外伝 【ロキの企み】


 かみ

 英知えいちつかさどり、万物ばんぶつあやつる神。


「一つくださーい」


「300円」


 だが、俺の知る神はそんなものではない。

 なんなら俺様はこの世界の神と言われる存在そんざいの一人だ。


「これとこれください」


「500円」


 名をロキと言う。

 悪名高あくみょうだかいトリックスター。


「ちょっと遼平りょうへい!もっと愛想あいそよくできないの!」


「んー」


 そんな神様である俺様が今何をしているかと言うと・・・


「年に一度のおまつりなんだよ!ここでかせいで少しでもシスターを助けなきゃ!」


「助けるねぇ」


 俺様は現在げんざい、山の中にある教会きょうかいんでいる。

 そこの教会は孤児院こじいんとなっており、複数ふくすうの子供達とシスターが一人いるだけだ。


「別に助けなんて必要ひつようないだろ」


「なんでそういう事言うの!お世話せわになってる自覚じかくとかないの?」


 世話にはなっている。

 だが世話してくれとたのんだわけでもない。


 俺様はがりなりにも神様だ。

 一人でまずわずだろうが生きることもできる。


 その事を知らないシスターでもない。

 とある事がきっかけで、教会内で俺様の事を神様だと知る人間は四人いる。


 そのうちの一人が話題わだいに出たシスターであり、そのうちの一人がよこでがみがみ言ってくる椿つばきなのだ。


「俺様的には大したもうけけにもならないのによくまあ毎年こんなことやってると称賛しょうさんしてやってもいいけどな」


「それは称賛じゃなくて皮肉ひにくって言うんじゃないの」


 あえて称賛と言ってやっているのだろう。

 それをしらない椿でもないのに律儀りちぎんでくるところが真面目まじめと言うか何と言うか。


「りょうへーそろそろ変わるぞー」


那覇なは!何食べてるのよ!仕事中だよ!」


 別に仕事中ではない。

 ボランティアという方が幾分いくぶんか正しいと思うのだがな。


 祭りの中フランクフルトをほうおばりながらあらわれた美少女、もとい美少年も俺様の事を神様と知っている一人だ。


 名を那覇と言う。

 女に見える男。


 最初は内気うちきに見える態度たいどをとっていたが、いつの間にか俺様のような堂々どうどうとした態度をとるようになった。

 まあ俺様が何かしたと言うよりかは、もともとそういう性格せいかくなのをかくさないようになったと言った所だろう。


「いいじゃんいいじゃん。あ、椿姉つばきねえも食べたいの?」


「た・・・食べたくないわよ!」


 食べたいのか。

 子供は子供らしくしてればいいのだ。


「いぇーい!がってるー?」


 あそこでみんな注目ちゅうもくびてはしゃぎまわっている葉月はづきのように。


「ところであいつは何やってるんだ」


「あいつ?・・・あぁ葉月?・・・曲芸きょくげい・・・かな?」


 葉月な奴は一体何を目指めざしているのだ。

 かくゆう葉月も俺様の事を神様だと知っている。


 男勝おとこまさりの女。

 那覇とは正反対せいはんたい印象いんしょうを持つ少女だ。


 那覇と葉月をならべるとどちらが男でどちらが女かわからないほど

 自分の体の身軽みがるさを使ってんだりねたりして注目を浴びているが、本来葉月にそんな身体能力しんたいのうりょくはない。


 俺らは今、世間で言えば中学生になるころの年だ。

 葉月のそれはどう見ても高校生、大学生のその手の道を目指している並みの動き方をしている。


 まあそれもそのはず。

 葉月、並びに那覇、そして椿の三人は、俺様と眷属けんぞく契約けいやくむすんでいる。


 つまるところ普通ふつうの人間以上の事が出来できてしまうのだ。

 身体能力がどれだけあがるかは契約した神、眷属の種類しゅるいにもよるが、葉月の場合はフェンリルと言う狼男おおかみおとこ姿すがたを契約している。


 身のこなしは当然のことながら普段ふだんから格段かくだんに上がるわけだ。

 だからと言ってあまり目立めだちすぎるのも問題もんだいものなのだが、こんな地方のしかも小さな教会のお祭りの知名度ちめいどなどたかが知れているというものだ。


「ねぇ、遼平。葉月止めなくてもいいの?」


 ちなみに先ほどから呼ばれている遼平なる人物。

 まごうことなき俺様の人間の姿としての名前なわけだが・・・


「俺様の事はロキ様とべ」


「こんな人前で呼べるわけないでしょ!私が変な人と思われちゃうじゃない!それより葉月!」


「椿、よく考えてみろよ。こんな小さなお祭りで何やったって有名にはならねぇよ」


「でもりょうへー。携帯けいたい動画どうがとかとっちゃってるよ?あれはまずいんじゃないの?」


 食べる時は相変あいかわらず少しずつ食べるために、一向いっこうっていないフランクフルトをほおばりながら言う那覇の言葉は、たしかに至極しごく正しい。


「どうせ合成ごうせいか、しんじたところで田舎いなかの子供はすごいなぁくらいしにか思われねぇよ」


 今の時代じだい、ネットに拡散かくさんはすぐされるものの、その実態じったいなどは本当かどうかわからないようなものばかりだ。

 むかしとはちがう。


 かくしてそんな楽しくおちゃらけた(?)日々をおくっている俺達である。




 ヴァルハラ外伝 ロキの企み




 そんな神様である俺様だが、普段の生活はもっとわびしく、人間的であると言わざるをえない。

 教会でシスターにやしなってもらっているだ。


 教会の子供たちはみずか掃除そうじ洗濯せんたく料理りょうりなどをして、シスターに勉強べんきょうおしえてもらいる。

 わりえの無い生活。


 そんなつまらない日々でこの俺様が納得なっとくするわけもなく、勝手かってに外に出て森に来た人間をおどかしてはシスターにおこられ、食材しょくざいをふんだんに使ってフレンチを作ってはシスターに怒られ、いつの間にかどこからか持ち出したパソコンを返して来いとシスターに怒られたりしているわけだ。


 もちろん人間風情んいんげんふぜいにいくら怒られようと聞く耳を持たないのは自明じめいである。

 なんたって俺様は悪名高いロキ様なのだ。


「ねぇ遼平。・・・ねぇってば・・・ねぇロキ」


「なんだフェンリル」


「別に名前で呼んでもよくない?って、そうじゃなくて『なるかみし』って知ってる?」


「なるかみし?」


「神にるって書いて成神市なるかみし


 それだと神成市かみなりしだ。


「そのまちがどうした」


 人間の街の事など微塵みじん興味きょうみはない。


「なんかね、昨日のお祭りで小耳こみみにはさんだんだけど、成神市ってところが今話題わだいらしいの。なんでもえすえー?って言うか機械きかいの体を手に入れられるんだって」


