五幕 【信じる事】


 空気がこおっている。

 もちろん実際に凍っているわけではない。

 病室にいる皆が何も言えないでいるのだ。




 1章 5幕【信じる事】




「トール。いいのか」


「いいも何も今言っちゃったし」


 言葉を発したのは縷々から変わったフレイヤだった。


「わざわざ身を危険にさらす必要はないだろう」


「俺は悠真が心配なんだよ。こんな状況になったのは少なからず俺たちのせいでもあるだろ?」


 二人は親しげだった。

 フレイヤはトールの存在を知っていたんだろう。

 ならなぜ教えてくれなかったのだ。


 そんなのは決まっている。

 フレイヤが言ったように身を危険にさらさないためだ。


「ちょ・・・ちょっと待て。あー・・・なんだ。うん。久しぶり」


 蒼が口を挟もうとしたが断念だんねんしたようだった。

 俺はというとまだ状況がみ込めていない。


「悠真、ごめんな。本当は知らなくてもいい事だったはずなんだけどな」


「・・・なんだよ・・・それ・・・」


 そんな言葉しか出てこなかった。


「あはははは!本当に出てきたよ、トールはかしこいと思っていたけど、案外間抜けな野郎だな」


 ふいにそんな声が病室にひびき渡る。

 声のする方を見ると小さな机の上に一匹の白蛇しろへびがいつの間にかとぐろを巻いていた。


「お前・・・ヨルムンガンドか」


「正解正解、大正解!君たちを見張ってればいずれトールが顔を出すってロキが言うから見張ってたけど、本当にでてくるとはね」


 君丈の言葉に蛇が口も動かさずに声を発してくる。

 頭に直接響くその声の感覚は少し気持ちが悪かった。

 

