三幕 【歪んだ敬愛】
ロキがさらわれた事件の次の日。
あんなに手掛かりがないと思っていたのだが。
いや、これも一種の罠なのかもしれないと、俺の中でささやく声もあったが、そんな事を口に出すことは一切なかった。
だってそんな事言ったら俺は皆と一緒にいけないだろ?
2章 3幕【歪んだ敬愛】
その日は授業を受けた後、放課後に保健室へ集まるよう言われていた。
保健室に入ると、相変わらず寝ているフェンリルとヨルムンガンドが寝ている。
「で?集めた理由はなんだ?敵がわかったのか?」
保健室には
この女子生徒は確かヘルだったはずだ。
そんな面々をちらっと見てから俺は早々に本題に切りかかったのだ。
「敵はわからん」
即答でNOの返事をする蒼。
ではいったいなんだと言うのだ。
「事態は急を要してるかもしれないから軽くだけ説明するぞ」
そんな前ふりを一つ置いてから蒼は
「ヘルはフェンリルの言った通り
「事前準備って?」
説明を早口でまくしたてる蒼に俺は聞く。
「結界だ。俺みたいに力を奪う能力か、道具がない限りは結界の中で
事態は急を要する。
つまりは今すぐに助けに行かないとロキは死ぬ可能性があると言う事だ。
「・・・話しはわかった」
わかった。が―
「でもそれを助ける
もちろんその言葉を発したのは俺だ。
ひどいやつとも思うかもしれないが、俺にはロキが危険対象でしかない。
ロキが死ぬとしたらそれは
「あー、まあそうなんだけどよ」
俺にとっては大事な人たちを傷つけようとした敵だ。
それを
「ごめんなさい」
深々と頭を下げ、さらに
「私たちのやったことは謝ります。
ヘルは頭を下げるどころか、最終的には土下座までして
そこまでされてしまうとなんだかこっちが悪者みたいだ。
「悠真、お前の言いたい事はわかるが、今回は
蒼に説得されるまでもなく、俺はヘルの土下座で心を
確かにここで死なれても気が晴れるわけではない。
むしろ死なれたらそれはそれで
「・・・わかったよ。俺が悪かったから頭をあげてくれ・・・えっと、ヘル」
ヘルはゆっくりと頭をあげると「名前は
泣くほどロキの事が大事なのか。
俺にはこのヘルこと椿さんもロキに
ロキ
「ロキを助けに行くのはわかった。でも俺もつれてけ」
昨日みたいに仲間外れにされるのは
その発言を聞いて椿さんも、私もできれば連れてって欲しいです、なんて言うもんだから蒼は困って頭をかいていた。
「
そんな事はわかっている。
蒼に言われなくてもわかっている。
わかっているから行きたいのかもしれない。
俺は
一歩も引かない俺と椿さんを見て、蒼はやれやれと言った感じで縷々に
「はーい!じゃあ私がスキーナブラジャーでゲートを作りまーす!」
フレイヤに代わると思いきや、縷々が声をあげていた。
後、フレイヤの神器の名前は多分そんなドラ○もんの秘密道具の、下着みたいな名前ではない。
「
たまにある縷々の悪ふざけだ。
縷々は
そういう時は言っても聞かないのだ。
おそらく
フレイヤも大変な
「いでよー!次元のー!とびらー!」
というか縷々、お前は人間ではなかったのか。
フレイヤと一緒だから使おうと思ったら力が使えるのか?
謎は深まるばかりだが、今はそんな事を
「縷々ちゃん、フレイヤにこの病人達守るように言っといてくれ」
「まかされたりー。それと蒼くーん?ちゃんづけじゃなくていいからねー?」
縷々はちゃん付けを
蒼はちゃんをつけたがる。
ここ最近ずっとこのやり取りを続けていた。
ちなみにありすもちゃん付けなのだが、なぜかそこには
そんな日常の光景を横目に、蒼、君丈、ありす、そして俺と椿さんはゲートの中に入って行った。
ゲートを抜けると、見覚えのある場所についた。
そこは、ありすが一番最初に俺を
そこそこ学校から
「これはこれは先輩方。今日は何の用ですか?」
倉庫の屋根の上に人影が一つ。
そして横には謎の
「まさかとは思ったが、お前か」
君丈が人影を
「知り合いか?」
「サッカー部の後輩だよ。
サッカー部?
