三幕 【歪んだ敬愛】


 ロキがさらわれた事件の次の日。

 事態じたいは割とすぐ発展を見せた。


 あんなに手掛かりがないと思っていたのだが。

 いや、これも一種の罠なのかもしれないと、俺の中でささやく声もあったが、そんな事を口に出すことは一切なかった。

 だってそんな事言ったら俺は皆と一緒にいけないだろ?




 2章 3幕【歪んだ敬愛】




 その日は授業を受けた後、放課後に保健室へ集まるよう言われていた。

 保健室に入ると、相変わらず寝ているフェンリルとヨルムンガンドが寝ている。


「で?集めた理由はなんだ?敵がわかったのか?」


 保健室にはあお、ありす、君丈きみたけ縷々るる、俺、そして二年の校章こうしょうをつけた生徒がいた。

 この女子生徒は確かヘルだったはずだ。

 そんな面々をちらっと見てから俺は早々に本題に切りかかったのだ。


「敵はわからん」


 即答でNOの返事をする蒼。

 ではいったいなんだと言うのだ。


「事態は急を要してるかもしれないから軽くだけ説明するぞ」


 そんな前ふりを一つ置いてから蒼はしゃべり始める。


「ヘルはフェンリルの言った通り魔術研究会まじゅつけんきゅうかいで結界に閉じ込められてた。そこで分かったこともあるんだが、ヘルを閉じ込めていた結界けっかいが神に対抗たいこうする術式じゅつしきだった。つまり相手は神に敵対してる勢力せいりょくの可能性が上がった。と言う事は今にもロキは力をうばわれて殺される可能性もあるわけだ。だがすぐにと言うわけでも実のところはない。事前準備が必要だからな」


「事前準備って?」


 説明を早口でまくしたてる蒼に俺は聞く。


「結界だ。俺みたいに力を奪う能力か、道具がない限りは結界の中で邪魔じゃまをされずに魔術まじゅつをかける必要がある。その結界の反応が今さっきあった」


 事態は急を要する。

 つまりは今すぐに助けに行かないとロキは死ぬ可能性があると言う事だ。


「・・・話しはわかった」


 わかった。が―


「でもそれを助ける義理ぎりはあるのか?」


 もちろんその言葉を発したのは俺だ。

 ひどいやつとも思うかもしれないが、俺にはロキが危険対象でしかない。

 ロキが死ぬとしたらそれは因果応報いんがおうほうなのではないだろうか。


「あー、まあそうなんだけどよ」


 こまった顔を蒼はするが、俺の言いたい事もわかるのだろう。

 俺にとっては大事な人たちを傷つけようとした敵だ。

 それをこころよく助けようなんて言うほど、俺はお人好ひとよしではない。


「ごめんなさい」


 唐突とうとつあやまってきたのはヘルだ。

 深々と頭を下げ、さらに謝罪しゃざいの言葉を投げかけてきた。


「私たちのやったことは謝ります。ゆるしてくれる必要もない。でも、あの子は・・・ロキは子供なんです。私が止めれればよかったんだけど、それができなくてこの前みたいなことになってしまったのは私の不覚でもあります。本当に筋違すじちがいかもしれないけど、ロキを・・・遼平りょうへいを・・・助けてくれませんか」


 ヘルは頭を下げるどころか、最終的には土下座までしてたのんできた。

 そこまでされてしまうとなんだかこっちが悪者みたいだ。


「悠真、お前の言いたい事はわかるが、今回は見逃みのがしてやってくれないか?まあ俺らがロキを助けるのはあいつが俺らの監視対象かんしたいしょうだから死なれても困るって言う仕事上の名目めいもくと、同じ神として生まれてきた以上助けてやりたいって言う同族意識どうぞくいしきみたいなもんだ。この前の事はばつをきちんと受けさせるさ。でも、ここで何らかの被害ひがいにあって死ぬのは違うと思わないか?」


