第五章 【蒼希優斗】

一幕 【オーディン】


 夏休みものこり数日。

 昨日の夢も気になった事もあり、特に用事はないが、魔術研究会まじゅつけんきゅうかいに顔を出すことにした。


 あおの事だ、用事がなくても魔術研究会にいるだろう。

 そんな期待きたいめていたんだ。


「おはよー・・・蒼は・・・いないか」


 魔術研究会にはいつものようにおく立派りっぱ椅子いすでふんぞりかえっているロキがいた。

 蒼はいないようだ。

 ところで、ロキはいつもいるけど案外あんがい一番暇なのではないだろうか。


「元オーディンならいないぞ。というかなぜあいつをさがしに来るのにここに来る」


「なんとなく、ここならいるかなって」


「ふんっ。期待はずれだったな。まあそもそもあいつの顔を見ることはもうないんだ。ここに来ても無駄むだだぞ」


「それってどういう・・・」


 夢の一件いっけんの事もあり、くわしくロキから話を聞こうとした矢先やさき、魔術研究会に一人の来訪者らいほうしゃあらわれる。

 ここ最近では俺以外にも蒼はもちろんの事、ありすもよく来るのだ。


「ねぇ、ロキ。優斗ゆうとしらない?」


 優斗、オーディン、蒼、全部蒼希優斗あおきゆうと愛称あいしょう等々とうとうだが、ここまでそれぞれちがび方をしているのもめずらしいものだとも思う。

 ありすはもともと蒼と一緒いっしょに住んでいたからか下の名前で呼んでいるし、ロキがオーディンと言うのは蒼希優斗と言う個人ではなく、神としてのオーディンとして見ているからに違いない。


