二幕 【天界の使者】


てよ!待ってくれよ!」


 長い長い道をひたすらけていく。

 道のりはてしなく、どこまでつづいているかわからない。


 それでもいきが切れるまで全力で走り続ける。

 だがその手はかれに届かないのだ。


 ただ目の前を歩いているだけなのに、どんどんと距離きょりはなされる。

 いつまでもいつまでもとどくことは無い。


 そしてやがておれの体は止まってしまう。

 つかれではない。


 動かない。

 体が動くのを止めてしまったみたいに。


「あおーーーーーーーーーー!!」




 小鳥ことりのさえずりが不快ふかいにも聞こえてくる。

 目覚めざめのわるい朝だ。


 天井てんじょうに右手をばしたまま俺の体は止まっていた。

 だが、動かないわけではない。


 なんとなく呆然ぼうぜんと自分の手を見つめながら、ゆっくりと手をベットの上におろした。

 いっそのことゆめの中にいた方がかったんじゃないかとも思ってしまうが、そんな事を言ったらあおおこられてしまうだろう。


「すっかりトラウマだな」


 夢を見たのは七日ほど前だったのに、蒼がいなくなるシーンだけがやたらとリアルに夢に出てきた。

 蒼が死んだと聞いた昨日きのうの今日だ。


 無理むりもない。

 と自分に言い聞かせながら体をこす。


 どうにも学校に行く気分にもなれないが、週間しゅうかんづいた体はきっちり余裕よゆうを持った時間に起こしてくれたようだ。

 無遅刻むちこく無欠席むけっせきとはいかないが、わり模範的もはんてき生徒せいとではあると思う。


 なんて思った矢先やさきにこの間、ロキをたすけたあと寝込ねこんで学校をやすんだことを思い出した。

 神様かみさまかかわって欠席けっせきをするなんて大した神様たちだ。


 よくよくかんがえてみるとよくあるようなねがい事をかなえてくれるとか幸福こうふくになるような事なんてない。

 なんならいのち危機ききせまられたくらいだ。


 まあ今では俺も神様の一員いちいんなのだが。

 いい事と言えばありすや蒼に出会であって、縷々るる君丈きみたけ秘密ひみつを知れたことくらいだろうか。


駄目だめだ。昨日君丈にはげまされたってのにこんなマイナス思考しこうじゃいけないよな。・・・学校行くか」




 5章 2幕【天界の使者】




 昨日蒼が死んだことをげられたわりにクラスの雰囲気ふんいきはあまり変わっていなかった。

 それもそのはずと言っていいのか、ふかくかかわっていたのは俺達だけなのだ。


 いかに蒼が気さくでまわりも死んだ事に敏感びんかんになったとしても、それは一瞬いっしゅん出来事できごと

 それはつまり俺達の空気だけがおもかったという事だ。


 君丈や縷々はどうにもかない顔をしている。

 ありすにいたっては沈黙ちんもくしていて、クラスのみんなもあえてそっとしているような雰囲気を感じ取れた。


 昨日、ありすが泣いている所を見ている生徒せいともいたのだろう。

 そんなありすになんて声をかけていいのかわからないと言った様子ようすだ。


 今までありすは優等生ゆうとうせい嬢様じょうさまとして学校に転校てんこうし、ロキの一件から明るい性格せいかくを表に出すようにしていた。

 周りからの目としては俺達がつねにいるのもあってかかわりづらいのだろう。


 転校したての時よりもありすに声をかけるものはっていたのは見ていたのでよく知っている。

 周りの反応はんのう薄情はくじょうだと思うか、空気をよんでいると言うかは人それぞれだろうが、俺としては今はそっとしておいてやってほしいとねがわんばかりだ。




 さて、そんな朝をむかえ、いつも通りに学校の授業じゅぎょうえたわけだが、俺は今学校の図書室としょしつに来ている。

