第二章 【思惑】
一幕 【監視対象】
暗い部屋。
電気がついていないのだ。
つかないのではない。
わざと消している。
目的の資料を探すために
「これだな」
パラパラとページをめくる。
その中には生徒たちの情報がのっていた。
目的の情報をいくつか頭に叩き込んでいると、一人の生徒のページで手が止まる。
「こいつ・・・こいつらのせいで」
静かに資料を閉じると、その人影は部屋を立ち去ったのだった・・・
◆◆◆
ラグナロク
つまりはロキが
俺、
冒険と言っても決して主人公ではない。
なんだったらRPGで言う、イベントでついてくる戦闘に参加しないNPCの村人みたいな位置だった。
それでもよかったのだ。
自分の守りたいものを守ると言う
その欲は充分に満たされただろう。
ただ、その非日常から日常に帰ってきても変わらない者達がそこにはいた。
「優斗!また宿題忘れたんでしょ!君丈君に見せてもらったりすんな!君丈君も見せちゃダメ!」
変わらない者、第一号。
俺を非日常に間接的にも引き込むことになった、張本人。
最初こそありすの性格がわからず、
ロキの一件が片付いた時、ありすの秘めたる思いにも決着がつき、そこから変に
今ではお
変わったのは口調や行動にとどまらず、長く綺麗だった茶色がかった髪をばっさりとショートにしたのもお嬢様の雰囲気からの
ちなみに、そのせいで男子生徒からの人気は落ちたが、男子女子関わらず、コアなファンができたのは言うまでもない。
色んな物事をばっさりと言う性格が、周りには正義をつらぬく少女に見えるのだろう。
胸はないが、ありすの男子ファンの中には巨乳派から貧乳派に変えたものもいるらしい。
「ん?なんか今失礼な考えをしたやつがいた気がする」
俺の周りは妙に察しがいいのが多いのだが、ありすももちろんその一人だった。
「まあまあ、胸がないのはいつもの事じゃねぇか」
「優斗・・・あんた殺されたいの」
非日常から変わらない者で言えばありすよりこいつの方が大きいだろう。
俺がロキの一件に関わることになったのはこいつの存在が大きい。
ちなみに俺は
かっこよく紹介するなら、神名「オーディン」。
ありすは蒼の
違う所と言えば、意外としっかり者の君丈とは真逆で、だらしなく、思いつきや流れで行動することが多い。
身長が170cmくらいで、顔も悪くはない。
だが、その性格も
周りから見れば良くも悪くも普通の生徒だろう。
「ありすちゃん、宿題くらい大目に見てやってくれよ。こいつも色々と忙しいんだから」
そこに口を出したのは俺の幼なじみの一人、
「忙しいって言っても、君丈君はできてて優斗ができていないのはおかしいでしょ!」
ありすの発言は全くその通りだった。
幼なじみでもある君丈だが、こいつも神様の一人だ。
神名「トール」。
雷を操る
神として戦う時はどういう原理かはわからないが、見た目が変化する君丈だが、普段はサッカー部と言う事もあり、少々短髪気味だ。
「ありすちゃんおちつこー?どうせもう時間だし、蒼君の頑張りは無駄になるんだからー」
いたずらっぽく笑って見せるのは、
俺の幼なじみのもう一人であり、こいつも神様なのだ。
神名「フレイヤ」。
縷々にいたっては神様の種類が少し違う。
蒼や君丈は 自身が神であるが、縷々は別人格としてフレイヤがいるのだ。
神の世界の事は詳しくは知る
縷々は男子生徒の人気が非常に高い。
元のありすに負けないくらいの長い髪で、見た目もおっとりとして可愛らしい。
そして何より人気を集めているのは大きな胸のせいでもあるだろう。
男、いたっては高校生男子なんてものはそれくらいで興味を
だが、見た目とは裏腹に、行動的であり、俺や君丈が
そのせいで、昔は何度もひやひやさせられたもんだ。
「はい、席ついてー授業始めるからねー」
縷々が言ったようにすぐに先生がきて、蒼の努力は水の泡となった。
だが本人は特に気にしてないようだ。
先生が
こうして俺の日常は戻ってきたのだ。
また非日常に足を突っ込みたいなんてことも考えるが、きっと命がいくつあっても足りないだろう。
まあ俺の性格から言えば、何か起これば首を突っ込みたくなるのだけれど。
ちなみに先ほど言ったような察しのいいこいつらだが、それも神の力のせいなのかもしれない。
人の心を覗かれているようで、あまりいい気持ちはしないが、まあこいつらならいいかなとも思ってたりもする。
君丈や縷々の二人は古くからの幼なじみだし、ありすと蒼はまだ2、3週間しか会ってからたってはいないが、なんだか昔から知っているかのような安心感があった。
つまりは
そんな事を窓の外を見ながら考えていた。
こいつらといたらきっと楽しい事がある。
日常の中でもそうなるだろうと思っていたのだ。
2章 1幕【監視対象】
いつもの昼休み。
最近のいつもは屋上にて五人で集まってご飯を食べる事。
五人とはもちろん、俺、君丈、縷々、蒼、そしてありすだ。
いつも屋上で飯を食べているのは君丈から始まった事だった。
「なんかさ、教室で食べるのってもったいない気がするんだよな。どうせならこう青空の下で食べねぇか?それならもっとご飯がおいしくなると思うんだよ」
と、いつだか君丈が思いつきで言ったことに縷々も乗っかってきて、三人集まらなくても各自屋上でご飯を持ち寄って集合することになったのだ。
それからというもの、俺と君丈と縷々は一人でも屋上で食べるようになった。
今では悪くない提案だったと俺も思っている。
そんないつもを全うしようと、購買でパンを買い、屋上に向かおうとした時だった。
「よう、人間」
ふと後ろから声をかけられ、後ろをふりむくと、そこにはいないと思っていた人物が平然と立っていた。
「お前、ロキ・・・!」
ロキ。
約一週間ほど前に世界を征服すると言って俺の周りを散々に荒らした人物、もとい神だ。
ロキは蒼に天界だかに連れて行かれたはずだった。
なのにどうして―
「どうしてここにいるって顔だな。もちろん、計画を台無しにしてくれたお前らに
先日のような結界と呼ばれるものは発生していない。
周りに生徒がいるのがその証拠だ。
「復讐って・・・何するつもりだ」
「そんなのわかってんだろ?・・・皆殺しだ―」
ロキが喋り終える前にロキの頭上から拳が飛んでくる。
殴ったのはいつの間にかロキの
「ってぇな!おいオーディン!舌噛むところだったじゃねぇか!」
「悠真すまんな。ちょうど今日言おうと思ってたんだが、こいつらは俺たちの監視の元、高校に戻されることになったんだ」
俺は何も言えず、目をぱちくりすることしかできていない。
「それと、学校でオーディンはやめろよ、遼平君」
「その名で呼ぶな!