「それがどうした」


「えー!すごくない??・・・ってまあその話もしたいんだけどさ、私がりょうへ・・・ロキにしたいのはその事じゃなくて」


「名前の事だろ」


「そう!」


 成神市。

 さっき葉月が言ったように神に成る街。


 神と言う言葉を聞くと最近はよく反応はんのうして話題を持ってくるのだ。

 だが、神なんてものはわりと人間界に多く存在する。


 人間が知らないだけでそこかしこに神は潜伏せんぷくしているのだ。

 ゆえに神様の話題など本当であろうが偽物にせものだろうが興味はない。


「なんでも、成神市では神が生まれる街っていう神話があるらしいよ」


「別にめずらしくもない」


「えー、もうちょっといい反応してよー」


 葉月の要望ようぼうには一切いっさいこたえる気がないが、なぜか俺様の頭には成神市の事が残っていた。

 別に神が生まれるとかサイボーグになれる事とかは至極しごくどうでもいい。


 だが、なぜかその街の事をよく知っている気がするのだ。


「フェンリルはそこに行ってみたいのか?」


「え?あー、まあ、遼平に話したらこうあそびに行く感覚かんかくで・・・ね?」


 ようするにひまなだけか。




 それから数日。

 自前じまえのパソコンなどを使って成神市の情報じょうほうあつめた。


 なんでもSAえすえーという機械化人間を試験的しけんてき運用うんようしているらしい。

 これが葉月はづきの言うサイボーグだろう。


 神話しんわいたっては何もそれらしき話は出てこなかった。

 というより、あまりにも田舎いなかなのだ。


 正確せいかくにはそんな最新さいしんテクノロジーをためすような街ではない。

 どこにでもある普通ふつうの街。


 言うなら田舎の部類ぶるい

 そんな街でなぜSAなるものを開発かいはつし、実験じっけんしているのか。


 しかもあろうことかそのSAは一般市民いっぱんしみん開放かいほうされているのだ。

 それが試験内容しけんないようでもある。


違和感いわかんかんじるな」


「「じゃあ行こうよ!」」


 いつの間にか背後はいごで見ていたらしい葉月と那覇なはは、声をそろえてまで暇を持てあましているらしい。


 俺にう事で刺激的しげきてきな事にれすぎたのだろう。

 もうこの教会での日々はりている。


 まあそこにかんしては俺様も同意どういはするが。


駄目だめだよ。ここをはなれたらだれがシスターと教会をまもるのさ」


 守る、というのは言葉通りだ。

 口にした本人も被害者ひがいしゃの一人だが、シスターと椿つばきの二人は盗賊的とうぞくてき集団しゅうだんおそわれているのだ。


 それから俺様が神だと言う事が露見ろけんし、三人の眷属けんぞくを作る事となったのだが、実質じっしつこの教会でそんな事件じけんはもうこりえない。

 なぜか?

 俺様が一種いっしゅ結界けっかいったからだ。


 ここらへんでわるさをしようと思わない。

 という簡単かんたん意識操作いしきそうさ魔法まほうだ。


 神であればそんなものはせるが、こんなド田舎の山中にある教会をほかの神がちょっかいをかけるとも思えない。

 ゆえに、ここに俺様が滞在たいざいする理由りゆうはない。


 滞在しているのはただ単に子供の姿だと動きにくいと言う点のみである。

 だが、年齢的ねんれいてきには街を一人で歩いていてもさほど気にならないだろう。


 今どきの中学生がどんな生活を送っているかまでは知るよしもないが(興味きょうみがない)、俺様が知るかぎりでは中学生ともなると一人でも行動している。

 つまりはそろそろここから出ていく時が来たのだ。


「守るうんぬんは大丈夫だ。それよりもこの街の事を一度調べに行った方がいいかもしれないな。この街には何かがある」


 暗雲あんうんうずまく中心こそ俺様のいるべき場所である。

 やったぁと後ろでさわがしい二人、そしてあきれ顔の椿の事はとりあえず置いとこう。


「行くなら早めの方がいい。ついてくる気があるなら準備じゅんびしろ」


「はい!このフェンリル、最速さいそくで準備をすすめてまいります」


 と、人間業にんげんわざではないスピードでその場からいなくなる葉月。


「くぅー!わくわくしてくるぜ!」


 無駄むだにテンションが上がっている那覇。

 そして・・・


「遼平が言うならシスターと教会は大丈夫なのかもしれないけどさ、どうしても行かないとだめなの?」


「ヘルよ、どうしてそこまで行きたくないのだ」


 中二病的ちゅうにびょうてきポーズをとる俺様にたいしてさらに呆れ顔をするヘルこと椿。

 眷属けんぞくとして、死者ししゃの国、冥界めいかいたばねる力を持つヘルの力をあたえられている椿が、どうしてそこまで真面目であろうとするのかがわからない。


 俺様の眷属となる者は基本的に野蛮やばんであったり、非常識ひじょうしきであったりするのだが、今まででここまで常識的じょうしきてきな真面目ちゃんが眷属になった事などないのだ。