 そしていつの間にか病室は病室ではなくなっている。


「ちっ、結界か」


 蒼が少しくやしそうに蛇の方を見ている。


「まあ積もる話もあるのかもしれないけどさ、とりあえずミョルニル渡してくんない?そしたら手荒な真似はしないからさ」


「断ったらどうするって言うんだ?お前ひとりに対してこっちは三人の神と眷属けんぞくが一人なんだぞ?」


 君丈が余裕を持って答える。

 だが、白蛇はその体を徐々に大きくしながらこう答えた。


「神器をもってない神なんて相手にならないね。トール、君さえ倒せば後はゴミのように殺してあげてもいいんだよ」


 ヨルムンガンドと君丈が呼んだその白蛇は最終的に100倍もでかくなったような強大な蛇となった。

 ここが本来の病室なら病院ごとつぶれているだろう。


「あんまり舐めてると痛い目見るぜ」


 そう答える蒼は光でできた棒状の物をいつの間にかもっていた。

 そしてありすは両手を前に突き出し、俺と縷々をかばっているようだ。

 おそらく目に見えないたてのような物でもあるんだろう。


「さて、俺も久々に力をふるってみますかね」


 君丈がそういうと同時に君丈の髪が白く、そして長く逆立った髪に変色していった。

 そして手には小槌こづちつか背丈せたけほど長くしたような物を持っている。


兵装へいそうなんかしていいのかよ。ミョルニルをかくせなくなるぜ」


「隠さなくてもお前にこれはうばえないさ」


 会話の流れ的に君丈が持っている物がミョルニルらしい。

 そしてヨルムンガンド、君丈、蒼は誰が合図をすることもなく飛び出し、またたく間にそこは戦場となって行った。


 雷がなり、君丈と蒼が飛び回る。

 それをヨルムンガンドは自分の尻尾しっぽも使ってたくみにさばいている。

 その光景を俺は何も言えずに見ているだけだった。


「悠真は何を思う」


 ふいにフレイヤからそんな言葉が投げかけられた。


「・・・何をって。俺はもう何が何だかわかんねぇよ」


「真実を話していなかった縷々や君丈を恨むか」


「恨むも何も・・・別にこんな事になってなかったら君丈が言うように知ってもどうしようもない話だったしな」


 俺が思う事はそんな事ではないのだ。


「ならば一人力がない事を悔やむか」


「・・・」


 まさにフレイヤの言葉は図星だった。

 縷々と君丈が神様に関係があった。

 そんなことはわりかしどうでもいい。


 それよりも俺は何のためにここにいるのか。

 縷々や君丈に被害が及ばないために俺はここにいるはずだった。

 俺が守ってやるつもりでいた。


 でもそんな必要はなかった。

 二人は俺の手の届か無いような存在で、守られる必要などない。

 むしろ今まで俺は守られていたのかもしれない。


 そんなくやしさがこみあげてきていた。

 なら何のためにSAまで自分の体にほどこしたんだろう。

 最初から俺はお遊びだったのだ。


「これは的外れの発言かもしれないが、信じることもまた強さだ。悠真、お前は何もできないとなげいているかもしれないが、私たちにとってはお前がいるからこそ力を発揮はっきできる」


「俺だって」


(そう【だった】よ)


 俺はだったで終わってしまうようなごっこ遊びにすぎなかった。


「・・・信じてたら何か変わるのかよ」


「もちろん変わらない事の方が多い。だが変わらなかったとしたら悠真は今戦っているオーディンとトールを信じないのか?」


「そんな・・・話しかよ・・・」


 きっとフレイヤも自分が戦いに参加できないことに歯がゆさを感じているのだろう。

 だから信じて待てと。


 そんな事はわかっている。

 でもそんな話じゃないのだ。

 そんな話じゃ・・・


 自分の不甲斐ふがいなさに葛藤かっとうしていると不意に大きな雷が落ちた。

 君丈のミョルニルから放たれた雷がヨルムンガンドを直撃したのだ。


 強大な一撃を喰らったことにより、ヨルムンガンドはその場に倒れこむ。

 そして体が小さく人の形になって行くのと同時に、結界もやぶれていつの間にか病室に戻ってきていた。


「よし、なんとか倒せたな」


「俺のアシストのおかげだな」


「オーディンは大したことしてなかっただろ」


 君丈と蒼がくだらない事を話していた。

 ふと倒れている生徒を見ると成神第一高校の制服を来た男子生徒のようだった。

 ヨルムンガンドもうちの高校の生徒だったようだ。


「こいつ男でいいんだよな?顔つきがまるで女の子だぜ」


 蒼が言うようにその生徒は女のような顔立ちをしている。

 校章こうしょうから見るに一年生だろう。


「うちの生徒って事はやっぱりロキも学校にいそうだな。とりあえずこいつは俺があずかるぞ」


 蒼がヨルムンガンドを軽々と肩にかつぐと、それみよがしにありすがこんなことを言い始めた。


「優斗ってそっちの趣味でもあるの・・・」


 ありすが心底嫌しんそこいやそうな顔をしていた。

 蒼は「そんな趣味はない」と言ったが、本当に連れ帰ってどうするつもりなのだろうか。

 敵だからとしばり上げたりなんかした日にはそういうプレイにしか見えないだろう。


 そんなこんなで蒼はヨルムンガンドを連れて帰り、その後解散となった。

 なんとなく気まずくて俺は君丈とさしてしゃべる事もなくそそくさと病室を後にしていた。


 一つだけ君丈に「いつから」と聞いたら、君丈は自分が神だったのがと言う話だと瞬時しゅんじに理解して、「最初からだ」と答えたのだった。

 今の俺にはそれくらいしか話せる言葉がなかったのだ。




 次の日、朝も君丈と話すことなく過ごし、時間は昼休みを迎えていた。

 縷々は昨日言った通りに三時間目から登校していた。


「結果から報告すると、昨日のヨルムンガンドはうちの一年生で、魔術研究会まじゅつけんきゅうかいってとこに所属しているらしい」


 蒼がヨルムンガンドの話しを始める。

 だが魔術研究会ってなんだ?


