三幕 【肝試し編】


 おまつりをたのしんだ翌日よくじつ

 おれの元にはまたあおから一つのメールがていた。


「夜十一時、成神高校なるかみこうこう校門前こうもんまえ集合しゅうごう


 メールはそれだけで、行こうか行かまいかまよったが、蒼の事だからまた俺たちの事を気遣きづかってくれたのかもしれないと思い、足をはこぶことにした。

 だが、時間が時間なために、家をさなければならない。


 縷々るる連絡れんらくしてスキーズブラズニルで家からの脱出だっしゅつこころみ、校門前につくと、そこにはすでに蒼とありすがいた。


「悠真君連れてきたよー」


「縷々ちゃんご苦労様くろうさま!よし、これで全員ぜんいんそろったな」


 ドン!とかまえる蒼に対し、もう見慣みなれれてきたありすの顔がそこにはある。

 あきれているのだ。


「で、今日は何するって言うのさ」


「なんだよありす、わかんないのか?」


 ありすはきっとわかっている。

 俺もすぐにピンときた。


 夜の学校と言えばさきに思い付くのは―


「どうせ肝試きもだめしでしょ」


「ピンポンピンポン!大正解だいせいかい!なんだよ、わかってんじゃねぇかー」


「・・・はぁ」


 気力きりょくすらなくなってしまったらしい。


「って事で、これを引いてくれ」


「くじ?四人でチーム分けするのか?」


悠真ゆうまかんがするどいなぁ」


 いや、わかるだろ。

 なんだか俺まで呆れてきた。


 まあでも、これも俺たちの事を考えてると思えば・・・

 いや、これは完全に蒼が肝試ししたいだけだよな。


 それくらい蒼のテンションが異常いじょうだ。

 各々おのおのがくじを引き、俺が引いたのは先が赤でられたぼうだ。


「悠真が赤、ありすも赤か。ってことは俺と縷々ちゃんがコンビだな」


「あれ、優斗も参加さんかするの?てっきり君丈きみたけくんでもいるのかと思ってた」


「さっきも言っただろ?これで全員だ」


 ふーん。となんだかいまいち納得なっとくのいかなそうなありす。

 俺も蒼はおどろかすがわに回るのかと思っていた。


「蒼くーん、二人でどこにかうのー?」


目指めざすは魔術研究会まじゅつけんきゅうかいだ!俺達おれたちは10分後に出るぞ」


「はーい!」


 元気がいい縷々。

 縷々はこういうあそびのイベント事は大好きだ。


 君丈は部活ぶかつの事もあるだろうが、こういうイベントは参加したがらない。

 うわさ怪談話かいだんばなしなども好きな君丈だが、お屋敷やしきなどはむかしからはいりたがらなかった。


 こわいものが苦手にがてなのではない。

 おどろかしにくる前提ぜんていなのがつまらないのだろう。


 君丈にとって面白いのは不確定ふかくていな事。

 心霊しんれいスポットならきっと嬉々ききとして参加しただろう。


「私達が最初なのね。いくわよ、悠真」


「おう」


 かくして、夜の肝試しがはじまったわけだ。




 4章 3幕【肝試し編】




 二人で校内に入ると、一瞬いっしゅんでおどろおどろしい雰囲気ふんいきかんれた。


「なんかいつもとちがうな。さすが夜の学校だ」


「違うわよ。これ、多分たぶん結界けっかいってる」


「結界?なんでまた」


一般人いっぱんじんに見られたくないことでもするつもりなんじゃない?」


 夜の学校でその発言はつげんはいささか、いかがわしい気もするが。

 俺も、おそらくありすもこういうお化けなどでビビるタイプではない。


 まったくビビらないわけではないが、蒼が想像そうぞうしているような結果けっかにはならないだろう。

 それよりも蒼と縷々のペアの方が心配しんぱいだ。


 だって縷々は―


「つめたっ」


 考え事をしながらすすんでいると、足元にひんやりとした感触かんしょくつたわる。

 ふと自分の足元を見ると、手のようなものが俺の足をつかんでいた。


「ひぃっ」


 俺の足を掴んでいたのは亡霊ぼうれいのような手だ。

 廊下ろうかから手はえており、不気味ぶきみ発光はっこうしている。


「あはは!悠真びびってんの?こんな子供だましにひっかかるなんてっ―つめたっ。なにー?次は古典的こてんてきに上からこんにゃくでも・・・」


