四幕 【逃走】
「ねぇ、
「・・・なんだ」
「・・・連絡来ないね」
「そうだな・・・」
それに
これで一つでもここでの生活に楽しみがあれば気が少しは楽になっただろう。
だが、
「このまま連絡来なかったら・・・」
その先を言うつもりがないのか、ありすは口を閉ざしてしまった。
神さまとて
それはここ一か月くらいの付き合いでよくわかっていた。
むしろ神様と言うには
いや、そんなものなんだ。
だからこそ俺も皆と一緒に行動できると思ってきたし、手助けができるとも思ってきた。
結果はこんなバッドエンド一歩手前だが。
一体俺たちはいつまでここで生活することになるんだろうか。
3章 4幕【逃走】
「・・・
ありすが何の
俺は
そこには
「私を
会話と言うよりも自問自答してるかのようにぽつりぽつりと話すありす。
きっとありすは、俺がいつだか聞いた蒼と
「
「
「そう・・・なのかしら」
ロキとの話の中で蒼は400年以上生きていると聞いたとありすが言っていた。
そうなると本当にありすにとっては親代わりだったんだろう。
いつしかそれが
「私は・・・優斗がいなきゃ・・・」
「・・・まだ蒼の事が好きなのか」
口にしてから、そんな事を聞いてどうするんだろうとも思ったが、わざわざ
「好き・・・なのかな。わかんない。私はあの時に自分の気持ちに
「そうか」
だがそれを変えようともしない。
変える
俺は再び顔を下げ、どこともない岩を見つめていた。
時間がひたすら流れる。
「ねぇ」
どれくらいの時間が流れただろう。
もう時間をおおよそも数えるのをやめていた俺たちはどれくらいの時間うつむいていたかすらわからなくなっていた。
「優斗」
優斗?
蒼の名前を呼んでどうしたのだろう。
「・・・あっ・・・ご、ごめん、悠真」
頭の
しばらくしてから、ありすが蒼の名前と俺の名前を
「ありす、お前、蒼と俺を間違えたのか?」
「あ・・・
「間違えたんだな」
「・・・ごめん」
「一緒にいるのが大好きな優斗じゃなくて悪かったな」
そんなことを言うつもりはなかった。
なんて嫌味を言っているのだろうかこの口は。
「違うの!そんなんじゃなくて!」
「なにが違うんだよ!」
ドン!と洞窟内に大きな音が
その音を
俺の右手は岩に思い切り打ちつけられて少し出血している。
その音と姿を見てありすはすごく
怯えさせたのは俺だ。
だが、その口が、体が動いていた。
「・・・ごめん。そんな怯えるなよ」
「ううん・・・私が悪いの・・・ごめんなさい」
沈黙が流れる。
さっきよりも一段と空気が重くなった気がした。
自分の
このまま蒼達から連絡が来なければ俺たちはどうなってしまうのだろうか・・・
それからさらに数時間たち、
「
あきらかにありすの声ではない。
「くそっ!見つかった!」
全力ダッシュで森の中を走って行く。
後ろを振り返る
少しでも早くありすに合流し、一緒に
「ありす!見つかった!逃げるぞ!」
うつむいて
「どこにいるの!」
「わからんけど
「
少女の声がする方を見ると、少女は空に
「
いち早く兵装したのはありすだ。
短く切った
「くそっ、兵装!」
少し
飛び方などはわからなかったが、ほぼ体が勝手に動いていた。
初めての
余裕の表情なのか、少女は
ありすと俺の手にはそれぞれの
向かって相手の少女は今の
だが、武器など使わずとも
大してこちらは心も体も
正直勝ち目などない。
だが、ここで引くわけにもいかないのだ。
「いくぞ!」
俺の掛け声に合わせありすも動き出す。
槍を振り回し、
それどころか、前と違って
空を
「ありす、これじゃだめだ!」
「わかってる!でも!」
その時、天から新たに光に
一瞬味方の誰かだと
「ずいぶん
空から現れたのはおそらく目の前の少女が
言われなくともその
実際は180cmくらいだろうか。
きざったらしく
「私の名はヘルメス。そこの千里のご主人様と言えばわかりますかね。眷属などの話しは理解があると思っていいんでしょうか?」
俺たちは声を
きっとありすの頭の中でも、俺と同じように
ただでさえやっかいな
「返事がありませんねぇ。
俺たちのぼろぼろの姿を見てヘルメスはうんうんと
この
考えろ。
逃げ切るためにはまた身を
できるだけ遠くに、そして
だがそんな
「ヘルメス様、私一人で大丈夫です。ヘルメス様はそこで見ていてください」
千里と呼ばれた少女は
俺たちが動かなければ動く気がないのだろうか。
「ふむ。まあいいでしょう。まだ時間はありますし、ここは千里におまかせします」
「ありがとうございます」
言葉だけでお礼を言う千里は、やはり動こうとする
「悠真、私に考えがある」
小さな声でありすが
「なんだ」
少しの沈黙を持ってありすはこう言った。
「
掴まってと言った
目の前に
「
ありすが
次の瞬間俺の
「そんな
ヘルメスの言葉を最後まで聞き取る前に俺の
「悠真・・・大丈夫?」
何が起きたのか全く
目の前にはヘルメスも千里もおらず、空中にいたはずの俺とありすはいつの間にか地面にたっている。