 蒼に説得されるまでもなく、俺はヘルの土下座で心をさぶられていた。

 確かにここで死なれても気が晴れるわけではない。

 むしろ死なれたらそれはそれで不満ふまんが残るだろう。


「・・・わかったよ。俺が悪かったから頭をあげてくれ・・・えっと、ヘル」


 ヘルはゆっくりと頭をあげると「名前は椿つばきです」と少し泣きながら言った。

 泣くほどロキの事が大事なのか。


 俺にはこのヘルこと椿さんもロキに迷惑めいわくをこうむられていると思っていたのだが。

 ロキ一派いっぱは俺にはわからない信頼関係しんらいかんけいきずながあるんだろう。


「ロキを助けに行くのはわかった。でも俺もつれてけ」


 昨日みたいに仲間外れにされるのはいやだったのだ。

 その発言を聞いて椿さんも、私もできれば連れてって欲しいです、なんて言うもんだから蒼は困って頭をかいていた。


危険きけんなんだぞ?すくなからず、ロキは殺すつもりはなかった。口では言ってたかもしれないがな。でも今回の相手はロキを殺そうとして来るレベルの相手かもしれないんだ。神以外に興味はなくても、その矛先ほこさきがいつお前らに行くかわからないんだぞ?」


 そんな事はわかっている。

 蒼に言われなくてもわかっている。


 わかっているから行きたいのかもしれない。

 俺はくるっているのだろうか。


 一歩も引かない俺と椿さんを見て、蒼はやれやれと言った感じで縷々に神器じんきを使いたい、と言った。


「はーい!じゃあ私がスキーナブラジャーでゲートを作りまーす!」


 フレイヤに代わると思いきや、縷々が声をあげていた。

 後、フレイヤの神器の名前は多分そんなドラ○もんの秘密道具の、下着みたいな名前ではない。


おどろいたー?ちゃーんと使い方はフレイヤにおそわったからー、縷々ちゃんっちゃうぞ!」


 たまにある縷々の悪ふざけだ。

 縷々はなぞのテンションを発揮はっきする時がある。


 そういう時は言っても聞かないのだ。

 おそらく原因げんいん幻術げんじゅつつかれてねむったから元気が有り余ってるとかそんな所だろう。

 フレイヤも大変なやつと一緒になったもんだ。


「いでよー!次元のー!とびらー!」


 たからかにそう叫ぶと、皆の前で空間がゆがみ、四角いワープポイントみたいなものがあらわれた。

 というか縷々、お前は人間ではなかったのか。


 フレイヤと一緒だから使おうと思ったら力が使えるのか?

 謎は深まるばかりだが、今はそんな事を追及ついきゅうしてるひまはなかった。


「縷々ちゃん、フレイヤにこの病人達守るように言っといてくれ」


「まかされたりー。それと蒼くーん?ちゃんづけじゃなくていいからねー?」


 縷々はちゃん付けをいやがる。

 蒼はちゃんをつけたがる。


 ここ最近ずっとこのやり取りを続けていた。

 ちなみにありすもちゃん付けなのだが、なぜかそこには指摘してきが入らない。


 そんな日常の光景を横目に、蒼、君丈、ありす、そして俺と椿さんはゲートの中に入って行った。




 ゲートを抜けると、見覚えのある場所についた。

 そこは、ありすが一番最初に俺を不良ふりょうとどろきから助けてくれた廃工場はいこうじょうだった。

 そこそこ学校から距離きょりがあるのだが、フレイヤの神器の次元移動じげんいどうなるもののすごさを体感した瞬間でもあった。


「これはこれは先輩方。今日は何の用ですか?」


 倉庫の屋根の上に人影が一つ。

 そして横には謎の浮遊ふゆうする球体の中に、横たわっているロキがいた。


「まさかとは思ったが、お前か」


 君丈が人影をにらみつける。


「知り合いか?」


「サッカー部の後輩だよ。京極翔太きょうごくしょうた


 サッカー部?

 うちの学校には何かあると前に蒼が言っていた気がする。


 俺の身近に神が二人。

 そして一年生として入学してきたはずのロキ、そして目の前の京極翔太も神だった。

 神様事情はわからないが、こんなにも近くにここまで集まるものだろうか。


「君丈先輩も来てくれたんですね。嬉しいなぁ、あこがれの先輩に僕の勇士ゆうしを見てもらえるなんて」


 なぜか照れるように言う京極翔太に、君丈はえる。


「何の目的だ!」


「何の目的?」


 京極翔太は不思議ふしぎそうな顔をして答える。


「先輩に言ったじゃないですか。障害しょうがいは僕がはらうと。だって先輩、これ邪魔じゃまでしょ?こんなのがいるから全国大会だって出ないんですよね?」


 全国大会?

