第四章 【夏休み】

一幕 【海水浴篇】


 キュー、キュー。


あつい・・・」


 カモメが元気にいている。

 だが、俺はカモメほどには元気になれなかった。


絶好ぜっこう海日和うみびよりでよかったわね」


「いいんだかわるいんだか」


「何、悠真ゆうま熱いの苦手なの?」


「そういうありすは元気そうだな。俺達おれたち昨日きのうまで病院びょういんにいたんだぞ、ってありすも言ってただろ」


あそぶとめたらとことん遊ばなきゃ!・・・まあそれに優斗ゆうと私達わたしたちに気を使つかってくれてるのに私達が楽しまなくてどうするのさ」


「んー、まあな」


 俺とありすは今、近くの海辺うみべに来ていた。

 来ているのは俺とありすだけではない。


 ロキ一派いっぱ縷々るる、そして海に行こうと言い出したあおだ。

 君丈きみたけ残念ざんねんながら部活があると言って来なかったが。


 熱いのが苦手にがてと言うよりは単純たんじゅんに遊びつかれた方がでかい。

 それといまだになんで俺達がここにいるのかがわからん。


 ありすは蒼が気を使っていると言うが、本人が単純に遊びたかっただけのように俺には思うけどな。

 はじまりは昨日の事だ。




 4章 1幕【海水浴編】




退院たいいんおめでとう」


「それは俺も言わなきゃいけないのか?」


「当たり前じゃない」


「ありすさん退院おめでとうございます」


「なんで他人行儀たにんぎょうぎなのよ」


 俺とありすが退院したのは入院にゅういんして次の日の事だ。

 病院の先生の反対はんたいって出てきた俺たち二人は、フレイヤの回復魔法かいふくまほうですでに怪我けがなども完治かんちしていた。


 日付を確認かくにんすると夏休みの半分以上が過ぎている。

 おおよそあと一週間いっしゅうかん程度ていどだった。


 休むことはできなかったが、ある意味いみい夏休みだったと思う。

 俺とありすは夏休みの頭から今までにかけて、自分たちが神様かみさま騒動そうどう参加さんかしていたどころか、その中心部ちゅううしんぶにいたのだ。


 俺、桂木悠真かつらぎゆうまが神の力を中途半端ちゅうとはんぱにもらってしまい、暴走ぼうそうしたことから始まり、なぜかありすとの眷属関係けんぞくかんけいむすばれ、そのせいで俺とありすは神にわれる立場たちばであった。

