外伝 【ロキと眷属】


 かみ

 英知えいちつかさどり、万物ばんぶつ創造そうぞうする神。

 だが、俺様が知っている神はそんなものではない。


 確かに万物を想像する神を知っている。

 いや、神達を知っている。


 だが、【俺様達おれさまたち】の事ではない。

 俺様はロキ。


 悪名あくみょうだかいトリックスター。

 俺様の名を知るものは天才てんさいだとたたえるものもいれば、悪神あくしんとしてきらうやつもいる。


 だが、そんなまわりの評価ひょうかなど俺様には無価値むかちなものだ。

 俺様は俺様。


 ロキと言う存在そんざいはそうでなければならない。

 そうあるべきなのだ。


 この世の中は俺様中心に回っていて、俺様のす事は理解りかいされる必要ひつようもない。

 そうやって生きてきた。


 神には身寄みよりがない、正確には親元おやもと不明ふめいなやつがたくさんいる。

 いつの間にかそこにいたなんてのはよくあることだ。


 最近の話しで言えばそれも少なくなりつつあるが。

 世界の均衡きんこうとやらをたもつだのなんだのとゼウスが言っていた。


 まああれだ、つまりは今はむかしよりそういう話がとおらなくなってきたというだけの話しである。

 俺様たち、神は基本的きほんてきに人にばれないように生活している。


 自分の眷属けんぞくには神だと言うが、ぎゃくに言ってしまえばそれを言う存在と言うのは眷属としての素質そしつがあるものなのだ。

 それを俺様達は直感ちょっかんで理解する。


 理屈りくつなどいらない。

 さて、話がそれてしまった。


 なにからそれたって?

 つまるところ、俺様が言いたいのは、今回の輪廻転生りんねてんせいにおいて、俺様には身寄りがいるのだろうか、と言う事だ。


 もちろんそんなことは俺様には些細ささいな事だ。

 だが、俺様がロキだと自覚し、気づいた時にはこのありさまだ。


 なかなか出会える状況ではない。

 どういうことかって?