 俺様が眷属とみとめたからにはこの時代じだいでのヘルの役割やくわりを持てるもののはずだ。


 なぜこうもヘルのイメージと椿はかけはなれているのか。

 陰気いんきまわりをかせるような行動をするくらいの人物がヘルにはふさわしい。


 むしろ俺様が契約する眷属の力の中で一番周囲とめないはずなのだ。

 フェンリルは昔から活発かっぱつ陽気ようき、そして時には野蛮な野性やせいを見せる。


 だが、それゆえのカリスマせいがあったりする。

 那覇が契約けいやくしたヨルムンガンドは、時代によっては陰気だったり陽気だったり、性格せいかくこそちがうものの、おちゃらけた所を持っているやつが多い。


 なぜ、なぜこうもヘルだけ違うのだ。

 俺に反旗はんきをひるがえすいきおいすら感じる。


「遼平はさ、平和な日常ってきらい?」


「見ててわからないのか。俺様は刺激的しげきてきな方が好きだ」


「今の生活じゃ満足まんぞくできないの?」


「できないな」


「そう・・・」


 なんだか調子ちょうしくるう。

 なんなんだこいつは。


 この時代はバグっているのか。

 それとも俺様の眷属の感知能力かんちのうりょくがバグってしまったのか。


 どちらにせよ、異常いじょうな事には変わりがない。

 だがそんなことはどうでもいい。


 俺様には些細ささいな事だ。




 シスターにかるわかれをげ、成神市なるかみし目指めざした。

 椿はついてきたものの、不満ふまんそうである。


 無理むりについてくる必要ひつようなどないのだがな。こいつの考えはまるでわからん。

 そしていざ成神市について見るとこの地が異常だと言う事に気が付いた。


「そうか。成神市。どおりで」


「どしたの遼平?」


「フェンリルよ、何度も言うが俺様の事はロキと呼べ」


「はいはい」


 成神市の異常。

 いや、正確には異常でも何でもない。


 長い年月をて俺様がわすれていただけだが、ここに神が集まるのは至極しごく普通ふつうの事なのだ。

 そういうふうにできている。


 俺様は早速さっそく自分の力を使って神の気配けはい辿たどると、現在この街には3ちゅうの神がいることがわかった。

 だが、神がいることがわかっても、どの神かまでは俺様にもわからない。


 言うならばネットで「神様」と検索けんさくし、三件さんけんヒットしましたとでる。

 だがいざそのページを見ようとするとロックがかかっていて見れないのだ。


 神達は自分の事を周りにばらさないように気配をしている。

 本来であれば三人いると言う事もわからないはずなのだ。


 俺様ゆえ存在そんざいだけは確認かくにんできる。

 そして俺様は一つの結論けつろんを出していた。


 昔から三柱の神と言えばオーディン、フレイヤ、トールの三神さんしんだ。

 俺様とも何かとえんのある神。


 せあうのは運命うんめいと言ってもいい。

 そして三神とんでいるその三柱の神は、昔から近くに転生てんせいすることが多い。


 これもまた運命と言える。

 いや、因果力いんがりょくとでもいうべきだろうか。


 かくして、この成神市と言う田舎同然いなかどうぜんの街にとどまる事にした俺様は、さらに情報じょうほうあつめることにした。




 成神市に滞在たいざいしてから約二年。

 衣食住いしょくじゅうは神の力を使えばいくらでも見繕みつくろえる。


 本来ほんらい反則級はんそくきゅうで、何か有事ゆうじさいにしか使おうとしない力だが、俺様には関係かんけいない。

 やっていることはむすみや詐欺さぎ一緒いっしょである。


 だが、それを犯罪はんざいと思わないように意識操作いしきそうさができるのが神としての特徴とくちょうでもある。

 葉月と那覇はすごいと感心かんしんしていたが、真面目ちゃんの椿だけは文句もんくを言いつづけた。


 だが、最終的にはその恩恵おんけいけてこうして一緒にいるのだ。

 ならば文句など言わせるものか。


 そしてこの二年間、俺様のネットワークを最大限さいだいげん駆使くしし、わかった事はなかなかに少ない。

 俺様の力をもってしてもここまでわからないとなると、ここいる神は非常ひじょう警戒心けいかいしんが強いと言う事だ。


 もしくは尻尾しっぽを見せるほど力を使つかわない理由りゆうがある。

 そこはとりあえず置いておくことにしておこう。


 わかった事は三つ。

 一つ目は、成神市に在中している三柱の神の一人はおそらくオーディンとトールのどちらでもないと言う事だ。


 だが、これはなんとなく予想よそうはしていたのだ。

 それは二つ目にもつながる。


 二つ目、残りの二柱の神の内、一人はフレイヤだ。

 もう一人の神と違い、ちょいちょいと神の反応を見せるフレイヤ。


 おそらく、この時代のフレイヤは注意散漫ちゅういさんまんなのだろう。

 そしてフレイヤがいるという事はもう一人はトールだろう。


 なぜオーディンではないと思うのか。

 これが一つ目の理由とつながる所だ。


 オーディンは数百年前から転生てんせいをしていない。

 理由も手段しゅだんもわからないが、転生をしないという事は最初から三柱さんちゅう同時どうじの場所に集まる事はほぼないにひとしい。


 これまでもオーディンがフレイヤとトールに合流ごうりゅうするのは成人後せいじんごの事だった。

 だが、目の前にフレイヤとトールがいるのだ。


 オーディンを待つよりはこちらからさがした方がいい。

 俺様はそうしてオーディンの場所を探しはじめる。


 もちろん眷属けんぞくの三人にも手伝ってもらった。

 そして三つ目がそのオーディンの居場所いばしょだ。


 探すのに一年近くもかかってしまったわりにはうわさ程度ていどでしかないが、おそらく本物ほんものだろう。


「ねぇ、オーディンほんとにいるのかな」


「おそらくな」


 長い旅路たびじきたのだろう、両腕りょううでを頭に回し、ひまそうに歩きながら那覇なは質問しつもんしてくる。


「ってかさぁ、こんな便利べんりなもの・・・まあ便利ではないけど、こんな移動手段いどうしゅだんがあるならなんで成神市に行くとき使わなかったの?」


 ついに後ろ歩きに移行いこうしながら言う那覇のいう事はもっともな話だ。


「お前ら、最初から冥界めいかいなんてとおったらつまらないとか言い始めてただろ」


「へー、ロキにしては気遣きづかってくれてたんだね」


 二年の歳月さいげつて、ロキと呼ぶのに抵抗ていこうはある程度ていどなくなったらしい。

 まあ元から那覇はたまにロキと呼んではいたが。


「そもそもなんでそのオーディンをさがさないといけないのよ」


 二年の歳月を経ても不満ふまんそうについてくる椿つばきは、俺様の事をロキとあまり言わないが、最近は遼平と言う名前も出さないようになってきた。

 まあ遼平と言うと俺様が反応はんのうしないからであるのは明白めいはくだが。


「オーディン事態じたいに用があるわけではない。正確せいかくにはやつが持っている神器じんきうばうためだ」


「また人の物ろうとしてるのね」


 あき半分はんぶんあきらめ半分と言った所だろうか、椿はためいきを一つつくと、それ以上は聞いてこなかったが、代わりと言わんばかりに那覇が食いついてくる。


「”じんき”って何?」


「神が持つ武器ぶきだな。まあ武器ともかぎらないが。その神を神たらしめる象徴しょうちょうのようなもんだ」


「じゃあロキの神器ってどんななの?」


「俺様の神器は本来ほんらいない。オーディンとフレイヤ、そしてトールの神器をかけ合わせないと俺様は神器を持てないんだよ」


「え、じゃあロキって神様じゃなかったの!」


 まあ反応としては間違まちがってはいない。

 俺様の神器、レーヴァテインはほかからうばわないといけないのもあり、本来の神に必要な神器を持ち合わせていない。


 神が神器を持っていないという事は、かなり重大じゅうだいな事だ。

 本来なら転生もできなければ、力も相当そうとうちる事にもなる。


 だが、俺様はロキとして誕生たんじょうしたのは他の神とは別の経緯けいいなのだ。

 ゆえに、オーディン達からしてみれば後輩こうはいではある。


 そして神器がなくても転生できたり、三人も固有こゆう眷属けんぞくが作れるのは俺様の特殊性とくしゅせいではあるが、力が制限せいげんされているのは俺様も同じだ。

 だが、それでも俺様は他の神にてるほどの実力じつりょくゆうしている。


「俺様は神様だ。まあこの場合は完全な姿にため必要ひつようだってだけだ」


「ふーん」


 興味きょうみがあるんだかないんだか。

 まあ無理もない。


 俺様達が目指めざしているのはそもそも日本ではないのだ。

 オーディンの居場所いばしょは名も知らないような外国らしい。


 外国に行くには色々な手続てつづきの上、飛行機ひこうきらねばならない。

 俺様の力をもってすればまわりに不信感ふしんかんいだかれずに外国に行くことも可能かのうだ。


 だがしかし、力を制限されている俺様の力を使いすぎると言うのも考え物なのだ。

 いかに優秀ゆうしゅう天才的てんさいてきな俺様と言えども、力の乱用らんよう不利益ふりえきむ。


 おもに言うならば天界てんかいからの使者ししゃに目をつけられればさらに力を制限されかねない。

 ならばちが手段しゅだんをとるしかないわけだ。


 そこでとった手段と言うのが冥界だ。

 眷属けんぞく、椿ことヘルの固有結界こゆうけっかい(といってもだいぶむかしに固有結界ではなくなり、ゼウスによって一つの別世界べつせかいとして構築こうちくされなおされているのだが)の冥界は、どんな場所にもつながっている。


