗闇くらやみじこもる。

 綺麗きれいな夜の海から一転いってん、今見えるのは暗闇のみだ。


 今の私みたい。

 そんな事をふと考えてしまう。


「なんで・・・死んじゃったのさ」


 私達のためと言っても、私は一緒に生きてほしかった。

 優斗だけが死んだら意味がないのに。


 恋心がみのらなくてもいい。

 一緒に戦えるだけで、それだけでよかった。


「なのに・・・なんで」


 ひとみからは自然に涙があふれてくる。

 止めることはできない。


 止めようとも思わない。

 今はこの感情を少しでもなくさないといけないのだ。


 周りに心配されないように一人だけで感情をながして、少しでも早く皆と一緒に・・・

 一緒にどうするんだろう・・・


「おやおや、女の子が一人でこんな所で泣いているなんて。皆様と一緒じゃなくていいんですか?」


「いいの。今は一人になりたいから」


「よければ話だけでも聞かせてもらえませんか?」


「・・・優斗が・・・オーディンが私達の為に死んだのよ」


「それはそれはご冥福めいふくを。ですが、新しいオーディンがいるはずでしょう?」


「うん・・・でも、私の親みたいな兄弟みたいな存在だったんだよ・・・悠真の事フォローしなきゃいけないのはわかってるけど、どうしてもそんな気分になれなくて」


「前のオーディンに恋心もあったわけですか・・・」


「まあ、振られちゃったし、あきらめるつもりだったんだけどね」


「気持ちの整理をつける前に死んでしまったと」


「そう」


「なんともおいたわしや。それではこれからどうするのです?」


「わかんないけど、しばらく一人になりたいなって」


「そうですか・・・では私達がいい所に連れてってあげましょう」


「いい所?」


「えぇ、誰にも邪魔じゃまされない場所です。もしかしたらそこで会えるかもしれませんよ?前オーディンにも」


「・・・優斗に?それは・・・いいかもし・・・れない」


「では連れて行って差し上げましょう。死後の世界へ・・・」


「・・・えぇ・・・おねが・・・い・・・っ!するわけないじゃない!」


 夢うつつな気分からやっと解放かいほうされ、即座そくざに立ち上がって後ろを振り向く。

 今私は誰と会話していた?


 ジークフリートにやられた時のような幻術げんじゅつのめまいを感じる。

 どうやらいつの間にか何かしらの魔法まほうにかかっていたようだ。


「ヒハハハハ!やはりそこまでうまくはいかんもんだな!」


「インドラ様がれないことするからですよー。さっさといつものようにってしまえばよかったのですぅー」


「ヒハハ!ニーシャよ、それでは余興よきょうとしてつまらぬではないか!」


「んー、それもそうですね!でもでもー、人形にんぎょうをなぶるのはつまらないですよぉー?」


「ふむ、それもそうかもしれん。ニーシャよ、やはり貴殿きでんは頭がいいな!」


 なんだこいつらは。

 私を殺そうとしていたのか。


 敵はなんらかの神だろう。

 男は身長がかなり高く、ヘルメスに匹敵ひってきするほどの身長だ。


 上半身はほぼ服をまとっておらず、代わりと言わんばかりの金属製品きんぞくせいひんや大きな数珠じゅずのようなものをぶら下げている。

 こちらが神でほぼ間違まちがいないだろう。


 反対に女の方はかなり小さい。

 おそらく身長が小さい方のロキよりもさらに小さいだろう。


 その容姿ようしからおそらく小学生から中学生程度ていど

 だがその服装ふくそうは胸を首から腰までの布を胸の所でクロスさせただけの服に、だぼっとしたズボン。


 二人の恰好かっこうから予測よそくできるのは敵はおそらくインドの神という事だ。

 だがこの二人はどこから入ってきた?


 この島はだれも住んでいない無人島だ。

 その上、ヘルメスが結界けっかいを張っているだろう。


 この状況じょうきょうでヘルメスすら来ていないのはあきらかに異常いじょうだ。

 後ろはがけ


 前には敵。

 後ろにげても死にはしないが、この二人はってくるだろう。


「ありすとかいう少女よ、そう警戒けいかいする出ない。世は余興を楽しみたいだけなのだ。少しばかり死に目にあってくれればそれでよいのだよ」


「君も眷属けんぞくならそう簡単に死なないから大丈夫だってー。だからこっちおいでよー」


 悪意あくいかくそうとせず、みずから進み出て生贄いけにえになれと言う二人に、私は嫌悪感けんおかん以外の何の感情かんじょうもわかなかった。

 ただひたすらにこの状況じょうきょうから逃げたい。


「くっ・・・悠真ゆうま・・・」


 私はパートナーである悠真の名前を口に出してしまう。

 それほど弱気よわきなのだ。


 だが、後から思えばこの時口に出したのが優斗ゆうとではなく悠真だったんだなぁと感じる。

 そうでなければ私はきっとここであきらめて死んでいたかもしれない・・・


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