 俺様は今【森の中】で一人たたずんでいる。

 なぜって?俺が知りたい。


 世間せけんでいう幼稚園ようちえんなども行っていないような年齢ねんれいだ。

 まず一人でここに来たわけではないだろう。


 親にてられたか、こんなところに神としてぽっと出現したのか。

 おそらくは前者ぜんしゃだ。


 俺様がロキだと知ることはないが、俺様をんだ時点じてんでこの子にかかわってはいけないと親は思うらしい。

 今までの経験則けいけんそくだ。


 さあ、今回はここからはじめよう。

 ロキとして、悪名を世界につらねよう。


『世界よ、震撼しんかんせよ』




 ヴァルハラ外伝 ロキと眷属




 と、言ったものの、こんなあかぼう姿すがただと自由に行動することもかなわない。

 神は基本的に寿命じゅみょう以外で死ぬことは滅多めったにない。


 死ぬほどの怪我けがをしても大概たいがいはしぶとくのこる。

 神同士のたたかいはまた別だが。


 俺様が赤ん坊だとしても、飢餓きがで死ぬことはないだろう。

 くるしいが、そんなものは今まで何度もえてきた。


「あうー」


 言葉も満足まんぞくに話せないのか。

 不自由ふじゆうきわまりない。




 そんな生活から数年がたち、食料しょくりょうなどを周りから適当てきとう調達ちょうたつし、身近みぢかにあったボロ小屋ごや寝床ねどこにしていた。

 生きる分にはこまる事はないのだ。


 どくキノコだろうとなんだろうと食べれればなんでもいい。

 どうやらここはただの森ではなく、山の中のようだった。


 ふもとにりれば民家みんかもあるだろう。

 だが、俺様は人間がきらいだ。


 いや、正確せいかくには好きなのかもしれない。

 だれよりも人間が好きだったために嫌いになった。


 まあそんな昔の話はどうでもいい。

 それに人間とれたければふもとに下りる必要もないのだ。


 近くに教会きょうかいがある。

 そこには教会を管理かんりしていると思われるシスターらしき人物と、おそらく身寄りがないのであろう子供達こどもたちがいた。


 どうやって生活費せいかつひかせいでいるかは知らんが、何十人とそこで楽しく生活をしているようだった。


 毎日のように山を歩き回り、捨てられている子供がいないか見回っているようだ。

 俺様はそんな中に入りたくなくてかくれてきたが、そんなやつがいるなんてゆめにも思っていないだろう。


 どうやらここは子捨こすて山らしい。

 何百年とそんなものは見ていなかったが、いまだにそんな事をする奴らがいたとは。


 そんな捨てられた子供を集めて育てる変わり者があのシスターと言うわけだ。

 そだてた子供を売って生計せいけいを立てているのかもしれない。


 これだから人間は。

 何にしろ、かかわる気がない俺様は、ボロ小屋でさらに数年をごす事となる。




 事が起きたのは世間で小学生と呼ばれる年齢になって数年の事だ。

 俺様はいつものように食料を調達してボロ小屋でのんびりとしていた。


 ある程度の年齢になるまでは神の力を使って行動した所で変にあやしまれてわりなのだ。

 それを全て神の力で改変かいへんするとなると大変どころのさわぎではない。


 昔は子供の姿の方が動きやすかったのだが。

 とにかく現代げんだいではめんどくさいこと、この上ない。


「ほら!やっぱり子供だ!」


 何も行動する気がなかった俺様はボロ小屋の扉がひらいたことなどまるで気づいていなかった。

 今まで隠れてのがれてきたのがこの時初めて見つかってしまったのだ。


「ほんとにいるなんて・・・葉月はづき視力しりょくもすごいね」


「ねぇねぇ君、一緒にあそぼ!」


 遊ぼうと来たか。

 年齢的にはおなどしくらいだろう。


 無邪気むじゃきに見知らぬ奴に遊ぼうなどとは。

 これが一昔前なら相手が子供とは言えどころされることもあり時代じだいだと言うのに。


貴様きさまらとは遊ばない。消えろ」


 こいつらと群れる気など全くもってない。

 だが、俺の返答へんとうはこの子供達にとっては予想外よそうがいだったものらしく、子供らしく目を丸くしていた。


「なんで?みんなで遊んだ方が楽しいよ?」


 先ほどからぐいぐいと来るこの子は、たしか葉月とばれていた。

 こいつはおそれを知らないようだ。


 そもそも俺様は遊んでいるわけではない。


「知るか。えろ」


「そんなきたな言葉遣ことばづかいしてると神様におこられちゃうんだよ?」


 俺様はその神様なのだがな。


「葉月、ここは椿つばきにまかせといて。ねぇねぇ君、ここで生活してるの?ここじゃ冬もせないし、皆であったかい場所にいこ?」


 これで大丈夫だいじょうぶと言う自慢じまんげなこのむすめ

 自分で椿と言っていたが、この椿と言う少女は葉月と言う子のおねえさん的存在なのだろう。


 お姉さんとしてしっかりしなくてはという子どもならではの大人ぶる仕草しぐさがどうにもはなにつく。

 こういうやつの鼻をへし折るのは俺の趣味しゅみでもあった。


「貴様らと一緒いっしょにするな。俺様は一人で生きていくしだれの力もりない。とっととこの場所からいなくならなければ貴様らを皆殺みなごろしにするぞ」


 言いぎた。

 なんて事は思うわけがない。


 だが、目の前の二人には充分じゅうぶんすぎるほどの効果こうかがあった。

 シスターにやさしくされてみんな楽しく生活しているような奴らだ、こんな程度ていど暴言ぼうげん普段ふだん聞かないんだろう。


 二人は涙目なみだめになるとその場からいなくなった。

 これでまたしずかに生活できる。


 と、思ったのだが・・・


「君か、問題児もんだいじは。こんなボロボロになって・・・君いつからここにんでるの?」


 シスターだ。

 子供たちに気づかれた時点じてんで動くべきだった。


「ちっ。うるせえ」


「こーら!そんな言葉遣いしないの!とにかく一緒に教会に行くよ」


 大人相手となると子供では何を言ってもつうじない。

 これはめんどくさいことになった。


「なっ!やめろ!はなせ、この人間風情にんげんふぜいが!」


「またそんな事言って・・・どこでおぼえたんだか」


 むりやり首根くびねっこをつかまれて外に出されると、そこには先ほどの二人がいた。

 おそらく近くまでシスターと三人で子供がいないか見回っていたのだろう。


 教会にれてこられるとまずは風呂ふろはいらされた。

 ここでは電気でんき水道すいどうかよっているらしい。


 やはりお金の出所でどころが気になる所だ。

 一見優しそうに見えるこのシスターにはうらがある。


 ここで全てをあばいてやってもいいが、それもそれでめんどくさい。

 見つかった以上逆にこのシスターに取り入って裏の世界から世界を征服せいふくするのも悪くないかもしれない。


 そんな事をかんがえ、俺様はこの教会に滞在たいざいすることにした。

 それからはあったかいごはん、あったかい寝床ねどこ、そしてシスターからの無償むしょうあいはぐくまれる生活が始まる。




 だが、事は思うようにすすまなかった。

 結論けつろんから言うと裏の世界なんてものにはつながっていなかったのだ。


「いつもありがとね」


「いいんですよ。シスターとこの教会にはどれだけすくわれたか」


 シスターの元にいつもの二人組の男がしかけていた。

 前に話しをぬすみ聞きすると、どうやら来ているのはここの教会を出た子供たちらしい。


 今では社会人しゃかいじんとなり立派りっぱに生活していると言うわけだ。

 最初さいしょこそわからないが、この教会は子供達を育て、その育った子供達の寄付金きふきんで今はっているらしい。


 何百年と昔からあるひっそりとした孤児院こじいん

 立地りっちがこんな山中やまなかなのはここが子捨て山だからだろう。


 おそらくそれ以上の理由りゆうもない。

 食料しょくりょう衣服等いふくとうの生活品は定期的ていきてき業者ぎょうしゃはこびに来る。


 勉強べんきょうはシスターがおしえてくれる。

 おそらくだがこのシスターもここの教会の子だったのだろう。


 もう何十年も昔の話しだろうが、そうやってここは何百年とがれてきたのかもしれない。

 つまるところ、俺がここにいても何の意味いみもないのだ。


 まあだからと言ってすぐにここを離れる気もない。

 なぜか?