 同じような物で言えばフレイヤの神器じんき、スキーズブラズニルだ。

 だが、所詮しょせんは結界。


 神器ほどの能力はなく、歩いて移動いどうするのが精一杯せいいっぱいと言うわけだ。

 現実世界を移動するよりはるかに距離きょりちぢまるが、一日二日でつくような物ではない。


 なんせ外国だ。

 道のりはとおい。


 空中をべれば多少はちがうかもしれないが、力なき俺様では飛ぶことなど到底無理とうていむりな話なのだ。

 そもそも本来ほんらい俺様と眷属は飛翔系ひしょうけいの能力をゆうしていない。


 だが、俺様の力をもってすれば・・・

 と、そんな事は今はいいだろう。


 とにかく俺様達は冥界をひたすら歩いて歩いて、それに那覇はきしていると言うわけだ。


「ロキ!あったよ、目印めじるし!」


 那覇とは違い、冥界を楽しんでいる様子ようす葉月はづきには、俺様達より先行せんこうしてある物をさがしてもらっていた。

 冥界のあるじであるヘルと、俺様にしかわからないが、冥界のあらゆる場所に多種多様たしゅたような目印がある。


 その目印で今おおよそどこにいるかわかるのだ。

 葉月が見つけた目印は、犬ともねこともとれるような一つのいわだ。


 オーディンがいるとされる場所の近くへとようやくたどりいたらしい。


「ご苦労くろうだったな。ではヘルよ、冥界から人間界への通路つうろを作るのだ」


「はいはい」


 あきれた顔の椿だったが、以外いがいにも命令めいれいには素直すなおしたがう事が多い。

 もっと俺様に反抗的はんこうてき異端児いたんじならぬ異端眷属いたんけんぞくだとも思ったが、これはこれでツンデレとも言えなくはないのだろうかと最近さいきん思い始めている。


 かくして、俺様達は無事ぶじ外国についたわけだが、ここからオーディンの居場所をさぐるのに三日ほど時間がかかってしまう。

 むしろ三日で見つかったのは早い方ととるべきなのかもしれない。


 なんせ、オーディンが潜伏せんぷくしていたのは街中まちなか村中むらなかと言うべきかもしれないが)ではなく、街はずれの森の中の一つの小さな小屋こやなのだ。

 家ともべなくはないこじんまりとした小屋には、オーディンとその眷属けんぞくらしきものがんでいた。




「よう、ひさしぶりだな、オーディン」


「・・・だれだ」


 オーディンが小屋をはなれたすきをうかがって接触せっしょくこころみた。

 眷属に手出しされては手間てまが一つえることになるからな。


「まさかこのぼくわすれたのかい?優秀ゆうしゅうかつ天才的てんさいてきなこの僕を」


「あー、ロキか。久しぶりだな」


 かるい。どこまでも軽いやつめ。

 余裕よゆうなのかしらんが、今回こそその余裕をみにじってくれる。


「またれいのラグナロクごっこか?まだ俺たちは三人そろってないぞ?」


「ふん。そんなものはもう見つけ出している」


「おぉー、さすがロキだな。で?どこにいるんだ?俺も早く合流ごうりゅうしたいんだよ」


「言うわけがないだろ」


 こいつと話してると調子ちょうしくるう。

 転生てんせいをしていれば少しは緊張感きんちょうかんがあるというものだが、こいつの場合は転生をしていない。


 オーディンがまた、と言ったのは俺様がオーディンたちから神器じんきうばおうとするのは毎度まいどの事だからだ。

 その記憶きおく完全かんぜんいでいるオーディンにはもうおあそびでしかないのだろう。


 いつまでもかれてばっかりでは俺様の体裁ていさいにかかわる。

 今回こそは奪わせてもらう。


「ケチだなー」


「いいかオーディン。今回の僕は一味違ひとあじちがう。貴様きさまからさっさとグングニルを奪い、レーヴァテインを完成かんせいさせてもらう」


「じゃあまずは俺をたおさないとだな」


 途端とたん、オーディンの手の中には見覚みおぼえのあるやりあらわれる。

 間違まちがいない、オーディンの神器、グングニルだ。


が眷属よ!今だ!」


 ごえともに現れるフェンリル、ヨルムンガンド、ヘルの三人。

 そこから壮絶そうぜつなバトルがはじまる。


 オーディンは一人槍を手に三人とたたかつづける。

 戦いは実に三時間にもわたった。


「というゆめを見たわけだ。いい夢を見れたか?」


「・・・なっ」


 戦いなどこっていないのだ。


幻術げんじゅつか」


 周りに三人が待機たいきしているのは事実じじつだが、飛び出してもいなければ三時間など立ってすらいない。

 時間にして30秒という所だろう。


「ヨルムンガンドの能力を間借まがりした。俺様が幻術を使うなどと思ってもいなかっただろう」


 眷属の能力は基本的きほんてきあるじである神にも使える能力の劣化版れっかばんだ。

 だが、これも俺様の特殊性とくしゅせいわるほうでのだが。


 俺様にはフェンリルのようなはやさもなければヨルムンガンドのような高度こうどな幻術も使えないし、ヘルのような固有結界こゆうけっかい死者ししゃあやつる能力はない。

 もちろん真似事まねごとなら可能かのうだ。


 だが、今回使ったのは真似事なんて小さいものではない。

 本来ほんらい俺様には使えないはずの眷属の力を、俺様の能力で間借りして、一時的に使えるようにしたのだ。


 これも俺様だからこそなせるわざ

 ロキの神様としての特異性とくいせいであるやろうと思ったらできるという所だ。


 これもオーディン達を出し抜くために研鑽けんさんに研鑽をかさねた結果けっかと言えよう。

 転生てんせいゆえに実際じっさいに研鑽を重ねているわけではないが。


 まあ今目の前にいるこのオーディンも今ではなんでもありの超人ちょうじん、ならぬ超神ちょうじんだ。

 だがこの話はとりあえず置いておこう。


「グングニルはいただいた。言っただろう、今回の僕は一味違うって」


「くそっ!待て!」


 俺様にろうとするオーディンをよそ目に、俺様は次はヘルから間借りした能力によってかげになってる。

 オーディンの手はちゅうを切り、くやしそうにさけんでいた。




「あんがいオーディンってやつはちょろいんだな」


 そんな言葉をはっしたのはヨルムンガンドこと那覇なはだった。


「まあな」


 と、余裕よゆうぶってみるが、現在げんざいの俺様は巨大な大蛇だいじゃとなった那覇の背中せなかっころがっている。

 能力の使用による疲労ひろうによって体が思うように動かないのだ。


 神器じんきなしの体で能力の間借りをした代償だいしょうではあるが、あのオーディンを出し抜くために本気で間借りした能力を使った結果でもある。

 半端はんぱな力の使い方をしていてもあのオーディンは出し抜けない。


 それくらい今のオーディンは脅威きょういなのだ。

 天界てんかいでもさぞ問題視もんだいしされているだろう。


 俺が知っている限りでは今のオーディンは天界によって力を制限せいげんされているはず。

 それでも油断ゆだんなんてものはできないのがオーディンだ。


 オーディンを出し抜けるとするなら、英雄えいゆうの力をいでいる神殺かみごろしの連中れんちゅうだろう。

 あいつらは神にたいする力を積極的せっきょくてきに使ってくる。


 かくゆう俺様もそちらがわ部類ぶるいなのだが、あいつらとも同じとも言えない。

 俺様は唯一無二ゆいいつむに存在そんざいなのだ。


「ロキ、これからはどうするの?」


 質問しつもんしてきたのは、俺様と同じように那覇の背中で寝っころがっている葉月はづきだ。


「成神市でフレイヤから神器をうばうために準備じゅんびをする」


「準備って?」


「・・・そうだな。不良ふりょう頂点ちょうてんに立つ事だな」


「え、なにそれ」


「不良は意外いがいまち事情じじょうくわしかったりする。もちろんうらでの話だがな。それを利用りようしてトールをすためにもフレイヤをおそわせるつもりだ。フレイヤが不良ごときに負けるわけはないが、そのすきにフレイヤの神器も奪ってしまうのさ」