 だがオーディンの名前は俺がいでしまったので、ロキも仕方しかたなく”元”とつけているようだ。

 そしておれはというと、蒼の名前が俺の名前、悠真ゆうまている事から名字の蒼希から蒼の提案ていあんによって蒼という呼称こしょうで呼んでいる。


 それがいつの間にか縷々るる君丈きみたけにも広がり、俺らは蒼と呼んでいるわけだ。


「またか。オーディンはここにはもう来ない。顔も見ることもない。わかったら消え失せろ」


 自分ではなく、蒼の事ばっかりを気にするもんだからすねているのだろうか。

 対話たいわ意志いしがないと言うように、ロキは椅子を回して後ろをいてしまった。


「また?あ、悠真」


 俺がいることを今気づいたようで、ありすと目があう。


「悠真も優斗を探しに来たの?」


「んー、まあそんなとこかな」


 なんとなく夢の話しはしないことにした。

 そのかわり、俺が夢を見た後の一言をありすにくわえる。


「まあもしいなくなってもまたひょっこり現れるだろ」


「え?うーん・・・まあそうね。いや、そゆ事じゃないでしょ。あいつがいないと眷属けんぞくの私がこまるのよ」


「ありす、今のオーディンは俺だぞ?」


 と言いながらそんな言葉がすんなり出てきたことに自分自身でもおどろいていた。

 なんせ、俺にはまだオーディンになったと言う自覚じかくなんてものはないんだから。


「あ・・・そっか。なんかごめん。んー・・・ならいっか。よくないけど」


 えきらないありす。

 つまりは優斗が気になるだけだろう。


 ありすの優斗への恋心は知っているし、自分でりをつけたような事も言っていたが、まだ気持ちはのこっているだろう。

 それはだれが見てもあきらかだった。


 俺とありすは魔術研究会を後にすることにしたが、その時ロキが「そのうちわかる事だ」と言い残したのが引っかかっていた。

 というより、なんだかロキは何かかくしている気がする。


 その後、夏休みが終わるまで縷々や君丈とも会ったが、どこかぎこちなさを感じたのは俺だけではなかっただろう。

 一貫いっかんして蒼の話題にれようとしない。


 その事が気になってめようとも思ったが、タイミングをのが一方いっぽうだった。

 まわりの思っていることがなんとなくわかるようになったのは、人として成長せいちょうしたとかではなく、神としての力だろう。


 以前誰かが言っていた気がする。

 だからこそ思うのだ。


 みんなは何かを隠している。

 夏休みが終わったら本格的ほんかくてきに聞いてみよう、と思っていたのだが、その内容は夏休みが明けると同時に明かされることとなった。




 5章 1幕【オーディン】




 いつもの登校風景とうこうふうけい、と言うには一か月のブランクがあるので、いつものとは少し言いがたい。

 夏休みも終わり、休み中には見られなかった登校風景を目にしていた。


 なんだかんだ学校には来たりしていたが、教室に来ることは少なかったため、なんだか新鮮しんせんな気分でもある。

 それと同時にまた憂鬱ゆううつな日々が始まるのかという重い気持ちを持つのが普通だろう。


 だが、俺こと桂木悠真かつらぎゆうまは夏休み中に神になったこともあり、皆とはちがって不安の方が少しばかり強い感じがした。

 ありす、縷々、君丈も普通に登校し、夏休み中にあっていたせいか、特にこれと言って会話することもなく予鈴よれいのチャイムがる。


 約一か月ぶりに担任の顔を見たが、なんだかその顔はくらく重たいものだった。

 そこでいや予感よかんを感じ取ってしまう。


 なんだか聞きたくない。

 だが、そんな俺の願いはすぐに無に帰ってしまうのだ。


「おはようございます、皆さん。えっと、残念ざんねんなお知らせが一つあるの。蒼希優斗君が、交通事故こうつうじこでお亡くなりになられました」


 先生の一言で教室内はしずかにざわつくことになる。

 蒼希優斗が死んだ。


 蒼が・・・死んだ・・・?

 いや、待て待て、そんなことあるわけないだろ。


 神はそう簡単かんたんには死なない。

 はず。


 少なくとも交通事故で死んだなんて事にはならないはずだ。

 神には間違まちがった情報じょうほう真実しんじつと思わせる魔法まほうがある。


 そうして蒼やありすもこの学校にすんなり編入へんにゅうしてきたはずだ。

 という事はこれだって正しい情報とは言えないはずだ。


「皆さんにはお話しするのがおそくなりましたが、ご家族のご意向いこう葬儀そうぎも家族だけでおこなったようです。・・・私も知ったのはさっきなの・・・おはかの場所は後で教えるので線香せんこうをあげに行ってあげてください」