 こんな小学生が街中まちなかで一人で歩いてみろ。

 不振ふしんがられるにまっている。


 せめて中学生くらいの見た目になるまでは厄介やっかいになる事にしたのだ。

 さて、そんなただただ成長せいちょうつだけの日々ひび


 俺はここでは優等生ゆうとうせい部類ぶるいだった。

 当然とうぜんの事、俺様は神、中でも悪名高いロキだ。


 人間風情の勉学べんがくなど輪廻転生しようがすぐマスターできる。

 輪廻転生は神としての情報じょうほうはある程度ていどがれるが、人間としての情報はあまり引き継がれない。


 特段便利とくだんべんりな物でもない。

 そんな優等生の俺様だが、あまり優等生としてあつかわれてはいない。


「ねぇ、遼平りょうへい君。今日も皆と遊ばないの?」


 声をかけてきたのはシスターだ。

 いつの間にか社会人となった教会の子供はかえったらしい。


 ちなみに遼平と言うのはロキである俺様にこの教会で与えられた名前だ。

 正直《しょうじき)人間の名前などどうでもいい。


「なんであんな奴らと遊ばなきゃならないんだ」


「なんで遊びたくないの?」


 ここ数年一緒に過ごしていてシスターは完全に俺様の暴言ぼうげんや言葉遣いにれていた。

 最近では言葉を直せなどとは言ってこないわりに、皆と一緒にごさせるのがシスターの目論見もくろみらしい。


 俺様が優等生ながら優等生扱いされないのはこれが原因げんいんだ。

 他の子達と遊んだりせず、むしろいじめるくらいの事もある。

 俺様には仲良なかよくする理由などまったくもってないからだ。


「・・・低能ていのうな人間風情と遊ぶ理由がないから」


「でもきっと一緒に遊んだら面白いよ?」


「シスター、こうは思わないのか?俺様があいつらの元へいったらあいつらをいじめると」


「うーん、そこは仲良くしてほしいんだけどなぁ」


無理むりだな」


「そっかぁ・・・じゃあ私と一緒にここで見てよっか」


 そういうとよこ勝手かってすわり始めた。

 全くもってめんどくさい存在だ。


「ねぇねぇシスターも遊ぼうよー!」


 声をかけてきたのは俺様をボロ小屋で見つけた葉月はづきと言う少女だ。

 最初は男かとも思ったがどうやら女らしい。


 女にしてはかなり活発的かっぱつてきで、普段ふだん)も男子共《だんしどもと外で遊んでいるのをよく見かける。


「私はここで遼平君と見てるわー!」


 葉月に届くように声を大きくして答えるシスター。

 葉月は一緒に遊んでいる二人とひそひそとしゃべりながらまた遊び始めた。


 子供たちにはある程度のグループがある。

 仲のいいグループがあると言うだけで、遊ぶときは皆で遊んでいるわけだが、今日は他《ほか)の男子と遊んでいるわけではなく、自分の仲のいい友達と遊んでいた。


「し、シスター・・・これ、作ってみたの」


 葉月の元から一人の子供がやってきた。

 俺様に若干じゃっかんおびえながらもシスターに手作りの花飾はなかざりをわたす。


「ありがとね、那覇なは君」


 来たのは那覇と言う男子だ。

 見た目は可愛かわいらしい女の子のようだ。


 葉月と那覇を横にならべるとどっちが男か女かわからないありさまだ。

 男にしては気弱きよわだが、それは表の顔だ。


 那覇は葉月と俺様にいじめをっかけようとするくらい性格が悪かったりする。

 もちろんそんなものはかえちにしてやったが、それからというもの、ただでさえいていた俺様を毛嫌けぎらいするようになった。


 早足はやあしで葉月たちの元に那覇がもどると、もう一人の少女に頭をなでられていた。

 その少女は見た目通りの可愛らしい少女で、あのグループの唯一ゆいいつ良心りょうしんだ。


 俺様をいじめようとした時も、俺様の事ではなく、葉月と那覇の事をおこっていた。

 ちなみにこの少女は葉月と一緒に俺を見つけた椿つばきと言う少女だ。


 二人よりも一つ年上らしい。

 ちなみに年齢ねんれいでいうと俺様の年齢は葉月と那覇と一緒だ。


 これはシスターもしらない。

 俺様が個人的こじんてきに神の力で調しらべただけだ。


 三人は何か口論こうろんを始めると、そのうち黙々もくもくとまた何かを作り始めた。

 しばらくすると一つ上の少女の椿がこちらにってくる。


 だが、さきほどとちがい、シスターではなく俺様に用があるようだ。


「これ、この前のおび。二人が迷惑めいわくかけたから。もし遊ぶ気になったら一緒に遊ぼうね?」


 と、勝手に花飾りを渡してって行ってしまった。


「よかったじゃない。一緒に遊んできたら?」


「行かねぇよ」


 残念ざんねんそうに三人の方になおるシスター。

 ちなみに俺様はシスターの方など見ていないが、さっすることができる。


 これは神の能力のうりょくだ。

 神なら大抵たいていのものが持っている周辺察知能力しゅうへんさっちのうりょくとでも言うのだろうか。


 心で考えている事すらなんとなくわかるくらいだ。

 まあそもそもこれは神が人間界にんげんかい馴染なじむためだったり戦闘せんとうで相手のうごきを察知さっちするための物なのだが。


 逆に言えば普段から使っていると相当そうとうつかれがまる。

 まあ俺様はそんな事はないがな。




 そんな退屈たいくつで平和の日々から一転いってん

 今日は子供達がやたらとさわがしい。


 とくに騒がしいのは葉月と那覇だ。

 それもそのはずだ。


「おい、遼平、お前の仕業しわざだろ」


 みついてきたのは那覇の方だ。


「いくらなんでもこんな子供一人で大人と子供をどっかにやれるかよ」


「じゃあシスターと椿姉つばきねえちゃんはどこいったんだよ!」


「知るかそんなもん」


 つまるところ、昨日きのうからシスターと椿がいなくなっているのだ。

 確か一緒に見回りに行ったはずだ。


 ご飯などはいつも皆で作っているため、困りはしなかったが、二人が帰ってこないことによって子供達が不安ふあん)がり、葉月と那覇は怒りに狂《くるっているありさまである。