うちの学校には何かあると前に蒼が言っていた気がする。
俺の身近に神が二人。
そして一年生として入学してきたはずのロキ、そして目の前の京極翔太も神だった。
神様事情はわからないが、こんなにも近くにここまで集まるものだろうか。
「君丈先輩も来てくれたんですね。嬉しいなぁ、
なぜか照れるように言う京極翔太に、君丈は
「何の目的だ!」
「何の目的?」
京極翔太は
「先輩に言ったじゃないですか。
全国大会?
それはサッカー部の全国大会の事か?
こいつは君丈がサッカーの大会に出ないってだけでロキを殺そうとしているのか?
ロキを助けたい気持ちがあったわけではないが、京極翔太の言動に俺は少しばかり腹が立ってしまった。
人一人、いや、神一人を殺す理由としては理由がひどすぎる。
それは自分の為だろうが、君丈のせいと言っているようなものだ。
「お前ふざけるな。君丈は君丈だろ。お前が君丈の行動を決めるんじゃねぇよ」
「
つい前に進んで身を乗り出してしまった俺をありすが止めに来る。
「はぁ。あのですね、君丈先輩にどれだけの
「翔太、悪いな。俺は今しかサッカーをやる気はない。世界なんていかないぞ」
君丈のその発言に
こいつにとっては自分の思っている事が全てなんだろう。
「何を言ってるんですか君丈先輩。あなたは世界に出なきゃダメなんだ。僕がこうやって興味のない神の力まで使ってるんですよ?それを
君丈の話しなんてまるで聞く気が無いようだった。
「僕の力、ジークフリートって言うらしいですね。神殺しの力があるそうで。昔になんか神に
「翔太。もう一度言う。俺は今しかサッカーをやる気はないし、お前にそんな事を頼んだ覚えもない。自分の事は自分で決めるし自分で考えて行動する。だから今すぐロキを
京極翔太は狂っていた。
それは
でもそれは
「・・・あぁ、そうですか。やっぱ君丈先輩の周りがそうさせるんだ。そうに違いない。幻術にかけた時殺しとけばよかったなぁ。せっかく
京極翔太にとって君丈以外は邪魔ものだととらえたようだ。
俺がそれに言い返そうとすると、それより早く君丈が口を出していた。
「翔太、俺の事言う分には何言ったってかまわない。でも俺の親友を
バチッ
電気のような音がした。
君丈が一歩踏み込もうとしたその
君丈の前には見えない何かがあり、君丈はそれに
「結界?でも悠真とありすは・・・」
蒼は君丈をみて確かめるように見えない壁を
俺とありすは見えない壁の内側にいるのだ。
「あはははは!無理ですよ。邪魔されない為に張った、神だけが通れない結界なんですから。あ、ちなみにそれ、
高らかに笑う京極翔太。
蒼は結界を確かめるように再度触る。
「あいつ、俺が知ってるジークフリートとは違うぞ。確かにジークフリートになるやつは昔から変わったやつが多い。でもあいつは異常だ。悠真、ありす。こっちに戻ってこい。あいつは危険だ」
蒼の発言に何を思ったのかまた笑い始める京極翔太。
「無理ですよ。その結界、入ったらロキが死ぬまででれませんから。あ、それと・・・僕、そこの悠真とか言う人殺す事にしました。止めたいなら、まあ・・・ロキを殺してください」
君丈は翔太の名を叫ぶ。
「神の
そういうヘルこと椿さんに対して、蒼は待ったをかけた。
「待て、お前も力を
わかりました、と椿さんは結界の
そこには小さいが
「それと悠真、これを受け取れ」
蒼はポケットから小さな何かを出し、俺に投げた。
「これは?」
「簡単に言うとオーディンチップ。SAチップの中に俺の力を封じ込めたものだ。自分の身を守るために使え。後はこっちでどうにかしてみる」
そこにはロキ戦の時にフレイヤから渡されたようなプログラム表記の無いチップがあった。
どんな効果があるかはわからないが、とりあえずチップをSAに入れ、インストールする。
「オーディンチップ、インストール」
インストールを
ありすの見えない
「戦う準備はできましたか?まあ