 かみとはどんな物なのかを、伝承でんしょうなどで調しらべてみようと言うわけだ。


 だが結果けっかはあまりかんばしくはない。

 どの本にも書いてあるのはどこかで耳にしたような神話しんわばっかりなのだ。


 何が本当で何がうそなのかなど、そもそもわかるはずがない。

 一体俺は何を調べればいいのだろうか。


「くそ・・・神様って・・・何なんだよ」


 パラパラとめくる神話の数々に北欧神話ほくおうしんわ記述きじゅつを見つける。

 俺の知っているかぎりではオーディン、トール、フレイヤ、ロキは北欧神話のはずだ。


「なんだこれ・・・ほとんどの事は一緒いっしょだけど微妙びみょうに聞いてる話とちがう」


 まず気になったのは自分のオーディンと言う神についてだった。

 オーディンは魔術まじゅつにたけていて、へびたか変身へんしんできたと言う。


 俺が聞いている限りでは、オーディンはあまり魔法まほうを使えない。

 魔法はフレイヤの得意分野とくいぶんやのはずだ。


 変身などさきに思いかぶのはロキの眷属けんぞくであるヨルムンガンドだ。

 蛇にしか変身しているのを見た事がないが。


 しかもオーディン達と一緒に連れだっているのはフレイヤではなく、その兄とされるフレイ。

 そのフレイヤの記述にも、魔術を使ったなどの記述はあまり見受みうけられなかった。


 それどころか、フレイヤの持つ神器であるスキーズブラズニルはフレイが持っているべきものらしい。

 はるか昔から神がいたと言うのなら、どこかで今の形になったのだろうか。


「こういうのを調べろって言うわけじゃないだろうけど、一応関係いちおうかんけいはあるかもしれないな」


 いろんな記述を見て回ったが(見て回ったと言うか資料しりょうがそもそも少なかったのだけど)どれも曖昧あいまいな書き方をしていて何が何だか分からなくなって来るだけだった。


「やっぱり天界てんかいに行くのが早いのかもな」


研究けんきゅう熱心ねっしんなのは良い事ですが、人間界の資料じゃたいしたことはわかりませんよぉ」


 椅子いすでうなだれる俺に声をかけてきたのは半神化はんしんかさいに俺とありすをたおそうとしてきた神だった。

 その神を視認しにんするや、椅子からびのいて距離きょりをとる。


「ほほぅ、今の動きはお見事みごとですねぇ。オーディンの体はきちんと馴染なじんでいるようで。これはゼウスの予想よそうもおおよそ当たっているのかもしれません」


 相変あいかわらずきざったらしく眼鏡めがねをかける姿すがたは、あらためて見ると表情ひょうじょうのせいだとわかる。

 きざったらしいというかにくたらしい。


 つね笑顔えがおけていて、ほそい目をしている顔はまるできつね魅入みいられているかのようだ。


「またお前か」


「お前、というのはいささか気に入りません。もう一度自己紹介からはじめましょうか。私の名はヘルメス。ゼウスの伝令係でんれいがかりやイレギュラーな神への対応たいおうおも業務ぎょうむとしています。警戒けいかいしている所悪いのですがねぇ、私は今回あなたの味方みかたとしてこの場にっているのですよぉ」


「・・・味方?あれだけ俺達を捕獲ほかくしようとしてたやつが?」


「ふむ。せめて私が来ることくらいつたえといてしかったですねぇ。前オーディンからたのまれて私はここにいるのですよぉ」


「前オーディン?蒼が?お前に何を頼んだって言うんだよ」


「そうですねぇ、護衛ごえいとお目付めつやく・・・ってとこですかねぇ。一ついい事を教えてあげましょう。私は現段階げんだんかいではオーディンより高い地位ちいにいるので、口止めの魔法まほうなどはかけられていません。あなたのご友人よりはいいお話を聞かせてあげられると思いますよぉ?」