「ま、待って先生!葬儀も終わってるって、優斗はいつ死んだんですか!」


 声をあらげたのはありすだった。

 ありすもおそらくは俺と同じ結論けつろんいたっているだろう。


 きっとだからこそ、いつ死んだことになっているのかが気になったんだ。

 ありすが思っているのはおそらく、死んだ日が蒼の失踪しっそうした日とかさなるのではないかという事だろう。


「えっと・・・五日前に事故にあわれたらしいわ。さっきも言ったけど、私も聞いたのもさっきだし、くわしい事はあんまり教えてもらえなかった。ごめんね」


「・・・」


 教室からはなんで、とか事故起こしたやつぶっ殺してやるとか危険きけんな言葉までじっていた。

 蒼が来てからは一か月とちょっとだし、その間に夏休みもはさんでいたため、そんなになかのいいやつらがいたとも思えない。


 だが、蒼は気さくでいいやつだったし、クラスメイトとも一日で仲良なかよくなっていた所を見ると、意外いがいしたわれてたのかもしれない。

 それにこれから仲良くなって行こうと思っていた奴もいただろう。


 朝方からそんな話をされてしまえば一日授業に身が入らないのも当然とうぜんの事だと言える。

 全校集会でも言われたため、昼休みには学校全体で話題わだいになっていた。


 俺は縷々や君丈に話しを聞こうとも思っていたが、部活などでいそがしいらしく、放課後ほうかご話そうと言われてしまった。

 それは俺だけではなく、ありすも同じようで、いつにもまして真剣しんけん表情ひょうじょう授業じゅぎょうけるありすがうかがえた。




 そして放課後。

 俺とありすは合図あいずを取るでもなく一緒いっしょに魔術研究会へと向かう。


「ロキ!説明せつめいしてよ!」


「あ?うるせえな。んなもん知ってのとおりだろ」


 ロキは俺達が言いたい事がわかるかのようにそう返してくる。

 そこに一足遅く縷々と君丈もやってくる。


「なあ、皆なんか隠してるよな?あおはどこ行ったんだ?知ってるんだろ?」


 縷々も君丈も言葉をはっそうとしない。

 それどころかうつむいている。


 ただいなくなっただけのはずなのになぜそんなかなしそうな表情をするのか。

 俺の予想よそうが当たっていると言いたげな表情ではないか。


 気にはなっていた。

 なっていたさ。


 そう、夢の話しだ。

 あの日、きっと蒼と俺は実際じっさいにあったんだ。


 でも、それをなかった事にされた。

 もしくは夢でそうつたえたのかもしれない。


「なぁ、蒼にはもう会えないのか?」


 なんとなくだが縷々のかたふるえた気がした。

 ロキは相変あいかわわらず不遜ふそん態度たいどをしているが、何かを言おうともしない。


悠真ゆうま、会えないってなに?」


「夢で出てきたんだ・・・五日前、蒼と会ってそしてもう会えなくなるような事を言って去って行く夢・・・」


「なにそれ・・・え、待ってよ、優斗はどっかいっただけだよね?ねぇ・・・なんで皆何も言わないの・・・?」


 ふか沈黙ちんもく

 それほど長くはなかったはずだが、その沈黙はやたらと長く重く感じられた。


 目にうつるのはいつものロキと、かない顔の縷々と君丈。

 そして、よこで俺と同じようにまわりを見渡みわたしているありす。


「ねぇ・・・どういうこと・・・教えてよ・・・教えてよ!オーディンは、優斗はどこ!」


 声をあらげるありすに反応はんのうしたのはロキだった。

 だが、その言葉は到底とうてい信じられるものではなかった。


「だから死んだ。元オーディン、いや、蒼希優斗はこの世からいなくなったんだ」