「そんな部活あったか?この前学校を色々捜索そうさくした時はそんなのなかったと思うんだが」


 俺は当然の疑問ぎもんを投げかける。

 トールを探していた時に学校の怪しい部活なども洗いざらい調べたのだ。

 その時はそんな怪しい部活はなかったはずだ。


「悠真が言うとおり正規の部活ではない。と言うより普通に探しても出ないし、そもそも部としての承認を出していないはずなんだ」


「それって勝手に部活してるって事?」


「まあそういう事になるな」


 縷々が言ったように勝手に部活をしているのなら帰宅部きたくぶ扱いだ。

 そりゃあ見つかるはずもないだろう。


「俺は今日中にでも乗り込もうと思うんだ」


「待てよオーディン。いや、蒼の方がいいか。いきなり敵地に乗り込む事は無いんじゃないか?まだ俺のミョルニルだってあるんだ」


「君丈君が言うようにまだこっちに武器があるうちに行きたいんだ。もしなんらかでミョルニルさえ奪われてしまったら俺たちには何もできないからな。それに昨日のうちにヨルムンガンドからは力を吸い取ってる。兵装こそできないものの、戦力としては期待できるはずだ」


「話しはわかったが君はやめろ。なんか気持ちが悪い」


 蒼も君丈がいきなりトールとして現れたかられていないようだった。


「で?乗り込むって具体的には?」


 アリスが口をはさむ。


「俺とアリスは魔術研究会に乗り込む。罠の事も考慮して君丈と縷々は別の場所にいてほしいんだ」


「待てよ、そこは最初から皆で行った方がいいんじゃないか?」


「まあ落ち着くんだ君丈君」


「やめろ」


「もちろん俺とありすが何かあった時は君丈と縷々にお任せになる。でも魔術研究部が完全な黒であるともわかるんだ。対策して乗り込むことが可能になるだろ?」


 君丈達は少し口論こうろんになっていたが、最終的には蒼の別行動の作戦で決まったようだ。

 俺はその話の中に口出しをできずにいた。

 戦力としては役に立つことができない。


「悠真はどうしたい」


 一人、ふさぎ込んでいると蒼が唐突とうとつに声をかけてきた。


「どうしたいって・・・」


「俺は君丈と縷々の方に一緒にいてほしいとは思ってる。だけど正直どっちにいても危険度は変わらないと思う。最悪なのは一人で行動してお前が人質ひとじちに取られることだな」