 シスターの言いつけで何かあった場合は教会からでないと言う約束やくそくを子供達はまもり、大部屋《おおべや)に皆で固《かた)まっていた。


遼平りょうへい、あんたならできるんじゃないの。ここにいるだれよりも頭いいんだし」


 次は葉月か。

 確かに俺様は小学生ながらにしてすでに中学生の所まで勉強ができるのを見せている。


 それ以上先にも進めるが、あまり目立めだつとめんどくさいことになる。

 だが、ここにきてそれすらもあだとなるとは。


「だから知らねぇよ。そもそもお前らだって俺様が教会の中にずっといたのは知ってんだろ」


「それは・・・そうだけど」


 一気いっきにしゅんとなった。

 どうにかして二人の所在しょざいあきらかにしたいんだろう。


 俺様くらいしか思い当たらないから俺様にあたっているわけだ。

 ちなみに言うとその考えは間違まちがってはいない。


 なんてったって俺様は神だ。

 知らずともこたえに一番近い存在そんざいと言うわけだ。


 げんに俺様は二人の居場所いばしょを察知している。

 これは俺様の固有能力こゆうのうりょくの一つ、よくかかわっている人間の所在を知る能力だ。


「なあ・・・本当に知らないのか?」


「知るか」


 まあ知っていたところでおしえたりはしないけどな。

 それになくなったと言っても死んでいるわけでも今の所、死にそうなわけでもない。

 俺様はここでのんびりとこいつらがあわてふためくのを見学けんがくしようじゃないか。


 その後も子供達は騒いだり泣いたり考えたりと子供ながらにして頑張がんばって知恵ちえしぼっているようだった。

 だがそれも長くはつづかない。


 所詮しょせんは子供だ。

 シスターの言いつけをやぶってさがしに行くわけでもなく、最終的さいしゅうてきには沈黙ちんもくながれていた。


「遼平」


「なんだよ」


「この前の事はあやまる。だから、知恵をしてくれ。俺達じゃどうしたらいいかわからないんだ。このとおりだ」


 那覇は土下座どげざし、それに続いて葉月も土下座を始めた。

 わらにもすがる思いとはこの事だ。


 滑稽こっけいだな。

 だが、ガキにしてはきちんと状況じょうきょうがわかってるじゃねぇか。


 今まで椿つばきが皆をまとめていたが、椿がいない中、先導せんどうしていたのは那覇なは葉月はづきだ。

 この状況をどうにかするために自分のきらいなやつに頭までげる。


 俺がこの状況を打破だはできるとしんじて。

 まあ本来ほんらい子供こどもなら無理むりだろうがな。


「・・・ちっ。めんどくせえ。葉月、那覇、ついてこい」


 そう言って外に二人を連れ出していく。

 二人はよろこんで後ろをついてきたが、何もしゃべらず森の中に行こうとする俺様に次第しだいに不安になったようだ。


「りょ、遼平、どこ行くんだよ」


 那覇の質問しつもんに俺様は足を止めた。


たすけに行きたいんだろ?」


「でもどこに行ったかわからなんじゃ」


場所ばしょならわかる」


「はぁ!?なんでだよ!やっぱりお前がっ!」


「信じるも信じないもお前たち次第。俺は場所を知っているだけ。それを信じなければ二人は助からないだけの事だ」


「ぐっ・・・」


「那覇、ここは遼平の言うとおりにしよう。何か考えがあるはずだよ」


 那覇をなだめる葉月は、少しは頭が回る。

 だが、こんな根拠こんきょもないのについてくる所を見るとそれはそれでただの馬鹿ばかだがな。


「ところで、お前ら助け出したいって言うからには覚悟かくごはあるんだな」


「覚悟?」


 不思議ふしぎそうに見つめるのは葉月の目だ。

 まあ俺様もわかるような言い方をするようなことはしないが。


「まあなんでもいい。お前ら二人は俺様の眷属けんぞくになれ」


「なにそれ?」


「なるのかならないのか」


「な、なるよ・・・」


 半強制的はんきょうせいてきだがこれでいい。

 だが今すぐ眷属にするわけではない。


 俺の見立みたてでは那覇、葉月、椿の三人は眷属候補けんぞくこうほだ。

 今後この三人には俺様と行動して悪事あくじはたらいてもらわなければならない。


 そのための布石ふせきだ。

 こいつらは俺様の配下はいかで俺様のいう事を聞いてくれればそれでいい。