 それも先日落ち着き、今となっては俺がオーディン、そしてよこすずしそうに風をびている姫野川ひめのがわありすが、俺の眷属けんぞくとして正式にみとめられたらしい。


 らしいと言うのは、全て事をまとめたのは俺達ではないからだ。

 蒼希優斗あおきゆうと


 元々のオーディンであり、事の発端ほったんとなった人物じんぶつ

 自分の不始末ふしまつを自分でつけるために、俺にオーディンの座をゆずわたし、今では神のしたとなっているらしい。


 正直しょうじき何をやっているのかは見当けんとうもつかない。

 そして俺がオーディンとなったことで何をすればいいのかもまったくわからない。


 憂鬱ゆううつ

 ただその一言に今の俺の全てがまっている気がした。


「あれ、優斗から連絡れんらくきてるよ」


「ほんとだ。なに?魔術研究会まじゅつけんきゅうかいに今すぐ集合?こいつ何やってんだ」


 神の下っ端としていそがしいはずではなかったのか。




 そんなこんなでやってきた魔術研究会。

 俺達が普段ふだんかよっている成神第一高校なるかみだいいちこうこうに、ロキが勝手に作った部活ぶかつだ。


 それを蒼がきちんとした部活として俺達を無理むりやり入部させて申請しんせいしたらしい。

 学校もよくこんな謎極なぞきわまりない部活をとおしたものだ。


「よくきたな。まあすわれよ」


 部室に来てみると、どこから持ち出したのかソファーがえていた。

 そこに蒼がどっしりと座っている。


「いや、即効そっこう帰れ」


 奥にはいつものように、机越つくえごしの立派りっぱ回転式かいてんしき椅子いすが置いてある。

 そこに座っているのはロキだ。


 人間としての名前は水野遼平みずのりょうへいとか言っていただろうか。

 その周りにはロキの眷属である三人が思い思いにくつろいでいた。


 人狼じんろう姿すがた変身へんしんするフェンリル、大蛇だいじゃに変身するヨルムンガンド、そしてロキ一派の中での唯一ゆいいつの良心とも言えるだろうヘルだ。

 ロキとは違い、三人は俺達が来たことに何の不満ふまんもなさそうだった。


かえれとか言うなよ遼平君。これから皆で夏休みを満喫まんきつするんだぜ」


「俺様を人間の名で呼ぶな。俺様はロキだ。それとお前は何を悠長ゆうちょうな事を言ってんだ。そもそもお前はな―」


「で?何するってんだ?」


 蒼につっかかるロキを無視むしして話を進めようとしているのは俺の幼なじみの一人、新庄君丈しんじょうきみたけだ。

 ロキは自分の発言がさえぎられた事によりさらにふてくされてしまった。


「よくぞ聞いてくれました。では発表します。ででん!皆で海に行きます!」


「はぁ?私達退院したばっかなのよ?」


 ありすがそう言うと、蒼の方はやれやれと言った様子ようすだ。


「そんな事言ってー。お前らはフレイヤの魔法まほうで完全に完治してるのは知ってるんだぞー?なあ縷々ちゃん?」


「はーい!そうだよー。私とフレイヤがなおしましたー!」


 君丈のよこには俺のもう一人の幼なじみ、埜口縷々やぐちるるがいる。

 俺のおさななじみの二人は、今まで知らなかったが、二人とも神の力を宿やどしている。


 君丈はかみなりあやつるトールとして。

 縷々はフレイヤと言う魔法を駆使くしする神様を、もう一人の人格じんかくとして自分の中に宿らせているのだ。


「まあいいんじゃねぇか?悠真もありすも夏休みっぽい事なんもしてないだろ。俺と縷々は残念ながら部活だけどな」


「え?あー、うん。そうだねー。部活があるもんねー・・・」


 君丈の一言になんだか残念そうにする縷々。

 縷々ってそんなに海好きだったのか?


「じゃあメンバーは俺と悠真ゆうまとありす、そしてロキたちな」


「おいっ俺様達を勝手に入れるな」


「ちょっと、勝手かってに決めないでよ」


「じゃあなんか用事でもあるのか?」


「・・・ないけどさ」


「じゃあ決まりだな。行くのは明日だ。皆準備みんなじゅんびしとけよ」


 蒼に強引ごういんに押し切られるありすにつづいて、明日行くと言う話しに皆が皆おどろきと不満ふまんべていた。

 ロキは終始しゅうし適当てきとうにあしらわれている所を見ると、蒼的に拒否権きょひけんがないのだろう。


 そんなこんなで皆が蒼に文句もんくわり、今日の所は解散かいさんと言う流れに―


「待って!」


 ならなかった。

 声をあげたのは縷々だ。


「わ、私も行く!ほ、ほらー、フレイヤのスキーズブラズニルがあればー?海も一瞬いっしゅんでいけるでしょー?だ、だから私もしょうがなくついていこうかなーって・・・さ?」