ゆっくりと倉庫のコンテナなどを踏み台に降りてくる京極翔太。
いや、神殺しの
そんなジークフリートが下りてくるのに合わせて、ありすも体勢を
「
ありすがそう
君丈が戦う時に見せたような神ならではの戦闘スタイルなんだろう。
ありすの服が、
手には蒼のとは違う槍を持っていた。
そして何よりも
君丈も白く長くなっていたが、ありすも切ったはずの髪が、切る前の長さと同じになり、さらに色は少し茶色がかった黒から、
「その髪・・・」
ふと俺がつぶやく。
「あぁ、前のままか。ってそんな事より来るよ」
ありすがそう
俺はそれをかわし、
自分で意識しているわけではないが、おそらくオーディンチップには体が反応するような魔法も入っているのだろう。
「ははっ!いいよ!やるじゃん!」
ジークフリートはさぞ楽しそうに俺とありすに切りかかる。
俺とありすで助け合いながらの
結界の外では蒼と君丈の声が聞こえる。
「ねぇ先輩。君丈先輩と
つばぜり合いになり、ふとそんな事を言われた。
俺はそれを弾き返し―
「お前に
今度はこっちから
ジークフリートは難なくそれを弾き返すが、
「ありす!」
「おっけい!」
ありすに弾かれたジークフリートに俺は槍を突き立てる。
オーディンの力が入っているなら当たれば相手の力を
だが、その
「いたいなぁ。楽しくなっちゃって
ジークフリートの頬から赤い血がしたたり落ちる。
それを感情の無い声で笑いながらなめとると、ジークフリートの
少し怒らせたのかもしれない。
よろよろと体をふらめかせたと思うと、いきなりアリスの方に
それをありすは自分の槍で受け止めるが、その
ジークフリートはそのままありすを衝撃で押していき、ありすがなんとか踏みとどまる形になる。
俺はありすの
◆◆◆
このままじゃやばい。
オーディンの力を分け与えられていると言っても、悠真の力は私と同じくらいだろう。
それに悠真は
ありすはジークフリートの攻撃を止めながらそんな事を思っていた。
このままじゃ負けは見えてる。
ヘルがどうにかして結界を破壊する方法を見つけるのが先か、私たちの力が
どう考えても
悠真だけは守らなければいけない。
巻き込んだのは私なんだから。
「ねぇ、面白い事思いついたんだけどさ」
剣と槍を交える中、ジークフリートは話しかけてきた。
「それはきっと私には面白くないわね」
息も
ジークフリートは神ではない。
神に対抗する能力を持つ者は、神か、それに
確か、ジークフリートは昔話では
だけど神に対抗する力を持つと言う事は神と同じ力を持っていると言う事。
つまり、私の
剣を槍で抑えるのが
この上何かをするとなると先は
「悠真先輩、だっけ?あれさ、最近できた
気味の悪い笑顔でそれを
私の顔は今、
悠真が
そう思ったのも
剣に何倍もの力をかけられ、私は後方にあったコンテナに叩きつけられてしまう。
「うっ・・・ゆう・・・ま」
体が
でもここで倒れるわけにはいかない。
どうにか体を起き上がらせると、目の前にはジークフリートに向かっていく悠真が見えた。
私が弾き飛ばされた事でさらに頭に血が上ったのだろう。
でもだめだ。
それ以上そいつに近づくな。
悠真、逃げて!
だが、それをするりと
優斗の叫ぶ声が聞こえる。
君丈君の叫ぶ声が聞こえる。
驚愕に震えるヘルの表情が見える。
悠真の右手は、肩からばっさりと切り落とされてしまった。
「ああああああああああああああ!」
叫んだのは悠真ではない。
私の声だ。
軋む体に
だが、それをものともせず、
私の体は倉庫の壁にぶち当たった。
「がっ・・・は・・・」
体が動かない。
地べたに横になっている体は指先まで力が入らない。
悠真は切られた腕の痛みで
悠真の下には大量の
いますぐ強力な魔法でも使わない限り、悠真は助からないだろう。
結界は、まだ解かれてはいない・・・
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