「・・・話しを聞いたとして、それを信じる根拠こんきょがねぇな」


「まあそれもそうですねぇ」


 あごに手をえて考え込むヘルメスをにらつづけていると、背後はいごから一人の少女があらわれた。

 俺達をくるしめたヘルメスの眷属けんぞくだ。


「ヘルメス様。私に話しをさせてもらってもよろしいでしょうか」


許可きょかします」


「ありがとうございます。ではあらためて、桂木悠真かつらぎゆうま、どうせおぼえてないでしょうから私の名前を教えておくわ。槙野千里まきのせんり。それが私の名前よ」


「そもそも自己紹介された覚えはないね」


「そうだったかしら。まあ些末さまつ問題もんだいよ」


 表情ひょうじょうを変えず、後ろにたずさえた綺麗きれいなポニーテールも一切らさずにこちらに話しかける千里せんりは、戦いの事もあって俺に恐怖きょうふを思い出させた。

 ロキをおそったジークフリートも余裕よゆうがあったが、油断ゆだんはあった。


 だが、この千里と言う少女は余裕を持ちながらこちらに油断をせずに攻撃こうげき仕掛しかけてきたのが印象的いんしょうてきだ。

 俺は、ジークフリートなどくらべものにならないほどの威圧感いあつかんを感じていた。


「桂木悠真、ヘルメス様の話しが本当かうそか、決めるのはあなた。でも、今のあなたは少しでも情報じょうほうと力がしいのではなくて?」


「っ・・・」


 千里のいう事はもっともだ。

 だがどうしても疑念ぎねんれないし、話しを聞いたところで目の前の二人が襲って来ないともかぎらない。


 俺にとっての最善さいぜん選択肢せんたくしはどれだ。

 考えろ。


「考えても無駄むだかりに私達があなたに危害きがいくわえようと思っているのならもう戦闘せんとうになっているわ。ヘルメスさま寛大かんだいなおかたでも、私は任務にんむならすぐに行動こうどううつすわよ」


「・・・」


 たしかに以前戦った時は躊躇ちゅうちょなく攻撃を仕掛しかけてきた。

 話し合う場などさしてもうけられていない。


 それこそ名前を名乗なのられていないほどに。

 ならば一旦いったんこの二人から情報を聞き出すのが最善ではないだろうか。


「・・・わかった。話を聞く」


「それはよかったです。千里、あなた交渉こうしょうなんてできたのですねぇ」


「めんどくさいのでしないだけです」


仕事しごとをめんどくさがらないでくださいよぉ」


 胡散うさんくささはけないが、ぎゃく信憑性しんぴょうせいがあるかもしれない。

 そう思うのもオーディンになったからなのだろうか。


「とりあえず今はあまり時間がありません。くわしくは明日にでも機会きかいもうけるとして、今は2、3の質問しつもんに答えるくらいでとどめておいてくださいねぇ。あぁ、それと口止めをされていないと言っても、何もかも教えるとも思わないでくださいねぇ?」


 現在げんざいで質問できるのは2、3個・・・

 後で聞けるとするならそこまでふかく考える必要ひつようもないか。


 今気になっていることを素直すなおに聞くか、それとも明日以降が無いものとして深い質問をするか・・・

 いや、時間もない上に全てを教えるわけでもないと言っているんだ、ここは素直に簡単かんたん疑問ぎもんから行こう。


「・・・じゃあさっきヘルメスが言った人間界の資料しりょうじゃわからないってのはどういう事だ」


桂木悠真かつらぎゆうま、ヘルメス様に様をつけなさい」


「いいのですよ千里。そうですねぇ、まあなんとなくさっしてるとは思いますが、神と言うのははるむかしから人間界で一緒いっしょらしています。その時代じだい有名ゆうめいものもいれば、名すらのこらなかった時代もある。あなたが先ほど読んだ神話しんわたぐいは、神がまだあまり力をかくしてない時のお話なんですねぇ。神話にかぎらず、童話どうわ歴史れきし最近さいきんではニュースなどで出てくるような物もあります。怪談かいだん都市伝説としでんせつなどもそのたぐいですねぇ。その時代じだいによって姿すがたや名前を変えているので、まったちがうお話もじつは同一人物なんて事もあるのですよぉ」


「ってことはオーディンについて調べようと思ってオーディンの資料を見ても無駄むだって事か」


「無駄とまでは言いませんが、まあそういう事になりますねぇ。天界にも資料しりょうはありますが、いち神様の歴史を辿たどるだけでも相当そうとうな資料の数になりますし、人間の一回の寿命じゅみょうじゃあ到底とうていすべてを見るのは無理むりでしょうねぇ」