 なぞ動揺どうようをする縷々。

 そんなに海に行きたいか。


 ちなみにスキーズブラズニルはフレイヤの持つ神器じんきで、ある程度ていどの場所ならどこでも一瞬で移動いどうできる神器だ。

 いわゆるなんちゃらドア。


「縷々、お前部活は?」


 冷静れいせいみを入れる俺に、縷々はいまだに謎の動揺をかくしきれていない。


「それはーそのー、あれだよ。うん。なんとかなるさー・・・てきな?」


 という終始謎な縷々の唐突とうとつな参戦が決まり、次の日には海に大集合だいしゅうごうしたわけである。




 ここで物語ものがたり冒頭ぼうとうもどる。


「あれー?悠真君とありすちゃん、もー遊ばないのー?」


 俺とありすが浜辺はまべで話している所に謎の動揺を見せた縷々がやってきた。

 昨日とは違い、調子ちょうしはもう戻っているようだ。


 縷々のでかいむねがよく水着みずぎえさせている。

 いつも通りのふりふりの可愛かわいらしい水着を着ている縷々は、正直目のやり場にこまるほどだ。


 たいして横にいるありすは胸がないために目のやり場には困らなかった。


「悠真、今変な事考えたでしょ」


 殺意さついをだだもらしにしてくるありすからさっと目を離し、そんなことないとだけ伝えておく。


「俺は少し疲れたから休憩きゅうけいしてんだよ。お前ら遊んで来いよ」


 俺とは違い、何百歳なんびゃくさいはなれているはずのあおは元気にはしゃいで遊んでいる。

 正確にはロキで遊んでいるが正しいように思えたが、そこらへんは気にしないことにした。


「私も疲れたから少しやすもっかなー」


 そう言って俺のとなりすわってくる縷々。

 俺の横にはありすと縷々が座っていて、なんとも他の男たちの目線めせんが痛い。


「今言うのもなんだけど、んでごめんね」


 本当に今更いまさらだなぁ。


「ありすがあやまる事じゃないだろ。少なくとも俺自身おれじしんえらんだ結果けっかなんだから。ってかなんで今何だよ」


「なんていうか・・・優斗ゆうとがこうやって遊ぼうって言ってきたのが私達に気を使ってるんだったら、こういう事もすっきりさせとかないと・・・とか思って」


「別にいいんじゃねぇか?それはそれでも」


「でも、いろいろあった後だし!・・・あと・・・だし」


 何故なぜか顔を赤くしてまる。

 俺はその理由りゆうに心当たりがあった。


 おそらくキスの事でも考えたのだろう。

 と、冷静に分析ぶんせきしてみるが、俺もずかしくなってありすから目をけてしまった。


「???」


 目を背けた先には縷々の不思議ふしぎそうにしている顔がある。

 恥ずかしがっている自分の顔など見せたくなくてまた目を背ける。


 結果けっか、俺は体育座たいいくすわりでその場にうずくまる形となってしまうのだった。

 ありすもありすで恥ずかしくて同じような事になっているのは想像そうぞうにたやすい。


「え、待って待って、シリアスな雰囲気ふんいきからなんでそうなったの!なに、何があったの!」


 立ち上がり二人をゆすりはじめる縷々に、俺もありすも何も言えずにだまつづけるしかないのだった・・・

 数秒すうびょうののち、あきらめたのかしずかに横に座ると、そこにいたのは縷々ではなかった。


「口をはさんでもうわけないのだが、その話で言うなら私達にも責任せきにんがある。いや、私達にこそ責任があると言えるだろう」


 声の主は縷々から変わったフレイヤだ。

 このタイミングでフレイヤも謝り始めるなんて予想よそうもつかなかった。


 というかフレイヤの空気の読めなささ具合ぐあいあきれてしまい、少しどうでもよくなったが、それがフレイヤの計算だとしたら・・・

 いや、変な詮索せんさくはやめておこう。


「やめだやめ。なんで遊びに来てこんな辛気臭しんきくさい雰囲気にならないといけないんだよ。存分ぞんぶんに休憩もしたし、ひとおよぎして来ようぜ」


 ありすといつの間にかフレイヤから変わった縷々はそれに賛同さんどうし、皆で海に走ってかったのだった。




「いつの間にこんなホテルを・・・」


 夕方ゆうがたになり、海からあがって帰る雰囲気になった俺達。

 帰りもフレイヤのスキーズブラズニルで帰るのかと思っていたが、蒼がホテルにまるといいだしたのだ。


 用意よういがいいなぁと思って普通ふつうのホテルを想像していたのだが、想像をななめにえて、ここらへんだと一番高そうな高級こうきゅうホテルに案内あんないされたのが今の現状げんじょうだ。