もう一発頭上から拳が飛んできていた。
ロキの身長が150cmくらい小さいから、まるで子供をしかっているような状況がそこにはあった。
「遼平をいじめてんじゃねぇ!締め上げて息の根とめてやろうか!」
さらに現れたのは大蛇の姿になるロキの手下、ヨルムンガンドの人間の姿だ。
ヨルムンガンドが一年生なのは前に蒼が調べていたので知っていたが、よくよく見るとロキも一年生の校章をつけていた。
だが、高校一年生にしてはヨルムンガンドも155cmくらいの身長しかないので、二人を目の前にしていると中学校にいる気分になる。
「よくきたな
「へっ!当たり前だろ!俺様は蛇の王者、ヨルムンガンドだぜ!」
コントでもしに来たのだろうか。
いつの間にか緊張感はなくなっていた。
「悠真、まあこいつらに今たいした力はない。安心しろ」
安心した。
「こら!遼平、那覇!ここ二年生の階でしょ!自分たちの教室にもどりなさい」
ロキとヨルムンガンドの人間の名を呼ぶのは二年生の女子生徒だ。
誰だかはわからないが、二人をよくしる人物なのだろうか。
「おう、椿。よく来たな。これで
「いや、誰だよ」
堂々と勝利宣言するロキだったが、謎の女子生徒の事が気になって突っ込んでしまった。
すると二年の校章をつけたその女子生徒はこう答えたのだ。
「あ、あの・・・ヘル・・・です」
ヘル・・・ヘル?
ヘルと
「ごめんなさい、うちの二人が・・・」
「あ、いえいえどうもご
ついついそんな返しをしてしまった。
「さ、戻るよ!いつまでも迷惑かけないの!戻ってこれたんだからちゃんとしてよ!」
ロキ、ヨルムンガンド、そしてここにはいないフェンリルも確か一年生の校章をつけていた。
あんな
なんともいたたまれない。
「なあ蒼、ほんとに大丈夫なのか?」
「ロキ達の事なら心配するな。力もないうえにあいつらは基本的に子供なんだ。次に何かやっても本当に子供のお遊び程度さ」
確かに今の感じを見ているとなんとも
でもロキがいること自体は不安材料でしかない。
まあそれも不良を注意するくらいに思っとけばいいのかもしれないが。
◆◆◆
走る。走る。走る。
目の前のゴールを目指して走る。
戦いも別に嫌いではないが、どうせ戦うならこういう
一通り今日の練習が終わり、
運動はいいもんだ。
悠真も運動部に入ればいいのに。
いや、それを言うなら縷々の方だろうか。
運動神経とか悪くないのに文芸部に入部するあたり、やっぱり女の子として見てほしいんだろうなぁ。
とか思っていると、
「君丈先輩、お疲れ様です。タオルいりますか?」
「おう、ありがとよ。今日頑張ってたな、全国予選もその調子で頑張れよ」
近々全国大会の予選があり、今はそれを目指して特訓中と言うわけだ。
「あの・・・その予選の話しなんですけど」
翔太は何か言いたげにこっちを見ていた。
言いたい事は予想がついている。
「なんで君丈先輩は予選のメンバー辞退したんですか」
せまる全国大会予選。
君丈はサッカー部のエースとして出場する予定だった。
期待が高まる中、その期待を裏切るのは少し心が痛んだが、それを差し置いても今はやらなきゃいけないことがある。
悠真が神の一件に関わった事で部活どころではなくなったのだ。
一時期学校で噂になったような、悠真の事が好きとか言うのではないが、君丈には親友として、幼なじみとして悠真を守らなきゃいけない。
いや、守りたいと思っているのだ。
「別に。他にやりたい事があるだけだよ」
「全国大会よりもやりたい事ってなんですか・・・そんなに重要な事なんですか」
「俺には重要だ」
冷たくあしらう事しかできない。
君丈はもうサッカー部を裏切っているようなものなのだから。
「そうですか・・・じゃあ僕が―――――はらいますよ」
水を頭から
タオルで頭を
「・・・なんだったんだ?」
◆◆◆
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