 それはサッカー部の全国大会の事か?

 こいつは君丈がサッカーの大会に出ないってだけでロキを殺そうとしているのか?


 ロキを助けたい気持ちがあったわけではないが、京極翔太の言動に俺は少しばかり腹が立ってしまった。

 人一人、いや、神一人を殺す理由としては理由がひどすぎる。

 それは自分の為だろうが、君丈のせいと言っているようなものだ。


「お前ふざけるな。君丈は君丈だろ。お前が君丈の行動を決めるんじゃねぇよ」


悠真ゆうま、あぶないから下がって」


 つい前に進んで身を乗り出してしまった俺をありすが止めに来る。


「はぁ。あのですね、君丈先輩にどれだけの才能さいのうがあるかしらないでしょ?君丈先輩はいずれ世界にも進出しんしゅつできる逸材いつざいですよ?」


「翔太、悪いな。俺は今しかサッカーをやる気はない。世界なんていかないぞ」


 君丈のその発言にあきらかな驚愕きょうがくを見せる京極翔太。

 こいつにとっては自分の思っている事が全てなんだろう。


「何を言ってるんですか君丈先輩。あなたは世界に出なきゃダメなんだ。僕がこうやって興味のない神の力まで使ってるんですよ?それを無駄むだにするんですか?」


 君丈の話しなんてまるで聞く気が無いようだった。


「僕の力、ジークフリートって言うらしいですね。神殺しの力があるそうで。昔になんか神に反発はんぱつする団体見たいのが勧誘かんゆうに来ましたよ。でもそんなのには興味がない。僕は生きているのが非常につまらなかった。でも、そんな中で君丈先輩を見て僕は心が動かされたんだ!君丈先輩のサッカーを見て、僕はこの人を応援したいと、この人の邪魔をする者を排除はいじょするためならこの力を使ってもいいと!そう思ったんですよ!僕はあなたの味方ですよ?このロキってやつはなんか悪さして君丈先輩を困らせたんですよね?じゃあ敵じゃないですか!なんでそんな人をかばおうとするんですか?」


「翔太。もう一度言う。俺は今しかサッカーをやる気はないし、お前にそんな事を頼んだ覚えもない。自分の事は自分で決めるし自分で考えて行動する。だから今すぐロキを解放かいほうしろ」


 京極翔太は狂っていた。

 それは敬愛けいあいなのだろう。

 でもそれはゆがんだ、あまりにも歪んだ敬愛だ。


「・・・あぁ、そうですか。やっぱ君丈先輩の周りがそうさせるんだ。そうに違いない。幻術にかけた時殺しとけばよかったなぁ。せっかく慈悲じひをかけてあげたっていうのに。おい、そこの。桂木悠真だっけか?お前のせいだよ。神でもないくせに君丈先輩の周りをうろうろと。君丈先輩の横には僕がふさわしいんだよ。・・・お前、死ねよ」


 矛先ほこさきが俺に向いた。

 京極翔太にとって君丈以外は邪魔ものだととらえたようだ。

 俺がそれに言い返そうとすると、それより早く君丈が口を出していた。


「翔太、俺の事言う分には何言ったってかまわない。でも俺の親友を侮辱ぶじょくするような事はゆるさねえ。今すぐ下に―」


 バチッ

 電気のような音がした。

 君丈が一歩踏み込もうとしたその瞬間しゅんかんだった。

 君丈の前には見えない何かがあり、君丈はそれにはばまれたのだ。


「結界?でも悠真とありすは・・・」


 蒼は君丈をみて確かめるように見えない壁をさわる。

 俺とありすは見えない壁の内側にいるのだ。

 困惑こんわくする蒼と君丈を前に京極翔太は笑ってみせた。


「あはははは!無理ですよ。邪魔されない為に張った、神だけが通れない結界なんですから。あ、ちなみにそれ、こわさない方がいいですよ?このロキの命から作った結界ですからね。それ壊すとロキも死にます。まあどのみち僕が殺しますけどね!僕の力を使えばこんなこともできるんですよ?」