 不安がる二人を引き連れてやってきたのはいつかのボロ小屋ごやだ。

 何百年前からここにあるのだろう。


 今にもくずれそうな小屋に、俺様は何か不思議な力を感じていた。

 それを調べるつもりはないが、きっと神に関わる誰かがたてたんだろ。


 そんな事はどうでもよかった。

 とにかくここに二人はいるはずだ。


 まあ、余計よけいな物もいるんだけどな。

 堂々どうどうと正面からとびらはなってはいっていく。


 おくには二人がなわでしばられ、口にはさるぐつわをされてしゃべれないようにされていた。

 まわりには三人の男。


「あ?なんだこのガキ」


勇敢ゆうかんにも二人を助けに来た勇者ゆうしゃさまじゃないですかね」


 男達は自分で言ったことに笑っていた。

 何が面白おもしろいのかもわからない。

 さっさとすませてしまうか。


「笑ってるとこ失礼しつれいしますよー」


「あっはっはっはっ・・・はぁ!?」


 その場にいただれもがおどろきの声と表情ひょうじょうをしていた。

 俺様が一瞬いっしゅんで椿とシスターの元に移動いどうしたのだ。


 身体能力しんたいのうりょくを少しあげればこんなものは何でもない。

 椿をかかえたところで男の一人が俺にってきた。


 その手には短剣たんけんを持っている。

 けるのは造作ぞうさもない。


 子供になんてものをけるのだとも思うが、今の俺の動きを見てやばいとでもかんじたのだろうか。

 俺様はろされる短剣をさっと避け、とりあえず葉月と那覇の元にもどった。


 さすがの俺様でもこの体では一人を運ぶのが精一杯せいいっぱいだ。

 邪魔じゃまをされなければ造作もないだろうが。


「す、すげぇ」


「那覇、感心かんしんしてないで椿のなわをほどいてやれ」


「お、おう。・・・これかてぇ!」


 むすを二人で頑張がんばっているのをほっとき、俺は三人の男を見る。

 おそらくこの三人は強盗ごうとうかなんかだろう。


 ふと見かけた二人を、身代金みのしろきんでも要求ようきゅうしようと二人をさらったが、要求する相手がわからない。

 と言った所か。

 まあ二人の場所を探すついでにシスターの耳から少し聞いてたんだがな。


「なんだこのガキ・・・」


 三人がかりで警戒けいかいする男たち。

 まあ何人でかかろうと俺様には―


「なんだ・・・これ」


 俺のほほにはさっきの短剣で切られた傷跡きずあとがあった。

 そもそもその短剣は完全《かんぜん)に避けたはずだ。


 それに力が入らない。

 まさか、あの短剣、神殺かみごろしのけんか。


 普通ふつうは人間が持っているようなものではない。

 だが、もしこいつらが美術館びじゅつかんぬすみをはたらいた、もしくは盗品とうひんをもらっていたならば、それもあり得る話だ。


 なんにせよ、油断ゆだんしていたのは俺の方と言う事になる。

 こうなるとシスターをいてげるのが得策とくさくだ。


 いくらなんでも神殺しの短剣であれば俺様でも勝率しょうりつ五分ごぶだ。

 それに避けても当たる剣なのか、見えないリーチがある剣なのかもわからない。


「ちっ。くやろうどもめ」


 とはいえ、逃げようとしてもこの状況じょうきょうなら後ろの三人はシスターを助けに行きかねない。

 死のうが関係かんけいないが、俺様がれてきた、しかも眷属候補をむざむざ死なせるのはさすがにばつがわるい。


 どうにかしてこの三人を逃がす事が先決せんけつ

 シスターには恩義おんぎはあったが、見捨みすてるしかない。


一旦いったん引くぞ。事情じじょうが変わった」


遼平りょうへい!シスターは!」


 予想通よそうどお必死ひっしさけぶ那覇。


「後で助けに来る!今は―」


 助けになんて行く気はない。

 神の力でこいつらをねむらせてでもだまらせるしかない。


 そしてその後にシスターがどうにかなってから復讐ふくしゅうと言う名目めいもくでこいつらをしたがわせる。

 それが最善さいぜんだった。


 だが、俺が三人に声をかけている最中さなか、シスターのさるぐつわがれたのだ。

 そしてはなった言葉に俺様は驚愕きょうがくしてしまった。


「皆!逃げて!早く!」


 みずからを置いて行けと言うシスター。

 大人だから?