一般人いっぱんじんむのはどうかと思うけど」


 真面目まじめちゃんをいつものように発揮はっきする椿つばき

 那覇の背中でくつろいでいる椿は少し上の空だ。


 何を考えているのかさっぱりわからないが、文句もんくを言う元気はあるようだ。


「そんなものは今更いまさらの話しだ」


「・・・あんまりやりすぎないでよね」


「別にだれが死ぬわけでもない。フレイヤのやつが一般人をころすとは到底とうてい思えないしな」


「・・・なら・・・とりあえずいいけど」


「ところでさ」


「なんだフェンリル」


「さっきロキ、自分の事俺様じゃなくて僕って言ってたよね?」


「・・・」


「なんで僕だったの?」


「・・・」


「ねぇロキ?」


「相手を油断ゆだんさせる演出えんしゅつだ」


「そうなの?」


「あぁ」


「ロキってやっぱり色々考えてるんだねぇ」


「当たり前だ」


「フレイヤの神器もさくっと手に入れられるといいね!」


「当然だ」


 ・・・。




 それから約一か月近くかかり、成神市の不良をほとんど取り込むことに成功せいこうした。

 なぜ一か月もかかったかと言うのは・・・


「それにしてもSAえすえーってほんといろんな事できるんだね」


 そう、不良のほとんどは成神市限定げんていで使えるSAなる改造手術かいぞうしゅじゅつをしていたのだ。

 俺様も気になって簡単かんたんなチップを作ったりもした。


 だが、神の力を持つ俺様達には不要ふよう判断はんだんし、チップもそこらへんに歩いていたやつにあげてしまった。


「SA二つも使ってきたのは昨日が初めてだったし、あせっちゃった」


 と、戦った本人の葉月が言うほどじつにトリッキーな事ができる。

 SAでたたかうような者は違法いほうチップとばれる正規せいきの物ではないオーダーメイドのチップを使っている。


 本来ほんらいのチップより出力しゅつりょくをあげているだけの物がほとんどだが、先日のオーディンの神器を奪ったおかげで俺様の力も眷属の力もあがっているはずなのだ。

 もちろん、神器なしでも負けるような事には万が一にもないが、対抗たいこうできるほどの力がSAにはある。


 言ってしまえばSAにはそれだけの力を出せるように設計せっけいされているという事だ。

 一般生活いっぱんせいかつらくにするためと広告こうこくしているSAがそんな設計にされている事に少々違和感いわかんかんじる。


「ロキ!昨日の不良から報告ほうこく!」


 現在げんざいりている部屋へやとびらいきおいよく開けて入ってきた那覇によって俺様の思考しこうは切り替わる事となる。

 昨日の不良と言えばやたら身長の高くてがっちりとした筋肉ダルマ・・・たしか名をとどろきとか名乗なのっていただろうか。


「俺達みたいな不思議ふしぎな力を使ってくる女の子と昨日の夕方ゆうがたたたかったって!」


 轟をめ上げたのは昨日の昼過ひるすぎ。

 そのあとすぐにその少女にあったことになる。


「やはりオーディンの眷属けんぞくか・・・案外あんがい早かったっもんだな」


 先日から眷属らしき気配けはいと不良をものうわさは聞いていた。

 噂のけんに関しては俺達の事かとも思っていたが、どうやらその眷属もなぜか不良狩りをしているらしい。


計画けいかくがばれてる・・・いや、そんなはずは・・・とにかく計画変更けいかくへんこうだ。今日の夕方にフレイヤを俺達の手でおそう。能力を使えばオーディンより厄介やっかいだ。確実かくじつに行くぞ」


「ねぇロキ、もしその女の子がフレイヤじゃなかったらどうするの?」


「何だヘル、俺様の力をうたがうのか」


「疑うって言うか・・・フレイヤだって私達が確信かくしんしてからでもいいんじゃないの?そういう作戦でもあったんでしょ?」


 確かに不良に襲わせるのは力を使わせてフレイヤだと言う確証かくしょうを確実にためでもあった。

 だが、ほぼ間違まちがいなくその少女はフレイヤだ。


 椿つばきに俺様の感知能力かんちのうりょくの話しをした所で素直すなお納得なっとくはしないだろう。

 ならばこいつの話しを聞いてやる必要ひつようなどはなから無い。


「こいつ、埜口縷々やぐちるる確実かくじつにフレイヤだ」


 俺様の意図いとを読んだのか、椿は一人顔をしずめる。


「作戦内容だが・・・」


 俺様は椿の事を無視して作戦概要さくせんがいようを話した。




 埜口縷々。

 成神第一なるかみだいいち高校二年。


 普段ふだんは同学年、同クラスの桂木悠真かつらぎゆうま新庄君丈しんじょうきみたけと言う男子生徒だんしせいととつるんでいる。

 ちなみに俺様と眷属はすでに成神第一高校に入学にゅうがくしている。


 椿だけは年齢的ねんれいてき編入へんにゅうで二年のクラスに入ったが。

 埜口縷々とつるんでいる二人のうち、片方かたほうがトールである可能性かのうせいは高い。


 そして、トールと同じようにまったくもって尻尾しっぽを出さないもう一人の神との三人行動である可能性も高い。

 そこで、ねらうのは放課後ほうかご、帰り道で埜口縷々が一人になった瞬間しゅんかんだ。


「どうもこんにちわ、埜口縷々さん」


「えっとー・・・だれかなー?新入生だよねー?私知り合いだったっけー?」


「えぇ、ふかーい知り合いですよ、ぼくとあなたは。ねぇフレイヤさん?」


 にこにことかたりかける俺様だが、内心ないしんはこんな事をしている自分にすごく嫌気いやけがさしてくる。

 相手もにこにこーっとして表情ひょうじょう一切崩いっさいくずさない。


「んー、何の話しー?」


「ま、しらばっくれてもわかってんだ。大人しく神器渡じんきわたしてもらおうか」


 作戦内容はオーディンの時とさほど変わらない。

 俺様が近づいて幻覚げんかくを見せる。


 だが、フレイヤは魔法まほうのプロフェッショナルだ。

 いかに高度こうど幻術げんじゅつだろうといてしまうだろう。


 だが、俺様はある一つの過程かていの元作戦を実行している。

 それは、埜口縷々本人はフレイヤではないという事だ。


 いや、実際じっさいにはフレイヤなのだが、たまにこる神的人格しんてきじんかく人間的人格にんげんてきじんかく離別りべつというもので、守護霊しゅごれいのように自分の内に神を別人格べつじんかくとしてもって転生てんせいするものがいる。