掴まれた手に力が入っている事に気づき、横を見ると、大丈夫?と声をかけたありすが今にも
「人の
それでも
そこまでありすを運び、ありすを寝かせると先ほどの
「さっきのはなんだよ」
「優斗に渡されてた
ということは先ほどの
だが、幻術の時のようにぼうっとする感覚ではなく、意識が一瞬で飛ばされた感じではあるのだが。
「何かあったとき用にって前にもらったんだけどね、一瞬で違う場所にワープできるすごい魔法なの」
「それって
フレイヤの
一瞬でどんな所にもワープできるすごく
「同じだけどものすごく
だからありすは
便利な
「どれくらいで
「ちゃんと休めるわけでもないからわかんない・・・魔石ももうないし、一回しか使えないから本当は使いたくなかったんだけどね・・・」
「いや、ありがと」
あの場合は
どう考えてもあの場から
もしこれで見つかったと時は本当のゲームオーバーだ。
見つかるまでの時間でどうにか逃げる方法を考えなければならない。
「・・・ごめんね」
何に対する
今はとりあえず休んで頭を
いつの間にか寝ていた。
あれからどれくらいの時間がたっただろう。
周りを見ると特に変わった
ただ、一点を
「ありす、お前泣いてるのか?」
ありすの泣き顔を見るのはこれで二度目だ。
最初に見た時ほど
「ごめん・・・考え事してたらちょっと・・・」
不安で仕方ないのだろう。
体を動かしてこちらに顔を見せないようにするありす。
どうやら体を動かせるレベルには回復したようだ。
だが体を起こさない所を見るとそのレベルと言う事だろう。
「
その問いにありすは首をふるふると
「違う。怖いとかじゃない。ただ・・・」
「ただ?」
「・・・こうなったのは私のせいだと思って」
「ちょっと待てよ、なんでありすのせいになるんだよ」
「だって・・・私が
フレイヤに巻き込んだことを
恨んだりはしていない。
だけど、こんな結果になってしまって、巻き込んだのがありすのせいかと言われると
だからどうという事もない。
と、思っていた。
こうなるのは自分が
だが、死ぬかもしれないような
言えない。
だからこそ俺はありすに
心の
「悠真・・・私に
「・・・責任ってなんだよ」
「・・・ごめん。違う。ほんとは私のわがままを聞いてほしいだけ」
「だから・・・なんだよ」
体を起こそうとするありすを心配になり近くに
美しいその
そのまま数秒の時がすぎた。
「・・・なあ、ありすは俺の事なんかより蒼の事考えてればいいんじゃないのか?」
俺のためにこの涙を流しているのなら、
そう思ったのだ。
「ううん。私、今は悠真の事を考えたい。確かに優斗の事は好きだった。でも・・・いや、違うわね。悠真」
「なんだ?」
「私の事は頭がおかしくなったと思って。これは一時の、今だからこうなってしまっただけだと・・・だから、今は私を受け止めて・・・お願い」
そう言って顔を徐々に近づけてくるありす。
俺は何も言わずにありすの言うように受け止めることにした。
俺もきっとおかしくなってしまったんだ。
これはしょうがない事なんだ。
ありすの唇はやわらかかった。
以前にもこの
そう思うと―
◆◆◆
きっとだれでもよかった。
優斗じゃなくてもだれでもよかったんだ。
私は愛に
いや、飢えているんだ。
そう思うと自分に
でも今はこの永遠とも思える時間を大切にしたかった。
唇が
もっとほしい。
でも体は
唇が離れた瞬間、体が
きっとこれが愛なんだと。
これが満たされる感覚なんだと。
悠真の顔が見えない。
なぜかその顔はうつむいている。
「悠真?」
べちゃ。
水の音がする。
この洞窟には水などなかった。
私はそんなに溜まるほどの涙なんて流していない。
感覚が戻りつつある自分の体を動かそうとする。
いつまでも悠真に支えてもらっていては申し訳ない。
だが、体は動かなかった。
何かに固定されているように。
なんだか体が熱い。
私の体は
「え・・・」
私はとんでもない光景を見た。
自分の服が赤く
そしてお
そこには何かが
いや、これは
よく知っている槍。
オーディンのグングニル。
それがなんで私の体から生えている?
「っ!」
なんで・・・
いや、そもそもグングニルには
違う、そういう使い方ができるだけだ。
そこまで考えて
だが意識は遠のかなかった。
なぜかと言うと、悠真がグングニルを私の体から引き抜いたからだ。
「かっ・・・はっ・・・」
さらに血が吹き零れる。
口から、お腹から。
そして悠真は何も言わないで空に飛んで行ってしまった。
きっと
これが
私が巻き込んだ
一人、洞窟の中、死んでいくんだ・・・
ふと
最後に
どこまで自分は
もし、優斗にこの声が届くのならば・・・
叶うのならば・・・
「悠真を・・・助け・・・て・・・」
そして私の意識は深い闇の中へ落ちて行った・・・
◆◆◆
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