 シスターだから?

 いや、何にせよ、現実げんじつでは自分の命が一番大事な物だ。


 どれだけ慈愛じあいちていようと、どれだけ子供を愛していようと、どれだけ、どれだけ他人たにんくそうと、自分の命を助けてほしいとねがうのは人間のよくだ。

 自分の命を投げ出すような馬鹿ばかもいる。


 だが、そんな自分を否定ひていするタイプではない。

 俺様の見立てではシスターみたいなやつが一番自分の命を一番大事にするタイプだ。


 逃げろと言って自分を助けに来るのをのぞんでいる?

 いや、子供こそ自分の命が大事に思っている事をわからない女ではあるまい。


 自分の子供でもない子達に対して本気でこの女は自分の命を捨てろと言っているのか。

 そんな人間は漫画まんがやアニメにしかいねぇんだよ。


 なんだこれは。

 くそくだらねぇ。


 くだらねぇくだらねぇくだらねぇ。

 全身ぜんしんの血が沸騰ふっとうしそうだ。


「考えが変わった。おい、ガキ共。覚悟かくごを見せろ」


 後ろの三人はおそらくきょとんとした顔で俺様を見ているだろう。

 強盗ごうとうと思われる三人はさるぐつわのとれたシスターをおさえようとしている。


 今しかない。

 今しかないんだ。


「ガキ共、俺の血をえ」


「お前、何言って―」


「いいからだまっていう事を聞け!」


 那覇の言葉をさえぎって自分の右手を少し後ろに出す。

 俺様の右手は右頬みぎほほきずからとめどなくあふれて流れた血がしたたっている。


 幸運こううんにも半袖はんそでふくを着ていて服にはあまり吸われずに流れ出ている。

 この血をガキ共が自分の意志いしで吸えばいい。


 問題はこんな状況でわけのわからない俺様のいう事を実行じっこうする可能性かのうせいひくい。

 だが、事態じたいはすぐに動いた。


「はむっ!」


 俺の手に甘噛あまがみするように食いつき、血をすするのはさっきまで拘束こうそくされていた椿つばきだ。


椿姉つばきねえ!く、くそ!」


 椿の行動にあおられて葉月はづきが俺の手にみつく。


「なんだよ、なんなんだよ!わけわからねぇよ!」


 最後まで血を吸おうとしないのは那覇なはだ。

 当然とうぜんと言えば当然だ。


「那覇!シスターを助けたいなら言う事を聞け!」


 俺様達の異様いよう光景こうけいに気づいた強盗の三人は、俺様達の事を嘲笑あざわらっていた。

 せいぜいわらえ。

 契約けいやくしてしまえば笑うのは俺様達だ。


「那覇!」


 俺様は再度さいどびかける。

 なぞ状況じょうきょうに少しふるえている那覇は、呼びかけられたことによって決心けっしんを決める。


「もうどうにでもなれ!」


 うであたりに噛みつく那覇。

 これで三人。


 俺様は神の中でも特殊とくしゅだ。

 もちろん、その眷属けんぞくも、眷属との契約方法も特殊だ。


 眷属になる方法はたくさんあるが、俺様の場合は三人同時に契約しないと契約が完了かんりょうしない。

 三人同時に契約するには自分の血をませるのが一番手っ取り早い。


 三人が俺様の血を吸うと、俺様を中心に光があふれてくる。

 契約が完了したあかしだ。


「契約完了。いけ、しもべたち」


 そういっていつのにか解放かいほうされた右手みぎてを前にす。

 まわりには三人の人間の姿すがたはなく、人狼じんろうになった葉月が遠吠とおぼえをし、大蛇だいじゃとなった那覇がとぐろをき、黒いオーラをはな禍々まがまがしい椿がいた。