 これはランダムに起こり得る事で、神にも感知かんちされにくいため、自分の身をかくすにはすごく便利べんりな使い方ができる。


 だがぎゃくにその慢心まんしんすきむ。

 俺様はそれを見逃みのがさなかったからこそ埜口縷々はフレイヤであると断定だんていした。


 まあ簡単かんたんに言うならば神ならば気配けはいかくしているはずなのだが、フレイヤは埜口縷々と変わるときに気配をだだらしなのだ。

 フレイヤの場所が分かった所でそこにはまったく神の力を感知できない人間がいるわけだ。


 実際じっさいに力を使う所を見るまではそう簡単には自分が神だとばれることはない。

 さて本題ほんだいもどろう。


 フレイヤは魔法に特化とっかした者だが、埜口縷々の中にいるならば埜口縷々自体を封印ふういんしてしまえばフレイヤは簡単には外にはでてこれないはずだ。

 だからフレイヤが出てくる前に幻術をかけて一瞬の隙を作り、埜口縷々を封印する。


 一番厄介なのはフレイヤの神器だ。

 スキーズブラズニル。


 一瞬でどこにでもいけるし、なんでも格納かくのうできるといういわゆる四次○ポケットとどこでも○アをあわしたかなりのすぐれものだ。

 埜口縷々がスキーズブラズニルを使えるならこの作戦はなんようするだろう。


「っっ!!」


 俺様の幻術をけて一瞬抵抗ていこうする。

 だが、幻術自体はかなくてもいいのだ。


 むしろただの人であろうとフレイヤを宿やどしている少女だ、いくらヨルムンガンドの高度な幻術と言えど、フレイヤの前では赤子の抵抗にままならない。


 だがこれで一瞬の隙はできた。


「フェンリル!」


「はいよ!」


 葉月はづきが埜口縷々の背後はいごに回ると、葉月は手に持っていた石を埜口縷々の背中にてる。

 さすがのフレイヤとて、隙がうまれた一瞬にフェンリルの素早すばやさには対応たいおうできまい。


「あっ・・・」


 作戦は見事みごとに成功した。

 埜口縷々はその場にたおれ、すやすやと寝息ねいきを立てている。


「すげえな、この魔石ませきってやつ」


「まあ作るのに何日もかかるうえに使えるのは一つの魔法だけだから非効率ひこうりつだがな。・・・それにしてもなんだその口調くちょう


「ん?僕の事?」


「・・・僕?」


 葉月の一言にほおがぴくりとする。


「僕ね、ロキを見習みならって言葉づかい変えることにしたの。僕もロキみたくかっこよくなりたくてね」


 言葉遣いのわりには乙女おとめさながらの目をきらきらさせる葉月。

 なんとなく馬鹿ばかにされているような気もするが、そんな目で見られてはおこる事もできない。


悪影響あくえいきょうが広がっていく・・・」


 いつの間にか俺様の横に立っていた椿は頭をかかえていた。

 いつもは一言言ってやるところだが、さすがの俺様も自分の行動を見つめなおさなければいけない気になってくるのだった・・・




 その後、埜口縷々からフレイヤの気配を魔法でさぐり、その中からスキーズブラズニルを奪い取った。

 埜口縷々を封印したのには理由がいくつもある。


 一つはフレイヤとの戦闘せんとうけるため

 もう一つはフレイヤの神器が目に見えるものではない為、魔法で中から取り出すしかないのだ。


 そして、最後にトールをおびき出すためだ。

 つるんでいる二人の内、片方がトールなら、確実かくじつに封印をいてくると思ったのだ。


 封印を解く瞬間しゅんかんを見てしまえばトールの正体はすぐにわかる。

 だが、事はそううまくいかなかった。


 病室びょうしつはこばれた埜口縷々やぐちるる桂木悠真かつらぎゆうま新庄君丈しんじょうきみたけも会いに来たが、どちらも封印ふういんを解かなかった。

 という事はどちらも神ではない・・・?


 いや、そんなことはないはずだ。

 けっして・・・。


 むしろ俺様は桂木悠真がトールだとんでいた。

 だからこそ埜口縷々がたおれた次の日に桂木悠真の下駄箱げたばこに「お前のせいだ」と書置かきおきをのこしたのだ。


 桂木悠真をトールだと思ったのはとどろき存在そんざいが大きい。

 轟の話しを聞いてきた那覇なはの話しにはもう一人男子生徒がその場にいたと言う報告ほうこくもあった。


 ひまな時間に轟の元に行き、轟の記憶きおく魔法まほうのぞき見た結果けっか、そこにいたのは桂木悠真だった。

 桂木悠真がオーディンの眷属けんぞくとつるんでいるならトールの可能性かのうせいはさらに高くなる。


 実際、病室に桂木悠真が来たときにオーディンの眷属である姫野川ひめのがわばれた少女はやってきたのだ。

 何が間違まちがっていると言うのだ。


 いや、トールの事だ、慎重しんちょうにいつも行動するやつなら自分の存在そんざい簡単かんたんにはばらさないだろう。

 ならば強硬手段きょうこうしゅだんだ。


 そして俺様はフェンリルに桂木悠真をおそわせることにした。


「ねぇ、ロキ!絶対ぜったいこんなの間違ってるよ!あの人が神じゃなかったら死んじゃうかもしれないんだよ!」


 俺様は成神第一高校に入ってからというもの、魔術研究会まじゅつけんきゅうかいというものを勝手かって発足ほっそくし、学校のはし一室いっしつを(魔法で)占拠せんきょして寝床ねどこにしている。

 ヘルの力を使えば別次元べつじげん部屋へやを作る事など簡単なのだ。


 そして今、俺様は魔術研究会の部屋で椿とフェンリルの戦いを魔法のかがみで見ようとしているのだ。

 那覇なははヨルムンガンドの力を使って埜口縷々の病室に潜伏せんぷくしている。


 椿つばきが言うように、桂木悠真がただの人間なら死んでしまうだろう。

 フェンリルにはころす気で桂木悠真の正体をあばいて来いと言った。


 もちろんフェンリルにも桂木悠真が人間である可能性も提示ていじしたが、正直これで桂木悠真が死ねば新庄君丈がトールだった場合は確実かくじつに出てくるだろう。

 何にせよ結果けっかはこっちの思い通りに行くはずだ。


 椿はわかっていないのだ。

 いまさら人間が一人死んだところで俺様には知ったことはない。


「ロキ!聞いてるの!」


「わめいても仕方しかたがないだろ。もうはじまるぞ」


 俺様の言葉に椿もいきむように鏡を見る。

 フェンリルと桂木悠真はちょうど対峙たいじするところだ。


(お前はここで死ぬんだからな!)


「っ・・・!」


 フェンリルの言葉が部屋にひびいた瞬間しゅんかん、椿は顔をせて部屋から飛び出していった。

 そんなに人一人の、しかも無関係むかんけいな人間の命が大事だいじだと言うのか。


 確かに俺様は椿とシスターの命をすくった。

 まあ救ったと言っても殺されていたともかぎらないし、あの強盗達ごうとうたちなら殺すよりも恥辱ちじょくの限りをくしていただろう。


 最終的さいしゅうてきには殺されていたかもしれないが。

 だが、あの時二人をたすけたのは少ない恩義おんぎと、那覇と葉月はづき改心かいしんにほんの少し動かされ、この余興よきょうに付き合ってやろうと言う気まぐれのみだ。


 関係かんけいない人間の命など至極しごくどうでもいい。

 俺の一瞬いっしゅん思考しこうすみで、フェンリルが攻撃こうげき開始かいしした音が聞こえた。


 だが、その攻撃は肉をくような音ではなく、攻撃がはじかれるような金属音きんぞくおん

 とうとう正体をあらわしたかと一瞬高揚いっしゅんこうようもしたが、鏡から見える光景こうけいには助けに入った姫野川、オーディンの眷属の姿があった。


余計よけいな事を」


 ここまでかかわってくるのに桂木悠真が無関係だと?