「じゃああおの調べろって言うのは・・・」


「そういう意味いみではないでしょうねぇ」


 だとすると何を調べればいいのかさっぱりだ。

 いや、待てよ。


 歴史ではない、今の現状げんじょうを見ろって事か。

 君丈きみたけの言う固定概念こていがいねんって言うのは歴史の話しもふくまれるのかもしれない。


「ふむ。もう少し時間が取れると思っていたのですがねぇ。あなたにはもうわけありませんが、後一つの質問で今日は終わりとさせていただきますかねぇ」


 後一つ。

 聞きたい事は決まっている。


 あえて最初に聞かなかったのは心の準備じゅんびとヘルメスの信憑性しんぴょうせいたしかめるためだ。

 信憑性についてはわからないが、現状げんじょううそを言っているとも思えない。


「じゃあ最後さいごの質問だ。・・・蒼は、蒼希優斗あおきゆうとは本当に死んだのか」


 その場に沈黙ちんもくが走る。

 ヘルメスも、千里も一切表情いっさいひょうじょうを変えずにこちらを見ている。


 いや、正確せいかくには沈黙ちんもくだと感じているのは俺だけだろう。

 答えを聞きたくない。


 希望きぼうを持っているわけではない。

 でも、もし少ないながらも希望があるなら。


 そんな考えがあった。

 俺のためと言うよりは、ありすの為に。


「死にました。蒼希優斗という存在そんざい、ひいては前オーディンは跡形あとかたもなくこのからいなくなりましたよ」


 つめたくはなたれるその言葉に、俺はちひしがれることはない。

 ロキもヘルメスも言うなら本当にもどってくることはないのだろう。


 そういう確信かくしんのこった。

 ならありすのささえは俺が作るしかない。


「・・・そうか。・・・ありがとよ」


「いえいえ。では、また明日あすにでも。あぁ、そうそう。くわしい事は明日話しますが、近々ちかぢか天界てんかいに行くことになるかと思われます。まぁ私はおすすめすると言うだけの話しですが、眷属けんぞくの少女もふくめ、覚悟かくごは決めといた方がいいかと思いますよぅ。では」


 そこにだれもいなかったようにふわりとえて見せるヘルメス。

 千里は最後まで微動びどうだにせずこちらを見ていた。


 敵対心てきたいしんともとれる目をしていたが、それが性格せいかくなのかもしれない。

 何にせよ明日以降も来るのであればそこらへんもわかってくるだろう。


「ふぅ・・・なんかつかれたな」


 緊張きんちょうが一気にほぐれ、近くにあった椅子いすになんとなくすわる。

 あらためて資料をさがす気にもなれず、適当てきとうにボーっとして人が来たのをきっかけに俺も図書室から出て行った。


 君丈きみたけも言っていたが、天界に行く用事があるらしい。

 君丈の言う教えてくれる存在そんざいと言うのはおそらくヘルメスの事だ。


 わかってんなら君丈も教えてくれればいいのに。

 ちょっとしたサプライズのつもりだったんだろうか。


 心臓しんぞうわるすぎるサプライズだけどな・・・




 翌日よくじつ

 朝の雰囲気ふんいき昨日きのうのままに、俺達は授業じゅぎょうえて魔術研究会まじゅつけんきゅうかいに足をはこんでいた。


 ありすは何もしゃべらなかったが、一緒に行こうと言うとついてきてくれた。

 魔術研究会に、俺とありす、君丈、縷々るる当然とうぜんのことのようにロキがいた。


 そして俺達が魔術研究会につく前からいたのであろうヘルメスと千里せんり

 ロキの顔がなんとなくいつもより苛立いらだっているのはヘルメス達がいるからだろうか。


「これで全員そろいましたかねぇ。では、天界一てんかいいち武闘会ぶとうかい説明せつめいはじめましょうかねぇ」

 

「ちょっと待て、来て早々そうそう何の説明だって?」


「あぁ、これはすみません。ロキとそのへんのお話をしていたので話が飛びましたねぇ。昨日詳しく説明すると言いましたが、前オーディンの意向いこうも含め、自分たちで知るのが一番手っ取り早いと思うのですよぉ。それはオーディンとなった悠真ゆうま君も感じている所だと思うのですが、いかがでしたかねぇ」


 ヘルメスは俺の事を悠真君とぶことにしたのか。

 ってそんな事はどうでもいい。


 確かに自分の目で見て感じるのが蒼の思惑おもわくなら乗った方が早いと俺も思う。

 それでなんだって?天界一武闘会?