「な、なんだ!なんだあれ!」


「ひぃ!もの!」


「なんなんだよ!なんなんだよー!」


 強盗がりにシスターからはなれて行く。

 人間風情にんげんふぜいには俺様の眷属を見るだけで戸惑とまどうものだ。

 そんなのは昔から決まっている。


「すげえ!なにこれ!ふっさふさ!」


「俺なんてへびになっちまったぞ!」


「この力って・・・」


 化け物と化した三人がそれぞれの感想かんそうを言い合う中、俺はシスターを見ていた。

 化け物となってしまった自分のそだてた子達にどんな反応はんのうを見せるのか。


 逃げ戸惑うのか。

 この光景に意識いしきうしなってしまうのか。


 さけたすけをこうのか。

 いずれにせよ、このシスターの記憶きおくさなければならない。


 まったくもってめんどくさい。

 化け物とてた三人は俺様と一緒にこのる。


 そしてシスターは何もおぼえていないままに教会のシスターでありつづける。

 いつの時代じだいにもあるハッピーエンドさ。


 くそくだらねぇ。


「みんな・・・ありがとう」


 だが、結果けっかは俺様の思っているようにはならなかった。

 なんとシスターは俺様達をれたのだ。


 ここまで行くと気味きみわるい。

 俺様の出会ってきた人間にはこんなやつはいなかった。


 もし俺様が最初にあっていたのがこんな人間なら・・・

 いや、もうどうでもいい話だ。


「シスター!さわってみて!ふさふさ!気持ちいいよ!」


 自分の毛をうれしそうにシスターに触らせる葉月。


「こっちはつるつるだよ!ひんやりしてるよ!」


 それに続いてやさしくシスターに巻きつく那覇。


「わたしは・・・黒いよ」


 そして眷属となったことで感情かんじょうがない口ぶりながらも楽しそうにシスターによりそう椿。


「ちっ」


 俺様が見たかったものはこんなものではない。

 こんなものでは・・・

 こんな光景こうけい、くそくらえだ。




 自分にないものをもとめるのはエゴだろうか。

 それともサガなのだろうか。


 みとめたくない光景。

 一番きっとしかった光景。


 遼平りょうへい、いやロキの求めていたものがそこにはあった。




 だが、もうおそい。

 俺様には・・・




 ばしゃ。

 水が破裂はれつするような音を立ててロキである遼平はその場にたおれこんだ。


 とめどなくあふれていた血で倒れた場所には大きな血だまりができている。

 ロキである遼平はそんな事では死なない。


 だが、神殺かみごろしのけんによって衰弱すいじゃくし、致死量ちしりょうの血を流した今の遼平には、気をうしなわせるくらいの重症じゅうしょうではあったのだ。

 遼平はかすむ目で必死ひっしにこちらへかってくる四人の姿を見ていた。


 聞こえるか聞こえないかの声ではっしたのは「気持ち悪い」の一言。

 遼平にとってはそれが最高のめ言葉であり、感謝かんしゃの言葉でもあったが、その意図いとに気づくものも、その声を聞こえたものもそこにはいなかっただろう。




「・・・教会きょうかいか」


 目がめた。

 日付ひづけは一日たったくらいだろう。


 朦朧もうろうとすることもなくすんなり起き上がると、近くには葉月、那覇、そして椿がていた。

 俺様の事を看病かんびょうしていたというのか。


 馬鹿ばかやつらめ。

 三人の姿はすでに人間の姿に戻っており、化け物だった面影おもかげもない。


きたのね。それにしてもたいした回復力かいふくりょく。それも遼平君の不思議ふしぎな力なのかな?」


「・・・まあな」


 少しはなれたところで微笑ほほえんでいるシスター。

 こいつはほんとうに人間なのか。


 そう思えるほどの愛にあふれている。

 これが本当の無償むしょうあいとでもいうのだろうか。


 そんな物を持ち合わせているのは女神めがみしか知らない。

 だが人間にもいてもいいのかもしれない。


おどろかないんだな」


「驚いてるよ。でも、世の中って不思議な事はいっぱいあるもの。それがたまたま遼平君だったってだけでしょ?」


 どこまでもこの女は気持ち悪い。

 そこまでこの世界に前向まえむきにいられる人間がいるなんてな。


「ねぇねぇ、遼平君、私もすごい力が使えるようになったりするのかな?」


残念ざんねんだが無理むりだな」


「そっかぁ」


 心底残念しんそこざんねんそうにしながらもこちらをにこやかに見つめている。

 なんとなくそのシスターの笑顔えがおから目をそむけてしまう。


「んー・・・あっ!遼平起きたの!」


 葉月が起きたことにより、那覇も椿も起き上がってくる。

 みなが皆、口々に俺様の事を心配しんぱいする。


「やかましいやつらだな」


「ほんとにありがとね!」


「私からもありがとう」


 椿とシスターがお礼を言ってくる。


「っていうかあれなんだよ!」


 さきに聞いてきたのは那覇だ。


「その話だが、お前らの記憶きおくは消させてもらう。俺がここにいても今後こんご迷惑めいわくをかけるからな」


 眷属けんぞくうしなうのは痛手いたでだ。

 だが、俺様はかんじてしまったのだ。


 ここは俺様のようなものがいるべき場所ではない。

 だからここをはなれることにした。


「えー!なんでだよ!かっこいいじゃん!やだやだやだ!」


「そんなあまい話じゃなねぇんだよ。ガキはだまってろ」


 おこられた那覇はしゅんとなってしずかになる。

 少しは俺様に畏怖いふおぼえたのだろうか。