 だが、確かに病院での桂木悠真と姫野川の会話はあまり神に関係なさそうにも聞こえた。


 その後の話しを那覇に尾行びこうさせて聞こうとも思ったが、二人が病室びょうしつったあとに新庄君丈が来たのだ。

 どちらを監視かんしするかまよっているうちに二人の姿すがた見失みうしない、新庄君丈もすぐに病室をって行ってしまった。


 桂木悠真が本当に何も関係がないとするなら、新庄君丈の方を調査ちょうさした方がいいかもしれない。

 フェンリルと姫野川の攻防こうぼうつづく。


 オーディンの神器がうばわれている事もあり、姫野川の力はよわい。

 ふと俺様はオーディンの存在そんざいわすれていたことに気が付いた。


 眷属がいるのに当の本人の姿がない。

 いや、近くにいるはずだ。


 気配けはいさがせ・・・。

 俺様はお得意とくい気配感知能力けはいかんちのうりょくあたりの神の気配を探す。


 すると、フェンリルがたたかっているそばに一人の神の気配を感じる。

 しかも、見つけてくれと言わんばかりに気配がだだれだ。


 気配の正体はまぎれもなくオーディンそのもの。

 これは・・・さそわれているのか?


「ふっ。いいだろう。面白おもしろい。このロキ様に挑発的ちょうはつてき態度たいどをとったことを後悔こうかいするがいい。もどれ、フェンリル!」


 必殺ひっさつ一撃いちげきを出そうとしていたフェンリルの動きが止まる。

 桂木悠真が関係ないとするなら今はオーディンに妨害ぼうがいされないように排除はいじょすることの方が先決せんけつだ。


「フェンリル、戻れと言ったが、こっちにかう途中とちゅうに俺様達からげているオーディンがいるはずだ。即刻始末そっこくしまつしろ」


(わかったよ!)


 鏡越かがみごしにフェンリルの言葉がつたわってくる。

 今オーディンに邪魔じゃまされるのは得策とくさくではない・・・。




 だが、翻弄ほんろうされただけでオーディンを仕留しとそこねると言う結果に終わった。

 まあさすがの俺様も全ての事柄ことがらがうまくいくとは思っていない。


 ならばおよがせてトールを見つけるのを優先ゆうせんした方がいい。

 そうかんがえ、埜口縷々やぐちるるにかけた封印ふういんをオーディンが破壊はかいするのもただ見守みまもっていた。


 ちなみに、椿つばきはあれから魔術研究会まじゅつけんきゅうかいに戻ってきたものの、ろくに口を聞こうとしない。

 そしてトールの捜索そうさくをするというオーディンたちとは別に俺様も探すことにした。


 しかし結果は変わらず。

 新庄君丈しんじょうきみたけはオーディンの近くにいながら名乗なのり出ない事からトールではない可能性かのうせいしていった。


 なんだかだんだんとうまくいかないことが増えている気がする。

 だが、ここで辛抱しんぼう強く待つしかない。


 こちらには二つの神器があるとはいえ、まだ完全な力は出せない。

 慎重派しんちょうはのトールを出し抜くにはこちらも慎重にならざるをえない。


 トールを探し始めて一週間たとうとした頃、状況じょうきょう唐突とうとつに変わった。


(見つけた!トールだ!やっぱり新庄君丈がトールだっだ!)


 那覇なはの声が脳内のうないひびく。

 病室びょうしつにずっと潜伏せんぷくしている那覇からの通信つうしんという事はその場には神が集まっているはずだ。


 鏡を即座そくざに那覇の姿すがたうつせるようにする。


「ヨルムンガンド!いくら弱ってはいるとはいえ、トールがいる中で戦闘せんとうをしようと思うなよ!」


 俺様が那覇にかけた言葉はあっさりと意味をなくしてしまう。


大丈夫だいじょうぶだよロキ、俺様がこんなやつら一瞬いっしゅんかたづけてやる!)


「ちっ!やめろ!」


 那覇はいう事を聞かなかった。

 椿の言うように本当に悪い意味で俺様にてきやがった。


 威勢いせいだけよくたって力の関係性かんけいせいは変えられないんだ。

 そもそもヨルムンガンドは戦闘向せんとうむけの眷属けんぞくではない。


 戦闘となるならまだヘルの方が強い。

 だが、ヘルはフェンリルとヨルムンガンドの間、万能型ばんのうがただが、やはり戦闘ではフェンリルの方が上だ。


 結局けっきょく那覇はあっさりと負けてしまった。


「くそっ、計画けいかくくるった。オーディンならヨルムンガンドの力を取り込んでくるはずだ。せっかく二つも神器じんきを手に入れたと言うのに」


 どうする。

 ヨルムンガンドをうしなっても戦闘面ではなんとかなるだろう。


 だが、偵察ていさつできなくなると言う点はだいぶでかい。

 ヘルならその役目やくめもできるが、今の椿がいう事を聞くとも思えない。


仕切しきなおしだな」




 俺様はひとまず体制たいせいととのえるために頭をはたらかせた。

 魔術研究会のおく本来ほんらいはない場所に空間くうかんつなげて寝床ねどこにしている部屋へやで考えを落ち着かせる。


 しかし考えがまとまらない内にオーディンとその眷属けんぞく、そして桂木悠真かつらぎゆうまが魔術研究会にんできた。

 なぜ桂木悠真がいる・・・?


 こいつはただの人間だろう?

 なんなんだこいつは。


「いや、これはチャンスだ。どんな理由りゆうだろうとこの状況じょうきょうを使わない手はない」


 即座そくざ結界けっかいり、戦闘モードになる葉月。

 よくできた眷属だ。


 フェンリルのはやさなら弱体化じゃくたいかしているオーディンと眷属くらいなら簡単に勝てるだろう。

 しかも桂木悠真と言うかせまでついている。


「ヘル、お前もフェンリルに協力してオーディン達をたおせ!」


 フェンリルの速さとヘルの能力の優秀ゆうしゅうさを考えれば弱体化している神とその眷属などとるにたらない。

 だが、魔術研究会の中にいるはずの椿から返ってきた一言は予想外よそうがいのものだった。


(・・・いや


「さすればすぐにフェンリルと・・・あ?何?嫌と言ったか?」


(嫌と言いました。ここ最近のロキには・・・いや、遼平りょうへいにはついてけない。ここでたおされるなら倒された方がいいと思う)


「なにー!」


 つい頭をかかえてしまう。

 こんな所で裏切うらぎりが発生はっせいするなど予想外だ。


 いや、予想外ではない。

 最近の椿の態度たいど無視むししていたのは確かに俺様の方だ。


 今はこの異空間いくうかんへの道がざされているが、フェンリルが倒された瞬間しゅんかん、ヘルはここへの道をけるだろう。


「・・・ふっ、ふふ。いいだろう。フェンリル、桂木悠真を人質ひとじちにとってそいつらをたおせ」


(おっけー!)