 つまり不安要素を取りのぞきたいわけか。

 戦力などに数えられているわけもなく、一抹いちまつの期待をしないでもなかった。

 そんな事は誰の目から見ても明らかなのに。


 俺はきっと頼られたいんだ。

 なんて自分よがりの人間なんだろう。


 でも、だからこそ、この戦いは最後まで見なきゃいけない気がしていた。

 これが俺のけじめなんだと。


「俺は蒼とアリスの方に行く。どうせ危険なんだろ?じゃあ最後まで最前線でこの結末を目に焼付ける」


 それが俺のできる唯一ゆいいつの事だと思ったから。

 蒼は納得したようにうなづいてから「そういうとこ好きだぜ」と言ったのだった。




 放課後。

 君丈と縷々は学校の見回りをし、俺たちは魔術研究会に乗り込む時が来た。


 場所は一階にある使われていない準備室。

 今は軽く倉庫扱いになっているその場所は、この学校の歴史を収めた本や資料などが置いてあると聞いたことがある。


 ここに立ち入る者なんてのは生徒会か先生くらいの物だろう。

 三人はドアの前に立つとかぎがかかってない事を確認し、一気にドアを開け放った。


「あ?なん・・・ちっ、やっぱり那覇なはの野郎しくりやがったか」


 教室はカーテンで遮光しゃこうされており、少しわかりづらかったが、そこにいたのはどこかで見覚えのある女生徒だった。

 学校の制服でスカートをはいているため、女生徒だとわかるが、身長も女子にしては高く、顔も中性的な顔をしている。

 スカートをはいていなければ男子と思ってしまうものもいるだろう。


 そんな考察こうさつをしている一瞬の間にその女生徒によって結界が張られたようで、辺りが知らない空間に代わっていた。

 前も思った事だが、この結界というものはまるで異空間のような印象を受ける。


「フェンリル・・・」


 小さくつぶやいたのはありすだった。

 そう、目の前にいるのは俺の事を襲いにかかってきたフェンリルなのだ。

 フェンリルはたけびをあげながら狼の姿に変身していく。


「そうさ、俺様はフェンリル。気高き狼!てめぇらはここで叩き潰す!」


「まあそう息巻いきまくなよ。楽しもうぜ?」


 蒼は瞬時に光の棒を持っていた。

 その棒は昨日よりも形をはっきりとさせており、それは槍の形をしている。


「優斗、グングニル戻ったの?」


 蒼にありすは問いかけるが、蒼はゆるやかに首を横に振った。


「ヨルムンガンドから回収した力があるだけだ。ありすも兵装はまだできないはずだが、少しは力が戻ってるはずだ。それより来るぞ!悠真を守りながら二人でやるぞ」


「わかった」


 フェンリルが見えないやいばをまた振りかざしてくる。

 ありすもまた槍のようなもので応戦していた。

 爪と槍がぶつかり、金属音があたりで鳴り響く。


 俺は見ているだけなのか?

 本当に何もできないのか?


 ただひたすら見守る。

 フレイヤは信じる事もまた強さだと言った。


 俺にそんな強さはあるのだろうか。


(とりあえずSAえすえーだけ起動させておくか)


 静かにSAを起動させるが、こんなものは役に立たないのは重々承知じゅうじゅうしょうちだ。

 それでもと思ってしまう自分にはまだフレイヤの言う強さはないんだろう。


 きんきんとあたりから鳴り響く金属音。

 蒼とありすはどうやら苦戦しているようだった。


 防御だけではなく槍を振り回しているあたり攻撃もしているようだったが、あの見えない速さにはなかなか対抗たいこうできないのだろう。


「ちっ、これじゃ平行線だ。ありす、どうにかして動きを止められないか!」


「無理言わないでよ!」


 二人にあせりが見え始めている。

 ただでさえ何かしらの力を取られている上に俺を守りながらの状況。

 無理もない。

 やはりついてくるべきではなかっただろうか。


「甘いな」


 どこからともなくフェンリルの声が聞こえてくる。

 一瞬視界が揺らぐ。

 次の瞬間目に見えたのは俺に槍を向ける蒼とありすだった。


「なっ・・・なにしてんだよ!俺は敵じゃねぇぞ!」


「悠真!動くな!」


 蒼たちに一歩踏み込もうとした瞬間、蒼に怒鳴どなられてしまった。

 何が起こったのかよくわからない。

 