 俺につづきありすの方にも何か異変いへんがあったようだ。

 ありすの方をくのと同時に、ありすも自分のほほにあたった物をたしかめようとく。


「シャー」


「へびぃ!」


 まさかへびが顔のよこにいるとは想像していなかったらしく、ありすがすっとんきょうな声をあげていた。


「あっはっは!なんだよ、ありすもびびってんじゃんねぇか」


「ちがっ!これは!だって蛇がいきなり!」


 といってゆびさす方にはもう蛇はいない。

 俺の足元にもさっきの亡霊はいなくなっている。



「・・・こほん。まああらかた予想よそうどうりではあったけど」


「お化けやくはロキ達だな」


 亡霊はヘル、蛇はヨルムンガンドだろう。

 魔術研究会がゴールと言う時点じてんで予想はしていた。


 だが、夜の学校と言う雰囲気でロキ達が持つポテンシャルの高さを今あらためて思い知らされる。

 ロキの眷属けんぞくはそれぞれが自分の見た目を変えたりする眷属だ。


 ありすとは違うが、それぞれの能力は一定いってい分野ぶんやでは神にも引けずおとらずの能力らしい。

 その素晴すばらしい能力が肝試しに使われていると思うとなんだかいたたまれないが。


「とにかく慎重しんちょうに進みましょう」


賛成さんせいだ」


 その後も亡霊やら大量たいりょうの蛇やらがおそってきたが、何が来るかわかっている俺とありすはそれらをうまくやりごしていった。

 つまらなそうだとも最初は思っていたが、普通ふつうのお化け屋敷より迫力はくりょくがあって面白おもしろい。


 ありすも同じように思っているようで、次第しだいに二人の顔には笑顔えがおができていた。

 これが蒼の作戦さくせんなのだとしたらさすがとしか言いようがない。


「さーて!次は何が出てくるのかしらね!」


「のりのりだな」


「なんかゴーストバスターみたいで楽しくなってきた」


きもがすわってんな」


 かるわらいあうと、うしろの方で大きな物音ものおとがする。

 振り返ると、とおくの方に発光する骸骨がいこつらしきものが見えた。


「あれ、骸骨よね。遠すぎじゃない?」


「出すとこ間違まちがええたのか?」


 じっと観察かんさつしていると、なにやら骸骨は体制たいせいひくくしはじめた。


「なにあれ、クラウチングでもしてるの?」


「まさか。なんだよ、あの骸骨が俺達をってくるって事か?そんなの退治たいじして―」


 俺が言い終わる前に骸骨はクラウチングスタートをめた。

 だが、その動きはよくしる骸骨の動きではない。


「はやっ!」


「ちょっと!悠真げるわよ!」


 全速力ぜんそくりょくで逃げる二人。

 骸骨は尋常じんじょうじゃないはやさで追ってくる。


 右に左に、上に下に。

 階段かいだん分岐ぶんきする廊下ろうかを使って逃げ回る。


「あれいつまで追ってくるのよ!」


「しらねぇよ!いっそのことたおしちまった方がいいんじゃないのか!」


「よし、そうしましょう!」


 二人でばっと後ろに振り返り、戦闘態勢せんとうたいせいをとる。

 だが、そこに骸骨の姿すがたはなかった。


「・・・どこいったのよ」


「しらねぇよ・・・」


「はぁー・・・無駄むだつかれた」


 その場にありすはすわんだ。

 俺も走りつかれていたので、廊下のかべに座る事にした。


「さっきのはフェンリルね」


「そうだろうな。まさか骸骨の見た目で追ってくるとは思いもしなかったが」


意外いがいこわいものね。骸骨に全力で追われるってのは」


「・・・そうだな」


 しばらくそこで談笑だんしょうをしながら休憩きゅうけいしていると、遠くの方から声が聞こえてきた。


「ぎゃあああああああああああああ」


 あおの声だ。


優斗ゆうとのやつ、主催しゅさいなのにおどろいてるし。いい気味きみね」


「まあ、一緒いっしょにいるのが縷々るるだからなぁ・・・」


「え?なに?縷々ちゃんがどうしたの?」


「いやあ、あいつ昔からこういうのは自分で驚かしに来るんだよ。今なら納得なっとくいったが、縷々はいなくなったと思ったらへんな所から現れたり、縷々といるとかなら心霊現象しんれいげんしょうにあったり」