葉月はづきもどうかしてる・・・遼平のせいだからね)


「どうとでも言うといい。・・・さて、ここにやつらが乗り込んでくる可能性かのうせいえた。ならばふさわしい決戦場けっせんじょうに変えておくか」


 一瞬いっしゅん異空間いくうかん風景ふうけいを部屋から岩肌いわはだがごつごつしただだっ広い空間に変え、俺様は中央ちゅうおうにそびえたつピラミッドの上に作り上げた玉座ぎょくざの上にすわる。

 ボスはボスらしく悠然ゆうぜんとかまえておけばいい。


 その上でやつらの事などほふってくれよう。

 俺様の支配下しはいかにある魔術研究会の映像えいぞうは、かがみを使わなくとも頭にながんできている。


 ちょうどフェンリルが桂木悠真かつらぎゆうまを人質にとった所だった。

 フェンリル一人でも倒せる相手だとは思うが、ただの人間を一人人質にとればさらに確率かくりつはあがる。


われながら完璧かんぺき作戦さくせんと言うわけだ。・・・それにしてもこの桂木と言う人間、なんだか見覚みおぼえがあるような気がする」


 以前にはただの人間だと思っていたが、何度も顔を見るたびに以前に一度見たような気がしてならないのだ。

 俺様の疑問ぎもんはすぐに形になってあらわれる。


 桂木悠真が威勢いせいよくえ、フェンリルにひじ打ちを食らわせようとしてくる。

 ただのひじ打ちならばダメージにすらならないが、フェンリルも脅威きょういを感じたのだろう。


 その速度そくど普通ふつうの人間が出せるような速度ではない。

 格闘家かくとうかとも思わしき速度でされるひじ打ちをフェンリルはけた。


 だが、その瞬間しゅんかんすき見逃みのがさなかったオーディンがグングニルをげてフェンリルをふうじる。

 今のオーディンはヨルムンガンドから力をうばっているため、やつの弱体化した神器じんきでも当たれば力を奪い取られるのは当然とうぜん結果けっかだ。


 あっさりとフェンリルをやられてしまったが、俺様の頭の中では桂木悠真の事を考えていた。


「あれは・・・SAえすえー・・・そうか、運命うんめいとはやはり馬鹿馬鹿ばかばかしい。俺様の事をとことん邪魔じゃましてくれる」


 SAによって筋肉きんにく増加ぞうかしたような現象げんしょうき、格闘家さながらのひじ打ちを披露ひろうできたわけだ。

 しかもあのSAに使われているチップはおそらく・・・


「くはっ・・・くはははははっ!面白おもしろい!面白いぞ人間!ぼくの事をこけにしてくれるオーディンも、桂木とかいう人間も、俺様が一人のこらずってくれる!」


 そしてヘルによってれてこられたオーディン達によって俺様はたおされることになったのだった・・・




「・・・キ、ロキってば」


「ん、なんだ、ヘルか」


 ゆめを見ていたらしい。

 あのまわしき夢を。


 俺様の今回の転生てんせいの全てを変えて行ったオーディンと人間の夢。

 あれから一か月が立とうとしていた。


 あの後、俺様は力を制限せいげんされ、神殺かみごろしにおくれをとり、不覚ふかくにもそれをあの人間如にんげんごときにたすけられると言う痴態ちたいまでさらした。

 当然感謝とうぜんかんしゃなどしていない。


 だが、力が制限されてからほら見た事かと椿つばきにはおこられ、命を助けてもらった時もちゃんと感謝しろと怒られた。

 まあ俺様があの場で死んでいても次の転生をするだけと俺様は特に気にしてもいなかったのだがな。


「そういえばさ、聞きたかったんだけど、なんであの時悠真君の攻撃こうげきふせがなかったの?」


「あ?」


 俺様の夢をさっしたように質問を投げかけるヘルこと椿。

 いや、実際にのぞき見たのだろう。


 ヘルの力を使えば夢くらいは覗ける。

 全く趣味しゅみわるい。


「忌まわしきことを思い出させるな。あれはけられなかったんだ」


うそつかないでよ。あんなのあの時のロキなら避けれたじゃない」


「・・・ふん」


 確かに椿の言うとおりだ。

 なんなら俺様はオーディン達が乗り込んだ時から負けることを想定そうていしていた。


 桂木悠真を見た時、そしてあの火の矢を見た時、俺様は予感よかんがしたのだ。

 桂木悠真の正体を。


 なぜあそこにやつがいるのか。

 普通ふつうに考えればありえない。


 いや、ありえない事などないが、あそこに居なければいけないような何かを感じたのだ。

 その予想はこの一か月でほとんど予想通りとなった。


 俺様を助けるためにSAえすえーかいして神の力を使い、半神化はんしんかすえにはオーディンそのものになってしまう。

 今後こんごもきっと面白い物を見せてくれるにちがいない。


 それにオーディンもおそらく俺と同じ結論けつろんいたったからこそ力を譲渡じょうとしたのだろう。

 なぜならやつは・・・


「まあいいだろう。無粋ぶすいな事は聞くもんじゃない。俺様はあの場でけたんだ。それ以上もそれ以下もない」


「・・・そう。ならそういうことにしといてあげる」


 椿はお湯がわったポットからカップにお湯をそそぎ、出来上がった二つの緑茶りょくちゃのうち一つを俺様のつくえに置いた。

 なぜこうもあついのにホットの緑茶など・・・


遼平りょうへい!いるか!まあいるよな!お前暇そうだもんな!」


 いきおいよく魔術研究会まじゅつけんきゅうかいとびらはなち、至極不愉快しごくふゆかいな発言をしてみせたのは俺様を敗北はいぼくせしめたオーディンだ。

 いや、今はオーディンもどきか。


「何しに来たんだ。帰れ」


「まあまあそんな事言うなよー。んーすわれる場所がないな。遼平、ここにソファー置こうぜ」


「ちっ」


 オーディンもどきの言うとおりに開いているスペースにソファーを一瞬いっしゅんで用意して見せる。

 俺の支配下しはいかである魔術研究会は、一種いっしゅ結界けっかいのようになっていて、家具程度かぐていどなら一瞬で見繕みつくろえるのだ。


「やっぱお前案外あんがいやさしいな」


「これからいなくなるやつに対する最低限さいていげんのはなむけだ」


「おー、それはありがてえ」


「お茶どうぞ」


 椿がホットの緑茶をもう一つ作ってオーディンもどきにわたす。

 笑顔えがおで受け取ったオーディンもどきだったが、俺様と同じくなぜホットという顔をしている。


「で、何しに来たんだ」


「まあそれは皆来てからのお楽しみで」


「ちっ。ここを集会場しゅうかいじょうかなんかだと思ってるだろ貴様きさま


「いいじゃねぇか。お前も思う所があるならあいつらと仲良なかよくしとけよ」


 全てを見透みすかしたような態度たいどは本当にはらが立つ。

 そもそもこいつは俺並おれなみに反則級はんそくきゅうなのだ。


 できるならばこいつの全力と俺様の全力をぶつけてみたいものだが、時間が足りなかったようだ。

 もう少しこいつが長くとどまっていたなら俺様の秘蔵ひぞうの”あれ”が完成かんせいし、全力で対峙たいじできたと言うのに。


 そこばかりは少し残念ざんねんだと思わざるを得ない。

 まあその相手はげんオーディンにしてもらうとするか。


 などと考えていたら次々と人がやってきた。

 そして夏休みを満喫まんきつすると言うオーディンもどきにあきれつつ、だまって聞いていた眷属けんぞく三人の心なしかうきうきする気配けはいを感じれない俺様でもない。


 しょうがない、オーディンもどきの思惑おもわくってやるとするか・・・

 そして俺様はオーディンもどきに遊ばれることになるのだが、まあその話はいいだろう。


「くひひ、せいぜい面白い物をこれからも見せてくれよ、桂木悠真かつらぎゆうま




 ヴァルハラ外伝 ロキの企み

 ―完―

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る