「お金とかどうしたんだよ。もしかして蒼が?」


 蒼は俺達と違って何百年も生きているらしい。

 この前の騒動そうどうで唐突に聞かされた話だったが、衝撃しょうげきぎてよくおぼえていた。


 そんな蒼ならお金くらいならたくさん持っているのかもしれない。

 だとしても学生がこんなホテルに泊まるなんて違和感いわかんしかないと思うのだが。


「オーディンもどきじゃねぇ、このロキ様が手配てはいしてやったんだ。まあ言い出したのはオーディンもどきだがな」


 蒼の事を意地いじでも名前でがないらしいロキは、ドヤ顔を決めながら話している。

 ロキはいまだに謎につつまれた存在なのだが、一体お金をどこで調達ちょうたつしているのやら。


「なんかお金払ってもらって悪いな」


 蒼にはなんとなく遠慮えんりょしてしまう所だが、ロキがはらうなら別にいいだろう。

 なんとなくそう思った。が―


「あ?俺様がなんで貴様きさまらのために金を払わなきゃならん」


「は?じゃあどうやって」


 と聞いた俺を誰かしかってくれ。

 この後の言葉を俺は聞きたくはなかった。


「もちろんハッキングだが?」


 何か問題もんだいでも?という顔をするロキ。

 問題だらけだろう。


「もちろんじゃねぇよ。ばれたら俺達犯罪者はんざいしゃだぞ!」


げんにオーディンもどきやその眷属けんぞくがばれてないのは貴様が目にしてるだろ」


「なんでそこであおとありすがでてくるんだよ」


「学校に転校てんこうしてきたときになんで貴様のクラスに二人とも入ってきたのか疑問ぎもんに思わなかったのか?まあ眷属の方はえらんだわけじゃないだろうがな」


 たしかにおかしいとは思った。

 思ったさ。


 ありすが転校してきて、その数日後には蒼が俺たちのクラスに転校してきた。

 普通なら他のクラスに行くはずだ。


 だが、今の今まで頭の中からなんとなく気にしないようにしてきた。

 ロキの一件いっけんがあってそれどころではなかった・・・と思ったりもしたが。


悠真ゆうま、俺とありすは神の力を使って学校に転校してきたんだ。そしてそれをまわりが不思議ふしぎに思わないような幻術げんじゅつもかけてある」


「それとハッキングに何のちがいがあるのか言ってみろ、人間」


 もうわけなさそうにする蒼と、すみの方で目をそらすありす。

 そして相変あいかわらずドヤ顔を見せつけてくるロキに、俺は頭が痛くなりそうだった。


 いや、頭が痛い。

 