 一切表情を変えずに言葉を発するロキには、内心ないしんくやしさがじっている気もした。


「・・・なんで」


「そんなこともまだわからねぇのか。貴様きさまらのせいだ。貴様らのせいで蒼希優斗は死んだんだ」


「私達の・・・?」


 だんだんと威勢いせいがなくなっていくありすの横で、俺はロキの言葉が真実しんじつだと気づいていた。

 うそかどうかなんて話じゃない。


 今まで考えないようにしていたことが当たっていたんだ。

 そんなあまい話ではなかった、ただそれだけの話し。


「だって・・・優斗は神で・・・オーディンからしたの神にって・・・」


「あいつの言葉をそのまま信じるてめえらがわるいんだ。なんだよ神の下っ端って。んなもんあるわきゃねぇだろ」


うそ・・・そん・・・なっ・・・っ!」


 もう言葉が出てこなくなったのか、ありすは前を呆然ぼうぜんと見たままその場にすわんでしまった。

 ショックなんてものではないだろう。


 自分たちのせい、いや、正確せいかくには俺のせいだ。

 でも蒼は俺のせいではないと言った。


 それはまぎれもないやさしさでもあったが、俺の知らない事情もあるのだと蒼がげている気もした。

 それでつみ意識いしきえるわけではないが、蒼にとってしてみればかなしむより先に進んでほしいんだろう。


 でも、せめて伝えてほしかった。

 俺達に起こった事、そしてそれによって生まれるすべての事象じしょうを。


「ロキ、もうちょっといい言い方はねぇのか」


 教室のすみにいた君丈は、くやしげな表情ひょうじょうけてそう言った。


「じゃあきさまが説明すればいいだろ。俺様は間違ったことは言ってねぇ」


「言い方ってのがあるだろ・・・」


「こいつらがどう思うが俺様の知った事ではないな」


 きつい言葉をかけてくるロキだが、これも一種いっしゅの優しさなのかもしれない。

 少なからずかくさずありのままをつたえてくれているのだ。


「なぁ、ちゃんと説明してくれよ。俺とありすのせいだって言うならなんでそうなったのか、きちんと聞いておきたい」


「・・・ふん。いいだろう。貴様も何もわからず落胆らくたんするだけと思ったが、オーディンの素質そしつはきちんとあるらしい。まあだがおしえられることは少ない」


 相変あいかわらず椅子いすの上でえらそうにすわっているロキは、少しこちらに姿勢しせいけ、話しはじめた。


「まず、貴様ら二人が半神化はんしんかになった理由りゆうはいまだ不明ふめいだ。そもそも半神化にいた状況じょうきょうでもなかった。まあしかし、半神化した事にはちがいねぇ。このままだと二人をころすしかない。そこでおやさしい元オーディンが自分の名をお前にやることにした。ここまではわかってるな」


「あぁ」


問題もんだいはそっからだ。本来ほんらい、神の名をわたすなんて事は簡単かんたんにできるものじゃねぇ。それをあの元オーディンはどこからか神の名を渡すアイテムを見つけてきやがった。あれがなんなのかは俺様も知らねぇが、それのおかげでお前はオーディンの名をげたわけだが・・・まあ問題はこの後だな。神は名をとられるとどうなると思う」


「それが蒼が死んだ原因げんいんって事か・・・」


「まあそうだな。話してやったのはいいが、死んだ理由はわかってもほかはわからない事の方がおおい。それと、お前ら二人の問題も先延さきのばしにしただけだしな」


「先延ばし?蒼が自分のいのちをかけてまで俺にオーディンをがせたのにまだわってないって言うのか」


「それくらい切迫せっぱくしてたんだ。今すぐにでも貴様らをどうにかしないと死ぬのは貴様らだった。まあこれ以上は俺様からは話せねぇ。口止くちどめの魔法まほうをかけられてるからな」