「それって・・・フレイヤの神器じんきを使ってたって事?」


「だろうな」


 縷々についているフレイヤという神様かみさまが持つ神器、スキーズブラズニル。

 どこにでも一瞬で行くことができる。


 聞いたところによると、あれは手だけを別の所に出したりもできるらしい。

 きっと蒼は今頃いまごろ縷々の作戦にはまっているのだろう。


 おそらくだが、君丈がお化け屋敷とかがつまらないと思うようになったのはこのせいだと今なら思う。

 作り物のお化けなど縷々の驚かし方にはかなわないのだ。


 そして君丈は縷々がやっていることを知っていたのだろう。

 ちなみに縷々は幽霊ゆうれいなどでこわがったりは微塵みじんもしない。


 昔に心霊スポットでガチの幽霊らしきものに遭遇そうぐうしたが、縷々は幽霊と友達ともだちになろうとしていた。

 ・・・やめよう、思い出したらなんだかさむくなってくる。


「あ」


「どうしたありす、間抜まぬけな顔して」


「上見て」


 また驚かしに来たのかと思って上を見るが、そこには教室きょうしつの名前が書いてあるいたしかない。

 ありすが何を言いたいのか知りたくてよくよく見てみると―


「あ」


 間抜けな声をあげたのは次は俺の方だった。

 魔術研究部まじゅつけんきゅうぶ


 そうかかれていたのだ。

 いつの間にか走り回って目的地もくてきちについていたらしい。


「・・・はいろっか」


「・・・そうだな」


 立ち上がり、教室のとびらける。

 中にはいつものようにおく椅子いすにロキがすわっていた。


「ごーるおめでとう」


 やる気のない声でゴールを祝福しゅくふくしてくれるロキ。

 手元にはゴールおめでとうと書かれた手書てがきのかみがあった。


 おそらく蒼が書いたものだろう。


「ほら、れ」


 そっけなくわたされる紙を受け取る。


「ありがとよ。それなりに楽しかった」


「そうかい。そりゃよかったな。ほら、めの握手あくしゅだ」


「握手って、なんかめずらしいな」


俺様おれさまだって握手なんかしたかねぇ。あのくそオーディンもどきが結界けっかいから出る手段しゅだんを俺との握手に設定せっていしてあんだよ」


「へぇーそんな事もできるのか」


 素直すなお感心かんしんしながら握手をする。

 きっと蒼的にはロキと仲良なかよくしてほしいんだろう。


「・・・ロキ、なんかお前手汗てあせすごくない―うわぁ!」


 にぎった瞬間しゅんかんどろどろとした感触かんしょく手元てもとを見ていたが、ふとロキの方を見ると―


「と、けてる!」


 なんと、ロキはスライムのように溶けて行った。


「くっくっく。今日の所は貴様きさまの間抜けづらを見れたからよしとしてやろう」


 いつの間にかはしっこに立っていたロキは俺を嘲笑あざわらっていた。

 握手なんて変な事言いだしたと思ったらこれがやりたかったのか。


「握手で気づきなさいよ」


「くそっ。最後さいごまでやられた」


 ロキとありすに馬鹿ばかにされながらしばらくつと、縷々がしずかにもどってきた。


「ついたー!さすがに悠真君とありすちゃんは先についてたかー。ちょっと残念ざんねん


「あれ、縷々、蒼は?」


「ん?ここにいるよー?」


 どこにいるのかとさがしたら、ドアの方からかされてはこばれてくる蒼がそこにはいた。


「なーんか気絶きぜつしちゃってさー。度胸どきょうないよねー」


 縷々、おそろしい子。

 その後、気絶する蒼に散々さんざんいたずらをしかけたロキは、満足まんぞくそうにおくの方に下がって行った。


 いまだにある異次元いじげんあなは、ロキ達がすんでいる所につながっているらしい。

 そんなこんなでひと段落だんらくついた肝試きもだめし。


 俺達も家にかえる事にした。

 おどろかされて走って、今日は楽しかった思い出と共にぐっすりとねむる事ができそうだ。




きゅうに呼び出してどうしたんだよ」


 また次の日。

 俺はあおに呼び出されていた。

 夏休み満喫計画まんきつけいかくはまだつづいているのかと思っていたが、今日は真面目まじめな話らしい。


「まあすわれよ」


「なんか自分の家みたいに言ってるけど、ここ、ただの公園こうえんのベンチじゃねぇか」


こまかい事は気にするなって」


 大人しくベンチに座る。

 男子高校生が二人で昼間ひるまっから公園のベンチに座っているのは青春せいしゅんぶのだろうか。


「話しってなんだよ」