「あぁ、それはそう思ってたよ。で、なんだそのありがちな名前の大会は」


「昔からある由緒ゆいしょただしき大会なんですよぉ。まあ名前の方は時代じだいによって変わってはいますが。神として自分の力に自信じしんがある者が自分の名をはせるために行われる大会です。戦いたいだけの野蛮やばんな神も多くいるのですがねぇ。私も前オーディンも、その大会に出てまずは存在そんざいを知らしめて協力者きょうりょくしゃやす事を目的としています」


「悠真、これは一種のけだ。仲間なかまになるやつもいればてきとして本格的ほんかくてきに見るものもいるだろう。でも今後、悠真には敵となる神がたくさんあらわれるはずだ。神としてはイレギュラーな存在はきらわれものだからな。そこで、どうせなら敵になるやつがいるなら協力者を先に集めようって事だ」


 俺がいぶかしげな表情ひょうじょうをしている所に意図いとを詳しく説明してくれる君丈。

 君丈がここにいなかったら理解りかいするのはだいぶおくれていただろう。


「もちろん、参加の強制きょうせいはしませんよぉ。ただ、メリットデメリットはあるとしても、現状げんじょうではメリットの方が大きいと私達は思っていると言うわけです」


「とりあえず詳しい内容ないようを教えてくれ」


前向まえむきな考えでいいですねぇ」


「ヘルメス様、ここからは私が」


「おまかせしましたよぉ」


 かるくポニーテールをらしてからいつものように無表情むひょうじょうでこちらを見る千里せんり

 どうにも畏怖いふを感じてしまう。


「天界一武闘会は眷属けんぞくと神のコンビで行われる二対二の勝負しょうぶ形式けいしきは毎年変わるけど、今回は一般的いっぱんてきなトーナメントよ。参加受付は当日、天界てんかい闘技場とうぎじょうで受け付けるらしいわ。戦いは仮想結界かそうけっかいでやるからいくらあばれても被害ひがいは気にしなくてもいい。後、普通の神様かみさま同士どうしの戦いでは死ぬことはないから心配しないで。私達も今回は神殺かみごろしの神器じんきを使わないから」


 今回はって前回は使ってたんだな・・・


「って千里とヘルメスも出るのか?」


「もちろんです。ただ、千里も言ったように神器の制限せいげんがあるので、私の能力のうりょくはかなり下がりますけどねぇ」


「・・・神様って神器一つだけじゃないのか」


基本的きほんてきには一つよ。力のある神や特殊とくしゅな神様は二つ以上持っている。ヘルメス様はどちらの理由もふくんでいるけれども」


 なんとなく得意とくいげなのは気のせいではないだろう。

 千里はヘルメスを心から尊敬そんけいしているらしい。


「俺様ももちろん参加する」


 そこで口をはさんできたのは椅子いすでふんぞりかえるロキだ。


「まあ俺様も特別とくべつでかなり強いから眷属が三人いるが、今回はフェンリルと出るつもりだ」


 ロキの俺様強い発言に千里のくびがロキの方へ回る。

 えらそうに下から見下みくだしているロキと千里の間には見えない火花がっている気がした。


「じゃあ君丈と縷々もでるのか?」


「私はでないよー?だって二人一組だし」


「フレイヤと縷々じゃ駄目だめなのか?」


「そうですねぇ、そこらへんも説明しておきましょうかぁ。眷属と言うのはおもに二つのパターンがあるのですねぇ。普通ふつうは人間の眷属を生まれてから作るパターン。もう一つは、生まれた時から眷属がいるパターンです。フレイヤさんの場合は後者こうしゃのパターンになりますが、このパターンの者は少ないのですが、まあバグみたいな物なのです」


「バグ?普通はこらないのか?」


本来ほんらい神と言うのは人間として転生てんせいしますが、これが何らかの理由りゆう転生てんせいした人間と神が分離ぶんりしてしまう現象げんしょうがあるのですよぉ。基本的に眷属と言うのはその時代に一人しか作れません。なのでこの時代のフレイヤさんは新たに眷属が作れないので大会の二人一組と言う条件じょうけん達成たっせいできないのですねぇ」


「本当は参加してみたいんだけどねー」


「じゃあ君丈は?」


「俺は眷属作るのめんどいからパス」


「めんどいって・・・」


「という事で、今回ここにいる者で参加するのは、私とロキ、そして悠真君という事になりますねぇ」


 ここにいるだけで三人。

 いや、三神さんしんか?