 そんな時首筋に何かが軽く触れた。

 大きく白く、先がとがっている。


「爪・・・?」


 それはまさしく爪だった。

 大きな獣の爪。


 通常の獣ではありえない大きさのその爪の一振ひとふりが、今まさに俺の首にかけられている。

 つまるところ、俺はフェンリルの人質にとられたようだった。


「動くなよ、オーディンとその眷属けんぞく。怪しい動きをしたらこいつの首は確実になくなるぜ」


 歯を噛み締める二人の姿がよく見える。

 結局俺は足手まといなのだ。


 ついてくるべきじゃなかった。


 ・・・


 俺は何の力もない。


 ・・・


 だけど。


 ・・・


 自分の後始末くらい自分でつけられなきゃな。


「蒼、さっき足止めしたいって言ってたよな」


「お前何考えてる。悠真ごとなんてのはなしだからな」


「そんな事は言わねぇよ。俺も自分の命は大事だ」


 俺と蒼の会話に少しいらだったようにフェンリルが吠えた。


「てめぇら黙れ!殺されてぇのか!」


「俺はだまらねぇよ。俺がついてきたいって言ったんだ。俺が最前線に居たいって言ったんだ。なら俺は、それにむくいるべきだろ!」


 事前に起動させておいたSAの『ザ・パワー』を、出力マックスで後ろにいるであろうフェンリルめがけてひじ打ちをかけた。


 フェンリルはそれをよけようと後ろに下がる。

 不意打ちとはいえ、フェンリルの速さに勝るとは思って等いない。

 でもその一瞬でいいはずだ。

 後は―


「蒼!」


「よくやった!」


 フェンリルは俺の一撃を避けられても蒼の一撃にまでは対処できない。

 蒼は手に持っている槍を瞬時に持ち替えてフェンリルに投擲とうてき


 俺の横をものすごい速さで突き抜けていく光の槍は、見えていなくても断末魔だんまつまの叫びでフェンリルに当たったことがわかった。


「悠真、お手柄てがらだ。やっぱ俺お前の事好きだわ」


「BL展開だけはやめてくれよ。それよりフェンリルは?」


 徐々に溶けていく結界の中でフェンリルは腹に光の槍が刺さった状態で横たわっていた。


「心配すんな。殺したりはしてないさ。あの槍は力を奪うだけの特別製だ」


 結界が解けるのと同時に二つの事が起きた。

 一つはフェンリルからはじけるように光の槍が消失し、元の女生徒の姿に戻った事。

 もう一つは部屋の入り口から君丈と縷々がいきおいよく入ってきたことである。


「悠真君!」


 縷々がけ寄ってくる。

 大丈夫?と心配そうに声をかけてくれるその手にはハンカチがにぎられていた。


 そのハンカチを俺のほほに当てると、少しばかり痛みが走る。

 おそらくフェンリルに攻撃した際に避けるフェンリルの爪にかすったのだろう。


「結界の反応があったからすっ飛んできたんだが・・・無事みたいだな」


 俺と縷々を見てからゆっくりとした足取りで君丈も近づいてくる。


「フェンリルもヨルムンガンドも倒されてしまいましたか」


 君丈とは反対側、教室の奥の方から黒いマントを頭まで羽織はおった人物が現れた。

 マントから少しスカートが見える為、女生徒だろう。


「この流れで行くとお前はヘルか」


 蒼がマントの少女に向かってそう言うと、マントの少女は軽くうなづいた。


「私に戦う意志はありません。そのかわり、ロキ様に皆様を案内するように言付かっております」


「ロキ様ねぇ。オーディン、これは罠だ」


 君丈がいぶかしげな顔をする。


「罠だろうが進まないと始まらない。もうここまで来たんだからいっそのこと、この誘い乗ってみようぜ」


 蒼は慎重しんちょうなのか大胆だいたんなのかわからないやつだ。

 この場合は一旦引くべきだとは俺も思う。


 マントの少女はこっちの反応などおかまいなしに教室の奥に進んでいった。

 教室の壁があるはずのそこには異様いような通路ができている。

 この先について来いと言う事なのだろう。


「俺はいくぞ」


 そそくさと進んでいく蒼。

 待ってと言いながら追いかけるありす。

 舌打ちをしながら進む君丈。


「悠真君、どうする?」


 心配した顔でこっちを見る縷々。

 俺の答えなんて決まってる。


「もちろん行くさ。せめてこの戦いを見届ける」


 そしてこれが終わったらおそらく日常に戻るんだ。

 きっと俺は非日常を求めていた。


 想像していたものとは違ったけど、それでも俺はきっと心の中でわくわくしてる。

 そんな自分も確かにそこにいたんだ。


 俺に連れられて縷々も通路に入っていく。

 通路は学校とは思えない広さで、見た目は洞窟どうくつのそれだった。


 途中、蒼がヘルにこの通路をどうやって作ったか聞いていた。

 なにやらヘルの力とフレイヤの神器じんきというもので作ったらしい。


 いつの間にか縷々からかわっていたフレイヤは返せと抗議こうぎしていたが、ロキ様がもっていますと打ち切られるのだった。


 そしてほどなくたどり着いた場所はまるで地下遺跡ちかいせきで、だだっぴろい空間の真ん中にピラミッドのようなものが鎮座ちんざしているだけの場所だった。


 案内するなりいつの間にか消えたヘルに代わって、ピラミッドの上の方に人影があるのが見える。

 遠くて少しわかりづらいが、背丈が小さく、頭には王冠おうかん、そして赤いマントを羽織はおっていた。


 まるでその姿は小さな王様で、この空間の支配者と言うように堂々と立ち、小さいながらも何か圧倒されるような気迫があった。


「ようこそ、わが居城きょじょうへ。お前らは全員、ここで、死ね」


 遠くからもわかる、その小さな王様は微笑ほほえんでいる。

 それは余裕なのだろう。


「ロキの野郎・・・」


 蒼が顔をしかめてひとりつぶやく。

 その顔にロキとは違って余裕はなさそうだ。


 非日常の最終決戦が始まろうとしていた。


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