「口止め・・・?なんで」


「俺様が知るか。オーディンとして自力で情報じょうほうを集めて見ろって事じゃねぇか」


「・・・じゃあいつまで猶予ゆうよびたんだ」


「それは俺様にもわからん。明日かもしれないし、貴様が死ぬまで何もないかもしれん。まあだが俺様が保障ほしょうしてやる。一年は大丈夫だ」


「一年・・・」


 蒼が命をかけて保障できたのが一年・・・

 あまりにもみじかい・・・いが取れないじゃないか・・・


悠真ゆうま、俺と縷々るるが知ってる事、口止めされてるのもロキと一緒だ。俺達も協力きょうりょくするから心配しんぱいするな」


「心配するなって言ってもよ、せっかく蒼がつないでくれた命なのに・・・」


「いーんだよ、あいつは。ただでさえ枠組わくぐみからはずれて数百年生きてんだ。元オーディンも死に時ってもんだ」


「う・・・うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」


 ロキがかるく言った瞬間しゅんかん突然とつぜんありすがはじめてしまった。

 ロキの言葉に泣いたわけではないだろうが、きゅうすぎてロキが少しあたふたしていた。


「泣きわめくんじゃねぇ!俺様から言えることは言った!こいつれてどっかいけ!」


 縷々がありすを連れて魔術研究会まじゅつけんきゅうかいから出ていく。

 俺と君丈きみたけもそれにつづいた。


 ◆◆◆


「ちっ。面倒事めんどうごとの多いやつらだ」


悪態あくたいをつくわりにはちゃんと教えてあげてたんじゃない?」


 俺様の背後はいごにはいつの間にか椿つばきが立っていた。

 魔術研究会にヘルの力で開けてある部屋へやから話を聞いていたんだろう。


 続いて葉月はづき那覇なはもやってくる。


遼平りょうへいはツンデレだからなー」


「俺様にとって利用価値りようかちがあるってだけだ」


 葉月のツンデレ発言は無視むししたが、正直自分でも深入ふかいりしているのではないかと思う。

 元オーディンの思惑おもわくどおりと言うのが気に食わないが、利用価値があると言うのは本当の話しだ。


「俺様はSAえすえーっていながら神となっているあのオーディンに興味きょうみがある。あいつにはおかしな点がいくつもあるからな」


「ロキの力でもわからないんだねー」


「フェンリル、何度なんども言うがロキの力は本来ほんらい半分はんぶんの力も出せてない。まあそれもあのオーディンには協力してもらう事になるがな」


「協力って?」


「どうせ最近さいきんはまってるあれでしょ」


 葉月の疑問ぎもんに椿は魔術研究会のすみに置かれているパソコンをゆびさした。


「あー、あれか」


「え、あれってなに?」


 一人わかっていない那覇は置いておくとして、俺様の力をもどす方法はついえていない。

 それもこの現代げんだいだからこそできるわざともいえる。


「せいぜいやくに立ってもらうさ。ふふ、ふはははははははは」


「そういうのいいから。・・・ねぇ、優斗君ゆうとくんって本当に死んだの?」


 かるく頭を小突こづきながら椿が質問しつもんを投げかけてくる。

 こいつら最近、俺様のことをたたきすぎではなかろうか。


「蒼希優斗は完全に死んだ。奇跡きせききてももどってこねぇな」


「そっか・・・ロキはかなしくないの?」


「そもそも神は転生てんせいし、次の世代せだいで見た目も性格せいかくちがえど会う事になる。その点で言うなら神が死んでも悲しいという事にはならねぇな。ただ、蒼希優斗という個人で言うならあいつは神としてもはずれた無二むに存在そんざいだった。そういう意味いみで言えば口惜くちおしいところはあるかもな」


素直すなおに悲しいって言えばいいのに」


「わかってないなー那覇は。遼平はツンデレだから素直になれないんだよ」


「なーるー」


 葉月はどうしても俺様をツンデレとして認識にんしきしたいらしい。


「なんにせよ、今はあいつがオーディンだ。りかかるは自分ではらってもらう」


 つめたくはなす言葉だったはずだが、こいつらにはつたわらなかったようだ。

 それぞれが嘲笑ちょうしょうのように俺様をわらいやがる。

 せぬ。


 ◆◆◆


「まああんま考えるなよ。あおは神としての役目やくめたしただけだ」


 魔術研究会まじゅつけんきゅうかいを後にし、泣きわめくありすを縷々るるまかせた。

 本当ならついていきたかったが、縷々が私に任せてと言うので、俺と君丈きみたけは一緒に下校中と言うわけだ。


「そうは言ってもよ・・・結局けっきょく俺のせいなわけだし」


「あー、それはちがうと思うぞ。まあ俺もくわしい事はさっぱりなんだけどよ、蒼は自分のせいって言ってた。そういう所でうそはつかないやつだからきっとあいつにも何かあるんだろうよ」


(俺の責任せきにんなんだ。そこに悠真ゆうませき必要ひつようはない)


 夢で蒼はそんな事を言っていた。

 あの言葉は今の君丈のいう事が本当なら、はげます言葉ではなく、本当に蒼に何かしらの責任があるって事だろう。


「まあそこもふくめてお前に調しらべてほしいのかもな」


「調べるって何をどうすりゃいいんだよ・・・」


「俺達が蒼から口止めされてるのは主に天界てんかい情報じょうほうだ。ほかの神にかんすることも表上おもてじょうの話ししか話せないことになってる。まあ一番重要な天界を話しをせたのは蒼が悠真に固定概念こていがいねんあたえないためだな」


「固定概念ってなんの」


「天界、ひいては神ってとこかな。今、天界も色々とバタバタしてる時期じきでよ。神って言うのはこうだって言われた情報じょうほうよりも、自分で見て判断はんだんして行動こうどうしてほしいんだと思う。蒼はそうやって生きてきたからな」


「君丈って蒼と会ったのつい一か月前くらいなんだよな?その感じだとむかしから知ってるみたいだぞ」


「知ってるんだよ。神は転生てんせいするからな。俺としては会ったのはついこの間でも、トールとしては何回もあってともに行動してるんだ。っていってもぼんやりとした記憶きおくしかがれてないけどな」