 なんにせよ、ロキの力もヘルメスの力もかなり強大きょうだいだ。

 どちらかというと眷属の力しかちゃんと見てないが、フェンリルも千里も神である俺がかなうとも思えない。


「そんな強いのがうじゃうじゃいる中に俺が入ってもすぐけちゃうだろ・・・俺達の存在を認識にんしきしてもらうって事はある程度ていど上位に行かないとだめなんだよな?」


「いえいえ、それは間違まちがいです。オーディンは神器じんき性質せいしつもさながら、神としては相当そうとう上位の神なのですよぉ。経験値けいけんちたしかに足りませんが、戦い方をおぼえるだけで上位には登れると思いますねぇ。まあ相性あいしょう問題もんだいたしかにありますが」


げんオーディン。一つ言っておくが、オーディンの神としての性質は何でもできる事だ。前オーディンはその能力を生かして神として強大な力をていた。貴様きさまにその気があればどんな神よりも強くなれんだよ」


「そんな事言ったってよ、ロキやヘルメスみたいにそれこそ経験値があるわけじゃないんだ。戦い方なんてどこで覚えるんだよ」


「そのための―」


合宿がっしゅくだ」


 ヘルメスの言葉ことばをロキがさえぎった事のよって千里せんりの首がまたもやロキの方へ回る事となる。

 にんまりとわらって見せるロキの腹立はらだたしい顔に今にも千里は飛びかかりそうないきおいだった。


「合宿?なんか普通の部活ぶかつみたいだな・・・」


今週末こんしゅうまつ無人島むじんとうでこの三組でやる。俺様は教えたりはしねぇが、そこのヘルメスが色々教えてくれると思うぜ。移動いどうは・・・おい、フレイヤ、神器じんきでどうにかしろ」


「はいはーい!縷々るるちゃん大活躍だいかつやくしちゃいまーす!」


 ロキの軽口かるくちどうじることなく答える縷々。

 それを見越みこしていたのか案外あんがい動じなかったことに不快感ふかいかんを覚えたのをかくしているのかロキは特に反応はんのうしめさなかった。


桂木悠真かつらぎゆうま、それであなた達は参加するのですか?」


 今の流れから完全に参加する感じにまれていたが、千里が言ったように俺は参加するとはまだ言ってない。


「そうだな、じゃあ―」


 参加する。

 と言おうとした時、千里の目が俺ではなく横にいるありすにけられていることがわかった。


(その眷属けんぞくで大丈夫なの)

 と言っているのがつたわってくる。


「・・・ありすはどうする?」


 少しうつむく表情ひょうじょうで何も話さず聞いていたありすは、少しの沈黙ちんもくの後―


「・・・悠真が参加したいなら」


 と答えたのだった。

 正直この状態じょうたいのありすと一緒に戦うのは無理むりだろう。


 大会までにどうにかできるだろうか。

 神はもちろん、眷属も相当な手練てだれが出てくるはずだ。


 俺がいくら最強さいきょうの力を持てる存在そんざいだったとしても、今の俺ではありすなしでは戦い抜けない。

 言うなら現状げいじょう、ありすの方が戦いの経験値はあるのだ。


 俺のレベルアップはもちろん、ありすにも力をつけてもらわないといけないとも思う。

 二人一組と言うのはコンビネーションもためされるはずだ。


 そうやって色々考えた結果けっか、俺が出した答えはこれだった。


「わかった。俺とありすも参加だ」


 最悪さいあく優先事項ゆうせんじこうである神に名を知らしめると言うのは達成たっせいできないかもしれない。

 だが、今のありすには少しでも気分転換きぶんてんかんが必要だ。


 神にかかわっている以上あおの事を思い出してしまうのはしょうがないことだ。

 だけど体を動かさないでしずんでいるよりかはましなはずだ。


 もしかしたらここで眷属けんぞく関係かんけいを切ってしまった方がありす的には楽なのかもしれない。

 でもありすならそうしたければ自分で言ってくるはずだ。


 そもそも眷属関係を破棄はきするなんて事ができるのか知らないけど。

 ありすが俺に選択せんたくゆだねたのなら少なくともそういう事は考えてないのだろう。


「わかりました。大会は9月に入ってからすぐ行われます。とりあえず週末しゅうまつの合宿の事を今は考えといてくださいねぇ」


 ヘルメスはそれを言うとまたすぐにえていなくなってしまった。

 俺達もそれからほどなくして魔術研究会まじゅつけんきゅうかいを後にした。


 この選択が合っているのかはわからないが、今は自分の事よりもありすの事を優先ゆうせんしたい。

 蒼にたくされた唯一ゆいいつ存在そんざいだと俺は思っている。


 ありすの事は俺がどうにかしないといけない。

 そんな感情かんじょうを持ちながら、俺は合宿までの一週間をごすことになる。


 そして合宿当日の朝、俺はありすに何もできないままその日をむかえることになってしまった・・・


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