「遼平君、もう少しここにいてよ。出ていくって言うのならしょうがないかもしれないけど、きゅうにいなくなったら皆がびっくりするでしょ?」


「そんなものは記憶を消せば」


「じゃあなんでそれを説明せつめいするの?遼平君がそれを説明するって事はきっと理由りゆうがあるんじゃないかと思うんだけどなぁ」


「ちっ」


 シスターのするど洞察力どうさつりょくけてしまう。

 シスターが言った通り、ここにいる四人の記憶には少しばかりのこるものがあるはずだ。


 一度眷属になっている三人。

 そして近くに居ながらもその光景こうけいをあるべきものとみとめたシスター。


 いくら神の力と言っても、完全な記憶の消去は今の所きびしいのが現状げんじょうだ。

 だからこそ記憶が残っていてもあきらめられるようにしたかったのだが・・・


「ちっ。わかったよ。しばらくはここにいてやる。でも俺はここを出ていくからな」


 それぞれが歓喜かんきし、はしゃぎまわる。

 ここにいては本当に自分がくさってしまいそうだ。




 と、言った所で素直すなお約束やくそくまもる俺様ではない。

 夜中よなかになり、皆が寝静ねしずまったのを見てから外に出る。


 記憶は一日くらいかけて消せばしばらくは持つだろう。

 俺様が神としての力が最大限さいだいげんに使えるようになってからまた消しに来ればいいだけの話しだ。


「せいやーーーー!!」


「がっっ」


 後ろからの不意ふいなタックルに思わずタックルをしてきた本人と一緒いっしょころげまわる事となる。


「一緒にいるって言ったじゃん!」


 タックルをしてきたのは葉月はづきだ。

 その姿すがたけもののごとく毛がえ、つめが長く、見た目は人狼じんろうさながらの姿である。


 ロキの眷属けんぞく、フェンリルの姿だ。

 そのはやさは音速おんそくいきにまで匹敵ひってきすると言われる。


「くそめんどくせぇ。なんで起きてんだよ・・・」


 フェンリルこと葉月にたおされる形でいる俺様の体には、いつの間にか白いへびが体にいていた。


「行くなよ!この・・・へたれ!」


 自分の持っている言葉の中で最大の罵倒ばとうを表した那覇なはは、白蛇しろへびの姿をしていた。

 ヨルムンガンド。


 ロキの眷属、大蛇だいじゃ怪物かいぶつだ。

 大きさは自由に変えられるため、今は普通の白蛇だが、隠密行動おんみつこうどうなどが得意とくいだ。


 おそらく見つかったのはこいつの能力のうりょくのせいだろう。

 先に眷属の力をうばわなかったのは失敗しっぱいだったかもしれない。


「私もいるわよ」


 無感情むかんじょうの声で俺様の頭もとに立っている少女はヘルとなった椿つばきだ。

 足元がなくなり、黒いオーラで浮遊ふゆうする椿は、幽霊ゆうれいなどを出現しゅつげんさせたり、幻覚げんかくなどを見せて冥界めいかいにひきずりこむことができる。


 ヘルになった椿には感情がなくなり、足もなくなり、さらには片目かためが黒いオーラで見えなくなっている。

 そんな状態じょうたいでもかなしい事がつたわってきた。


「皆、遼平りょうへい君が大好きなのよ。なんだかんだ言いながら遼平君と遊びたがっていたんだから」


 教会の入り口にはいつの間にかシスターがたっている。


「「「シスター!!」」」


 三人はずかしそうにシスターに文句もんくを言っている。

 ガキどもの気持ちなんて俺様がわからないわけないだろ。


「ねぇ、遼平、ほんとに出てくつもりなの?」


 おおかみ気高けだかき姿で見つめる葉月の目にはうっすらとなみだが見えた。


「俺様はお前らなんかとはちが存在そんざいなんだよ。俺様は神だ。悪名高あくみょうだかきロキ様だ」


「神様なら私達を守ってよ!また昨日みたいなことになったら次はだれが助けてくれるの!」


「そんなもんは自分たちで守れ。それにだな、俺様は神でもいい神様じゃないんだ。そんな守るだの―」


「でも昨日は助けてくれたじゃん!」


「それは・・・気まぐれだ」


「気まぐれでいいから私達の側にいてよ!私達、遼平の・・・しもべなんでしょ!」


 葉月の気迫きはくになにを言えばいいかわからなくなってしまった。

 おそかったのだ。


 ここでの生活が長すぎて俺様はあこがれてしまった。

 だからこそはなれたかったと言うのに。


「・・・お前ら俺様のしもべでいいのか」


「「「いい!!!」」」


 三人が口をそろえてさけぶ。


「はぁ・・・めんどくせぇ。わかったわかった。今度はいなくなんねぇよ。神にちかう」


「神様なのに神に誓うなんておかしいの」


 那覇が笑う。

 だが、何もおかしい事はない。


「だって、ここは教会だろ?教会で誓ったら必ず守らなければ天罰てんばつがくだるんだぜ」


 天罰などこわくはない。

 だが、今の言葉にうそはなかった。


 世界を震撼しんかんさせるまでまだ準備じゅんびととのっていない。

 少しくらいここでのんびりしていてもいいだろう。


 俺様も、ずいぶん甘くなったな・・・




 そういってロキこと遼平は、皆にかこまれながら教会に戻って行った。

 それをシスターがあたたかくむかれる。


 いつの時代じだいか、ロキが求めたものがここにはある。

 ロキは長年の願いがかなうこの場所で、さらに数年をごす事になる。


 そして時がたち、出会うのだ。

 あたらしい物語ものがたりへと・・・




 ヴァルハラ外伝 ロキと眷属

 ―完―


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