 高らかに笑う京極翔太。

 蒼は結界を確かめるように再度触る。


「あいつ、俺が知ってるジークフリートとは違うぞ。確かにジークフリートになるやつは昔から変わったやつが多い。でもあいつは異常だ。悠真、ありす。こっちに戻ってこい。あいつは危険だ」


 蒼の発言に何を思ったのかまた笑い始める京極翔太。


「無理ですよ。その結界、入ったらロキが死ぬまででれませんから。あ、それと・・・僕、そこの悠真とか言う人殺す事にしました。止めたいなら、まあ・・・ロキを殺してください」


 驚愕きょうがくする面々。

 君丈は翔太の名を叫ぶ。


「神の眷属けんぞくであるありすさんが入れるなら、私も入れるはずです。私も戦います」


 そういうヘルこと椿さんに対して、蒼は待ったをかけた。


「待て、お前も力をうばわれてるんだ。それよりこの結界を解析かいせきしてロキを殺さずに結界を破壊する方法を模索もさくしてくれ」


 わかりました、と椿さんは結界の境目さかいめ辺りに手を出した。

 そこには小さいが魔法円まほうえんが浮かび上がる。


「それと悠真、これを受け取れ」


 蒼はポケットから小さな何かを出し、俺に投げた。

 一瞬いっしゅん結界あたりで軌道きどうが変わったため、俺は少し体制をくずしながらもそれを受け取る。


「これは?」


「簡単に言うとオーディンチップ。SAチップの中に俺の力を封じ込めたものだ。自分の身を守るために使え。後はこっちでどうにかしてみる」


 そこにはロキ戦の時にフレイヤから渡されたようなプログラム表記の無いチップがあった。

 どんな効果があるかはわからないが、とりあえずチップをSAに入れ、インストールする。


「オーディンチップ、インストール」


 インストールを即座そくざに終わらせ、起動させると、手には蒼が使っていたやりが現れ、体中を何か見えない物で守られている感覚になった。

 ありすの見えないたてのようなものがおそらくあるのだろう。


「戦う準備はできましたか?まあ無駄むだだとは思いますけど、せいぜいひまつぶしがてら頑張ってくださいよ」


 ゆっくりと倉庫のコンテナなどを踏み台に降りてくる京極翔太。

 いや、神殺しの異名いみょうを持つジークフリートと言った方が正しいだろうか。

 そんなジークフリートが下りてくるのに合わせて、ありすも体勢をととのえた。


兵装へいそう!」


 ありすがそうさけぶと、ありすの体が光につつまれて変わっていく。

 君丈が戦う時に見せたような神ならではの戦闘スタイルなんだろう。


 ありすの服が、軽装けいそうよろいほどした騎士きしの姿に変わっていく。

 手には蒼のとは違う槍を持っていた。

 そして何よりもおどろいたのが髪だ。


 君丈も白く長くなっていたが、ありすも切ったはずの髪が、切る前の長さと同じになり、さらに色は少し茶色がかった黒から、綺麗きれい金髪きんぱつに変わっていた。


「その髪・・・」


 ふと俺がつぶやく。


「あぁ、前のままか。ってそんな事より来るよ」


 ありすがそうげると、ジークフリートはいつの間にか持っていた剣を振りかざし、高速でせまってきた。

 俺はそれをかわし、はじき、何とか応戦おうせんする。

 自分で意識しているわけではないが、おそらくオーディンチップには体が反応するような魔法も入っているのだろう。


「ははっ!いいよ!やるじゃん!」


 ジークフリートはさぞ楽しそうに俺とありすに切りかかる。

 俺とありすで助け合いながらの攻防こうぼうは続いた。

 結界の外では蒼と君丈の声が聞こえる。


「ねぇ先輩。君丈先輩とはなれてくれるなら先輩は殺しませんよ?」


 つばぜり合いになり、ふとそんな事を言われた。

 俺はそれを弾き返し―


「お前に指図さしずされるいわれはないね。俺も君丈も自分の好きなようにするさ!」


 今度はこっちからめる。

 ジークフリートは難なくそれを弾き返すが、余裕よゆうのジークフリートはすきだらけだった。


「ありす!」


「おっけい!」


 ありすに弾かれたジークフリートに俺は槍を突き立てる。

 オーディンの力が入っているなら当たれば相手の力をうばって無効化むこうかできると考えたのだ。