「ふぅ」


 一人ひとり一部屋ひとへやあたえられた部屋は、一人分にしては充分じゅうぶんすぎるほどに広く、ベッドもかないほどにでかかった。

 そんなベッドに横になり、とりあえず落ち着こうとためいきをついてみたが、やはり落ち着かない。


 やっぱり神様ってのはなんでもありだな。

 素直すなお感想かんそうはそれだった。


 その神様の仲間入なかまいりをしてしまったことに今更いまさらながら少し後悔こうかいをし始める。

 俺もこの現状げんじょうになれる時が来てしまうのだ。


「なんだかなぁ」


 自分のんでいた世界とは何もかもがちがう。

 だが、実際じっさいに横にはつねに神様がいたのだ。


 神様と言ってもそんなものくらいにしか思っていなかった。

 自分と同じ存在そんざいだと。


 だが、きちんと考えてみるとかけはなれすぎている。

 ロキが前に転生てんせいとか言っていたのも気になるところだ。


 文字通もじどおるならば死んでもまた生き返ると言う事だろう。

 だとしたら俺の生まれる以前にも君丈と縷々はいたことになる。


 いや、縷々は違うか。

 そう考えると君丈や蒼がものすごく遠い存在にあらためて思えてきた。


 今では同じ存在と言っても、俺にはまだまだとどかない存在なのだ。


「はぁ・・・」


 この部屋に来てから二度目のため息。

 先ほどのため息とはおもみが違う。


 俺はこの先、このなぞ重圧じゅうあつえられるのだろうか。

 それも時が来ればれてしまうのだろうか。


 慣れてしまった時、俺は本当に人ではなくなる。

 ぎゃくに言ってしまえばそっちの方がいいのだろう。


 だが、それが今の俺にはいい事には思えなかった。

 なんだかんだ言っても人間として様々さまざま不思議ふしぎ体験たいけんや、楽しい体験をしたかったのだ。


 今だから思う事。

 もうそれはおそいと自分の心がげていた。


 俺はオーディン。

 神様だ。


 何をすべきかはわからない。

 だが、この先人間として生きることもなやむこともなくなるのだろう。


 それがすごく不安ふあんで、嫌悪感けんおかんはげしい。

 だからと言ってもどる事はゆるされない。


「・・・」


 次はため息すらも出なかった。

 その資格しかくすら無いような気がして。


 だめだな、こんなネガティブじゃ。

 かりにも神様なんだぜ、俺。


 コンコン

 不意ふいにドアがノックされる。


 すべての思考しこう一旦いったん頭のすみにおいやり、訪問者ほうもんしゃむかれるためにがった。


悠真ゆうま、いる?」


 訪問者の正体しょうたいはありすだ。

 ドアを開け、中に迎え入れると、ありすは椅子いすに座ってうつむいた。


「なしたんだ?」


「あの・・・海での話のつづき」


 うやむやになってしまった話し。

 一度きちんと話そうと思ったありすにとっては、話にけりをつけないともやもやするのだろう。


 なんとも真面目まじめと言うか不器用ぶきようと言うか。

 そんな不器用さは、ありすがあお告白こくはくした時から気づいていた。


 だからこそ洞窟どうくつでのキスの一件いっけんはどうしたらいいかわからないでいる。

 当時とうじのありすがどんな感情かんじょうだったかはわからないが、今のありすには俺への思いなど微塵みじんもないだろう。


 あらためて俺の眷属けんぞくとなったありすとは、きっと今後こんごも付き合っていくしかない。

 だからこそちゃんとしておきたいのが今のありすの心情しんじょうかもしれない。


 なんにせよ、れると爆発ばくはつしてしまいそうな話にありすはげているのだ。

 それはまぎれもなく前向まえむきな姿勢しせいだろう。


 一人ネガティブになっている俺とは違って、ありすは前をこうとしている。

 男としてずかしかった。


「あぁ・・・」


 だからと言って何か気のいたことが言えるわけではなく、何を言えばいいかわからずに沈黙ちんもくながれてしまう。

 その沈黙をやぶったのはもちろんありすの方だ。


「その・・・力になりたいって気持ちは本当なの。だれがなんて言おうと私がんだと思ってる。だからこそ悠真には迷惑めいわくかもしれないけどその責任せきにんたしたい」


「それって・・・」


 どうったらいいのだろうか。

 これは一種いっしゅの告白なのか?


「だからその・・・なんていうか・・・洞窟の、あれはわすれて・・・くれませんか。・・・あ、いや、ちがうの!きらいとかそういうのではないからね!そうじゃなくてその、なんていうか・・・あーだからその・・・」


 一人であわはじめるありす。

 つまりはこれからも仲良なかよくするためにキスの事はなかった事にしようと。


 少し残念ではあるが(残念なのか?)それが二人にとって一番いい解決方法かいけつほうほうな気もした。

 というか今の俺にはいいあんなどかんでこない。


「わかったわかった。わるかった、気を使わせちまって。俺もどうしていいかわかんねぇし、ありすとは仲良くしていきたい。だから、改めてオーディンとその眷属けんぞくとして始めよう」


「・・・ありがと」


 なんだかわかれたあと友達ともだちもどる二人みたいになってしまったが、本人たちが納得なっとくできるならいいんじゃないかと思うんだ。

 どんな綺麗事きれいごとでも、そうあるべきではないのだろうか。


 神としては。

 ありすが部屋へやを出て行ったあと、俺は不意ふいとびらかった。


 自分がこわれていくような気がする。

 何か大切な物をうしなうような。


 桂木悠真かつらぎゆうまと言う存在そんざいくずれていく。

 そんな気がした。


 もう桂木悠真ではない。

 オーディンなのだ。

 

 ベッドに横になってから寝るまでは早かった。

 つかれているのだ、心身しんしんともに。


 それをわかるひまもなく、悠真はゆめの中にしずんでいくのだった・・・


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