 あははとわらばす君丈のよこで、俺はなるほどと納得なっとくがいっていた。

 蒼は本来ほんらいの転生をしないで何百年も生きているのは、何か天界に対して思っている所があったんだろう。


 でもそれを伝えてもきっとかたよった意見いけんになる。

 だからこそ自分の目で見てほしい。


「なぁ、俺って天界に行けるのか?」


「ん?まあもちろん神になったわけだからな。でもどうせ近々ちかぢか天界に行くことにはなると思うし、その時でいいんじゃねぇか?」


「なんだよ、近々って」


「それを教えるのは俺の役目じゃないかなー。まあすぐ教えに来るさ」


 教えに来る?誰が?

 と思ったが、あえて言わないことにした。


 君丈がそういうならだれか天界の使者ししゃなりくるんだろう。

 この言い方だと危険きけんがあるとも思えないし。


「ゼウスにもオーディンになりましたって報告ほうこくしに行くのもそん時でいいだろ」


「ゼウス?やっぱそれって一番えら神様かみさまなのか?」


「そうなるな。まあでもそんな身構みがまえる必要ひつようもないさ」


「でも報告とかするならすぐ行った方がいいんじゃ」


「大丈夫大丈夫。神ってのは寛容かんようなんだ。なんせ数千年、数億年単位すうおくねんたんいでいるんだからな」


「そ、そうなのか・・・」


 蒼が何百年生きているという話からも想像そうぞうはしていたが、神ってのはやはり昔から存在そんざいしてるらしい。

 そのあたりも調べてみた方がいいのかもしれない。


「ま、とりあえず蒼の事は気にするな。こっちの世界にはかがあるのかは知らんけど、一回くらい墓参はかまいりにでも行ったらあいつは満足まんぞくすると思うぜ」


「なんかかるいな・・・」


「人間が死んだのと話がちがう・・・って言うのもあるけど、それ以上にあいつとは話してんだ。まあかなしくはあるけど、それ以上に悠真ゆうまの事フォローしてやってくれって言われてるし。ってこれ言ったら意味いみないか」


 またもや笑い飛ばす君丈。

 このあかるさも俺にできるだけ気にしないように明るく振舞ふるまってくれてると思うと心がいたむ。


 同じ神としての土俵どひょうに立った今でも、俺はみんなたすけてもらっているんだ。

 俺は成長して蒼に自分の命をかけてもよかったと思われるような存在にならないといけない。


(今からそんな顔してるとこの先もたないぜー?大変なのはこれからなんだ)


 蒼はそう言った。

 けるべき意識いしきは蒼がのこしてくれた先にあるんだ。


 ありすもきっとすぐには立ち上がれないだろう。

 なら、俺は先に蒼の意志いしをついでしっかりと成長するべきなんだ。


「ありがとよ・・・いつも迷惑めいわくかける」


「なに辛気臭しんきくさい事言ってんだよ。俺も縷々も、こまった時はおたがさま。そうやって今まで来たんだろ?だからよ、俺や縷々が困った時はたよりにしてるぜ」


「お前らが俺を頼るような困った時があるのかわかんないけど、俺も俺なりに全力でおんかえすよ」


「恩とかなんか堅苦かたくるしいなー。ここは友情ゆうじょうで助けるとか言ってくれよ」


「わかった。その時が来たら友情パワー全開ぜんかいで行く」


「その意気いきだ!」


 君丈にはげまされ、俺は家に帰った。

 その後、蒼の事を考えたりもしたけれど、それより今はありすの方が気になった。


 ありすの泣き顔はこれで三回目だろうか。

 最初はしっかりしている女の子と思っていたが、今のありすを見ていると感情かんじょうおもてに出すのが苦手にがてなだけにも思える。


 男として、眷属けんぞくでもあるありすには笑ってとなりにいてほしい。

 そんな事を思いながら、俺の意識いしきはいつの間にか夢の中にちて行った・・・


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