「あー、まあなんだ」


「・・・なんだよ、めずらしく歯切はぎれがわるいな」


「今までごめんな」


 ありす、フレイヤ、そしてしまいには蒼からもあやまられることになった。

 ありすが言うように、ここ数日の事は蒼が俺たちの事を気にしての事だったのだろうか。


「・・・ありすとフレイヤにも謝られたよ。でもよ、謝られたってどうしていいかわかんねぇよ。そもそも俺が首突くびつんだんだし」


「そうなんだけどな。でも俺たちの責任せきにんである事は間違まちがいないんだ。それに後悔こうかいしてもこっちまったことはえられない。だから謝る。まあけじめだけじめ」


「・・・そうか」


「今からそんな顔してるとこの先もたないぜー?大変なのはこれからなんだ。悠真には悪いが、俺に変わってオーディンの仕事をしてもらわなきゃならん。と言っても現代げんだいにおいて俺たちかみがすることなんてほとんどないんだけどな。まあ気楽きらくにやれよ」


 ばしばしとかたたたいてくる。

 おちゃらけてる所は普段ふだん君丈きみたけみたいだった。


「蒼、そんな事言ってお前の方が大変なんじゃないのか?神様のしたって何するか知らないけど、下っ端って言うからにはいろいろとやらされるんだろ?」


「んーまあな。いいんだよ、俺の事は。俺の責任なんだ。そこに悠真ゆうませき必要ひつようはない」


「そんな事言ってもさ」


「いいのいいの!俺の事は考えるな。終わった事だ」


 ふとベンチから腰をあげる蒼。

 かるくのびをしてから歩き始める。


「まあ、またいつか会えたらいいな」


「・・・なんだよその言い方、会おうと思ったら会えるだろ?」


「さっき悠真も言ったろ?俺はいそがしいんだよ。次に会うのは・・・来世らいせかもな」


 少しかえりざまにそういって立ち去ろうとする蒼。

 その顔はなぜかくらくてよく見えない。


「ま・・・てよ!」


 俺も立ち上がってすぐに後をおうとする。

 だが、なぜか体がおもく、蒼は目の前の光にどんどんまれて行った。


 俺は重い体をなんとかして動かそうと、必死ひっしに必死にもがき続ける。

 でも手は一向いっこうとどかない。


 ついに蒼は光につつまれてえて行ってしまった・・・


「あおーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」




 大声を出すのと同時に、自分がよこたわっていることが分かった。

 体を起き上がらせる。


 さっきまでの重さはうそのようになくなっていた。

 あたりを見渡みわたすと、どうやら自分の家のようだ。


「・・・ゆめ?」


 時間はよるの10時。

 今日は蒼に呼び出されたはずだった。


 でもどこからが夢なのかはっきりしない。

 ふと携帯けいたいを手にって蒼に連絡れんらくを取ろうとする。


 しかし、そのゆびは止まる。

 電話でんわをかけようとした手を止め、ふとメールをひらいたのだ。


 そこには蒼からの呼び出しのメールはなかった。

 だとするならば、不安ふあんからきた妄想もうそうの夢だったのかもしれない。


「まあもし蒼がいなくなっても、またひょっこりあらわれるだろ」


 いつものように。

 そして変わらない日常にちじょうが来るのだ。


 夏休みが終わって、みんなでまた馬鹿ばかやって、冬休みが来て。

 そして高校が終わってからもきっといい関係かんけいでいられる。


 俺はまたなおすことにした。

 一度起きたのにすんなりと寝ることができそうだ。


 明日はどんな1日になるだろうか・・・




 だが、のちに俺は後悔こうかいすることになる。

 この時に蒼に連絡すればなにかが変わっていたのかもしれない。


 変わらなくても、きっと何かがあったはずだ。

 こんな終わり方なんてのぞんでいなかった。




 四章 【完結】











 予告


「優斗・・・」

「無理・・・私には無理・・・」

「ありす!」

「俺の・・・せいだ」

「合宿だ」

「俺様ももちろん参加する」

「前オーディンから頼まれて私はここにいるのですよぉ」

「神様って・・・何なんだよ」

「貴様らのせいだ」

「教えてよ!オーディンは、優斗はどこ!」

「夢に出てきたんだ・・・」


「蒼が・・・死んだ・・・?」




 次章 ヴァルハラの戦神 5章【蒼希優斗】



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る