 だが、その予想よそうを当てるまでもなく、槍はけられ、ジークフリートのほほをかするだけとなった。


「いたいなぁ。楽しくなっちゃって障壁しょうへき張るの忘れてた。あはは」


 ジークフリートの頬から赤い血がしたたり落ちる。

 それを感情の無い声で笑いながらなめとると、ジークフリートの気迫きはくが増した。


 少し怒らせたのかもしれない。

 よろよろと体をふらめかせたと思うと、いきなりアリスの方に猛突進もうとっしんしていく。


 それをありすは自分の槍で受け止めるが、その衝撃しょうげきで押されて俺との距離がはなされてしまった。

 ジークフリートはそのままありすを衝撃で押していき、ありすがなんとか踏みとどまる形になる。


 俺はありすの救援きゅうえんに向かった。




 ◆◆◆




 このままじゃやばい。

 オーディンの力を分け与えられていると言っても、悠真の力は私と同じくらいだろう。

 それに悠真は戦闘訓練せんとうくんれんを受けているわけでもない。


 ありすはジークフリートの攻撃を止めながらそんな事を思っていた。


 このままじゃ負けは見えてる。

 ヘルがどうにかして結界を破壊する方法を見つけるのが先か、私たちの力がきるのが先か。

 どう考えても後者こうしゃだ。


 悠真だけは守らなければいけない。

 巻き込んだのは私なんだから。


「ねぇ、面白い事思いついたんだけどさ」


 剣と槍を交える中、ジークフリートは話しかけてきた。


「それはきっと私には面白くないわね」


 息もえにそう答える。

 ジークフリートは神ではない。


 神に対抗する能力を持つ者は、神か、それにじゅんずるものだ。

 確か、ジークフリートは昔話では英雄えいゆうのはず。


 だけど神に対抗する力を持つと言う事は神と同じ力を持っていると言う事。

 つまり、私の眷属けんぞくの力ではどう頑張っても勝てない。


 剣を槍で抑えるのが精一杯せいいっぱいだ。

 この上何かをするとなると先は絶望的ぜつぼうてきだった。


「悠真先輩、だっけ?あれさ、最近できたSAえすえーでしょ?なんで神の力をそれで使えるのかはしらないけどさ、その力のみなもとがあの右手のSAなら・・・それ、切り落としたらどうなるのかな?」


 気味の悪い笑顔でそれを平然へいぜんと言ってのける。

 私の顔は今、驚愕きょうがく悲壮感ひそうかんでいっぱいの顔をしてるだろう。


 悠真があぶない。

 そう思ったのもつかの間。


 剣に何倍もの力をかけられ、私は後方にあったコンテナに叩きつけられてしまう。


「うっ・・・ゆう・・・ま」


 体がきしむ。

 でもここで倒れるわけにはいかない。


 どうにか体を起き上がらせると、目の前にはジークフリートに向かっていく悠真が見えた。

 私が弾き飛ばされた事でさらに頭に血が上ったのだろう。


 でもだめだ。

 それ以上そいつに近づくな。

 悠真、逃げて!


 いのりむなしく、悠真はジークフリートに切りかかる。

 だが、それをするりとけ、剣をかまえるジークフリート。


 優斗の叫ぶ声が聞こえる。

 君丈君の叫ぶ声が聞こえる。

 驚愕に震えるヘルの表情が見える。


 悠真の右手は、肩からばっさりと切り落とされてしまった。


「ああああああああああああああ!」


 叫んだのは悠真ではない。

 私の声だ。


 軋む体にふるいをたたせ、ジークフリートに突進していく。

 だが、それをものともせず、強烈きょうれつな力で払いのけられる。


 私の体は倉庫の壁にぶち当たった。


「がっ・・・は・・・」


 体が動かない。

 地べたに横になっている体は指先まで力が入らない。


 かすむ目で見えるのは悠真の近くで笑うジークフリート。

 悠真は切られた腕の痛みで失神しっしんしているようだった。


 悠真の下には大量の鮮血せんけつ

 いますぐ強力な魔法でも使わない限り、悠真は助からないだろう。


 結界は、まだ解かれてはいない・・・


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